シュウたちの大発見の後も、子ども達の報告会は続く。
「見て見て、このイノシシ、おれ達がとったんだよ」
「あのさ、おれ達、ようやく自分達だけで、イノシシしとめられるようになったんだ!」
おれ達、と嬉しそうに言うのはアーサーとクリスの二人である。
二人の言う通り、目の前にはどーんと、かなり大きなイノシシが横たわっていた。
捌いてはいないけれども、冷凍済み。
当然お亡くなりになっている。
「狩りをしたのか?
無理はするな、って言ってあったろう?」
少し顔を顰めたのはリオンだ。
留守中、子ども達には危険な狩りはしなくていい。むしろするな、と言い含めてある。
怪我やトラブルが私たちのいない所で起きたら、対応できないからだ。
必ず城にいる間に翌週分の食料の確認確保はしているし。
…でも、偶然遭遇して倒したのだったら、ようやく、という言い方にはならないだろう。
「むりはしてないよ。危なくないと思ったら、ちゃんと止めてる」
「でもさ、できるだけおれ達でやってみたいな、って思って、そうだんして、練習したんだ」
おれ達、自分達、と二人は繰り返し告げる。
それはあまり仲が良くなかった二人が力を合わせて、考えた上で狩りをしたということに他ならない。
私も、決して賛成ではないけれど、とりあえずリオンに目配せして二人の話を聞く事にした。
「リオン兄と、あの皇子様のはなしをきいてさ、まねできないかな、って思ったんだ」
「俺とライオ?」
「そう。ライオット皇子がてきを引き付けて、リオン兄が倒してたんだろ?
だったら同じにすればいいんじゃないかなあ、って」
話を聞くに、オルドクスに協力して貰い、獣を追い立て、アーサーが盾で攻撃をガード。
その隙に、クリスが背後から傷を追わせて倒すという戦略を立てたらしい。
そしてそれを実行した。
「さいしょはさあ、何回も失敗したんだ。イノシシにはねとばされて」
「そうそう。オレも、上手くしとめられなくて、おっかけられたり」
「オルドクスにたすけてもらったこともいっぱいあった」
頭が痛い。
つまりは、私達が留守中に、それだけ危ない事をやらかしてたのか。
この二人は。
大けがに繋がらなかったのは幸いだけれど…。
私も怒りたい気持ちが湧いて来るけど、ここは黙って話を聞く。
ここは我慢だ。
子どもの成長と、やる気と武勇伝を止めてはいけない。
「で、この間、やっと成功したんだ。おれが食い止めている間にクリスが足にこうげきして!」
「そしてうごけなくなったところを、アーサーが盾でぶんなぐって、きぜつさせて、止めをさした!」
命を奪う事、その意味もこの子達はちゃんと解っている。
だから、ちゃんとそのまま保存して私達を待っていたのだ。
「おれ達、リオン兄たちがいない間も、ちゃんと城とみんなを守るよ」
「あぶないっておもったら、必ずオルドクスにもついてきてもらうし、出かける前にエルフィリーネもエリセにも言っていく。
だから…狩りもやってもいい?」
「やっていい、じゃなくってもうやらかしているのでしょう?」
肩を竦めたフェイの睨みに背筋を縮めた二人であったが、予想したフェイからの氷の怒りは流れてはこない。
代わりに黙って立ち上がったのは、リオンだ。
右手と左手。
握られた拳は無言で、加減の無い力を込めてクリスとアーサー。
「いてっ!」「……っ!」
二人の頭に落とされていた。
「今のは、言う事を聞かなかったお仕置きだ」
「はい!」「ごめんなさい!
