【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 大祭の後片付け 1

公開日時: 2023年7月23日(日) 08:49
文字数:3,449

 大祭が終わって多分、翌日の朝。


「おはようございます。マリカ様。お目覚め早々、失礼いたします。

 ご入浴とお着替えを願えますか?」


 私は目覚めてすぐ、入ってきて膝をついたミュールズさんにそう呼びかけられた。


「えーっと、今日って大祭明けの火の曜日、ですよね?」

「はい。火の曜日の朝、今、火の刻にございます。

 昨日は忙しかったであろうから、ゆっくり休ませて、とのティラトリーツェ様のお言葉でございますが、昨夜は帰路の馬車の中で眠ってしまわれて、化粧を落とす以外の事をしておりません。ドレスもそのままですので、どうぞお着替えを」

「解りました。今、起きます」


 昨日は、日が変わるまで舞踏会で、その後、反省会が一刻くらいあった。

 お城をお父様とお母様と一緒に出たのが、一の木の刻の終わりごろ。

 向こうで言うと深夜二時くらいだから、馬車の中で多分寝落ちしたのだ。私は。


「お父様が、寝台まで連れてきて下さったのでしょうか?」

「はい。皇女の部屋に、たとえどんな理由があろうとも入室を許可される男性は父親のみですから」


 だよね。いくらお父様でもその辺はけじめるだろう。


「マリカ様?」

「なんでもありません、準備の方をお願いします」

「かしこまりました」


 朝風呂はなんだかんだで気持ちがいい。

 お化粧をしっかり落として髪の毛も身体も洗ってもらって、外出着に着替えて食堂に向かった。もう風の刻にはなっていたのだけれど


「おはよう。昨日はご苦労だったな」

「少しは疲れが取れましたか?」

「お父様、お母様。おはようございます。まさか待っていて下さったんですか?」


 食事の間には、お父様とお母様が待っていて、私を迎えてくれた。


「今日は少し余裕がある方だからな。明日からは大祭後の後片づけが本格化するし、帰郷する大貴族達の謁見も入る。ここまでのんびりはしていられないだろう」

「食事の後、色々と話を聞かせて頂戴?」

「はい。かしこまりました。あ、てまり寿司?」

「昨日の宴席で出たもののレシピを貰ってカルネがアレンジしたそうよ。可愛らしくていいわね」

「はい」


 今日の朝ごはんは、なんちゃって和風って感じ。

 グルケの塩こうじ漬けに甘い卵焼き、てまり寿司、薄味の野菜コンソメスープにサーマンのムニエル。デザートは果物をたっぷり混ぜ込んだヨーグルトケーキ。

 流石カルネさん。私の好みを理解してくれている。

 疲れているだろうから、とシンプルに。でも卵焼きの砂糖を多めにしつつ甘すぎずふんわりと作ってくれたりと気が利いていて、疲れて寝落ちした身体にもするすると食べられる。


「カルネにも大宴席などで腕を振るう機会をやりたいのだがな」

「今度、新しい実習店舗の指導役に貸し出すのでしょう?

 実力を示す機会はこれからいくらでもありますわ」

「カルネさんなら安心だとゲシュマック商会のみんなも言っていました」


 そういえば、大貴族達からの一刻も早く新しい食を教えて欲しいという要望が高く、新実習店舗の開設が決まったという。

 最初は第一皇子ケントニス様の料理人ペルウェスさんが新店舗を見ることになっていたけれど、皇子妃様の妊娠が後期。食生活などを変えない方がいいだろう、という配慮から新店舗はカルネさんが見ることになった。

 新しい料理人さんも育ってきているし、カルネさんは一号店の店長ラールさんとも仲がいい。何せゲシュマック商会の最初期から、自腹で料理の研究の為に店に並んで食べに来てた人だから。サポートする店長さんとも仲がいいし、安心できる。


 私にとっても、初めて第三皇子家に料理指導に来た時からの付き合いで、唯一皇女になるまで私を「マリカちゃん」って呼んでくれた大好きな人。流石に主家の娘だからもう「マリカ様」になったったけどね。


