【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 大祭の後片付け 2

公開日時: 2023年7月24日(月) 08:22
文字数:3,352

 ゲシュマック商会との会談は貴族街店舗の店長室で行われた。

 店からやってきたのはガルフと、リードさんとアル。

 こちらからの参加者は私とカマラ、セリーナとノアール。

 後、店長であるラールさん。

 リオンとフェイはそれぞれ仕事があるから不参加だ。

 突っ込んだ話になる可能性があったので、ミュールズさんとミリアソリスには明日以降の大貴族達との会見の下準備を頼んでいる。


 話し合いの最中は誰も入れず、取り次がないようにと外の店員達に念を押して内側から鍵を閉めた。

 この部屋の防音には気を使っているから、外に話を聞かれることは多分ない筈だ。


「大祭の後で色々、忙しいところを呼び立ててごめんなさい」


 謝る私にガルフは首を横に振ると、丁寧に頭を下げる。


「まずは大祭の成功、お喜び申し上げます。

『精霊神』はマリカ様の舞のおかげでさらなる力を取り戻した。

 皇王陛下が王族魔術師として立たれ、アルケディウスに祝福を与えた、と。

 朝から城下では大変な噂になっております」

「え? 昨日の今日なのにもう噂になっているのですか?」


 皇王陛下が王族魔術師として『木の王』の杖を使ったのは昨日の舞踏会の終わりが初めて。

 まだようやく半日経ったくらいだろうに。

 大貴族達が感動のままに吹聴したとしても早すぎない?

 と思ったのだけれど


「グローブ一座がおりましたでしょう?

 噂の出所は彼らにございます」

「え? グローブ一座?」


 ほんの少し前に会談したばかりのエンテシウスの顔を思い出す。

 そう言えば、彼らには口留めしてなかったけど。

 というか口留めする話では無かったけれど。


「彼らの抱えの楽師が、朝から宣伝がてら広場で歌っておりまして。

 もうすぐ冬だというのに春の花を帽子に着けて。

『王族魔術師の復活と聖なる乙女』の歌を」

「いっ?」

「初日の姫君の神殿での礼拝、大祭の精霊の登場もあり

『アルケディウスは精霊の祝福と恵みが深き国』『来年はきっとより深き恵みが訪れる』

『大祭の精霊は『精霊神』の御使い。国と皇族を守っている』『皇族に讃え有れ』

 と、祭りは終わりましたが、王都はまだ熱気冷めやらぬ様子でございます」

「うわ~~」


 しまった。この世界における吟遊詩人や劇団の影響力を忘れてた。

 さっき会った時にちゃんと口止めしておくべきだったか?

