【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 大貴族達の帰還 前編

公開日時: 2023年7月27日(木) 08:57
文字数:3,313

 大祭から開けて二日目と三日目、私は皇王陛下から王宮に来るように、と命じられた。


「今日と明日、大貴族達の多くが領地に帰還する。

 昨年は大騒ぎでそれどころでは無かったから、ごく一部の者が第三皇子家に行っただけだろうが、通常は大貴族達の帰還の挨拶を皇族は王宮にて受けるのがしきたりだ。

 其方も両親と共に王宮に上がり、大貴族達を見送るのだ」


 去年の秋の大祭は、お父様が私を連れて国務会議に乱入。

 強引に私を王宮に連れ出し、認知をもぎ取った忘れられない日だ。

 アルケディウスの歴史に残る大騒ぎではあったけれど、その後、大貴族達はすぐに国に戻ってしまい、冬になった。だからそんなに周囲が煩くなることもならず、夏の社交シーズンが始まる頃にはある程度落ち着いていたと言える。

 とはいえ、認知はされていたけれどまだ正式な皇女ではなかったから、大貴族の見送りなんかしなかった。

 見送りは皇族の公務、やれと言われれば仕方ない。


 そういう訳で私はゲシュマック商会との会見の翌日、お父様とお母様と一緒に王宮に行くことになった。


「あんまり固くなる必要は無い。お前は

『来年の再会を楽しみにしております』

 とでも返せばいい」

「貴女から少しでも言質を取って、自領の今後に皇族の協力を取り付けようという者が殆どでしょう。世間話は私と皇子が受け持ちますから貴女は、くれぐれも余計な事を言うのではありませんよ」


と釘を刺されたので基本的にはお二人にお願いすることにした。

 ビエイリークのトランスヴァール伯爵とかロンバルディア侯爵とか他にも上位領地の人が、私にしか返答できないことを言ってきた時には対応するということで同意する。


 基本的に上位の大貴族から順番に挨拶にやってくる。

 まず最初に皇王陛下に挨拶を行い、その後、第一皇子、第二皇子、第三皇子の順番に挨拶をしていくらしい。

 応接の間に皇族が全員集まって一度で終わらせればいいと思うのだけれども、皇族としてそうはいかないらしい。挨拶の時に一緒に持ってくる献上品が皇王陛下、第一皇子、第二皇子、第三皇子で同じではない、とか大貴族の側の理由もあるらしいけれど。

 で、私達は挨拶を受けるだけで終わりだけれど、大貴族はまだその先があって、城から戻った上位の大貴族に今度は下位の大貴族達が挨拶に行く。上位の大貴族は下位に挨拶なんて当然しないから、下に行けば行くほど大変になる流れだ。

 時間的にも金銭的にも。だからと言って私達に何がしてやれるわけではないのだけれど。


 まず最初にやってきたのは大貴族第一位にして第三皇子派閥の一位でもあるパウエルンホーフ侯爵ご夫妻。


「今年も、とても充実した半年を過ごすことができました。来年もどうかよろしくお願いしますね。アルケディウスに幸運を運ぶ『聖なる乙女』」

 

 皇王妃様の弟にあたる侯爵はそういうと、私の前に膝を折り恭しく手の甲に口づけた。

 大貴族の第一位だから、相当に優遇されており領地も豊か。麦酒蔵もゲットした上に、『新しい味』を学んだ料理人の確保した侯爵領は十分に満足できる成果を上げられたようで、ご婦人ともども楽しそうに帰って行かれた。


「貴族街店舗の実習店って、本当に枠が開かないんですよ。一人研修生が終わってもその枠に続けて新しい人を入れたりするので」

「まあ、腕のいい料理人は何人でも欲しいものだしな」


 その後は皇帝陛下の甥であるプレンティヒ侯爵。


「クレストは置いていきます。よろしければ秋国訪問、新年の参賀などにもお役立て下さい」


 深くお辞儀をしながら意味深に笑った。

 彼もまた今回でかなり有利な条件を領地に貰って帰った筈だ。

 子ども上がりのクレスト君は今年の騎士試験の合格は逃したけれど、本来は何十年、何百年頑張っても合格できない人もいるレベルの試験だからそこは怒るところではない。

 しっかりと働いてくれるなら育ててあげたいと思っている。


「我が領地の誇りが、アルケディウスの誉れとなる。これ以上の喜びはありませんな」


 満面の笑みを浮かべていたのは元祖とも言える麦酒蔵 エクトール荘領を抱えるロンバルディア侯爵、元々肥沃な大地を持つ穀物蔵であったから、今一番勢いがある領地でもある。


「カマラ。皇女に良く仕えるように。其方もまた我が領地の誇りだ」

「あ、ありがとうございます」


 騎士試験初挑戦ながら騎士となったカマラに目を細めた侯爵。

 上司の上司に褒められたのだからカマラも感動ひとしおの様子だ。


 今日、挨拶に来てくれた上位領地は麦酒蔵だったり、製紙の試験工場だったり何かしら良い結果を手に入れられたところが大きい。もっとも


「来年は! より皇家に認めて頂ける結果を出せるように努力いたしますので!」


 と悔し気な顔を見せた領地もあったけれど。確かアーケウィック伯爵家。


「麦酒蔵の新設を望んでいたのだが、昨年の冬の準備に出遅れて果たせなかったようだ」

「麦の下準備は冬の前が勝負ですからね」

「王都は大丈夫か?」

「ガルフがいます。ぬかりは無い筈です」


 失敗を糧にして次に繋げて欲しいものだと思う。


「今年も我が領地をお引き立て下さいましてありがとうございます。新しい年も皇王家のお役に立てるように全力を尽くす所存です」

「ビエイリークには今年本当にお世話になりました。来年以降も海産物や貝殻など海の恵みはアルケディウスのみならず、この世界の発展の中心となるでしょう。よろしくお願いします」

「姫君から直接お声掛け頂けるとは。どうかお任せ下さい。我が領地は姫君と共に」


 アルケディウス唯一の海を産する領地トランスヴァール伯爵はそう言って、嬉しそうに笑った。

 だし昆布の成功、鰹節は研究中。炭酸カルシウムの濃縮生成に成功して今後の麦や野菜類の増産を目指す領地から引っ張りだこのこの領地は今年、今までではあり得ないほどに順位を上げたという。海産物があると料理の幅が本当に広がるから、来年も頑張って欲しいと心から思う。


 初日はそうしてほぼ和やかに済んだのだけれど、二日目からの下位領地はかなり必死な様子だった。


「我が領地にもどうか、精霊の恵みを賜らんことを」


 そう涙目で頼んでくる領地もいくつかあった。本当はそれらの領地にも手を貸してあげたいところではあるけれども、今年はとにかく無理だ。

 来年はなんとかなる、かな?

 パータト、ナーハ、畜産業など当たり障りの少ない所を進めて頑張ってもらうしかない。


「おや? ドルガスタ伯爵夫人」


 お父様が首を傾げる。地面に頭を擦り付けんばかりに膝を折り平伏する女性は現在、アルケディウス大貴族の中で最下位に位置する筈のドルガスタ伯爵家だったからだ。

 男女ペアで挨拶に来る人が殆どの中、彼女だけは(部下こそ連れているけれど)一人だ。


「今年、我が領地に目をかけて頂き、心から感謝申し上げます。秋の大祭における『炭酸水』の流行で我が領地も少し息を吹き返しました」

「とても珍しく面白いものでしたからね。貴女の領地にも精霊の恵みがあるようです」

「はい。罪を犯した我が領地を見捨てることなく慈悲を下さった『聖なる乙女』に感謝を。

 今後も領民共々、全力で償っていく所存にございます」

「領主の罪は、領民の罪ではありません。今後良き関係を作っていければ嬉しいと思います」


 私は伯爵夫人の手を取り、そう告げた。

 彼女もそろそろ解放されていいと正直思うのだけれど、新しい男性の領主が立たない限りは今のままだそうだ。

 でも永久幽閉という事実上の極刑を受けた領主の後釜には誰も立ちたがらないというのが実際の所らしい。難しいね。


 で、お父様がドルガスタ伯爵家の来訪に不思議な顔をした理由は最後に来た人物で解った。


「……『聖なる乙女』におかれましてはご機嫌麗しゅう」


 深々と頭を下げた人物も女性一人。

 あり得ないとお父様は目を剥いている。


「タシュケント伯爵夫人。伯爵はどうなされた?」

「夫は体調を崩し寝込んでおりますので私がご挨拶に参りました。

 それにお願いしたき儀もございましたので」

「不老不死代に体調不良、ですか?」


 お母様の問いには答えず、タシュケント伯爵夫人として私の前に立った女性は、仮面に張り付けたような笑顔で視線を据え告げた。


「皇女様にお願い致します。

 我が領地の宝達のどうか返却を」


と。


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