【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

地国 動き出した未来

公開日時: 2025年3月23日(日) 08:40
文字数:3,141

 時に、大人はズルいと思う。

 子どもに肝心な事を告げず、一方的な指示や思いを押し付けることがあるからだ。


 一部の毒親を除く多くの場合、それらは子どもにとって正しく必要な事で。

 成長すれば愛情からくるものだと理解はできるのだけれど。

 精神や思考が未熟な子どもにとっては素直に従う事ができず、親への反抗や敵対心に繋がってしまう。所謂、反抗期と呼ばれるもので。家庭にとっては試練ではあるけれど大人になる為の大事なプロセスである。


 長々と解り切ったことを書いたけれど、何が言いたいのかと言えば。


「な、なんでいきなりキスなんかしてくるのよ! 『神』のお馬鹿!!」

「マリカ様。落ち着いて下さい。外に聞こえます。

 リオン様、少し離れて」

「解った。すまない。マリカ」


 混乱する私とリオンの間に割って入るミュールズさん。

 リオンは素直に、スッと身を返して間を開けた。


「リオンが謝る事じゃないよ。でも……」


 私は思わず唇を両手で押さえてしまう。

 反論を押さえる為だけにしては濃厚なディープキスだった。口の中にリオンの舌の感覚と味がまだ残っている。


「な、なんで? 私を黙らせるだけだったらもっと別の方法があるでしょうに!」


 限られた身内だけとはいえ、人前でいきなり唇を奪われたことはちょっと許せない。

 なんなんだ。一体。


『仕方あるまい。緊急的医療措置、あいつはあいつなりに気を使ったのだろう。気にするな』


 肩に乗っていた精霊獣。精霊神アーレリオス様が息を吐く。

 なんだか諦めたような納得したような口ぶりに逆に私は気になってしまう


「医療措置? 何ですか? お父さん。私が病気みたいな言い方。

 リオンとキスしないといけない理由があったんですか?」


 気を使った、というのはまあ、解らなくもない。

 自分ではなくリオンを戻したのは、私が嫌がらないように、だろうけれどなんでキスが必要なんだ、という謎に戻る。。


『……いや。そういう訳じゃない。ホントに気にするな。あいつには後で俺が灸を据えておく』

「お願いします。できれば理由もちゃんと聞いて下さい。

 訳知り顔で意味深な事を言って消えるなんて中二病にも程があるって」

「チューニビョウ?」


 小首を傾げるミュールズさん。カマラも、リオンも意味が解らないという顔だ。

 地球のローカルスラングだからね。

 ギリ、通じるのはお父さんだけ。

 インド生まれだから普通なら知らない言葉かもだけど、解った、と頷いて下さっているから理解はしていると思う。『神』レルギディオスへの嫌味だから彼に通じればそれでいい。


「あ、こちらの話です。ミュールズさん。

 とりあえず、治療も終わりましたから、外で待っているであろうダーダン様達をもう一度入れて話し合いをしましょう」

「かしこまりました」


 ミュールズさんが部屋を片付け、外に彼らを呼びに行っている間。

 私はソファに腰かけ、深呼吸した。

 リオンのキスはともかくとして、とりあえず、外傷、内傷の治療には両方成功した。

 これを応用すれば、不老不死が解除された今後も、病気や怪我で不慮の死を迎える人は減らしていけるだろう。


「お待たせいたしました。マリカ様」

「マリカ様。この度はダーダン様の治療を行って頂き、ありがとうございます」

「いいえ。『星』と『精霊神』と『神』のお力故です」


 シュンシー様とスーダイ様はお戻りになったけれど、その後の打ち合わせがあるので残って貰ったマオシェン商会一行はダーダン様だけではなくグアン様やユン君まで、私に膝をつき、頭を下げる。


「不老不死は失われましたが『神』のお力。『星』の加護はいつでも皆さんの中にあるのです」


 実際、私は特に何もしていないからね。

 治って、ってお願いしただけで。


 改めて思う事だけれど、不老不死。というのは肉体の劣化、老化を細胞と融合したナノマシンウイルスが防止する仕組みだったのだろうな、と思う。

 どんな生物も、いつか死を迎える。生きて世にある限り、細胞の劣化、老化は不可避だし地球で人類の一番の死因の一つは癌。つまり細胞生成の不具合だった。

 この二つが防止されれば事実上不老不死が成立する。

 ただ、これは人類を思ってのものではなく、ナノマシンウイルスの主であるコスモプランダーが自分の餌である存在を劣化させない為の仕組みであると考えられているようだ。

 肉体を不老不死に作り替えるのではなく、あくまで細胞を劣化しないように補助する形。

 劣化させない為のエネルギーは人間の気力で、不老不死の維持に使わない余剰分を『神』が回収していた。だから、世界中の人間から気力を取っていても、思うように力がたまらなかったのだろう。


「ダーダン様。当面は治療を受けたことは吹聴しないで頂くことはできますか?」

「勿論でございます。

 私は長らく隻眼の商人として顔を知られているので治療したことが知られると注目を浴び過ぎる可能性があります。元よりリハビリもかねて、暫くは眼帯や杖は使用し続けるつもりでおりますので」

「お願いします」

「実際問題として、マリカ様の治療の力が外に触れると今後、大きな騒ぎになる可能性がありますから、よっぽどの場合を除いて隠しておくのが良いと思います」

「解っています。アルケディウスのお父様やお母様からもそう言われておりますので」

「不老不死が解除され、死が戻ってきた今、治癒、治療の技は今後必要になってくるでしょう。ダーダン様。個人で処置する為の傷塞ぎの品などは今後の新しい商圏になりそうですね」

「流石カイト」


 今はその命令機能を停止させることで不老不死が解除されている。アースガイア人全ての身体の中にある新型ナノマシンウイルス。

 これを本気で除去しようと思えば、多分、できなくはない。

 シュンシー様の子宮に貼られたコーティングを解く応用みたいな形で。

 でも、アースガイアの人類全てからナノマシンウイルスを除去するのは現実的な話では無い。できるのは多分、私か、高位の魔術師だけってことになるだろうし。

 身体に入っていても危害は無く、むしろ必要に応じて補助してくれるのだから共存していくのがいいのではないかと思う。


「この御恩に報いる為にも我がマオシェン商会はマリカ様に忠誠を誓い、その財を捧げることをお約束いたします」

「財などは、必要ありませんが、今後、ダーダン様の念願である『神の子ども達地球移民』の覚醒と保護に向けて新しい事業を起こす予定なので、その時にどうかご協力をお願いします」


 魔王城の島を目覚めた地球移民の保育園として整備し、そこで教育を行う。

 廃墟状態の島を整備して、最低でも人が住める状況にする事も、その後目覚めた子ども達を守る事も、私や魔王城の子どもだけではできない。全力で準備や手伝いはするけれど。

 万が一ダーダン様のような事故があったとしても、回復させてあげる自信もついた。

 でも、実際の運用には各国の王家や商人などに力を借りなければならないだろう。


「解りました。非才なこの身の全力を持ちまして、この国と星と兄弟達の未来を拓く為に力になりましょう」



 エルディランド最大の豪商と第一王子、大王の全面支援を手に入れたので、その後の話は問題なくスムーズに進んだ。


 最終日の晩餐会。

 既にメニューは決まっているので、私は特に口出すことは無く堪能させて貰ったのだけれど、一つだけ、新しいレシピとして、厨房の方達にお願いして作って貰ったものがある。

 晩餐会では皆さんビックリ。好評を博した、と思う。


「これは……飯が紅色?」

「まあ、なんて美しいリアなのでしょう!」


 小豆の煮汁で紅く染めたご飯。

 所謂お赤飯ね。

 祝いの席にもよく使われる。


「赤い色は邪気を払い、幸せを呼ぶと古くから言われています。

 大王様と大王妃様のこれからが祝福に満ちたものになりますように」


 寄り添う二人とエルディランドに私は心からの祝福を贈ったのだった。


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