 と、思いかけて気付く。


 違う。多分、皇王陛下の差し金だ。

 あの場で演出に使った花は、大貴族達が持って帰った分以外は私が貰う約束をした。

 ラス様にも無駄にしないって約束したし。後で館に持ってきてもらうように頼んである。

 ドライフラワーやポプリを作ろうと思って。


 その花をグローブ座に横流しする権利を持つとしたら、皇王陛下だけだ。

「お前の出し物を利用させてもらうぞ」

 っていうのはそういう意味もあったのか。

 まあ、私も劇で精霊に親しみを持ってもらおうとか、『精霊神』様の名誉回復をしようかとか思ったけれど。


 お父様も


「皇王陛下は自制してくれるだろうが、国の為ならどうするか解らん」


 って言ってた。

 ここまで大々的に『王族魔術師』の復活が知れてしまったら、今更単独では術が使えません、なんて言えない。

『精霊神』様に誓ったから私利私欲で使うことは無いにしても、これはもしかしたらまた電池要請が来るかもしれないな。

 皇王陛下の精霊への敬意と誠実さは疑いの余地は無いけれど、一度手にした力は手放せなくなるだろうから、今後は気を付けようと改めて思った。

 ちゃんと勝手なことはしないで下さいって頼んでおかないと。


「大祭の売り上げはどうでしたか?」


 話を私から反らそうと思って、別の気になっていたことを投げかけてみる。

 でも


「勿論、即日完売。販売記録更新しております。

 広場での屋台だけではなく、今年は店の前で容器回収型の臨時店舗を出したところ、大祭の精霊も食べに来たと大評判になりまして。

 二日目、三日目は広場の屋台よりも臨時店舗の方が売り上げは上がっておりました。

 総額の売り上げは金貨十枚近く。

 炭酸果実水は、今後アルケディウスの流行になりそうな気配もございます。

 これも全て、マリカ様と大祭の精霊のおかげでございます」


 スコーン、とブーメラン。

 クリティカルヒットが返ってきた。


「そ、そんなに大祭の精霊の影響力は強いものですか?」

「それはもう」


 リードさんが、くすくすと含み笑いながら頷く。


「臨時の外店舗の売り子達が申しておりました。

 お二人が訪れただけで、周囲の空気がまったく違っていたと。

 他の者を圧倒する美と気配に、ただ見とれるしかできなかったが、今も心に焼き付いていると。

 当店は『大祭の精霊御用達』などと吹聴はしませんでしたが、あわよくばその姿を見たい。

 無理なら同じものを食べたい、という者達の噂が噂を呼び、驚愕の売り上げをたたき出したのは先程、旦那様が申し上げたとおりでございます」


 自分では何がどう違うのか解らないのだけれど、確かに美形で目立つかな、とは思うんだけど。どうしてそうなるのかなあ?


「当店は? ということは他の店は『大祭の精霊』の名を上げて商売をしていたのですか?」


 これはカマラの質問。


「そのような販売の仕方をしている店は多くございます。普通の屋台にすら『大祭の精霊』の衣装を売っている店が何件もありましたし、外国からの店は『マリカ様からお教えいただいた』『マリカ様の御贔屓』と呼び声をかけている店も多かったですよ。

 流石ですね」


 アルがにやりと楽しそうに笑っているけれど、うー、商魂たくましいなあ。商人は。


「一番はやはりガルナシア商会ですが。

『大祭の二人』と名乗る偽物による画像の販売は初日で止めたようですが、翌日からはさらに緻密に描き直させた絵を『大祭の精霊』も買っていった。

 さらによく似せた新作。と販売していましたから」

「……」


 やっぱり懲りてなかったか。

 トラブルで大祭の精霊に嫌われた、とか考えてないのだろうか?

 まあ大祭も終わったし、明らかな『大祭の精霊』の偽物を使うのでなければ、絵の販売は目くじらを立てることではない、と皇王陛下もおっしゃっていたし許容範囲ではあるけれど……やっぱイヤだな。こういうの。


「アインカウフは商売にかけての鼻は恐ろしく利く男です。そして『精霊』や『魔術』にも人並ならぬ興味と関心をもっています」

「以前、当店が魔術師を使い食材の管理をしていたのを知って、いち早く魔術師を店に雇用しておりました」

「『聖なる乙女』がアーヴェントルクの姫だった時代から、大神殿の礼大祭に欠かさず向かう崇拝者という話でしたが、今年の礼大祭の後はさらに熱が上がったように思います。オレがマリカ様と親しいということを聞きつけ、引き抜きの声をかけられたのは一度や二度じゃないですから」


 ガルフ、リードさん、アルと畳みかけられると改めてアインカウフの怖さを実感する。

 なんとか関わらないで済ませたいけれど……無理かなあ?


「ガルフ。それとなくガルナシア商会のことは気にかけて頂けますか?

 大祭の精霊についてまた、怪しいことを始めたら直ぐに知らせてくれると嬉しいです」

「かしこまりました」

「じゃあ、堅苦しい話はここまでにしましょう。

 せっかく、貴族街店舗に来てもらったんです。次の外遊の話とか、新しい貴族店舗の話とか打ち合わせなければならないことはたくさんありますから」


 お茶を入れて貰って、ラールさんの新作お菓子を食べながらの打ち合わせは楽しかった。

 仕事がらみではあったけれど、最高の息抜きになったからお母様には感謝しないと。


 楽しい時間はあっという間に過ぎてそろそろ二の火の刻も終わり。


「後は、秋国への外遊前にもう一度機会を作ります。

 その時まで大変でしょうが、秋二国向けの準備や手配をよろしくお願いします」

「かしこまりました」


 話を終えて、私達が店長室を出ると


「店長! お話が終わるのをお待ちしておりました」


 部屋の外で待っていたらしい店員が青白い顔でこちらに駆け寄ってくる。


「どうしたんだ?」

「お客様がお待ちです。どうしても早急にマリカ様にお会いしたい、と」

「私に?」

「皇女に対して面会の予約も取らず失礼でしょう? 

 断って追い返しなさい!」

「それが、そうもいかない相手で……」

「一体だれなのですか?」


 責めるようなカマラの視線に困り顔の店員は頭を下げながら告げる。


「アルケディウス商業ギルド長 アインカウフ様にございます」


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