兄王様にプラーミァの『精霊神』アーレリオス様からの予言をお知らせしてから三日。
「お忙しい中お時間を取って頂き、ありがとうございました」
プラーミァ国王ベフェルティルング様の呼びかけで、臨時に国王会議が実施されることになった。通信鏡経由のいわばオンライン会議だけれども。
現在、画像も送れる最高級通信鏡は世界に八台。
全ての鏡が製作者であるアルケディウスと繋がる形になっているので、アルケディウスに繋がった通信鏡を向かい合わせるような形で会話をする。
ぐるりと円形に向き合わされた通信鏡の真ん中で、この会議の為にアルケディウスに戻った私が頭を下げる。
異世界オンライン会議。結構シュールだ。
『いや、『精霊神』様から、直々の予言が下されたとあれば詮方あるまい』
そう真っ先に言って下さったのはアーヴェントルクの皇帝陛下。側には多分第一皇子ヴェートリッヒ様が付いている。
「左様。緊急に諸国王全員で話し合わねばならないことであるのなら遠慮など無用です」
頷くヒンメルヴェルエクトの大公様。
現在の七王国の王様を年齢で分けると、ぶっちぎりでアルケディウスの皇王陛下が最年長。次がアーヴェントルクのザビドトゥーリス皇帝陛下。ほぼ同じ年齢でヒンメルヴェルエクトのオーティリヒト大公様が並ぶ。
プラーミァの兄王様は、以前は最年少だったけれど、今は中堅。
エルディランドの大王スーダイ様、フリュッスカイトの大公メルクーリオ様、シュトルムスルフトの女王アマーリエ様は共に二年前に即位したので若手になるだろう。
だから、年長のお二人の言葉に今は素直に頷いている。
「国王会議の慣習からは外れるが、まずは孫、マリカの話を聞いて頂きたい。
質問、意見はその後に」
議長の様な形で皇王陛下が、私の隣に立って国王様達に声をかけて下さった。
現時点で『予言』の内容について知っているのは皇王陛下と兄王様だけ。
因みにお二人にも全部の内容は話していない。
私はともかく、アルについて国王様達に知らせると、事が大きくなって一商人であるアルに迷惑がかかるから保留だ。
「今回の話は、あくまでプラーミァの『精霊神』様からの予言を私がお預かりしている形でございます。どのような経過を経て、いつそれが起きるかはまだ私にも解りません」
『もったいつけずに早く言ってくれ。マリカ皇女。一体何が起きるというのだ?』
焦りを見せる国王陛下様達に頷き、私は告げる。
『精霊神』様の予言を。
「はい。そう、遠くない将来『神』によって人々に授けられた不老不死。それが解除され、人類に成長と死が戻ってくるだろう。
それが『精霊神』様より頂いた予言にございます」
一気に、議場が凍り付いた。
仕方ない。私達には今一つ実感が湧かないけれど、五百年以上の間、当たり前のようにあった『不老不死』
病にならず、怪我もしない身体が失われるとなれば、それは恐怖でしかないだろう。
「何故……そのような事に?」
「『神』や『精霊神』の御心は人の身では理解することが叶いません。
ですが大聖都の大神官として『神』の批判を語るのは本来であれば、許されぬことではございますが、神殿の中に入ったからこそ、解ることもございますので、一つの推察を語ることをどうかお許し下さい」
震えるようなオーティリヒト様の言葉に、私は目を伏せ、頭を下げた。
今、語るのはあくまで推察、としておく。
実際はかなり真実に近い所まで解っているけれど。
「『神』は魔王を斃した勇者アルフィリーガの肉体を使い、奇跡を起こし世界の人々に不老不死をお与えになりました。
ですが、それは必ずしも我々、人間の為、ではなかったようなのです」
『どういうことだ?』
「不老不死になることで、人々はその代償として『神』に力を捧げることになります。その力を集めることが『神』の目的であらせられた、と」
『それは、姫君が舞で捧げる力とは別物か?』
「別物です。魔術師達の言葉で『気力』と呼ぶそうですが、人のやる気、生きる気力、新しいモノを生み出そうとする想像力。それらを体内に在る『神の欠片』不老不死を与える見えないナニカが吸い取って『神』にお送りしていたようです。
『神』は『気力』を集め、貯めて何かをされようとしている。その力が必要量に達した時、人々から不老不死を与えていた欠片を回収し、目的を果たす為に動かれる。
今の時点では仮説にすぎませんが、そのような事起きていたのでは、そしてこれから起きるのではないかと考えられています」
静まり返った空間を若い声が割る。
『では『神』はやはり、我々の為に不老不死を与えたのではなく、ご自分の目的の為に我々の肉体の成長を留めたのか……』
『やはり、とはどういう意味だ? メルクーリオ大公閣下』
なんだか、得心がいったという顔で頷くメルクーリオ様とは正反対に、訳が分からないとスーダイ様は首を傾げる。
今まで信じていた『神』が実は目的の為に自分達を利用していたなんて、そりゃあ信じたくないだろうけれど。
『我が国には、実は姫君にお与え頂くよりも早く『精霊神』の分身、精霊獣が『精霊神』より授けられ、選ばれた公家の者だけですが会話をすることが可能だったのです。
詳しい事情を教えて下さった訳ではありませんが『神』により『精霊神』様が封じられていたこと。不老不死になると気力を奪われ『精霊』の力が基本的に使えなくなることは教えて頂いておりました故』
『何故、それをもっと早く教えて下さらなかったのだ!』
『教えた所で『精霊神』が封じられた状況下で我々ができる事はございませんでしたから。
それに下手に伝えて『神』に逆上されましたら、それこそ、体内に『神』の欠片を持つ我々は何をされるか解らない。
死なせないことができるという事は、死なせることもできる。対抗策もないまま下手に動くことはできなかったと、ご理解いただけますか?』
『そ、それは……』
『要するに我々は体のいい家畜だったのですよ。殺さずいつまでも力を搾取する為の』
冷静かつ、文句のつけようのないメルクーリオ様の発言に、スーダイ様は押し黙る。
「『精霊神』様は人々を、守り導き、育てることを使命とされておられますが、『神』は私達に不老不死をお与えになった後は、見守ることに専念されておられます。おそらく最初から、性質が違うのでしょう」
『五百年の不老不死の間、生きる気力や力が減退して文明が滞っていたのはやる気を吸い取られていたから?』
「その可能性は高いと思います。『食』を取ることで身体の『気力』が補充され人は活動的に生きられるのですが、『食』を摂取しないと『気力』の補充がなされないのでやる気が吸い取られたまま、戻らず、新しいものが生まれなかったということは十分に在り得るかと」
『なんと……いうことだ』
皆さん、それぞれに俯いたり、驚愕の表情を浮かべたり。
通信鏡越しでも動揺が伝わってくる。
「それが結果として、侵略戦争や大きな争いなどから人々を遠ざけていた面はあると思います。何より、死という絶対恐怖から人々を守って下さった点において『神』の功績はいうまでもありません」
一応、軽く『神』を弁護する。
これ以上の細かい話は、後でツッコまれてからでいいだろう。
「上位存在の真意は計り知れません。我々、人間が論じて、理解できることでも、どうこうできることでもないと存じます。
何より『神』の非難は今することではございません」
私は大神官っぽく膝を、付き祈りを捧げるフリをした。
そして、敬虔な『神』の信徒の顔をして告げる。
「なので、国王様達におかれましては、一端、その点は置いて頂けますと幸いです。
今、考えるべきことはこの世界から、不老不死が失われたらどうなるか。そしてどうしたらいいか、だと思いますから」
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