【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 フェイの結婚式 3

公開日時: 2025年1月9日(木) 09:37
文字数:3,739

 結婚式が終わった後は、写真撮影をして、それから披露宴のパーティとなった。

 さっきまで結婚式をしていて大ホールがあっという間にパーティ会場になったのは城の守護精霊エルフィリーネの力だ。相変わらず凄い。


「ウェルカムドリンクをどうぞ。皇王陛下、皇王妃様」

「何故、其方が給仕のまねごとをしておる!」

「いえ、これはまあ、意図してというか。

 私が皇王家に入るきっかけってビールの給仕だったじゃないですか?」


 大神官の衣装を脱いで、パーティ用の可愛らしいサラファンに着替えた私は、主賓ゲストであるお二人にピルスナーを差し出す。


「私が王宮に入ったのがきっかけで、フェイも文官試験を受けて、皇王の魔術師になったという事からも、ちょっと昔に戻ってみました」

「……ここは身内だけだからまあ、いいが他所ではやるなよ」

「はーい。向こうに、大聖都で最近作られて売り出し中の葡萄酒もありますがビールでよろしいですか?」

「最初はやはりエクトール蔵のビールだな。だが白という葡萄酒も辛口で気に入っている。

 料理にも合いそうだ。後で貰おう」

「かしこまりました。食事は乾杯が済んでからお好きなものを自由に取って召し上がって頂けるように用意をしております」


 今回のパーティは立食形式にしてある。

 料理を大きなテーブルに用意して、好きなものを選んで食べる形。

 私が七国を旅していた頃、よく随員達をもてなす為にやった形式を取り入れさせてもらった。


 皇王陛下をお招きするのに、失礼かなあ、とは思うけれど、人数がそんなに多くないアットホームなパーティだし。魔王城の子ども達は基本的な食事マナーは身についているけれど、正式な料理で求められるものは違うし。

 何より料理は最高級品だけれど、給仕する人が少ないから。

 ザーフトラク様やラールさん、ジョイなど厨房担当メンバーにもパーティに参加して欲しいというのが一番の理由かも。

 一般の人たちの結婚お祝いのパーティーは、もっとざっくばらんだしね。


「ほほう。これは楽しいな。好きなものを好きに選んで食べるのか?」

「はい。向こうに食事用のテーブルもありますので。歓談しながら立ち食い、という形でもいいでのすが」

「立ち食い、ですか?」


 面白そうに目を輝かせた皇王陛下と違い、皇王妃様はミュールズさんと微かに顔を見合わせ眉根を上げたけれど。


「この城で貴族の作法などに拘っても仕方のない事ですね」

「皇王妃様」

「特にこの美しい料理の数々を食べ逃すわけにもいきません。

 今日は気にしない事にします。ミュールズ。其方も私の事は気にしなくていいので好みの物を頂きなさい」


 と言って下さった。よかった。ホッと一息。


 実際、今回のメニューはかなり、力が入っていると思う。


 前菜は生ハムメロンに、カナッペにピンチョス色々。

 後は一口サイズよりもう少し小さな手鞠寿司を作ってある。

 スモークサーマン、鶏、卵にイクラ、生ハム、色とりどりでとっても綺麗でまるで宝石箱のようだ。

 汁物はパーティで零れても火傷とかしないようにパータトのビシソワーズとミニラーメン。麺を小さな器に入れておいて、味噌、塩、醬油の好きなスープで味付けをする。

 メインの焼き物はローストビーフに、タルタルソースをつけて食べるエビとサーマンのフライ。ラムチョップ。

 パンもあるし、クリームソースのパスタもある。

 一番力が入っているのはデザート。

 ビュッフェ風になっていて、ミニクレープや、パウンドケーキ、チョコレート、生の南国フルーツを使ったタルト、焼き菓子などがより取りみどりだ。今回は来れらなかったけれどカルネさんが持たせてくれたヨーグルトを使ったミニケーキもある。

 そして勿論、ラールさんとザーフトラク様の力作であるアレも控えているし。


 どんな王家でも食べられない珠玉のメニューだと自負している。

 作ったの私じゃないけど。早く食べたい。

 子ども達の目の色も変わっている。

 これは、パーティ、早く始めてあげないと。


「では、今日の主役の登場です。どうぞ!」


 披露宴の司会進行はクラージュさんがかって出てくれた。

 最初は私がやろうと思ったのだけれど、やりすぎだと怒られた。

 皇女ってめんどくさい。


 でも彼も向こうの世界の結婚式の記憶があるみたいだからね。

 任せて安心だ。


 大ホールの扉が開いて、新郎新婦が入ってくるのはさっきの式と同じなのだけれど、同じ場所なのに雰囲気がまるで違う。

 皆の拍手に迎えられて、照れくさそうに、嬉しそうに、そして何より幸せそうに新郎新婦が入場して来る。

 フェイの服装は式の時と同じだけれど、ソレルティア様は色ドレスにお色直しだ。

 紅いドレスを纏った彼女は本当にロッサの花のよう。

 華やかな色合いなのに、全体のトーンは落としてあるので、そんなに派手さが無いのがいい。流石、シュライフェ商会。

 結婚式に引き続き、私達が想像する定番な家族の為のミニ披露宴そのものだけれど、私達の時はこうはいかないだろうから。

 普段、笑顔を見せることがそんなにないフェイがソレルティア様の手を繋ぎ、エスコートしながら浮かべる笑みが、本当に綺麗で、見ているこっちも幸せな気分になる。

 ふと、横を見ればリオンも嬉しそう。

 リオン的には子どもの頃に助けた子どもが、成長し相棒となり、そして結婚するのだ。


「リオン、嬉しそうだね」

「そりゃあ、嬉しいさ。あいつが幸せになる姿が見れるのは、本当に嬉しい」

「そっか。……そうだね」


 目を細めて眩し気に見つめている、もしかしたら父親の気分もあるのかもしれないなあ、とちょっと思った。


 っと、いけない。乾杯の準備。

 私は、全員にグラスをまわすと、自分もオランジュの炭酸水を手に取った。

 お父様達も、ガルフ達も大人はみんな、最初の一杯めはビール。

 お祝いと言えばシャンパンだけれど、まだこっちの世界では完成に至っていない。

 子ども達は果汁か炭酸水。フォル君は特に炭酸のしゅわしゅわがお気に入りみたいだ。

 四歳児にはちょっと炭酸は早いかもしれないけれど、今日はお祝いだから特別ってことで。


 このパーティの為に、エルフィリーネがずっとしまわれていた食器を色々と出してくれた。元は王城だからね。大人数用に本当にたくさんの食器などがあったっぽいけれど、子ども相手だし壊れることもあるし、最小限しか使ってなかった。

 今まで、ずーっと城の奥に眠っていたヴィンテージのガラスグラスが数百年ぶりに光を見る。


「この良き日、『星』と『精霊神』の祝福を得て生まれた新たな夫婦に祝福を。

 エル・トゥルヴィゼクス!」

「エル・トゥルヴィゼクス!!」


 クラージュさんの音頭に合わせて皆が高くグラスを掲げた。

 綺麗なカットの施されたグラスには、泡と光が煌めいて二人を祝福しているかのようだった。


 披露宴が始まると、二人の元には順番に、みんながお祝いを言いに来る。

 身分的に最初は皇王陛下達。その後、第三皇子家、ゲシュマック商会で、その後が家族、魔王城の私達かな。

 子ども達が料理を堪能するには丁度いい。

 料理の取り分けを手伝いながら、私はフェイの前に進み出る皇王陛下達を見守る。

 二人は手をつないだまま、無言で会釈した。


「フェイ。ソレルティア」

「はい。皇王陛下」

「今日、この日。新たに生まれた夫婦を、我らは王として寿ごう。

 其方ら二人はアルケディウスに授けられた星の宝。

 まぎれもなく、この国の希望である。無論生まれてくる子もまた、同様だ」

「両親どちらに似ても、才色兼備は間違いありませんね。ラウルやフォルトフィーグ、レヴィーナという、新たな世代を支え助けてくれる良き臣下にして良き家族になってくれることを願います」

「もったいないお言葉です。皇王妃様」


 感極まった感じでソレルティア様が応じる。


「フェイは今後も、大聖都で神官長を続ける旨の話を聞いている。ソレルティアは、アルケディウスに残り、今後も王宮魔術師として仕えてくれると思って良いな」

「はい。僕は自分の意志で、神殿に残り、マリカとリオンに仕えると決めていますが、子の未来を神殿に縛り付けるつもりはありません。

 ソレルティアに教育を託しつつ、本人の意思と願いを尊重するつもりです。僕が、そうして貰ったように」

「ソレルティアはそれで良いのだな?」

「はい。『星』の魔術師であるフェイの翼を折るつもりはありません。出来る限り気にかけてくれるとも約束しておりますし、転移陣や転移術。通信鏡も今はあります。

 離れていても、心が通じていれば、家族で在り続けられる筈です」

「そうか。覚悟が決まっているなら良い。タートザッヘ。アレを」

「はい」


 後ろに控えていた文官長、タートザッヘ様は一歩前に進み出て、いつも持ち歩いている書類挟みから一枚の羊皮紙を取り出した。


「おめでとう。二人とも。我が弟子同士の結婚。心から嬉しいと思う」

「タートザッヘ様」


 二人は深く頭を下げる。

 どちらにとってタートザッヘ様は直属の上司だ。特別の思いもあるだろうな。って思う。

 文官長は滅多に笑みを浮かべることなく、真面目を絵にかいたような人物だと聞いている。

 今もその表情はきりりと引き締まっているけれど。


「二人の結婚と、新たなる大貴族の誕生に祝福を。

 ソレルティア。其方は女性初の大貴族となる」

「え?」


 タートザッヘ様は目を丸くする二人を見て、相貌を崩した。

 してやったり、と心から楽しそうに。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート