【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国の大祭 二日目 皇国を変える者

公開日時: 2021年4月22日(木) 07:37
更新日時: 2021年5月5日(水) 15:05
文字数:4,230

 大祭二日目の夜。


 ガルフの館。 

 私達は、集まり意見交換検討会に入っていた。

 議題は今後の傾向と対策。


 検討会の参加者は、私、リオン、フェイ、アル。

 ガルフ、リードさん、ラールさん。



「本当は、日に日に増えて来る移動商人達との商取引について、検討したかったのですよ」


 リードさんが本当に、ため息をつきながら恨めしそうに言うけれど、こればっかりは私のせいではない。

「今年のアルケディウスへの来客数は、敗戦とは思えない程であるそうです。

 ガルフの店の人気に恩恵を受けるように、他店の売り上げも上がっているとか。

 昨日の飲み物販売の後、中央広場でのカップの売り上げが倍になったという話もあります。

 大祭が終われば、各国の商人達が本格的に交渉にやってくるでしょう。

 その前に細かい打ち合わせをしたかったのですが…」


「そうマリカを責めてやるな。

 今回の件については責任は俺達にある」

「まったく、あの方は相手の都合とか、周囲のこととかまったく考えないのですから」

「皇子様、ティラトリーツェ様~~」


 甘えるように縋りつく私をティラ様は優しく抱き留めてぽんぽんと肩を叩いて下さる。

 本当にお母さんのようだ。


 オブザーバー参加のお二人。

 アルケディウス皇王家。

 第三皇子ライオット様とその奥方、第三皇子妃ティラトリーツェ様。

 さっきまで宮殿の中で、護衛騎士と側仕えに囲まれる本物の皇族を見て来ただけに、共も側仕えも置かず平民の店にやってくるこのお二人を見ていると本当に皇族か疑問に思えるけれどその疑問を口にしている暇は、今は無い。

 ついでにホッとする。

 あの蛇のような眼差しの第一皇子妃に比べたら、いや、比べるのも失礼だけれども、本当に和む。



 リオンとフェイとアルが側にいてくれて、ガルフもリードさんもラールさんもいる。

 リードさんに怒られても、それさえもうれしい。


 ああ、本当に戻って来れて良かった。


「でも、怖い目に合せてごめんなさいね。

 今回のあの方の暴走を後押ししてしまったのは多分、私です」


 すりすり、ごろごろと猫の様に甘える私の背中を撫でながら、ため息と共にティラ様、いやティラトリーツェ様は話し始める。

 今回の事件の裏側を。



「昨夜…ですね。皇王妃様主催の茶会がありました。

 大祭の開始の儀式を終えた第一皇子妃の労いの宴、ではあったのですが、話題の中心がその、私になってしまったの…。

 正確に言うと、私の髪と、香りとパウンドケーキ、だったのですけれどね」


『今日も、ティラトリーツェ様の御髪は艶やかでお美しいですわ。

 どのようにしてお手入れをされていらっしゃいますの?』

『歩くたびにふんわりと優しい香りがするのはどのような秘密がありますの?』


 不老不死で暇な貴族女性達の興味の対象は自分の美容。

 とティラトリーツェ様は、以前もおっしゃっていた。

 囲まれながらもティラトリーツェ様は、その辺はやんわりと濁していたという。

 試作品を貰った。詳しい作り方は私もまだ良く知らない。近いうちに馴染みの商会から売り出されそうだ。

 などなど。


 今回は敗戦、ということもあって第一皇子妃は全ての行事を取り仕切らなければならないが、肩身の狭い所もあるらしい。

 そんな中、労いの宴の話題をティラトリーツェ様が奪って行った。

 取り巻きに宥められながらも、イラついていたらしい第一皇子妃の怒りはやがてMAXになる。

 皇王妃様の一言によって。


『終祭の宴を楽しみにしていますよ。ティラトリーツェ、アドラクィーレ』


 料理の指揮をするのは自分なのに!

