【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

夜国 アーヴェントルクの皇子

公開日時: 2022年10月13日(木) 07:25
文字数:2,269

 初夏の馬車の旅は、余計な事さえ考えなければとても気持ちがいいものだった。


 特にアーヴェントルクに入り、国境と戦の森を抜けると広がる風景は正しく高原。

 キラキラと碧の輝く木々や、草原がとても美しい。

 あちらこちらにいるのは羊かな?

 牧畜が盛んで、羊毛の手袋とかセーターが人気なのだと前に聞いたっけ。


「うわー、見て見て! 凄いよ。アレ!」


 私と同じ馬車に乗って、一緒に外を見ていたアレクが目を丸くして指をさす。

 ミュールズさんは眉根をピクリとさせたけれど、私が何度もお願いしているので皇女に対して無礼だとかは言わないでくれた。

 皇女の馬車がカーテンを開けているのも実はあんまり良くないのだろうけれど、暑いし、せっかく外国に来たのに風景も見れないなんて悲しすぎる。


「ホントに凄い迫力だね~」


 いや、アレクの感想にはまったく同意。凄い。

 広がる草原からいきなり、何の前触れも無く切り立った岩壁が聳え立っているのだ。

 しかも両側に。

 岩山に巨人が刃を立て切り裂き広げたかのような感じ。

 こういうのを渓谷、というのだろうか。

 現代日本ではなかなか見られない圧倒的な風景だ。


 渓谷を抜けても山が視界から消える事は無い。

 あっちも山、こっちも山。

 遠くには一際大きな山脈も見える。

 

 アーヴェントルクは国土の大半が山岳地帯だというだけあって、山の数も大きさも私の想像を遙かに超えていた。


 夜の国、というイメージからもっていた暗いイメージは、夏の、晴天だからか感じられない。

 アルプス、マッターホルン、ユングフラウ。

 そんな言葉が遠い昔の憧れと共に頭を過る。

 歌にもなってる高山植物とか、山奥でお祖父さんと一緒に生活する女の子が食べるヤギのチーズとか。

 なんだか、ちょっとワクワクしてきた。


 快晴の天気にも恵まれて馬車は予定通り、指定された最初の宿に到着した。

 リオンが先行して、宿の安全確認や調査をしてくれることになっているので暫く待つ。

 

 玄関に緑色の旗を立てておくから直ぐに解る。

 とアーヴェントルク側から言われていたのだけれど、その通りビロードが美しい緑の旗が立てられていた。

 国ごと、というか精霊神様のイメージカラーがあるのかな?

 って思う。


 アルケディウスは木の国だから多分、緑なのだ。

 プラーミァは赤。炎の色。

 エルディランドは大地だから黄色だろうな、って思う。

 アーヴェントルクは何だろう。夜の国だから黒? それとも紫かな?



  

 と思っていると、宿の近くの広場に何匹もの馬が繋がれているのが見えた。

 もしや…


「マリカ様。

 アーヴェントルクから出迎えと、案内の方がお見えです」


 やっぱり。

 プラーミァでもエルディランドでも、案内役さんが来てくれていたからその辺は驚かない。


「ご挨拶致します。降りてもいいですか?」

「どうぞ」


 リオンがエスコートしてくれたので、ゆっくりと馬車から降りる。

 と、


「ふーん。

 偉大なるライオット皇子の愛娘にしてアンヌティーレと並ぶ精霊の愛し子。

 『聖なる乙女』と聞いて期待していたのに随分と地味な外見の子だね?」


 なんだか不躾な声とセリフが聞こえて来た。

 誰?



 声のする方。玄関先を見ると三人の男性。


「ヴェートリッヒ様!」


 先頭に立つ男性を後ろに立つ男性が小声で諌めている。

 服装や外見からして諌められている男性が、一番身分が高いことは解るけど…ヴェートリッヒってもしかして第一皇子?


「さて、始めまして。

 アルケディウスの皇女様。僕はヴェートリッヒ。

 アーヴェントルク皇帝ザビドトゥーリスの第一皇子だ。

 ようこそアーヴェントルクへ」

「始めまして。ヴェートリッヒ皇子。

 私はアルケディウスの皇女、マリカと申します。この度はわざわざ足をお運び下さいましてありがとうございます」


 丁寧な礼ではあるけれど、今迄の二国の案内人は膝を付き、賓客として遜って下さったのでこの態度はちょっと新鮮だ。

 私の事を地味、というだけあってヴェートリッヒ様は華やかで長い金髪に、緑の瞳。

 外見年齢は二十代前半かな?

 目を引くような容姿の美男子ではある。


 私は、まったくもってタイプではないけれど。


「厩育ちの婚外子だけれど、腕のいい料理人で頭も良いと聞いてる。

 外見は好みではないけれど、顔立ちは整っているし、何よりライオット皇子の娘だし。

 これなら側においてやってもいいかな?」

「皇子!!」


 うわー、ホントに新鮮。

 皇族になってから久しぶり。ここまであからさまに下に見られたの。

 陰口で言われてる可能性はあると思ってた。

 でも本人眼の前にしてそこまでハッキリと言っちゃう?


「はっきり言っておくと僕はアルケディウスとは上手くやっていきたいと思っている。

 アルケディウスは弱国だけれど、ライオット皇子は尊敬すべき勇士だしアドラクィーレも嫁いでいるからな」


 うましかな皇子様なのか、天然なのか、それとも計算してやっているのかは解らないけど。

 リオンやフェイは敗北を素直に認めた頭の良い人だって言ってた気がするのだけれど…。


「短期集中決戦とはいえ、夏の戦では、随分と士気の高い兵士達に手こずらせられた。

 父上はけっこう本気で『新しい食』を導入するつもりらしい。

 僕も結構興味がある。

 アーヴェントルクの王都 ベルクリュストックまであと二日。

 未来の夫を早々に味方にしたかったら、それまでせいぜい美味しいものを作って機嫌を取ると良いよ」

「…失礼ですが未来の夫、って誰です?」


 しまった。

 皇女の猫。敬語モード剥がれちゃった。

 でも仕方ない。

 ムカついたから。



「僕。君はアーヴァントルクに嫁に来るんだよね?」

「なんですとーーーー?」



 ステキな気分ぶち壊し。

 私のアーヴェントルク一日目は最悪の幕開けとなったのだった。

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