【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

地球 ほしのおわり

公開日時: 2024年10月20日(日) 09:01
文字数:3,890

 コスモプランダーの隕石が地上に落ちてきたのは、まだ暑さも残る初秋。9月の事だった。

 それから数か月。

 生き残った地球人達はクリスマスも大晦日もない日々を過ごすことになる。

 だからその日


「金の雪?」


 地球人に残った人々は一人残らず、天を仰いだ。宙を往くサンタクロースからの地球最後の贈り物を胸に取り込む様に。目に焼き付けるように。



 ほぼ、地球の正反対と言えるオーストラリアの動き。

 移民船の発進にどうやらコスモプランダーは気が付いたようだ。


「ナンダ!」


 彼らの意識が一瞬、反れたその瞬間。

 黒い子猫がリーダーの肩から跳び、重力を無視して空中に浮かび立つ。


「! オマエハ?」

『地球の希望に手は出させません! NANOフィールド展開。空間封鎖。暫く、ここで私達の相手をして貰いますよ!』

「!」

『皆さん、シールドを付与します! 動けますか?』


 彼らの周辺十数kmが薄紫の光に包まれる。

 と同時、一人ひとりにも、シールドが与えられる。

 それを確認した隊長さんが、頷き部下達に向けて叫んだ。


「コスモプランダー本体を相手にするのは後だ! まずは船と思しきものを破壊せよ!

 彼らに移民船を追わせるな!」

「了解!!!」


 ティエイラの質問に行動で答えた戦士達は散開。

 マシンガンをぶっ放しながら、手榴弾のような爆発物を宇宙船に連続投下する。

 流石この重要局面に選ばれる皆さん。

 身動きできないような重圧を、精神力とティエイラのシールドで振り切ってひたすら目標に突撃する。

 その頭上には九つの逆さ箒星。

 黄金の光が雪のように彼らの上に、降り注いでくる?


「これは? ティエイラ?」


 最初のコスモプランダーの隕石投下の時にも銀色の雪が降った。

 だから、何かあるのではないかと心配する人々の不安は容易に理解できる。

 でも、安心して、とティエイラの端末、黒猫は首を横に振る。


『星子ちゃんの、新型のナノマシンウイルスです。私達に力をくれる……。

 おそらく、彼女が精製した最後の力を、神矢君が最大化して降らせているのでしょう。

 この力を使ってシールドを強化します。皆さん、なんとか持ちこたえて下さい!』

「了解!」

(「ありがとう。二人とも」)


 舞い散る黄金の光に一番驚いたのは、コスモプランダーのようだ。


「カイセキ……。コレハ、ワレワレノモノデハナイ?

 ナゼ、ナゼ? コノヨウナ?」


 動きを止めて、全身にチカチカと怪しい光を宿らせている。

 舞い散る金の光を収集、分析するように取り込んでいるのかもしれない。


(「彼らは実体があるように見えて、実はない感じね。

 分かれていても、同一存在? あの身体はナノマシンウイルスと似た感じがするのだけれど……」)


 轟く爆発音!

 宇宙船と思しき、岩をどうやら粉砕することに成功したようだ。

 コスモプランダーが出てきた出口から、中に投入された手榴弾が良い仕事をした。


(「外からの銃弾や、爆弾の攻撃はあまり有効では無かったようだけれど、内側は外よりも強化度は弱いのかも?」)


 状況を送信しながらも分析を続けるティエイラ。

 ただ、コスモプランダーは宇宙船が壊れたことにはさして、興味が無い様だ。

 むしろ黄金の雪。新型のナノマシンウイルスの方に関心あり?


「キサマラ、ナニヲシタ? ナゼ、コンナモノガ、ツクレル。

 イヤ、ナゼ、テイコウデキル」

『地球人類の意地、ってことで。

 地球46億年と、70億人の人間、なめんなっ!』


 それだけ言うと、ティエイラの端末は、彼ら以上に舞い散る光を奪い取るようにその身に集積。

 金色のシャボン玉を作り上げると、それを一気に大きく膨らませた。

 地球全体に金紫の光が波のように広がっていく。


『NANOフィールド、二段階強化、広域展開しました。

 第一防御壁は、この端末が失われるまで、第二防御壁は、私の本体が破壊されるまでは消えません。移民船の追跡は困難でしょう』

「それは!」

『ええ、皆さんの、爆破によって、宇宙船と思しき存在も破壊出来た様子。

 私達の目的の80パーセント達成。ほぼ勝利と言っても良いと思います』


 意外なまでに無い反撃。

 驚き、戸惑っているのか。圧迫感こそ消えていないが、コスモプランダーは落下したいくつもの分身体を一つに集積させて、何かを考えているようだ。


『でも今回の戦いは、これで終わりではありません。

 今後の為に、コスモプランダーとの戦闘状況と、宇宙船のデータ。そして、これから行う直接戦闘の情報をNASAと研究所シュロノス。そして疑似クラウドに転送します。可能な限り補助しますので、どんな攻撃が通じて、どんな攻撃が通じないのか、とにかく試して頂けますか?』