 十分に食事を楽しんだ後、暖かいテアを呑みながら、私は改めて大祭の話を初日の外出から昨日の魔術のお手伝いまで全部説明した。


「……さっきも言ったが、舞の奉納に、大祭の精霊、王族魔術師の魔術の源となんだかんだでお前がいいように使われすぎている気がするな」

「皇王陛下、強制はしないで、どうするって言って下さることが多いんですけれど」

「でも、結果的にやることになっているでしょう。国を統べる者の計算。

 先の先を読み、人を誘導する力を甘く見てはいけません」

「はい。そうですね。それは解ります」


 今までこの世界の七国のうち四カ国を巡ったけれど。

 どの国も国王陛下は一筋縄ではいかない相手ばかりだったし、王族もその勲功と教育を受けた実力者がたくさんいた。精霊の力を受け継ぐ『王』『王になる者』というのは半端ない。


「お前も人心掌握力は高いんだ。いつも自分が真っすぐに突っ走ってぶつかっていくだけではなく、相手を動かしていけるように考えろ」

「努力いたします」


 お父様の言わんとしていることは解る。

 でも、どうしても貧乏性っていうか、自分がやらないとって気になっちゃうんだよね。

 染みついた社畜根性と言おうか……。


「今日は少しでもゆっくりできるように、グローブ座とゲシュマック商会以外の面会は入れていません。明日以降は夜月からの秋国訪問用の衣装の仮縫いに来るシュライフェ商会、帰郷の挨拶に来る大貴族達。

 神殿からも本格的な冬になる前に各地の神殿からの報告がしたいと言ってきています。しっかり準備しておきないさい」

「解りました。孤児院に行くのは難しいでしょうか? あと、あちらに帰る時間とかは」


 これから年末、年度末。

 忙しくなるのは解っているけれど、少しは癒しの時間が欲しい。

 製紙工場の方が忙しいユン君と会って色々話ができるのも魔王城だけだし。


「大貴族達の帰郷が終われば、アドラクィーレ様の出産が始まるまでなら少しは余裕ができるのではないかしら。

 秋二国からは少しでも早い訪問を、とせっつかれているのですがアドラクィーレ様の出産が終わるまで、と待ってもらっています。」

「夜の日の休みくらいは確保してやる。休みはしっかり休んで、気持ちと身体は切り替えろ。

 くれぐれも無理はするんじゃないぞ。」

「はい」

「夜、寝る前に時間があったら、双子の所に遊びにいらっしゃい。フォルトフィーグだけではなく最近はレヴィーナも立って歩くようになってきたのよ」

「ありがとうございます!」


 ちゃんと私のことを案じてスケジュールを組んでくださるお二人。

 私は心からの感謝を込めて頭を下げたのだった。



 午後からはお母様が言った通り、グローブ座のエンテシウスがやってきた。

 輝くような顔つき、自信に満ちた眼差しは見ていて嬉しくなる。


「大舞台の成功、おめでとう。

 大祭での初演も大成功だったようですね」

「おかげさまを持ちまして。最初は勇者伝説ではないことにがっかりされた趣もありましたが、楽しんでいただけたようで欣幸の至りにございます」

「試演から随分直しを入れ、見ている人に解りやすく、とてもいい出来になっていましたね。それに野外劇場での舞台と室内での上演は動きやセリフを変えているようで工夫しているな、と感じました」

「? 姫君も大祭の野外舞台の上演をご覧になったのですか?」

「あ、いえ。視察に出した私の護衛兵と侍女たちの話を聞いたのです」

「そうでございましたか。確かに姫君の侍女が観劇に参って下さったとは聞いております。

 大祭の精霊に助けられ、祝福を与えられた乙女達。彼女らの目と心に喜びを与えられたのでしたら光栄至極でございますな」


 そっか。舞台上演後の騒動で『聖なる乙女の侍女』が祭りの場にいたことは万人が知ることになってしまったんだ。騒ぎになっていなければいいけれど。


「『大祭の精霊』自らも我らの劇を見てくれたかもしれないと思うと胸が躍ります。

 王宮での上演でありがたくも多くの領地から、自領での上演をというお誘いも頂きました。『精霊の夢祭り』は大祭の限定演目なので、冬の間、しっかりと新作の準備と練習に取り組み、姫君から賜りし、グローブ座の名を汚さないように邁進する所存にございます」

「頑張って下さいね。あと、子ども達の事もよろしくお願いします」

「お任せを。とても筋がいい子達です。新作ではちゃんとした役を与えてやろうかと考えております」

「甘やかす必要はありませんが、大事に仲間として育てて頂けると嬉しいです」

「かしこまりました」


 と、グローブ座の会見は比較的スムーズに終わった。

 けれど、その後、私はゲシュマック商会の会見で


「マリカ様。『大祭の精霊』の件がとんでもないことにおります」


 自分たちがしでかした騒動が及ぼした結果を改めて突き付けられることになったのだった。


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