【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 保育士二人

公開日時: 2021年6月23日(水) 07:05
文字数:3,221

 今の私の家は魔王城だ、という自覚はある。

 アルケディウスのガルフの家は、仕事の為に借りたアパートで魔王城は実家。

 エリセが魔王城からアルケディウスに毎日通う様になってからは、私も週の半分以上は夜、魔王城に戻って皆と過ごす様にしている。

 

「やはり、マリカ様がいらっしゃると皆様の表情が違いますわ」

「そうかな?」

「ええ、普段は皆様、本当に聞き訳が良くっていらっしゃるのですの」

 

 夕食をみんなで食べて、絵本を読んだり皆で遊んで、お風呂に入ってから寝かしつける。

 そんな毎日のローテーションを終えて、私はティーナの部屋で私がいない間の報告を聞いていた。

 

「リグも本当に動きが活発になってきているね」

「なんにでも遠慮がなくって大変ですわ」

「離乳食はどう?」

「順調です。味のあるものが好きで、パンがゆなどよりは果物や肉のそぼろなどを好んでいます。

 こんな小さなうちから、好みというものはあるのだと驚いています。

 日々、発見、ですわ」

 

 保育計画や、毎日の様子に合わせた課題や生活のプログラムも指示したりする。

 ティーナは私が信頼する保育士。

 心配はしていないけれど、

 

「そんなに違うもの?」

 

 ジャックとリュウは私が帰ると、おんぶにだっこで甘えて来る。

 本当に離れない。

 

 ギルやジョイも構って欲しそうに近づいて来るし年中組も、自分が作ったものを見せたり、報告したり。

 競い合って話しかけてくる様子はやはり、無理させちゃっているかな?

 と思う。

 

「ええ。リュウ様やジャック様は特に寂しいのを一生懸命我慢しているように思います。

 皆様、マリカ様達を心配させまいと頑張っておいでですが…」

 

 私がいない間頑張っているから、いる時には甘えたくなってしまうのだろう。

 それはできる限り受け止めて行きたいとは思うのだけれど…。

 

 

 

 

「ねえ、ティーナ。相談があるの。

 忌憚なく応えて。ダメ、とか困る、でもいいから」

「なんでございましょうか?」

「勿論二人に話して承諾を貰ってからの事、なんだけれどね」

 真摯な眼で私を見つめる親友に、私は今日、ここに来た理由を口にする。

 

 

「アーサーとアレク。二人を外に連れ出したい、って言ったらどう思う?」

 

 

 予想外の提案であったのだろう。

 でも

 

「そう、でございますね。

 今の時期、お二人がいらっしゃらないと色々困る、というのはございます」

 

 ティーナは真剣に考えながら答えてくれる。

 

「エリセ様、ミルカ様がアルケディウスに通う様になられて、子ども達は少し揺れていましたから。

 ふざけがちになる子ども達を引き締めてくれるエリセ様、ミルカ様がいなくなってつい、ふざけすぎてしまう、ということは良くありました。

 お部屋の中を走り回ったり、ケンカしたり。勉強の時間を面倒がって逃げようとすることもあったのです。

 度が過ぎるとエルフィリーネ様が諌めて下さっていましたが…」

「あちゃー。ごめん。迷惑かけてるね」

 

 物わかりが良いようで、やっぱり子どもだ。

 遊びや、やりたいことに夢中になるとあまり好きではない事が疎かになるのは、予想出来たことだ。

 

「いえ、そういうことがあるかもしれない、とは伺っておりましたし。

 そんな中で、最年長としてお二人は他の子より自制して、ふざけること少なく頑張って下さっていました。

 特にアーサー様からはリオン様を感じる事もしばしば…。

 アレク様は、物静かですが芯は強く、悪い事をした子に丁寧に根気強く諭して下さる場面もあって、こちらはフェイ様を思わせます」

 

 私のいない場所での子ども達の成長を聞くのは感慨深くも嬉しい。

 

「そっか。アーサーは先頭切ってふざけちゃうかと思ってたけど…頑張ってくれていたんだね」

「ええ。それが自分も島の外に、アルケディウスに行きたいという思いからだとしても、とても頑張って下さっていると思います。

 ですから、お二人が抜けると大変、という気持ちはたしかにあるのですが…」

 

 保育士として子どもを見守る者としてティーナは誠実に答えてくれる。

 

「それは大人の都合。

お二人の成長、そしてアルケディウスでの活動に必要、というのであれば反対は致しません。

 マリカ様がそれを必要と思ってのことでございましょう?」

「…うん。二人にはね、モデルになって欲しいの。

 これからアルケディウスで育つ子ども達の…」

 

 私の言葉にティーナは小首をかしげている。

「モデル…でございますか?」

「そう。お手本、って言ったらいいのかな。目指す姿。目標。そんな感じ?」

 

 私はティーナにアルケディウスで、元奴隷だった子達を対象にした孤児院を開く事になったことを説明する。

 アルの事情と今回の事件については前に話してあるし。

 

「あの子達の側には歪んだ大人しかいなかった。

 どういう風に生きるのが正しい子どもなのか、あの子達自身解っていないと思う。

 だからね。アーサーとアレクには、新しい子ども達に、どういう風に動いていいのか。それを見せて欲しいなって思っているの」

 

 魔王城の島で最初の頃、アーサーは自分より大きくて頼もしいリオンを自分の目標と定めた。

 その姿に届くように、とあの子なりに頑張ってきた事を私はちゃんと知っているし、認めている。アーサーならきっとどんな子にも偏見なく、明るく接してくれるだろう。

 アレクは魔王城の島で目覚めた最初の能力者。

 足が不自由というハンデがあるけれどリュートという自分の特技でそれを補い、揺ぎ無い自分を確立した。

 どんなマイナスがあっても、思い次第で、努力次第でプラスにできるのだとその姿が証明している。

 

 新しい孤児院は魔王城での最初の保育と違って私もずっとついていてあげられるわけでもない。

 出来る限り、助けて行きたいとは思うけれど。

 だから、新しい子ども達に保育士以上に大事で、色々な事を教え、気付かせてくれる存在。

『友達』

 を作ってあげたいと思うのだ。

 

「孤児院で寝泊まりして寝食を共にできれば最高だけど、それは流石に難しいと思うから、当面は通いでね」

「新しい子ども達が自意識を持つようになった後、帰る場所があるお二人を見て羨む事などはありませんか?」

「それは、あると思うけれど、元より環境ってみんな同じじゃないんだ。

 だから、孤児院があの子達にとっての魔王城になって、アレクやアーサーに負けないようになるぞ、って気持ちを持ってもらえればいいな、って思うの」

 

 今はまだそれ以前の問題。

 奴隷として命じられるままに育ってきたから、自由にしていいよ。と言われても多分解らない。

 だから、元気に動く『子ども』のモデルを置く。

 こんな風に動いていいのだと、伝えていきたい。

 

 私の思いを受けとめてくれたティーナは柔らかく微笑むと、頷いてくれる。 

 彼女は子ども達と同じように、私の思いも認め、受け止め、受け入れてくれている。

 傾聴と共感。

 保育士の基本中の基本を教えられなくても行える。

 それは得難い才能だと思う。

 

「マリカ様にお考えがあって、その為に必要というのであれば、先ほども申し上げました通り私、は反対致しません。

 アーサー様、アレク様にとっても念願の外。そして求められてのこととあれば、きっとお二人にとって大きな成長の場となりましょう。

 どうぞ、御心のままに」

「ありがとう」

 

 感謝の言葉は、今の言葉だけに返したものではない。

 

 ティーナがここに導かれたこと。

 私の不在を支え、もう一人の保育士として子ども達を慈しんで、支えてくれる。

 その得難い事実と奇跡に対して溢れた思い、だった。

 

「二人を連れて毎日帰って来るから、子ども達のフォローも保育計画もしっかりやっていくし、困ったことがあるなら相談に乗るし、手助けもする。

 だから…」

 

 私はティーナを見つめ、請い、願い託す。

 

「魔王城と子ども達をお願い。ティーナ。

 私の親友。もう一人の保育士…」

「私の微力を尽くして…お答えします。我が主…」

 

 頼もしい親友の笑顔があれば何でもできる。

 私は具体的な計画と流れをティーナに説明しながら、同時に自分の中でも纏めて行った。

 

 

 世界の環境を整え、子ども達を整える。

 私の目標の第一歩がここから始まるのだ。

 

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