「お任せを!」


 子猫を肩に乗せ、頷いた隊長さんはまずは、ライフルを構え、一閃。一番、最初に降りてきたコスモプランダーに銃撃を放つ。

 だが、予想通り、と言おうか銃弾は靄のようになった身体をすり抜け、何処かに消えて行った。続いて、マシンガンの連射。複数からの同時攻撃。

 けれど、こちらにも銃弾は効果を発したようには見えない。流体の身体をなんなく通過して弾は地面にめり込んだ。


「やはり通常弾は効果が無いようですね。

 ティエイラ。弾に貴方のシールド効果。ナノマシンウイルスを被せることはできますか?」

『やってみます。その次はナイフなどの斬撃が効くかを……。あの怪物に直接触れるのはキツいでしょうけれど……』

「ご心配めさるな。我々の命とデータが、希望を繋ぎ、次は無理でもいつか、コスモプランダーに届くことを願いましょう」

『ありがとうございます』

「コレハ、コレハ……。コンナ、ハンノウハ、ハジメテダ。

 ココマデ、ツヨイ、イシ。ジョウホウガ、マダ、ソンザイシタ……トハ!」

『危ない! コスモプランダーから離れて!』


 いきなり、黒い靄がメタルな光沢を取り戻す。そして次の瞬間。攻撃を仕掛けていた兵士達に襲い掛かる。とっさに距離を空ける彼ら。でも、二人が逃げきれず、まるでスライムか、沼のような漆黒の中に取り込まれる。


「うわああ!!!」


 ティエイラの防御シールドもあったのだけれど、そんなものは彼らの本体からしてみれば大した意味は持たなかったようだ。

 何かが溶けるような、あるいは焼けこげるような嫌な音と共に、二人は呑み込まれ、消えてしまった。息を呑む彼らの前で、黒い闇は、不思議な光を宿す。


「ウマイ!」

「え?」

「コレハ、コレハ!!!」


 一気に、黒い闇は質量を加速増大して、兵士達に襲い掛かる。


「散開! 呑み込まれるな!! ティエイラ! 脱出を!

 あれは、おそらく、我々を……」


 隊長さんの叫びと共に、ブツッと映像が途切れた。テレビの電源が落とされたかのように。


 だから。

 その後の、彼らの奮戦の結果を、私達は知らない。

 今、見ているのはその後、ティエイラが、稼働停止まで送った情報データによるおそらくエミュレーションに過ぎないからだ。


 確かな事は、ある。

 ティエイラと、地上に残った人々の奮戦の結果、少なくとも移民船が太陽系を脱出するまでの間、地球からの追撃が届くことは無く。

 九機の船は宇宙探査船ボイジャーに続き、人跡未踏の宙へと無事旅立っていったこと。その果てに今の大地にたどり着いた事。


 そう。今、私が見ているのは私が見ているのは、地球滅亡時の星子ちゃんや神矢君、七人の能力者達の記憶を元にした疑似記憶で。

 彼らが地上を離れた後の事は、仮想クラウドに通信限界ギリギリまで送られたティエイラからの送信データからしか伺うしかない。


 だから、これは、最後に送られた人格データから、きっとステラ。

 星子ちゃんが夢見た光景、なんだろうと思う。



 爆発音響き、魔性溢れる研究所。

 固く閉ざされた扉の内側で、地球の護りの要たる紫水晶。

 バイオコンピューターを守る最後の侍は、


「二人っきりですね。真理香先生」


 既に人型を失った同僚に、昔と変わらぬ笑みを向ける。


『海斗先生……』

「ずっと、僕も、貴女も仕事で手いっぱい。

 恋愛なんて考えている余裕もありませんでしたが……。

 休日自主出勤したあの運命の日。

 仕事が終わったら、貴女を食事に誘おうと思っていた、って言ったら信じて頂けますか?」

『え? 本当に?』

「はい。残念でしたよ。

 あの日から、貴女は僕の手の届かない所に行ってしまいましたから」

『私も、残念です。保育の愚痴を言いながら、一緒に食事したかったですね』


 隕石落下の後、海斗先生は前にシュリアさんが言った通り、能力者では無い生き残り。

 ナノマシンウイルスに感染しない護衛として世界中を飛び回っていた。

 もし、あの日、コスモプランダーの襲撃が無ければ、二人はもしかしたら恋人同士になって、夫婦保育士なんて可能性もあったのかもしれない。

 そんな仮定は無意味だと解っているけれど。


「僕も、できれば能力者になりたかった。

 でも、今はなれなくて良かったと……思います。貴女を最後まで守るこの役目だけは、シュリアにも、誰にも奪えない、渡さない。僕だけのモノ。ですからね」

『ありがとうございます。私も、海斗先生を守ります。

 だから、最期の時は、私を破壊してデータを奪われないようにして下さいね』

「無理心中や、切腹はあまり趣味じゃないんですが、解りました。

 大丈夫ですよ。真理香先生を一人にはしませんから。

 その時は、僕もいっしょに逝きます」


 ああ、本当にこれは地球と、星が最期に見た美しい夢だ。


 扉が破られる。敵は漆黒に染まった魔性と、ゾンビのような人間達。

 背後には漆黒のスライムが浮かんで、こちらを見ている。

 絶望の状況下。それでも二人の姿は輝いていて……、侍は躊躇いなく剣を引き抜き、紫水晶は祝福を彼に纏わせる。


「さて、じゃあ、未来の環境整備、がんばるとしますか」

『はい!』


 そんな二人の光に満ちた最期おわりはきっと……。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート