皇国に来て、ガルフの店に努め店舗経営に関わることになって初めて知ったことなんだけれど…。
「この国の税金ってホント高いね。
しかも国と神殿の二重取り?」
帳簿を見ながら私は思わず悲鳴をあげた。
住民税に当たるこの国に住民として存在する権利の関する税金が一人一年で高額銀貨一枚。
さらには同額を、不老不死を得て生きているお布施として、神殿に納めなければならない。
一年間で大よそ一人二十万円。
ガルフの店の店員の給料は一週間で少額銀貨二枚。
これは普通の店より少し高いくらいだ。
食糧にお金を使う必要がないので、十分以上の生活が可能だと思う。
二月分の給料がまるっと税金で取られるのだ。
仕事がある人であれば多少痛い、くらいですむけれど仕事のない人にとって、これは本当に大変だ。
納税期は基本的に大祭の後、つまりは戦後で、払えないものは戦に出たりそれに関わり給金を貰って払う。
払えない時は捕えられ、神殿や国への労働奉仕で支払う事になる。
「神殿が徴税官を兼ねていますからね。
国からの手数料と、神殿への税金で王宮よりも潤っていると思いますよ」
リードさんが、私とアルに苦い顔で説明してくれた。
この他にも家を買えば住居税や固定資産税のようなもの、商売を始めればその登録料や所得税のようなものもかかる。
王都は物価も高いし、税金も高め。
直接納めたり、ギルドのようなところに納める税金もあるけれど、殆どの税金を集め手数料などを得るとすれば神殿の力が強くなるのは当然だろう。
「税金を払えずに逃げたりっていう人はいないのか?」
「いなくもないですが、基本的に信仰心は高いですし、神へのお布施という名の徴税には従いますよ。
神殿兵に捕えられたり、不老不死を奪われることが怖いですから」
「え? 一度与えた不老不死って奪えるの?」
素朴な疑問だったけれどリードさんはええ、と頷いた。
「滅多に行われる事ではありませんし、できる神官は限られていると聞きますが、500年の間に何度かそういう事例があった、とは聞いています。
最初期にあった国家転覆の罪とか、神殿への反逆罪などで公開処刑の様に行われたそうですよ。
幸いこの国では見たことはありませんが」
「死にたいから死なせてくれ、っていうのはダメなんですね?」
「当然ダメです。一人死ねばその分税金収入なども減りますから。
税金が払えないから死なせてくれというのも受け入れられる事はないそうですよ。
無理やりにでも捕えて強制労働で支払う事になります」
なるほど、だから必死に魔王城の島を探して死を選ぶ人もいたということか。
ガルフの様に。
「支払時期は基本、大祭の後。
一番商人たちの財布が潤う時期ですからね。
今期分に関しては新しい事業でバタバタしていましたが、従業員全員分、滞りなく納入済みですよ」
ここ、とリードさんが内訳を指し示してくれた。
既に総従業員数は200名を超える中世としては相当な大企業になっているガルフの店だ。
難癖をつけられないうちに、早期納入でしっかり決済しておいた方が確かにいいのだろう。
「基本的に、国に属して税を納めている者はその国の所有という形ですかね。
この国で言うなら皇族は自由に生きる民を守る義務があり、民は国の為に働く義務がある。
まあ、そのさじ加減をどう考えるかは人それぞれ、なのですが…」
同じ皇族でも、ライオット皇子の様に自分は皇族だから民を守る。という方もいればアドラクィーレ様の様に民は皇族に従うのが当然という方もいる。
まあ、後で聞けば失敗すれば首を刎ねると脅されたあの時も、国の豪商であるガルフは皇族でも多分、殺せなかっただろうと言う話だ。
危なかったのは私。
税を支払っていない分、一切の加護を得られていないから。
豪商ガルフが所有者。それが私の命を守っている。
今はそれに国の保護も加わったけれど。
だから子どもがこの世界で生きようと思えば、プラスアルファが必要になるのだ。
精霊術であったり、戦闘力であったり、美貌であったり、ギフト、特殊能力で在ったり。
「俺は今年の騎士試験を受けて、騎士になる。
そうすれば子どもでも侮られなくなるしライオの力になれる」
リオンはきっぱりとそう言い切った。
今は、第三皇子の従卒として軍属扱いになっている。
侮られないようにと皇子がリオンに授けて下さった紋章入りの短剣には以前助けられた。
勿論、騎士になったからとて皇子と対等の立場にはなれないけれど手助けできることは増やしたい、とリオンは言う。
生来の実力と戦闘センスを毎日のトレーニングで磨いているリオン。
試験という形であるなら落ちる心配はない、と思う。
ただ…心配なのは…
トントントン。
部屋の扉が開いて、
「あの、よろしいですか?」
控えめな声がする。
「なんですか? ルカ?」
リードさんの促しの声に、扉が開き入ってきたのは見た目、かなり若い青年だ。
ルカ、と呼ばれた彼はガルフさんの使い走りのような事をしている商人見習い。
元はお金がなくって不老不死になれなかった身体の大きな『子ども』で、ガルフが金を貸し、儀式を受けた最新に近い子どもあがりだと聞いている。
「旦那様が、お呼びです。リードさん。マリカさん、アルさん」
「解りました。今行きます」
改まって、ガルフが私達を呼ぶ、というのは珍しい。
用事があれば自分からこっちに来ることを躊躇う人じゃないし、家でも話はできるから。
「何か、改まった話かな?」
「そうだね。困ったことじゃないといいんだけど…」
顔を見合わせながら私とアルは、リードさんと共にガルフの執務室へと向かったのだった。
「え? 私達を神殿に?」
ガルフの執務室。厳重に人払いした防音の効いた部屋で、告げられた言葉に私達は耳を疑った。
「そうです。神殿から招集状、のようなものが来ています」
パサリ、とテーブルの上に置かれた書類のようなものをリードさんが手にとって読んでくれる。
「今度、店などに所属して働く子どもにも税を科すことになった。ついては所属の子どもを神殿に連れて来るべし、とありますね」
ちょっと驚く。
「新しい税、なんて話、皇子からも出てないよね? 神殿が勝手に決めて良い話なの?」
「流石に話も通さず、は無理でしょうけれど、神殿の力は絶大ですから
『こうしたいと思うが良いか?』
と言われればあまり拒否はできないと思いますよ。税金、つまりは収入が増える事、ですし」
「金を払うのは全然問題はありません。払えと言われれば払ってやれますが、問題なのは…」
「うん、私達が神殿に行っても大丈夫かってことかな?」
ガルフの心配に私は頷きを返した。
アルやミルカ、エリセはともかく、私とリオン、そしてフェイが神殿に行って、精霊に属する者、精霊の貴人と精霊の獣だとバレないか。
問題はそこだろう。
フェイは魔術師とこじつければ大丈夫だと思うけれど、私とリオンが神から見てどんな存在なのか、私達には解りようもない。
「この国に、世界に生きている以上避けられない話、だとは思うし、今日魔王城に帰った時エルフィリーネやみんなと相談してみます」
「お願いします。払う金額はいくらであろうと大丈夫ですから」
一応、書類には一年間で高額銀貨一枚とある。
大人の半額、まあぼったくりだとは思うけれど妥当な範囲内だ。
私、リオン、フェイ、アル、エリセ、ミルカ、後はジェイドたち四人。
全部で金貨一枚。
それで安全が買えるなら安いものだと思うけれどとりあえずは島でみんなに相談してからかな。
…神。
考えるだけで背筋から、ざわつくような寒気が全身に流れるのを感じる。
この世界を支配し、不老不死をばら撒いた者。
どんな存在なのだろう。
「大丈夫か? マリカ?」
「あ、アル」
私は、知らず身震いしていたらしい自分に気付く。
アルが肩に乗せてくれた手で、我に返る。
「大丈夫。今度は負けたりしないから」
この時、私は自分が紡いだ言葉の意味にまったく気づいていなかった。
予告詐欺
小麦の収穫前にやっておかなければならないことがあったので。
子ども達の活躍、台頭を見て神殿が手を伸ばしてきました。
大聖都、本拠のではなく、地方扱いのアルケディウスなのでそこまで深刻な話では無いですが、初の神との対話はどうなるか。
よろしくお願いいたします。
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