反射的に今度は二人の背筋が伸びた。
「本当に子どもだけの狩りは危ない。怪我をしたら取り返しはつかないんだぞ」
二人にとってリオンは兄で在り、絶対の師でもある。
二人なりの理由と思いあっての行動であっても言いつけを守らなかった、ということは彼らにとって負い目ではあるのだろう。
しゅんと、頭が下を向く。
だから、彼らは気付いていなかった。
いや、気付くのが遅れた。
フェイとリオン。
二人の、二人を見つめる暖かい眼差しに。
「だが…」
まだ、宙に浮いていたリオンの両手は再び二人の頭に落ちる事は無く、二人をかき抱く。
「リオン兄?」
「お前達はちゃんと、俺の教えたことを理解した上で、自分のやれること、やるべきことを考えた。
それは、とても凄い事だ。
お前達と同じ歳の頃の俺にはできなかった」
腕に込められた力と、優しさに気付いて二人は顔を上げる。
目が合った。
彼等にとっての目指す高みそのものの兄と。
そして理解できただろう。
彼が自分達の思いを、行動を、その意気を、認めてくれた、ということを。
「俺は、もう、お前達の行動も制限しない。
必ずオルドクスと一緒に動くを条件に、だがな」
「やった!」「ありがとう!」
「ただ、本当に無理はしてくれるなよ。俺達が助けられない所でお前達に怪我でもされたら、俺は後悔してもしきれない」
「解った」「約束する!!」
彼らは輝く笑顔で頷いた。
「オルドクス。こいつらを頼んだぞ」
「ばううっ!」
私はオルドクスの言葉は解らないけれど、任せろ。と聞こえた。確かに。
「アーサー、クリス。
俺はいつか、必ずお前達も外に連れて行く。
外で神と戦う事になったら、本当の意味で信頼できる頼りにできるのは魔王城の者、だけだからな」
「ホント?」「おれ達も役に立つ?」
「ああ、外で何度お前達がいれば、って思ったか知れない。
だからその時まで、ここで皆を守って待っててくれ」
「「うん!」」
誇らしげに、輝くように唱和した二人の声を聞きながら、私はリオンに囁く。
「外で、あの子達…戦いのギフトが必要になりそうな時があるの?」
「多分、な。
そう遠くない未来、きっとあいつらの力も必要になる。
人間の変化。
俺達の快進撃をいつまでも黙っている連中じゃない」
外の世界は平穏で、決められた遊びの戦い以外に戦の気配も無く思えていたけれど。
静かに目を閉じて遠くを見つめるリオンには違う何かが見えているのだろうか?
「その為に、俺はマリカの事が無くても上に行く。
今まで、ずっと一人で戦う事してこなかったけれど、前に出て戦う事しかしてこなかったけれど。
今度は守るべきものを背後にしながら、力を借りて戦う事もきっと必要になって来るから…」
ライオット皇子に軍略や、戦術などを学びながらリオンは騎士を、その上を目指すと言い切った。
「そっか。うん」
なら私は信じるだけだ。
リオンとその決断を。
「おれ等もリオン兄の役に立てるんだ!」
「ぜったい、アーサーよりも先に外に行って役に立ってみせる!」
「じょうだんやめろ! おれが先に決まってる!」
「なにを!」「こいつ!!」
「まってまって。ケンカはやーめ」
同年代のライバルで、今も決して仲は良くないけれど。
でもアーサーもクリスも、勇者の直弟子。
一番大切な事はきっと解っている。
「じゃあ、今日の夕飯はこのイノシシ使ってのお料理にするね。
何がいい?
「ハンバーグ!」「ソーセージ!」
「よし、両方盛りのお子様ランチにしよう!」
「?」「??」
その日の夕飯はメインベーコンパンケーキのソーセージ、ハンバーグ、サラダにポテトデザート全部盛り盛りのお子様ランチにした。
ベーコン以外のお肉は、アーサーとクリスが狩ってきたイノシシで。
お子様ランチには旗が欠かせないので、白い布で手作りする。
チキンライスならぬパンケーキに旗を立てて、っと。
「わー、すごーい」
「おもしろーい」
アーサーとクリスのデフォルメイラストを描いたら爆受けして
「ぼくにもかいて」「わたしもほしい!」
全員分描く事になったのは予想外だったけれど、でもそれは。
子ども達の思いと成長を、確かに感じた暖かい一日の、一コマだった。
1話の分量を減らしてみよう週間。
今回は3000字。それでもこれ?
テンポを考えると削れない話もあるのですが、こういうほのぼの話はシーンごとに切ってもいいのかも。
強くて美しい表現で、人を惹きつけるにはまだ修行が足りないので読んで下さる方のことを考えて楽しん貰える工夫を考えていきたいと思います。
もちろん、勉強と修業は続けつつ。
次にもう一つ、子ども達の成長を確認して、今後の方針を考えてから皇国に戻ります。
よろしくお願いします。
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