木の一月、最初の安息日。
聞いていた事とはいえ、びっくり、ドッキリした。
フェイが引率した転移魔方陣から本当にお三方が出てきた時には。
アルケディウス皇王陛下、シュヴェールバッフェ様と文官長タートザッヘ様、そしてライオット皇子。
「ようこそいらっしゃいました。皇王陛下。文官長様。
魔王城の島へ。
心から歓迎申し上げます」
城と外を分ける橋の前に立っていた私が跪くと、
「膝を付く必要は無い。
むしろ我らの方が招かれざる客。押しかけてすまなかった」
皇王陛下は優しく首を振って、私を立たせて下さった。
そして、逆に私の背後に立つ守護精霊に向けて膝を折る。
「お初にお目にかかる。魔王城。いや、精霊国の守護精霊よ。
私はアルケディウスの皇王 シュヴェールヴァッフェ。
『精霊の貴人』に恩を受け『星』に帰依する者」
私はまだ紹介していないけれど、まあ、こんな絶世の美女が私の後ろに立っていれば精霊だって解るか。
皇王陛下に従う様にタートザッヘ様も、跪く。
彼らに頷くように優雅に微笑んで、魔王城の守護精霊 エルフィリーネは腰をかがめて見せた。
「はじめまして。精霊神の末裔にして、偉大なる皇国の国王陛下。
私はこの城の守護精霊。
主よりエルフィリーネの名を賜る者。
せっかくの来客をおもてなしもできぬ無礼をどうかお許し下さいませ」
「いや。
この国に足を踏み入れるを許された事。
そして、真実の精霊の顔を拝せたこと以上の喜びは無い。
息子を、そして孫を今後とも宜しくお願いする」
「こちらこそ。我が主。マリカ様を宜しくお願いいたします」
私の保護者同士の会談はそんな会話で、短く終った。
「では、皇王陛下。
城下の街へ、失礼ですが足をお運び頂けますか?
来客用の館がありますので」
私とリオンでお三方を誘導する。
今日は申し訳ないけれど、子ども達にはお城でお留守番。
アーサー、アレク、クリスは既に、向こうに行って貰っているし。
一度だけ、城を見上げた皇王陛下は素直に促しに従って下さった。
魔王城から歩いて十分程度の城下町。
でも、フェイが転移術を使ってくれたので、直ぐに辿り着いた。
城下町は、ほぼ廃墟。
「憧れの精霊国にこのような形で足を踏み入れるとはな」
「かつては、本当に人々が幸せに生きる光あふれた国でした。父上…」
「…ああ、解る」
少し寂しそうに周囲を見回す皇王陛下は促されて入った館に目を見開く。
「ほほう、ここは随分と整っておるのだな」
魔王城の部屋をそのまま移してあるのでここと隣の家は、そう見栄え悪くない筈。
後は完璧廃墟だけど。
でも、しっかりとした石造りでてきていたから、建物の容は残ってるし。
これでも二年かけて、最低限の『掃除』はしたんだよ。
中はそんなに広くは無いのだけれど2LDKくらいはあるので、女性館から来てもらった私の側近とソレルティア様。
ゲシュマック商会の首脳部三人とアル。
あと、魔王城から今度アルケディウスで働く予定のアーサー、アレク、クリスも控えて貰っている。
「ここは、来客の為に整えられた館なのです。
魔王城は不老不死者は入れないのでガルフやゲシュマック商会の人間が主に。
時々、お父様やお母様もご利用になっておられます」
「ライオットはそんなに頻繁に来ているのか?」
「二年ほどは殆ど足を踏み入れませんでしたが、マリカ達を外に出してからは…まあ、時々」
「この島で、ゲシュマック商会の基礎実験をしてたんです。小麦を栽培したり、あとカエラ糖を採取したりとか…」
「まったく、其方らは私に隠れて本当に何をしているのだ」
「申しわけございません」
肩を竦める皇王陛下に頭を下げるのはガルフだ。
一応、ガルフも私達の育ての親ってことになってるからね。
他のゲシュマック商会の面々も、恐縮した様子だけれど、皇王陛下は違う違うと手を振って見せる。
「お前達に言っているのではない。
いつも心配しておるのに我らを信用せず、隠し事ばかりの息子と孫に言っておるのだ」
「「すみません」」
きろり、と優しくも鋭い目で睨まれて。
私とお父様の謝罪がユニゾンする。
嘘つきで魔王な孫としては謝罪の言葉しか言えない。
実際には孫でもないのだし。
「まあ、良い。
言い出せなかった事情も分からんでもない。
故に、今度こそ話せ。其方らの抱える事情を全て、だ」
「はい」
…実際の所、そう言って頂いても全てはまだ、語れない。
異世界転生の話とか、他にも色々、言えない事はある。
信用していないのか、と言われると信用してない訳じゃないのだけれど、やっぱり言えない。
になる。
心の中でごめんなさい。だ。
でも、できる限りの事は話す。
本当に信じていない訳ではないから。
私は、顔を上げて皇王陛下に向き合ったのだった
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