国王陛下からの忠告については部屋に戻ってから直ぐに通信鏡でフェイに相談した。
『ああ、なるほど。そう言う視点もありうるのですね』
フェイは考えもしなかった、という声で頷いている。
『僕達程に『神』を信仰していない神官はいないでしょう。
任せるというのなら思いっきり使い倒してやる。そう思っていましたからね』
私達にとっては『神』が敵なのは大前提なので『神』側の存在として見られて迫害される可能性はちょっと想定の外だったよ。
『アルケディウス側からの考えも知りたいです。ライオット皇子とお話する機会は作れないものでしょうか?』
というのでアルケディウスにも連絡してお父様に大聖都に来て頂くことにした。
そしてプラーミァ訪問を終えて私が大聖都に戻った翌日。
「やはり、転移陣は便利だな」
「使える人数が限られるのだけが玉に瑕ですよね」
お父様が大聖都にやってきた。
護衛なし、側近無し。
ヴィクスさんさえも連れてこない単独行。
まあ、そのおかげで転移陣利用申請を通しやすいのもあったのだけれども。
私がアルケディウスに帰って魔王城で、という手もあったのだけれどもそうするとフェイやアルの行き来が面倒なことになる。
お父様に危害を加えられる者はまずいないし、お父様が私を害することもないから大神殿側も警戒する必要が無い。
今回はあくまで私的な訪問、娘を迎えに来た父親という体で。
『俺がそっちに行く。
フリュッスカイトに行く前の着付けをティラトリーツェが手伝いたいと言っていた。
話が終わったら、一緒にアルケディウスに帰るようにすればいい』
そう申し出て下さったお父様の提案に甘えた形だ。
大聖都の葡萄酒と料理でおもてなしをした後、神官長の執務室へ。
挨拶が必要な関係でもないから、早速本題に入る。
いい機会なのでアルも呼んで、精霊神様の予言を踏まえた状況の共通理解を図る予定。
「こうして、揃って話をするのはどれくらいぶりかな?」
お父様が部屋に揃った顔ぶれを見て少し懐かしそうな顔をして微笑う。
お父様、私、リオン、フェイ、アル。
カマラも側に控えているけれど、確かにちょっと懐かしいかな。
「アルも交えて五人だけで、ってなると最初にお会いして、世界の環境整備についての話をした時以来かもしれませんね」
そう、四年前。この五人+ガルフでお会いして食の復活と、子ども達の人権回復について話をした。あれが、全ての始まりだ。
「お前達は良くやっている。正直あの時俺が想像した形を飛び越して、さらに上まで行っていると思う」
「兄王様にはやりすぎって言われましたけどね」
「お前達が動かす世界のスピードに、我々がついていけていないだけだ。
ようやくついて行けるようになってきたかと思ったところにこれ、だからな」
「アルケディウスはどのように考えていらっしゃいますか? 不老不死解除と今後の私達について」
「うむ。まだアルケディウスでも完全な意思統一はできていない。ただ、方向性や絶対に揺るがせないものはある。ここで話すのはそれを踏まえた個人意見だと思ってくれ」
「はい」
あくまで私人、姪への忠告として話をしてくれた兄王様と同じようにお父様もそう前置く。国の見解だと公表しちゃうと色々問題も出て来るし、変わるかもしれないし今の所ということで。
頷く私達の視線を受けて、お父様は兄王様と同じように、私達に情報を与えて下さった。
「まず、アルケディウスの絶対条件として、マリカを犠牲にする方策はとらないとする」
「お父様」
「他国はどうか解らんが、アルケディウスにおけるお前の人気は高い。
食と『精霊神』の恵みをもたらした『聖なる乙女』
グローブ座の活躍もあるし、大神官になった後も、お前は各領地を休み返上で巡って相談にのったり、直接料理指導や、農地視察などをしたりしてただろう?
だから、民も暴動を起こしてお前を責めたり、犠牲にしたりすることは無いと見ている」
「そうだと、いいのですが……」
お父様のおっしゃったとおり、二年間の間にできるだけ時間を作って、各大貴族の領地にも視察に行った。できる限り領地の様子を見て、特色を判断。その土地に合った農業や工業を指導してきたつもりだし、教育の実施、子どもの保護育成なども神殿の費用負担と舵取りで行ってきた。
でも、全ての町や村を巡れたわけではないから、地方の人達が私と言う存在をどこまで信頼してくれているかは自信がないところでもある。
「まあ『神』がどのような形で不老不死を剥奪するのかは解らないから楽観視はできないと解っているがな。
少なくとも人々に生まれる『死』の責任。それをお前が受けることの無いように、していくつもりだ」
「ありがとうございます」
少し、ホッとした。
プラーミァとアルケディウス。
絶対の味方がいると解れば、頑張れる。
「不老不死解除後に、混乱を可能な限り最小限で留める方策も今、検討中だ。
お前達が『神』に連れ去られることが無ければ、なんとかなるんじゃないかと思っている」
「方策ってどんなことなのですか?」
「お前達と『神』の作戦を真似てな」
「『神』と私達の作戦?」
にやりと笑って頷いたお父様の案は、とても興味深いものだった。
今は、まだ希望的観測も多いので実戦段階では無い。皆で意見を交わし合う。
「面白い案ですね。ただ、この実行にはノアールとエリクスの協力が不可欠になりそうです」
「『神』が目的を果たした後は用済みってことになりそうですから、交渉次第ではいけるかも? 最悪の場合は、私とリオンがやればいいんですよね。
闇落ち、みたいな感じで」
「いや、それはダメだ。俺はお前達が光の中で輝く姿が見たいんだからな」
「だったら、エリクスとノアールをなんとか頼まないと」
「私としては、ノアールにも表舞台に戻って欲しいんですけれど、エリクスと一緒じゃないと嫌だって言いますかね」
「その前に『神』の件を片付けるのが先だろ?
リオン兄とマリカを盗られたら、そこで終わりなんだから」
「そうだけど……あ、そうだ。忘れる所だった」
話の区切りがついた所で、私は大事な事を思い出す。
「ねえ、アル。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「? なんだよ。一体?」
「アルはタシュケント伯爵に買われる前の記憶ってある?」
「ない!」
きっぱりはっきり。いっそ清々しい。
「そもそも、小さかったし、いろいろあって奴隷時代の記憶もあいまいなんだ。
兄貴達に救われるまでは例えるなら真っ暗闇。
二人に会って、助けて貰ってやっと光が射したって感じ」
「魔王城に来てからは、ずっと一緒だもんね。じゃあ、何かあるとしたらフェイみたいに記憶にない産みのご両親とかかな?」
「おい。何を言ってるんだ? アルに何かあるのならちゃんと言葉にして話せ。
混乱するぞ」
「うん。あのね」
私が『精霊神』様の三つの予言。その最後の一つを伝えたのはフェイだけだ。
訳が解らないという様子の三人に改めて伝える。
アルを、絶対に『神』に奪われてはならない。
奪われたら、私並に詰む。という警告を。
「はあ? なんでおれが」
頓狂な声をあげて目を瞬かせるアル。
うん、解る。その気持ちは凄くよく解る。
「どうしてかは僕も解りません。
一応、ソレルティアにタシュケント伯爵家に買われる前後の事を調べて貰っていますが、まだ成果らしい成果は出ていないようです」
どうしてかはフェイの言う通り解らない。
っていうか、フェイはソレルティア様には話したのか。
言わないでって言っておいたのに。
まあ、どうせ調査は必要だし信頼できる人に頼むのは悪い事じゃないから、いいけど
「お前も『神』か『星』の関係者なのか?」
「ない! それはない。ぜったいない!! きっぱりない!!!」
お父様の問いに渾身の力を込めてアルは否定するけれど、無いと言い切れる要素こそ実はない。
何せ素性が解らないのだから。
「精霊に愛された碧の瞳に金髪、予知の瞳。
確かにどこかの王族。七精霊の子であっても不思議はないが……」
「エルフィリーネは、俺は人間だって言った。
人間だからこそできることがあるって!」
私達のような精霊の力を持っていないことは事実だろう。
でも『精霊神』様が言うのだ。
何かはきっとあるのかも。
「とにかく、調べがつくまでは周囲に気を付けて。
必要なら護衛をつけたりしてもいいから」
「あ……うん」
納得がいかない様子ではあったけれど、アルは頷いてくれる。
浮かない顔のアルをフェイとリオンが慰めている。
その様子は 本当の兄弟のようで微笑ましく、そして少し羨ましかった。
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