ちょっと時間的に後ろに戻るけれど、私達が大聖都から戻って来た夜。
魔王城では細やかな、でも賑やかなパーティが開催されていた。
ガルフと一緒に大聖都に行ったアル。
旅行の間に貯まった仕事に追われるガルフから、伝言とお土産を預かって来てくれたミルカも帰って来たからだ。
「こうして、ほぼ全員が魔王城に戻ったのは久しぶりですね」
「うん、なんだか嬉しいな」
パーティ料理作りは女の子達皆+ジョイでやった。
色々な国を巡って新しい野菜や食材が手に入っているので、新メニューを教える意味も込めて、皆で仲良しクッキングだ。
「あの、マリカさま。やさい、あらいました。
あとはなにをすればいいですか?」
「ありがとう、ネアちゃん。
じゃあ、ジョイと一緒にエナの皮をむいてくれると嬉しい。ジョイ。教えてあげてくれる? 火傷に気をつけて」
「りょーかい。マリカ姉。ネアちゃん、こっちこっち。
こうやって、かわをうすくきってね、お湯にぽちゃんてすると……」
「うわー、かわがくるんとした~」
私が大聖都から連れて来た孤児、ネアちゃんは歳が近いジョイやギルと仲良くなったようだ。
勿論、エリセもファミーちゃんも新しい妹として可愛がってくれている。
パータトやエナの実は今、魔王城の森や畑に新鮮なものが採りきれないほど育っているし、グルケも美味しく実っている。
新鮮なオリーブオイルもあるので、今日はラタトゥイユもどきやピストなどの野菜メインで料理を組み立ててみた。
パータトの肉団子スープに焼きたてパン。
メインディッシュはローストチキン。
クッキーにパウンドケーキ、チョコレートも用意した。
アルケディウスの王宮晩餐会にも負けてないと思う。
「それじゃあ、マリカ姉やリオン兄達、みんなが元気に戻って来たことを祝して、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
美味しい料理にガルフが大聖都から仕入れて来てくれた葡萄ジュースに皆、ニコニコだ。
ネアちゃんも
「美味しい?」
「はい。すっごくおいしいです」
嬉しそうに食器を抱えて一生懸命食べている。
「そう、良かった。
お代わりもたくさんあるからいっぱい食べてね」
皆の笑顔が、私にとっては一番の御馳走だったりする。
ああ、幸せだなあ。
「お祭りでねえ~。マリカ姉はとってもキレイだったんだよ~。
真っ白なドレスでね~。刺繍がいっぱい~」
「だな。ふわふわーって、それからキラキラ~って」
「それからびゅわーんって、空に力が飛んでったんだ!」
「! こら、アレク、アーサー、クリス!」
話はいつの間にか食事から礼大祭の舞の話になったらしい。
最前列で演奏してくれていたアレクの話を、随員達と見学していたアーサー、クリスが舌足らずに。
でも感動そのままに補足するので、みんな真剣に聞いている。
「ちょっと、恥ずかしいから止めてって!」
ちょっと、というかかなり恥ずいのだけれど聞いてくれる人はいない。
「あら、私は伺いたいですわ。姫君の舞を見る事ができなかったのですから」
「ティーナ!」
「まあ、見物ではあったよな。
会場全体に光の精霊が飛んで、舞舞台は泡のような艶やかな幕が覆って、そいつがパチン、と弾けると不思議な光の帯が空高く……」
「アルまで。もう、調子に乗らないで!」
「えー。いいじゃない。聞かせてよ。マリカ姉。
私も観たかったのに」
「そんなこと言われたって、光の精霊が飛んだのはともかく、光の帯とかは舞台そのものの仕掛けだから私の舞のせいじゃないし。
力が集まったのだって、あれ、本当は良くない事で……」
「では、マリカ様に、魔王城で舞を舞って頂いてはどうでしょう?
光の帯、などは立たたないかもしれませんが、美しい衣装で舞われるマリカ様の姿位は皆様もご覧になりたいですよね?」
「エルフィリーネ!」
「見たい!」「マリカ姉の踊り見たい!」
聞いてくれる精霊もいないっぽい。
エルフィリーネの促しになんだか、皆、大盛り上がりだ。
「マリカ様。お衣装を持って帰ってこられましたでしょう?」
「げ、なんで知ってるの?」
「城の者達は皆、マリカ様のお外での活躍を見る事ができないのです。
勿論、私も。
もし叶うならその欠片を賜りたい、というのは贅沢でございましょうか?」
衣装は確かにもってきたけれど、これは『星の護り』を与えてくれた『星』に感謝の気持ちを込めてと思ったからで、そんなに大々的にやるつもりは……。
「踊るなら、リュート弾くよ。マリカ姉」
「僕達もできれば最初から見たいですね」
「ああ、力を吸い取られるとかそう言うの無しで、じっくりとマリカの舞をみてみたいものだが」
「フェイ……リオンまで」
こうなると孤立無援。
味方は誰もいない。
諦めるしかないな。元々、やるつもりではあったし。
「ねえ、エルフィリーネ。
舞の力と思いってお城の中じゃないと『星』に届かないかな?」
「そんなことはありません。
島の中なら『星』はご覧になって下さると思います。
ただ、私も拝見させて頂きたいので、あまり城から離れないで欲しいですが」
城下町にはお父様がいて、明日はお母様が多分双子ちゃんをつれておいでになる。
これからも踊る機会があるというのなら、見て頂いてアドバイスは賜りたい。
「解った。
じゃあ、明日の昼過ぎに、転移門の横の小広場で踊ってあげる」
「やったああ!」
弾けるような歓声が大広間全体に響く。
「お願いしておいてなんですがいいんですか?」
「元々、踊るつもりで衣装はもって来てたの。
敵である『神』に贈るよりも本当は、私達をいつも助けて見守ってくれる『星』に贈りたいなあって」
ティーナが心配するように声をかけてくれるけれど、私は首を横に振った。
私の付け焼刃の舞が、お礼になったり、皆が喜んでくれるというのならやってもいいと思っている。
他の人達は褒めてくれているけれど、技術的には色々まだまだし、表現力とかまで意識が及ばない。
『精霊神』や『神』にとっては多分、私の『舞』そのものはあんまり意味や興味が無いのだと思うし。
「リオン達もゆっくり気楽に見てね。
大聖都の時はそれどころじゃなかったでしょ?」
「ああ、楽しみにしてる。ライオにも言っとくから」
私はなるべく明るく、元気にリオンに声をかける。
リオンも表面明るく答えてくれる。
大聖都以降、妙に言葉が少ないリオンは、お父様が魔王城に来ると言ったあたりから何かを考え込んでいる様子だ。
あ、魔王城に戻って来たんだから、私の留守中に何があったか聞かないと……。
と思ったのだけれど。
「では、今日は早めに床に入り、ゆっくりと身体を休めて下さいませ。
なんだかんだでお疲れの御様子ですよ」
エルフィリーネが心配そうに声をかけてくれたし、それ以上の話はできないかった。
今のこの場は人が多すぎる。
「食後の片づけはお任せ下さいませ。
お風呂の用意もできております」
「ありがとう。エルフィリーネ。うん、そうさせて貰う」
「お風呂入るの? なら、一緒に入ろ」
「エリセ達はネアちゃんの手伝いをしてあげて。初めてのお風呂で使い方解らないだろうから」
「解ったあ。でもマリカ姉、お風呂で倒れちゃダメだよ!」
「もう大丈夫だから!」
ハハハハハ。
明るい笑い声と共に食事を終え、ゆっくりとお風呂に入り、私は自分の寝台でぐっすりと眠りについた
どんな豪華な部屋も叶いはしない。
私にとってここでの休息が一番のバカンスだ。
今迄の緊張や疲れもあって、爆睡した私は気付かないかった。
夜中に部屋を、城をそっと出たリオン達のことも。
鍵をかけた部屋の中に入り込み、私に『処置』を施して行ったエルフィリーネのことも。
それを見つめる精霊獣達のことも……。
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