 

 で、プッツン切れた第一皇子妃様は、今までは下層の店とバカにしていたガルフの店に手を伸ばす。

 折しも下町は大祭。

 大人気のガルフの店の噂は、一部の貴族まで届いていたという。

 さらには開戦の宴の時、パウンドケーキを持ち込んで盛り付けたライオット家の料理人さんが、これでもか、となじみの第一皇子妃付き料理人に自慢をしていた。


 ガルフの店と、ケーキの作り方を教えてくれた子どもの料理人、を。

 あの人、自腹で店に食べに来てるかならなあ。



「子どもであれば連れ去るも手に入れるも容易い。

 そう思ったのだろうな。お前達が側にいて手を打たなければ、そしてガルフを同行させねば、本当にマリカは奪われていたかもしれん」

「とんでもない奴だ、まったく。

 ライオ。皇族ってみんなそうなのか?」

「父上と義母上はそこまでではない、と思っているが…兄上二人はどっこいだ。

 奥方もまあ、どっちもどっち。悪いな…」

「今回はたまたま、第一皇子妃が指揮していたから、アドラクィーレ様が手を出してきましたけれど、秋の戦は第二皇子主催ですから第二皇子妃メリーディエーラ様が同じことをしてもまったく不思議に思いませんわ」


 私とフェイ、ガルフが第一皇子妃のところですったもんだしていた間、リオンは皇子と連絡を取り、ティラトリーツェ様に知らせ、私達を取り返す為に手を尽くしてくれていたらしい。

 ありがたやありがたや。


「あと少し、お前たちが戻ってくるのが遅かったら、乗り込もうと話していたところだった。

 無事で何よりだ」

「本当に、よくあの方から逃れられた事。一体、どんな手を使ったの?」


 言われて私は、戻ってから実験がてらに作ったピアンのシャーベットを振舞う。

 なるべく料理人さんのコンポートを再現しての二色シャーベット。オレンジ風味。

 ミントの葉のせ。


 お二人にとってもどうやら初めての氷菓だったらしい。

 驚くように手を取ると一口。 


「ほお、これは…」「とても美味しいわ。こんなの初めて…」


 解りやすい賛辞をくれた。


「果物を凍らせると、このように素晴らしいお菓子になるとはな。

 爽やかで、それでいてしっかりとした甘さが口の中に広がる。この季節にはぴったりの味だ」

「術を料理に使うなど、普通では有りえぬ話だけれど、これほどの美味を作る為なら納得です。成程、あの方も満足するでしょう。

 暑さに苦労するプラーミァの皆にも食べさせてあげたいくらい」


「王宮の晩餐会にお出ししても、大丈夫でしょうか?」

「問題あるまい。皆、喜ぶだろう」

「パウンドケーキ以上の騒ぎになるかもしれなくてよ」


 良かった。改良版も受け入れて貰えそうだ。

 

「明日、第一皇子妃に貸しを作る為に王宮の宴席に手を貸すのは決定で良いでしょう。

 フェイも一緒ですから、無体な真似はされずにすむと思います。

 問題はそこから先、この先、皇子妃が引き続き店やマリカに手を出そうとした場合、どうしたら良いか…」


 とりあえず、言質は取ってあるし、明日はフェイも一緒だ。

 フェイも一緒に抱え込もうと勧誘して来る可能性はあるけれど、なんとか戻ってくることは可能だろう。

 しかし、そこから先…第一皇子妃様の勧誘をどう躱すか…。


「そうね。これだけの美味を知ってしまうと、もっと美味を、と騒いで店に手を出すことは十分にありうるわ」

「正直、俺もこれはやりすぎの部類で美味だと思う…お代わりがあるなら欲しいのだが…」

「ずるいわ。私にもお願い…」


 お二人の器にお代わりをよそいながら私は思う。

 敵は第一皇子妃だけじゃないんだよね。第二皇子妃もやりかねないって言ってたし、他の貴族だって同じこと。

 この間のパウンドケーキは他の貴族からも問い合わせが多かったとの話だし。

 ん? 他の貴族…か。


「皇子、ティラトリーツェ様」

「なんだ?」「なあに?」

 とりあえずお二人に確認しないと。

 情報収集は重要だ。


「店のレシピは貴族方々にも人気、なんですよね?」

「ええ、それはもう。皇王妃様にまでお気に止めて頂くくらい、ですからね」

「食事をなさるの、って皇族の皆さまだけですか?」

「いや、貴族連中も時々する。最近は割とフットワークの軽い下級の者ほどガルフの店を利用することで、食への関心を持っているな」

「以前、皇族の直轄領、ってお話を伺ったことがあるんですが、直轄領ってことは自分の領地をお持ちの貴族の方も多くていらっしゃる?」

「皇国は土地の五割が皇族の直轄領。残りの半分を十八人の大貴族デュークが治めている。今は丁度祭りだからな。

 全員が王都に来ているぞ」

 なんとなく、大貴族って聞こえた。

「貴族の中でも特別な方々なんです?」

「領地持ちの方々はね、それぞれに発言力を持っていらっしゃるわ」

「大貴族の配下連中が普通の貴族、って感じになる」

 

 ああ、なるほど明日の晩餐会、五十人って少ないなあと思ったけれど、各領主と婦人+皇族方々ってことか

 でも丁度いいかも。


「ガルフ。大祭の件が区切りがついたら新店舗を出せないかな?

 難しいなら、四号店を貴族区画に移すとかは…難しい?」

「マリカ様?」

「何を考えているの?」

「ティラトリーツェ様、この間の砂糖の専売兼、早めに文書にして頂く事は可能でしょうか?

 皇子、貴族区画に空き家とかはございませんか?」

「どういう意味だ? 何をしようとしている?」

「だから、何を考えてるの? ちゃんと説明なさい」


「…私を、信じて頂けますか?」

 大きく深呼吸、私はティラトリーツェ様の目を見つめた。


「え?」

「色々ご面倒をおかけしますし、ご迷惑になることもあるかもしれません。

 でも、全力でお二人と、その立場を守りますから」


 森の深い泉のような、澄み切った瞳が私を映している。と思ったと同時

 ピンと優しい指が私の額を弾いた。


「生意気言わないの。貴方に守られる程、私達は甘くも弱くもありません」

 優しく、まるで撫でるように。


「…信じるわ。だから、ちゃんと説明なさい」

「…ありがとうございます」



 周りを見る。

 ティラ様、だけじゃない。

 頼もしく信頼できるヒトがいる。モノは…は少し足りないけれど、カネも情報も十分。


 大丈夫。

 資源は十分に与えられている。現役時代よりはずっと有利な筈。

 全ては敵ではなく味方。

 味方にしてしまえばいいのだ。


 受け身は性に合わない。

 このさいだ。

 この機会に、懸案を纏めて片付けてしまうのがきっと良いと思う。

 

「皇子とティラトリーツェ様に、運用中のレシピ、全て差し上げます。

 ですから、私を雇って下さい。皇国のマネージャーとして」

「えっ?」


 部屋の空気が完全に止まった。

 お二人だけじゃあない。ガルフもリードさんもラールさんも。

 リオンやアル、フェイですら目を丸くしている。

 この世界には多分無い概念。


 でも、私は学んできた。

 クラス言う名の組織を動かすマネジメントを。

 まだまだ未熟だけれども、相手が油断している今ならいける気がする。


 究極総合職、保育士の力を見て頂くとしましょうか。



「ご協力頂きたいんです。

 皇国を変えていくマネジメントに」


 私は、彼等の前に手をかざす。

 決意を込めて。

怖い第一王妃様からなんとか逃れての作戦会議。

逃げるだけじゃなく、今後の立場とついでに原材料確保の為に、攻勢に出ます。


次話からはシリーズ名物、三連作。

初登場第一皇子からの視点、マリカ視点、フェイ(もしくは皇子かティラ様視点)の大祭晩餐会です。


よろしくお願いします。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート