【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

水国 これからの話し合い

公開日時: 2023年4月13日(木) 08:28
文字数:3,700

 料理実習、公子との会談、ルイヴィル様とリオンの模擬戦と慌ただしい一日が終わって部屋に戻った時


「あ、お二人が戻ってきてる」


 私は部屋の私のベッドを占領して二匹の精霊獣が眠っている事に気が付いた。

 フリュッスカイトへの旅行にも着いて来て下った精霊獣は国を守護する『精霊神』の化身、というか分身だ。

 プラーミァの『精霊神』の分身 ピュールと、アルケディウスの『精霊神』ラスサデーニア様の分身 ローシャ。

 どうしてもお二人、と敬語を使ってしまうけれど、中身が『精霊神』であるから仕方ない。

 旅の間はオート操縦で普通の獣をしていたようだけれど、フリュッスカイトに着いてからは暫く姿を見なかった。

 精霊獣達はステルス機能でも着いているようで、彼等が本気を出すと私達はいないことにも気付けないし、気にすることもできなくなるようだ。

 現にここ数日、私はお二人がいないことそのものに気付かなかったし。

 で、戻って寝ている、と言う事はよっぽどお疲れになったのか、それとも用事が済んだのか?


「……ラス様、聞こえてます? 起きて下さいますか?」

『なあに? 僕、ちょっと眠いんだけど』


 ピュールアーレリオス様ローシャラスサデーニア様、どっちかから話を聞くならローシャラス様の方が気安い。

 私は真っ白なお腹を出して安心しきって眠っている短耳ウサギを揺り起こした。


「ここ暫く姿が見えませんでしたけど、もう御用事は済んだんですか?」

『済んだよ。

 この国はナハトの所と違って安全だから、僕達のやることは終わり。

 君が『精霊神』の復活の儀式の時に一緒に連れて行ってくれればいいよ。

 それまで僕達はてきとーにしとくから』


 揺り起こしても起きる気はないようで身体をコロンと、横に傾けた後は身動きもしない。


「やることはない、じゃなくって終わりってことは安全を確認する何かがあったっていうことです?」

『まあ、そう。

 元々、放任主義で引きこもりのナハトと違ってオーシェは、逆に過保護で面倒見が良すぎるくらいいいし、頭もいい。

 封印は確かにかかっているけれど、そんなに心配する必要もないって解ったから。

 後はほっといても大丈夫だよ』

「解ったって、どうやってです? オーシェって誰? 

 ラス様? ちゃんと説明して下さいませんか?」


 ゆさゆさと身体を揺さぶって見たけれど、後はもう我関せずって感じて寝てしまわれた。

 精霊獣様も『精霊神』様も私達とは違う意識と意図で行動されているから、あちらが関わらないと決めたら私達なんか鼻にもかけず、無視することが可能なのだろう。

 これは、本当に話を聞くのは無理っぽい。


「精霊神様の状況とか聞きたかったのに。でも心配しなくてもいいって、言うのなら大丈夫かな?」


 まあ、今回はアーヴェントルクのように『精霊神』様が汚染されているとかそういう事は無さそうだからその辺は安心。

 どうせ最終日の少し前には儀式を行うのだから、その時に詳しい事を聞こう。

 私は諦めて、精霊神様達を寝台の奥に押して私の寝るスペースを確保すると目を閉じた。


 今日も色々疲れた。

 なんだかんだでもうすぐフリュッスカイト滞在も折り返し。

 明日も頑張らないと。




 翌朝

「おはようございます。マリカ様」

「おはようございます。皆さん。今日も宜しくお願いしますね」


 起床して身支度を整え、食事をした後は朝礼、と言うか朝のミーティングだ。


「今日は調理実習の後、公子との意見交換会です。時間がかかるのでその間、カマラやリオンはフリュッスカイトとの合同訓練に行っていてもかまいません。その間の護衛はミーティラ様とヴァルににお願いします」

「かしこまりました」「お気遣いありがとうございます」

「マリカ様。ソレイル公から明日、来てもいいかという問い合わせが来ています」

「了解の返事をお願いします。ミュールズさんはおもてなしの準備を」

「はい。用意するお菓子はパウンドケーキとチョコレートで構いませんか?

 いいと思います。

 セリーナ。ノアール。後でアルに材料を出して貰うのでティラミスとパンナコッタも作ってみて下さい。

 上手く行ったらソレイル様にお出ししたいと思います」

「解りました」


 偏見だけど、イタリア風の気候と風土ならイタリアンな料理が好まれるかもしれない。

 だからそういうメニューを中心に作って見せる事にした。


「マリカ様、来週になってからでかまいませんので、一日ずつゲシュマック商会とシュライフェ商会の契約に御来席頂く事は可能でしょうか?」

「今日、公子とお話してきます。来週になってしまうともう滞在期間は五日くらいしかありませんからね」


 いつもながら滞在二週間は短い。

 やりたいことや要望されている事はたくさんあるのに時間追われているうちにあっという間に過ぎてしまうのだ。

 何故か騒動に巻き込まれたりもするし。


「あ、そうだ。プリエラ」

「は、はい。なんでしょうか?」


 私はプリエラに声をかけた。

 プリエラはカマラが面倒を見て女性騎士見習いとしてフリュッスカイトとの合同訓練などにも参加している。


「『能力ギフト』の制御はできるようになってきましたか?」

「あ、はい。多分。なんとか」

「多分?」

「いえ、できるようになっていると思います。孤児院での最初の頃と比べて物を壊さずに済むようになってきています」

「元々『能力ギフト』は自分の意思で自由に動かせるものです。

 今迄の自分に無い力であったので、少し戸惑ったようですが、使い方と切り替えの仕方を覚えれば問題なく制御できる筈です」


 指導役のフェイがお墨付きを与えるのなら大丈夫だろう。

 なら


「急な話で申し訳ないのですが、明日のソレイル公とのお茶会に入って貰えませんか?」

「え? 私が?」

「ええ、フェイと一緒に」

「どういう意図ですか? マリカ様?」


 皆がちょっと驚いているので、私は改めて相談する。

 随員達は皆子どもが『能力ギフト』という特殊な力を持つ事は知っている。


「『能力ギフト』の解りやすい事例として紹介したいのです。プリエラの『能力ギフト』は解りやすくて他の人に知られてもあまり問題になりませんから」

「事例? ですか?」

「ええ、ソレイル公は『能力ギフト』を持つただ一人の存在として色々悩んでおられるようです。アルケディウスにいらっしゃるのも『能力ギフト』について知りたい、同じ年頃の存在と話したい、という思いからかな、と思うので」


 フリュッスカイトは他国であまり知られていない子どもの『能力ギフト』『異能』について少し知見があるらしい。

 どの程度の事が解っているのか、公の能力と共に聞き出せと皇王陛下からも命じられているけど、ある程度はこちらも情報を出さないと『交換』はできないだろう。


「リオンや、セリーナ、アルの力は色々と誤解を招きそうなので、秘しておきたいのです。

 だから、フェイと私、それからプリエラとアレクの『能力ギフト』をお茶会の話題にしようかと」


 フェイの記憶力が良い、は魔術師の特殊技能として知られても問題ないし、アレクの声も楽師として持っていておかしくないと思う。でもアルの予知眼やセリーナの周囲に気付かれなくなる能力は、下手な人間に知られると誤解を招く。リオンの瞬間移動も知られると致命的だ。


「だから、今回のお茶会の準備はミュールズさんとプリエラ。楽師にアレク、護衛にフェイとリオンとカマラで」


『能力』がまだ発現していないノアールとさっきの事情で話題にしたくないセリーナには裏方をお願いする。ちなみにアーサーとクリスの能力は合同訓練でもう知れているし、お茶会に入れる立場ではないから除外だ。


「私のような者が、君主の御一族の前に出てもいいのでしょうか?」

「本来なら、まだマナーなど課題が残りますけれど、そこはフォローしておきますし、まだ成人していない子ども同士の気軽なお茶会なので特別に」

「ありがとうございます!」


 ソレイル様はきっと、子どもが粗相をしたからって無礼打ちにするタイプじゃない。

 プリエラも一つの国のトップの人の立ち居振る舞いを見て、今後の励みにして貰えればいいと思っている。



 そういう訳で後、色々打ち合わせをしてフリュッスカイト六日目に入った。

 調理実習ではオリーヴァのオイルを使ったアヒージョやブイヤベースを作り、好評を博し、その後の公子との会談では苛性ソーダや貝の炭酸カルシウムの使い方とかの相談をした。

 今まで、農作業などが絶滅していたけれど、今後復活させるなら畑の力を良くするのに炭酸カルシウムは役立つ。他にも色々と話をして有意義な時間を過ごせたと思う。


「ソーダは危険物だ。簡単に製法を教える訳には行かないぞ。輸出も慎重にしなければならない!」


 公子様はその点頑固だった。

 でもこの頃にはオリーヴァの灰汁抜きが終わり、塩漬けに入ったので味見に一つ、浅漬けを提出すると


「な、何だ。これは? これがオリーヴァ? なんという鮮烈な味わいだ」


 と大層気に入って下さった。

 で、正確なレシピと引き換えにソーダの製造業者とガラスの加工業者を次の夜の日に紹介して下さることになったのだ。

 なかなかの収穫だと思う。

 完全に完成したら塩漬けで色々料理作って差し上げよう。



 そして、フリュッスカイト滞在七日目、中日。


「今日は、お招き下さいましてありがとうございます」


 私達はフリュッスカイトの公主子息、ソレイユ公の訪問の日を迎えたのだった。


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