【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 戦士の帰還

公開日時: 2023年5月8日(月) 09:09
文字数:2,235

 帰国の晩餐会を終えた私達は、その足で魔王城に戻って来た。

 夜遅くはあるけれど、一刻も早く、皆の顔が見たかった、というのもある。


「ただいま! みんな!」


 一応、今日戻る、ということは先に仕事を終えたアルに伝えてあったので思った通り、皆待っていてくれたようだ。


「おかえりなさい。マリカ姉!」「おかえり」「まってたよ~」


 転移魔方陣から出ると、子ども達が飛びついて出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。マリカ様」

「ただいま、ティーナ。リグも元気にしてた?」

「ねーね、りーりー」

「お話、随分できるようになってきたんだね。うん、ねえねだよ。

 ただいま、リグ」


 ティーナと一緒に駆け寄って来るリグを抱っこして、私は頬ずりする。一月も会えなかったのにちゃんと覚えていてくれたなんて、頭がいいなあ。


「ねえ、マリカ姉。あの人だあれ?」


 私が、子ども達との再会を堪能している後ろで、息も無く立ち尽くしている人がいる。

夜闇に白く浮かび上がる白亜の城。

 その城を見上げ、落涙しているのは。


「ユン、じゃない……クラージュさん。

 リオンの先生みたいな、大事な人だよ」


 彼にとっては五百年ぶり。死の間際まで焦がれ、求めた帰国と言う事になる。



「おかえりなさいませ。マリカ様、アルフィリーガ。

 そして、おかえりなさい。クラージュ」

「エルフィリーネ」


 子ども達の出迎えの後ろから、ゆっくりと表れ優雅なお辞儀をして見せる魔王城の守護精霊にクラージュさんは、スッと膝をついた。


「……麗しのエルフィリーネ。また、お会いできる日が来ようとは、夢のようです。

 クラージュ。ただいま戻りました」

「長旅、本当にお疲れ様でした」

「いえ、騎士団長の身でありながら女王陛下を守りきれず、エルトゥリアを滅亡に追いやった活き恥さらしの身。本来なら、星と貴女に合せる顔はありません。

しかし、こうして戻って来たからには今度こそマリカ様と新しいエルトゥリアを守る為に命を捧げたいと思っています」

「星も、貴方が苦しみながらも自らに課せられた役割を果たした事をご存知です。

 ええ、頼りにしています。これからもマリカ様や、アルフィリーガ。

 この国と精霊達を、よろしくお願いします」

「『星』と『精霊』とわが命にかけて」


 彼の誓いは真摯で、美しく、見ているだけでこちらの胸が締め付けられる様だ。

 本当に本当に、苦しみながら、遠い異国で、この日が来るのを彼はきっと待ち続けていたのだろう。

 彼の思いを受けとめるにふさわしい言葉を探したけれど見つけられない。


「改めて、おかえりなさい。クラージュさん」


 結局、陳腐でありふれた言葉をかけるしかなかったのだけ。

 でも彼は震える声で眦に雫をいっぱいに貯めながら


「はい。ようやく、戻ってくることができました。

 マリカ様のおかげです」


 そう微笑んでくれた。

 良かった。心からそう思う。


「とりあえず、今日はもう遅いですし、話は後にしましょう。

 エルフィリーネ。クラージュさんのお部屋は使える?」

「はい。勿論、昔のままにございます」

「ゆっくりお風呂に入って、お部屋で休んで下さい。積もる話は後にしましょう」

「ありがとうございます。お言葉に甘えます」

「リオン、お願いしていい」

「ああ。先生」

「ありがとう。アルフィリーガ」


 リオンはクラージュさんを連れて先に城へと戻って行った。


「皆も、今日は遅いから寝て。話は明日ゆっくりするから」

「皆様、マリカ様の言う事を聞いて、今日は戻りましょう」

「うん」「わかった」「また明日ね」


 気を利かせて子ども達を促してくれたティーナを見送ると、私は振り向いた。

 そこにはセリーナやノアールと一緒に佇むカマラがいる。

 なんだか、酷く思いつめたような顔つきだ。

 

「カマラは城下町へ。ノアール、お願いしてもいいですか?」

「かしこまりました」

「あ、あの! マリカ様!」

「言いたい事は、なんとなく解っています。

 でも、今日はもう遅いですし、対処方法を考えても実行できません。

 カマラも長旅で疲れているでしょう? ゆっくり一晩考えて明日、相談しましょう」

「…………解りました」


 言いたい事を呑み込んで、カマラは一礼、城下町の宿に向かってくれた。

 多分、エリセとティーナが整えてくれている筈だ。

 カマラが騎士試験を前に色々、考えている事、悩んでいる事は知っている。

 明日、ちゃんと向き合って話をしようと思う。

 私もカマラを助けたいし、提案してみたい事もあるし。


 私達は二人を見送った後、魔王城に戻った。

 二匹の精霊獣様達も一緒。


 懐かしい魔王城は、守護精霊が管理しているせいか、埃や汚れ一つ無く、美しいままだ。

 なんだかホッとする。


「マリカ様も、今日はゆっくり休んで下さいませ」

「うん、ありがとう」

「あ、その前に、フェイ。頼みがあるんだけど」

「? 何です?」


 フェイにひそひそっ、と頼みごとをしてから、私は部屋に戻った。

 セリーナと一緒にクラージュさん達が使い終わったのを確かめて、お風呂に入る。

 暖かいお湯につかると疲れが溶けていくようだ。

 魔王城のお風呂は本当に最高。


 身体が温まって、良い気分になると眠くなるのは人体の不思議。

 私はベッドまでなんとか辿り着いたけど、頭の中がドロドロ。


 やらなくてはならないことはたくさんある。

 考えなくてはならない事も。

 けれど、今はどうにも身体と頭が働かない。

 いつものパターンだ、と蕩けた思考の中、思う。


 このまま寝てしまったら、きっとまた多分、大事な事を忘れてしまう。


 でも、今回は手を打っておいたから、多分、大丈夫……。


 そうして、私は甘く優しい眠りに落ちて行った。


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