【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 精霊に繋がる声

公開日時: 2022年8月30日(火) 07:23
文字数:3,590

 始まりの宴が終わった深夜。

 皇王陛下に呼び出された私室にて。


「さっきの『奇跡』の理由であれば原因は明白です」


 反省会に集った私、お父様とお母様、リオン、ソレルティア様、ノアールにカマラ、タートザッヘ様の前でフェイはそう言い切った。


「何? どうして?」


 理由が解らず首を傾げる私にフェイは息を吐きながら答える。


「声、言葉ですよ。

 マリカが光の精霊達に命令したからです。自分達を照らし出せと」

「え? うそ、何で? 私、そんなこと言ってないよ!」

「いいえ、言いましたよ。唄ったでしょう?

 私達を導き、照らし出しす。と」

「へ?」


 フェイの言葉にお父様達や皇王陛下達も首を傾げている。

 なんとなく、解る、と言った顔付きなのはソレルティア様だけだ。


 言われて思い出してみる。

 あの歌は恋歌で、一人で孤独だった者が、愛する人と出会う事で世界の輝きを知る、という歌だ。

 貴方と出会った事で、周囲が輝く、二人を導き、光が照らし出す。

 という歌詞は確かにあるけれど…そんなのはあっちの歌謡曲なら割とよくある歌詞で…。

 

「でも、あれは、只の歌詞で!

 別に精霊達に命令した訳じゃ…」

「前に言ったことがあったかと思うのですが…」


 完全に焦ってろくろを回す私にフェイは講義のように言い聞かせる。



「精霊というのは同じ世界、同じ場所に間違いなく存在するのですが僅かに別の法則で、普通の人間には見えないし、触ることも呼びかける事もできません。

 術士はその法則に杖の力を借りて介入し、力を借りる訳です。

 ただ、杖が無くても正しい発音、正しい声で精霊達に呼びかければ声が届く事もあり、精霊達は声が聞こえれば多くは力を貸してくれます」

「あ、うん。それは知ってる」

「退屈しきっているので。頼まれたり声をかけられたりすると嬉しいのでしょう。

 正しく願いが届けば割と気軽に力を貸してくれるのですよ」


 精霊に呼びかける正しい発音が解っていれば杖無しでも基本的な術は使えるのだ。

 以前、フェイとソレルティア様はそれで杖無し決闘してた。


「マリカは『精霊の貴人エルトリンデ

 そこに生きているだけで話すだけで、精霊と同じ世界に通じる力、言葉をもっているのでしょう。

 だから、言葉で命じるだけで精霊達は力を貸しにやってくるんですよ」

「じゃあ、本当は踊らなくても精霊の力を借りたり、繋げたりすることができるのか?」


 これは、お父様の質問。

 フェイはおそらくと頷いた。


「踊りは言葉が使えない人間が精霊に意思を伝える手段です。

 現に各国の『聖なる乙女』はマリカ程では無くても精霊神に力を捧げ、意思を伝えたりすることができた。

 マリカと…おそらくリオンは呪文でなくても、言葉で命じれば。

 もしかしたら言葉を使わなくても念じれば。精霊達に意思を伝え命令する事ができるのではないでしょうか?」


「…アルフィリーガ」

「解った。…来い。光の精霊達」


 リオンがお父様の言葉を受けて頷き、手を差し伸べると


「うわっ!」

 

 周囲に小さな光の粒が集まってきた。

 くるくるふわふわと周囲を踊っている様子は楽し気にさえ見える。

 私も、みんなもビックリ目だけど何よりリオンが唖然としている。


「こんなに簡単に集まって来るのか?」

「…今まで精霊の力を使った事は無かったのか?」

「精霊を守る『精霊の獣アルフィリーガ』が戦いや他の事に精霊の力を使うなんてできるわけないだろ?」


 私も日常で精霊の力を使おうとしたことなんて殆どないから解らなかった。

 つまり、私やリオンは翻訳機無しで外国人と話ができる。

 そして例えば唄や劇で「助けて!」とか本気でなく口にしたとしても、精霊達は助けに行かなきゃ、と思って助けに来てくれる、という訳だ。

 ありがたいけど、ちょっと迷惑な話。


「だって今までは、そんなこと…。

 あ、精霊の力が封じられていたから…」

「ええ。本格的にできるようになったのは最近、と見るべきですね。

 ですから、今後は本当に注意が必要です」


 顔を見合わせる私達に


「精霊の力が封じられていた、というのはどういう事だ?」


 話を聞いていた皇王陛下が呼びかける。

 まずっ!


