【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 始まりの舞踏会 中編

公開日時: 2022年8月27日(土) 08:16
文字数:2,809

(精霊さん達、お願いだから、今日は近寄って来ないでね)


 私が舞台の中央で最初にしたのは祈る思いでそう周囲に呼びかける事だった。

 いや、ホント。

 マジで今、出てこられると存在と命に関わるから。

 リオンも、どことなく厳しい表情だ。


 明るい雰囲気の円舞曲が始まると、後は踊りるだけだけれども、祈りが通じたのか。

 幸い、今回は何事も無く精霊も現れずに終わってくれた。


 踊りに集中していたせいか、周囲の様子は殆ど見えなかったのだけれども、そんなあからさまな嘲笑は聞こえない。

 ど下手とか笑われたって事は無さそうだ。


「良かったね」

「ああ」


 ホッと胸をなでおろし、リオンと一緒に戻ると


「ん?」


 周囲からなんだか、微妙な視線を感じる。

 何だろう。

 嘲笑、ではない。

 喝采、とか賞賛、でもない。

 あえて言葉にするなら期待外れ、とかそんな感じ?

 子どものダンスに何を期待してんの? それに大失敗とかしなかったよ。

 一応ちゃんと踊れた自信はある。

 首を傾げながらお父様とお母様の所に戻ると


「よくやったな。なかなかの出来だった。

 ア…リオンもいいダンスだったぞ」

「ありがとうございます」


 お父様が心底楽しそうな笑みを浮かべ、手放しで褒めて下さった。

 そういえば、ちゃんとした場でお二人にダンスを見せるの初めてだ。

 なんだかリオンは顔が紅い。


 そっか。

 リオン、お父様にダンスを踊ってるの見せるの恥ずかしかったんだ。

 で、お父様は親友のダンスを見れてご満悦、と。

 旅をしていた時にはこんな公式の場でダンスするなんて無かっただろうからね。

 お父様の様子を無視して、リオンは護衛の位置に戻る。


「初めてにしては悪くなかったと思いますよ。

 疲れたでしょう、少し休んでいなさい」


 とはお母様。

 お言葉に甘えて少し後ろに下がって休ませて頂くことにした。


「お疲れさまでした。飲み物などいかがでしょうか?」

「ありがとう。喉が渇いていたの」


 飲み物を指し出してくれたノアールにお礼を言って、私は冷えた果実水を喉に通す。

 冷たくて美味しい。


「リオン様はダンスもお上手でいらっしゃるんですね」

「うん、昔習ったことがあるんだって」


 ノアールが言う通り、リオンのダンスはとても上手だ。

 精霊国の王子のたしなみ、ってことなのかな?

 しっかりとエスコートしてくれるので、身体を合わせてついていけばいい。


「姫様の今日のドレスはとても華やかで美しいですね」

「ありがとう。ノアールの服も間に合ってよかった。

 間に合わなかったら着いてきて貰えなかったもの」


 アルケディウスの民族衣装は男性は特徴的なチェルケスカ。

 女性はストンとした感じのドレスにカートルというコートのようなものを羽織る。

 こういう正式な舞踏会ではあんまり民族衣装は着ないそうだけれど、私の舞用の衣装もそんな感じだ。

 子どもはジャンスカを凄く豪華にしたようなサラファンにブラウスが主流。


 でも侍女にはお仕着せのような服があって、白いブラウスに袖なしのカートル、後は装飾の少ないオーバースカートを着る。

 裾は動きやすいように足首丈。元は大人用の服だけれども、ノアールの為に子どもサイズで急いで作って貰ったのだ。

 胸元を編み込みのひもで結んでいるのは、いかにも中世っぽくて私はカッコいいと思う。

 凛々しいイメージのノアールに良く似合っている。

 いつかノアールが望んだら、ドレスも作ってあげたい。



 一方で私の今日のドレスはかなり装飾過剰な気がする。

 ちょっとロココ風でフリルや刺繍がたっぷり。

 子どもだし、ダンスも踊りやすいように少し丈は短めだけれど縁飾りも華やかで気を抜くと踏んでしまいそうだ。

 髪の毛も後ろに流す感じでポニテに縛って大きなリボン。

 ダイヤモンドの髪紐もリボンと一緒に結んでいる。

 大聖都の時に、勝るとも劣らない、かなり可愛らしいお姫様ドレスだ。

 お母様は


「貴女は髪や瞳の色合いが大人しいのですから、ドレスで華やかにした方がいいのです」


 と言ってご注文下さったようだけれど、ハッキリ言ってドレス負けしていると思う。

 

「姫様の方が、とても良く似合ってますよ」

「ありがとう」


 少しずつ、ノアールの表情や言葉から緊張が解けてきたのが感じられて嬉しい。

 この調子でもう少し気安く話ができると嬉しいのだけれど。

 そんなことを思っているとノアールが周囲を伺う様に顔をまわす。


「今回は、精霊が出て来なかったのですね。

 プラーミァの時に現れた光の精霊はとても美しかったということなので、見て見たかったのですが」

「出て来なくっていいんだよ。これ以上悪目立ちとかしたくない。って、あ、そうか」


 そこで気が付いた。

 何も起きなかったから、ちょっと失望されたんだ。

 大聖都での騒動とか『聖なる乙女』の噂が耳に入っているのかもしれない。


 そう思って周囲を伺ってみれば、あちらこちらに固まってこちらを伺ってる御婦人とか、大貴族の目は私を値踏みしているように見える。

 王族同士だった大聖都や、お客様だった諸国の時には感じられなかった、あからさまな眼差し。

 ポッと出の皇女にどう関わっていくか伺っているのだろう。

 パウエルンホーフ侯爵やストルディウム伯爵のような親しさはまだ感じられない人が多い。


「やだなあ~」


 妙な期待とかかけられているのかもしれないけれど、そうだったらそんな期待は早めに捨てて欲しい。

 捨てて欲しいんだけど…。

 精霊神復活させるとそうもいかなくなっちゃうのか…。

 完全な『聖なる乙女』扱いされるようになったらどうしたらいいんだろう。

 う~ん。


 私が悶々としていると


「マリカ…いいか?」

「はい、お父様」


 私の休憩の為に、貴族達をあしらって下さっていたお父様が私を呼ぶ。

 ってことは色々と無視できない相手の登場ってことか。


「挨拶を頼む。第一皇子派閥のトップなんだ」

「…解りました。ありがとう。ノアール。これ、お願い」


 予想通りの重鎮登場。

 私はノアールにコップを渡すと背筋を伸ばす。

 確か、第一皇子派閥のトップも侯爵。

 さっきのパウエルンホーフ侯爵が、母方の叔父上なら、こちらは皇王陛下の父の弟。いわば父方の叔父上の一族だった筈だ。

 今の当主はお父様にとっては従弟、かな?


「プレンティヒ侯爵 ダルピエーダ

ルだ。

 よろしくお願いする。『聖なる乙女』」


 毎年国務会議の議長を務める名門。

 丁寧な口調に反して、鷹のような鋭い目が印象的な人だ。

 先のお二方の様な親しみは見えない。

 さっき感じた典型的な私を値踏みするような眼差しだ。

 そして…


「マリカ」

「失礼いたしました。エルトゥルヴィゼクス ダルピエール様。

 どうぞよろしくお願い致します」


 一瞬、反応が遅れたのはダルピエール様に気を取られていたから、ではない。

 彼が奥方の他にもう一人、伴っていたからだ。


「お連れの方は、お側仕えでいらっしゃいますか?」

「ああ、養子で護衛士見習い。名をクレストという」

「お初にお目にかかります。『聖なる乙女』」


 促され、片膝を付いたその子どもは、明らかな緊張を顔に浮かべながらも真っ直ぐに、私達をその緑の瞳で見つめていた。


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