【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 現状と新たなる問題点

公開日時: 2024年3月17日(日) 16:32
文字数:3,471

 晩餐会の前後は、アルケディウスの現状報告と、技術についての相談になった。

 私としては早く終わらせて魔王城に戻りたいけれど、仕方ない。

 皇女で大神官の務めだ。


「今の所、アルケディウス全体に大きな問題はない。

 農地拡大の政策が四年目に入り、軌道に乗ってきたと言えるだろう」


 会議室の大テーブルに地図を広げてケントニス皇子が説明して下さる。


「一番目覚ましい成果を上げているのはロンバルディア領だな。

 流石にアルケディウスの穀物庫と言われているだけあって、小麦、大麦などが良く育つ。

 後は、海産物を独占するストウディウム領。

 ストウディウム領が魔術師を雇用したり、塩干物の研究を進めることで、王都以外にも魚介類の人気が高まっているようだ。

 外にもプレンディヒ侯爵領、パウエルンホーフ侯爵領も安定した生産高を誇っている。

 小麦が育ちにくい領地もあるのだが、そんな土地もお前が推奨したナーハや、パータト、サツマイモなどの取れ高は高いことが多く、それなりの成果は得られているようだ。各地の神殿からの教導で一般市民も徐々に食を求めるようになってきているという話だ」

「それはとっても良い事だと思います」

「ただ、食料の生産によって貧富の差が広がって来ている。という話もある」

「お父様」

「特に地方領地など、目の届き難い所では領民をこき使うばかりで正当な代金を支払わないとか、働くことを厭う者達が農家や商人を襲撃するという良くない話も届いてくる。お前の手袋からな」

「お役に立っているようなら何よりです。ぜひ、適切な対処をお願いいたします」

「解っている。魔性の増加への対応と合わせて兵の増員や監視を増やす予定だ」


 私が後援して設立したグローブ一座には、子どもの保護と各領地の情報収集を依頼してある。今や、各地で引っ張りだこの人気劇団だと聞く。

 私が急にこんなことになってしまったので、管理についてはお父様に委託したけれど真面目で頭のいい座長のエンテシウスは劇で各地、各街に滞在する度、約束通り正確な情報を届けてくれているようだ。

 今度また大聖都にも呼んで舞台をかけてもらおう。直接功も労いたいし。


「麦酒蔵の方も順調で、去年からはエクトール荘領から独立した者が新しく二つ蔵を開いた。黄金のピルスナーだけはまだどうしても、エクトール荘領だけのものだが、エールは今やそれぞれの蔵が姸を競っている」

 

 補足説明はトレランス皇子。酒造関連が専門だけど、酒造と農業は切ってもきれないもんね。


「また、穀物や果実の汁からなら、葡萄酒のように色々な酒ができるのでは? という観点から様々な酒造に取り組んだ。そのうちの一つサフィーレ酒が最近形になり、売り出しを始めた。甘やかな味わいが女性に人気だそうだ」

「流石ですね」

「ああ。そうだ。お前の成人の儀の時には、最高の麦酒を用意するからぜひ、飲んで欲しいとエクトールから伝言もあった」

「ありがとうございます。楽しみにしています。とお伝え下さい」

「解った。エクトール領への通信鏡は私がもっているからな。エクトール領は最近、狙う者が多い。今年に入って二度、盗賊の襲撃があったそうだ。連絡を密にしておこう」


 あっちもこっちも忙しいからエクトール様とはここ2年殆どお会いしていない。偶にはカマラにも里帰りさせてあげたいんだけどね。


「でも、最近はそんなに盗賊が増えているんですか?」

「働こうとすれば、誰でも仕事はある。でも働かずに楽をして暮らしたいという不届き者はどこにでもいるのだ。困った話だがな。

 捕らえて、労働刑などを与えても奴らの多くは反省しない。兵を増やす以外の対処が難しい現実もある」

「貴族達も聖人君子ばかりではない。厳重に監視はしているが、自領を繁栄させる為に農民に過重労働を強いている例もあるようだ」

 

 食によって気力が戻ってきたことで、人に欲もでてきているし、悪事も増えているとお父様は言う。悪人も小者なら力で押し付けることもできるけれど、貴族とか大貴族が地位を笠に着てというのはやっかいだな。


「……どうしてもの時は、不老不死の剥奪刑に処すって言ってもいいですよ。頑張る人の功を土足で踏みにじるような人は許せませんし」

「それは最後の手段だ。自棄になって神殿やお前、子どもに特攻したりされたらやっかいだ」

「そうですね。私達も考えてみます」

 

 農業関連の報告が終わった後は、今度は工業関係の話になる。

 ファイルをもって前に進み出てきたのは文官長タートザッヘ様だ。


「印刷も活版印刷が軌道に乗り始め、製紙業も順調にございます。

 主要道路の舗装整備がこの二年で一応の目途がつき、流通に関しては前と雲泥の差で流れております。特に各都市の神殿と王都を繋ぐ転移陣を開放して頂いたのが大きい。

 各国との輸出入も推進されており、国民の生活も豊かになってきたと確かな数字に表れております」


 税収や労働者の給料は全体的に上がり、食品や化粧品を消費も回っている。


「今、一番の人気品目は小型通信鏡でして。数年待ちに近い形で申し込みが殺到しております。各国からは作り方を公開してもらえないかという声が引きも切らないのですが、最低でもフェイ、ソレルティアレベルの魔術師が二人いないと難しいと濁しております。

 各国、子どもの保護、魔術師の教育育成に血眼の様子です」

「人気が出るとは解っていましたけれど、やっぱり欲しいものなのですね」

「それはそうだ。情報通信の重要性は提唱したお前が一番よく知っているだろうに」


 それは勿論知っている。だから、人気の通信鏡を大神官特権でいくつも入手して使わせて貰っているのだから。販売価格金貨十枚の小型通信鏡を私は五台所有している。

 映像も一緒に送る最高級品の通信鏡はリオンの『精霊の力』と、それを借りて固定する技術をもつフェイ。そしてアルケディウスの技術者の繊細な回路基板作成が必要だけれど、その後開発された声のみを送る小型通信鏡はそこまではなくてすむ。

 さっきタートザッヘ様が言ったように最低二人の魔術師がいて、カレドナイトで作る経路を固定させればなんとかなるとのことだ。回路基板作成も機械式時計が作れれば作るのに時間がかかるけれど、製作可能。

 アーヴァントルクなどは売れないなら作り方を教えてくれと、本当に真剣だ。

 

 二つペアで作り、その双方でしか連絡が取れない、いわば糸の無い糸電話方式だけれども小型通信鏡が画期的なのは、持ち運びが容易に可能だということ。

 サイズも外見もほぼスマホだ。

 魔術師でなくてもストラップで付属しているカレドナイトでスイッチを入れ送受信が可能だということも大きい。

 小型なのに、映像も送れる大型通信鏡と同じくらいカレドナイトが必要で、値段も安くないけれど要望が絶えない。

 国境を超えても使えることもあり、商人達がもう血眼で欲しがっている。

 開発から約三年。

 現在、特上の通信鏡は各国と大聖都からアルケディウスに繋ぐ八台のみ。

 小型通信鏡は百組くらいが稼働中だ。


 そのうち五組を私が所有。大聖都と私、私と魔王城、私とお父様、私とアルケディウス神殿、私とリオン。あと各国王宮と大神殿に繋ぐ用に活用している。

 商人の中で所有しているのはゲシュマック商会と、ギルド長が各一組ずつ。

 全ての大貴族に配布が済んでいるのはアルケディウスだけで、各国は一月二~三組しかできない小型通信鏡を順番待ちしているとのこと。

 早く作ってくれと催促も激しい。


「ただ、あんまり増産すると悪用もされそうで心配ですね」

「その危惧は確かにあるが仕方ない。と割り切るしかない。

 各国に与えた分がどう使われるかまで、我々は把握できないからな」

「最終的は技術留学生を各国から受け入れ、作り方を教えることは避けられないかな、と思っています」

「できれば特許を取って、作る度に利用料が手に入るようにしたいところではありますが、一度公開してしまうと各国がいくつ作ったかとか把握できませんからね。売るならかなり高額にした方がいいのかも」

「金貨100枚でも安いな。今は無理でも10年後にはきっと、世界中の多くの人間が小型通信鏡を持つようになるぞ」

「研究が進めば新しい発想で、一つの鏡にいくつもの鏡と連絡を繋げるようになるかもしれませんね」


 各国に食と技術が伝わったことで活気が出てきたのはいいのだけれど、悪い人も出てきたし、利権問題など難しい話も増えて来る。

『精霊神』様達がいきなり、向こうの世界の技術を伝えなかったのはその辺が理由なのかな、と思いながら.

 私は遅くまでけっこう本気で意見交換に参加したのだった。

 

 頑張る人が報われる世界を作れるように。


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