精霊の獣アルフィリーガ』と『精霊の貴人エルトリンデ』については知らせられても、流石に大聖都で大神官を殺しましたとか、その時の騒動で封じていた精霊の力が解放されたました、とか言えないよ。


「こいつらはまだ子どもで在るが故に、魔王城の守護精霊は力を封じる術をかけていた、と聞いています。

 大きすぎる力は身体に負担がかかるので。

 ただ、プラーミァで『精霊神』を開放した時に解けたようですね。

 もしくは神と対した時か…。

 とにかく前に比べると両方とも力が段違いなのです」

「成程。だから大聖都が急に手を伸ばして来たのか…」


 お父様、ナイスフォロー。

 新年の大聖都での騒動を話すのに比べたら、そっちの方がまだマシだ。




「という事は今後は本当に発言や行動に気を付けなければなりませんよ。

 マリカ。

 貴女がもし、何の気なしに口にした言葉を精霊は聞きつけてやってくるかもしれませんからね」

「はい。気を付けます…」


 本当に気を付けないと。

 歌を歌う時は歌詞に気を付けて、事前に来ないでってダンスの時みたいにお祈りしておくべきか。

 大丈夫だから来ないで、って言えばきっと来ないでくれる。


「まあ、起きてしまったことはどうしようもない。

 大貴族達も『聖なる乙女』の奇跡を目の当たりにできて、マリカの価値に納得したようだからな」

「アレクのお披露目も無事にできましたし、その点は良かったです」


 私に注目が集まったことで、結果的にアレクへの目視が緩まったことはまあ、良かったと思おう。

 唄そのものは、大喜びして貰えたし大流行しそうだという。

 今までとは、まったく違う歌謡曲は楽師、詩人たちにけっこうなインスピレーションを与えたみたいだ。

 歌込みでアレクが演奏してたら、下手したら今の私並の注目度で大貴族達に目を付けられていたかもしれない。

 良い腕の楽師だ、と褒められていた今回位で丁度いい。


「何が良かった、ですか?

 結局『聖なる乙女』の評判と価値が上がっただけですよ。

 せっかく過剰な期待からもう少しの時間は目を反らしておけるかと思ったのに」

「それはそうですけれど、でも、どうせ夏の戦の後で『精霊神』様を復活させてしまったら後戻りはできないんです。

 なら、先に知れて皇王陛下が釘を刺して下さったことで、大貴族達を牽制できたとプラスに思うしかありません」


 お母様は眉を上げるけれど、私は逆に覚悟が決まった。

 大聖都の神官長では無いけれど、私が『聖なる乙女』なのはもう変えられないのなら、いっそ開き直った方がいい。

 

「そうだな。

 これだけはっきりと価値を示した以上、大貴族達もタシュケント伯爵家のようにマリカを誘拐し、下手な言い訳で手に入れようとはできなくなった筈だ」


 うん。

 私を無理やり手籠めにすれば『乙女』じゃなくなり大聖都とアルケディウスを敵に回す。

 自由意思で協力させないと『食』の知識も、音楽も、化粧品その他の知識も手に入らない。


「だが、油断はするなよ。マリカ」

 

 少し安心していた私にお祖父様は釘を刺す。


「其方の身が安全であるという事では無い。

 むしろ危険度は増した。

 其方を危険な目にワザと合わせて、助けようとする。

 男性を差し向けて誘惑しようとする。

 後は完全に知識だけを引き出す為に監禁、拷問しようとする。

 などは十分に考えられる」

「はい」

「其方は子どもでまだ不老不死を持っていない。

 誘拐して思い通りにならぬとなれば、全てを度外視して命を奪う事さえありうるのだからな」


 知識や能力は私を守ってくれる。

 でも、そんなのが通用しない相手を前にすれば、私はただの子どもだということは知っている。

 例え精霊達が守ってくれても、助けてくれたとしても。

 まだ力が足りないと身に染みて知っている。


「ソレルティア。

 城内の警備態勢を十分に強化しろ。フェイは社交シーズン中、マリカの周囲に付け。

 必要なら転移術を使う事を許可する」

「かしこまりました」「解りました」

「ティラトリーツェ。

 マリカのスケジュールは入念にチェックして、母親である其方が管理するように。

 怪しい者を近寄らせるな」

「承知しております」

「ライオット。

 マリカがゲシュマック商会の出であることは知れている。

 ガルフと連携し、ゲシュマック商会が弱点と思われぬようにしろ。

 店の警備も厳重にするように」

「はい。父上」

「リオン。夏の戦は必ず勝てよ。

 さもなくばアーヴェントルクへの視察は考え直さなければならなくなる」

「必ずや」


 皇王陛下は次々に指示を出すと、最後に私と二人の側近を見た。


「カマラ、ノアール。

 其方達の責任は特に重大だ。全身全霊を賭けてマリカを守れ」

「はい」「わが剣にかけて」


「マリカ」

「はい」

「無茶、無謀な真似はしでかすでないぞ。

 慎重に、何かをする時には十分によく考えて。皆に相談してから行う様に」

「解りました。お祖父様」


 大騒動と共に、アルケディウスの社交シーズンは幕を開けたのだった。

 それぞれの決意と共に。

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