【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 大祭の後で 精霊術士の選択

公開日時: 2021年4月30日(金) 07:45
更新日時: 2021年5月5日(水) 14:40
文字数:4,283

 子ども達が寝静まった夜。

 久しぶりのみんなでの賑やかな食卓と、大きなお風呂を堪能した幸せで、豊かな一日の終わり。

 

「それじゃあ、これからのこと相談しよう」

 

 私は場に残るみんなにそう、声を投げた。

 魔王城の子ども達、は全員就寝中の二の空の刻。

 ここに残っているのは私、リオン、フェイ、アルの四人とティーナ。

 そしてエルフィリーネ、だ。

 

 部屋の隅でオルドクスも寝そべっているけれど。

 

 今日は本当に色々あった。

 香油と木の実の事。

 ギルとジョイのギフトについて。

 

 アーサー達の決意と思い。そして…

 

「エリセとミルカ、だな」 

 

 リオンの言葉に、私は頷いた。

 

 

 

 

 昼の後、アーサー達の話を聞き終わった私達は

 

「すみません。兄様、姉様。ちょっとお時間を頂く事はできますでしょうか?」

「凄いんだよ。ミルカお姉ちゃん。見て見て」

 

 ミルカとエリセにそう声をかけられた。

 いつも控えめで自己主張の少ないミルカからの頼みごとを断る理由は無い。

 頷く私達を前に、ミルカはエリセを見て小さく頷くとその手を握り、目を閉じた。

 

「えっ!」「な、なんだ?」「これは…!」

 

 驚く私たちを尻目に他の皆はどうやら前から知っていたようだ。

 ニヤニヤと楽しそうに笑っている。

 何が起きたかと言えば、ミルカの身体がまるで…例えて言うならばミルカの目鼻がゆっくりとノイズの入った間違い探し用に混ざって、溶けて…そして新しいものに変わったように。

 そんなに驚くほどに時間をかけた訳ではないのに、気が付けば彼女は完全に姿を変えていた。

 

 エリセそっくりの姿に…。

 

「…いかがでしょうか?」

「どう? すごいでしょ。ミルカお姉ちゃん!」

「ホント、凄い…ビックリ」

「ミルカのギフトは、やはり成長、ではなく変化、のギフトだったのですか…」

 

 息を呑む私達に双子の様にそっくりに、身長から髪の形まで瓜二つになった二人が嬉し恥ずかし、と言った顔で手を合せる。

 向こうの世界の古いアイドルとかアニメキャラが頭に浮かんだのは内緒の話。

 服が違うし正直、仕草などでまったく見分けがつかない、というほどでもない。

 

「でも、声も似てるね。身体の大きさとかも同じになってるから、かな?」

「そうかもしれません。

 でも、今、そっくりになれるのはエリセだけなんです。

 エリセとは毎日、ほぼ一緒にいるから、なのかな、と思っています」

「ということは他の兄弟達では、だめなんですね?」

「はい。同性だからというのもあるのかもしれませんが。

 ティーナ様も無理でした」

「ギフトや術は、使える?」

「それは無理でした。ペンダントを借りても声は聞こえなくて」

 

 その辺から完全にフェイの声は聞こえなくなった。

 自分の中で思考演算モードに入ってるのかな? と思うので声はかけない。

 

「ありがとう。戻っていいよ」

 

 頷くと同時、ミルカの周囲で空気が動くような音がして、彼女の身体が元の形を取り戻す。

 やがて、完全に元に戻った彼女の口からふうと、吐き出されたのは身体の緊張の弛緩を解きほぐすほどの大きな吐息、だ。

 

「痛みとかは無い?」

「はい。それは全然。お姉様達が留守の間、エリセに協力して貰って何度か練習したのですが大きくなっても、小さくなっても痛みはありませんでした。

 不思議ですね。お姉様の時はあんなに身体が軋んだりしていたのに…」

「今より小さくなったり大きくなったりもできるの?」

「エリセよりも少し小さいくらいと、ティーナ様くらいまでにはなれました。それ以上はちょっと怖くて…」

 

 成人女性に接した経験も少ないであろうミルカには無理もない。

 でも、フェイがいない状況でミルカが自分の能力を調べ上げたことは感心する。

 それが、外の世界。

 ガルフの元に戻りたい思いからだとしても

 

「頑張ったね。凄いと思うよ。ありがとう」

 

 私は心からの思いでミルカの頭を撫で、抱きしめた。

 

 

 ちなみに…私達も勿論ビックリしたけれど、一番、もう比較にならない程の大声を上げたのは

 

「うわ~~。すごーい。今のなあに?」

「魔術…ですか? 生まれて初めてみました」

 

 セリーナとファミーだった。

 そうか、しまった。二人にはちゃんとギフトの話をしてなかった。

 

「あれは魔術ではなくってギフト…子どもにはね」 

 興奮気味な二人に説明を始める。

 視線の向こうでは思考世界から戻って来たらしいフェイが、ミルカとエリセに何事か話ながら、肩に手を置いていたのが少し気になったのだけれども…。

 

 

 

「正直に言います。僕はエリセを外に連れ出したい、と考えています」

 

 淀みなく、迷いなく、はっきりとした口調で告げるフェイ。

 彼が望みを口にする、ということは本気であらゆる現状を考えた上の事だと思う。

 

「やっぱり精霊術士が必要か?」

「ええ、質では無くと言ったらエリセには失礼だと解っていますが、数が欲しいのです。

 僕一人ではどうしても手が回り切らない」

 確認するようなリオンにフェイは言葉を返す。

 

「夏の戦の不在の後、積み重なった仕事は本当に目を覆いたくなるほどでした。

 一つ一つは氷室の維持とか、栽培地の見回りとか小さなものですが、それが積み重なるともうどうしようもありません」

 

 プライドの高いフェイが泣き言を口にするのだ。

 相当大変だったのだろう。

 

「外の精霊術士の質も僕が出逢う限り、酷いものですしね。

 エリセの方が、ずっとずっと真摯に頑張ってきただけに優れています」

 

 勿論、彼はそれでもガルフを始めとする店の者達には弱音を吐かない。

 ここにいるのは身内で家族だから、まだ。

 ということなのだろう。

 

「ニムルはどう? 素質無さそう?」

 ガルフの店の五人の子ども。

 そのうちの一人、ニムルは精霊術に興味を持っていると聞いた。

 子どもにとっては憧れの職業らしいし、彼を育ててみるのもアリでは無かろうか?

 

「素質はありそうですが、彼と契約してもいいと思う精霊がいるかどうかは彼の人となりがまだ解らないのでなんとも。

 シュル―ストラムに宝物庫の精霊の様子を聞いて貰い、外で動けそう、かつ力を貸してもいいと思ってくれる精霊がいないか当たってみてはいます。

 あと、シュルーストラム曰く、彼よりもファミーの方が資質はありそうだ、とのことですよ」

「え? そうなの?」

 

 娼館から救出したセリーナの妹、ファミーはずっと建物内で閉じ込められていたので自然一杯の魔王城に大喜びしているそうだ。

 そして自然を愛し大切にする子どもや、強い思いや意志を持つ者を精霊は気に入る傾向がある。

 と。

 

「エリセを連れ出すなら今日の様子を見ても、ミルカと一緒の方がいいでしょう。

 ミルカは外での生活経験もありますし、外での生活に不慣れなエリセのフォローをしてくれることも期待できます。

 ギフトが成長し、エリセ以外に変身できるようになってくれればとも思いますが、そこまで高望みはしていません。

 ただ、問題は…」

「残る魔王城の子達、だね」

「はい」

 

 エリセとミルカは今、残っている魔王城の子ども達にとって精神的な柱だ。

 毎日の料理を担当してくれている事もあるし、女の子という事で暴走しがちな男の子達の手綱を上手く握ってくれているとも聞いた。

 別に女子だから料理担当、と押し付けている訳でもないけれど…本人の資質と能力に寄る適材適所はやはりあると思う。

 

「料理の面だけであるのなら、私も出来る限りの事は致しますが…」

「うん、そうなればティーナにお願いするしかないと思う。セリーナにも助けて貰って」

 

 万能の城の守護精霊エルフィリーネは、料理だけは専門外でどうしようもないという。

 リグもこれから動きが活発になったり、歩いたりして大変になって来るけれど、その点はエルフィリーネにフォローして貰いつつなんとかお願いする事は可能だろう。

 

「ただ、問題はそういう即物的なものばっかりじゃなくって、心の問題もあるから」

 

 エリセを外に出すことで同じ歳のアーサー、アレクも思う所があるだろうし、何よりエリセ自身が外に出る事を望むかどうか。

 …はっきりと確かめる術はないけれど、エリセはここに来る前にセリーナやファミーと近しい場所で、近しい事をさせられていた可能性がある。

 最初は本当にリオンやフェイにさえ怯えていたのだ。

 それが、段々に笑顔を取り戻し、自分を強く持てるようになってきたのは魔王城の家族という支えと共に彼女がとてもがんばったから…。

 

 

「外で魔王城の秘密を洩らさないか、っていう心配もあるぜ」

 

 そう言ったのはアルだ。正しくそれもある。

 事情を説明すれば大丈夫だとは思うけれども、ついうっかり、ということも無いとは言えない。

 

 フェイは、自分の不在を任せられる者としてエリセを頼りにしている以上、ずっと側についてあげられないし、貴族区画に通う私、騎士を目指すリオンも不在が多くなる。

 

「オレが見ててやってもいいけどさ。結局のところは本人の気持ちじゃないかって思う」

「そうだね。まずは本人に聞いてみないと」

 

 私達は神を倒し、不老不死を解除する。

 その信念をもって外に行っているからいい。

 でも、エリセとミルカの人生は二人のものだ。

 決めるのは二人でなくてはならない。

 

 

 そういうわけで、翌日の朝。

 私は料理の手伝いに来てくれたエリセに、全てを話した。

 ミルカは外に戻りたがっているのを知っているから、一緒に話してしまうとエリセに行こう、と説得してしまうだろう。

 そうすると、自分の意思では無くミルカの為に、外へ行こうと決断してしまうかもしれない。それは避けたかったのだ。

 

「私が…外へ…?」

 

 エリセの顔にはやはり戸惑いが見える。

 

「…少し、考えちゃ、ダメ?」

「やっぱり怖い?」

 不安そうな様子が心配でかけた私の問いには

「うん。外に出てみたい。けど…、ちょっとまだこわい。それに…」

 エリセは頷きながらも、視線を仰がせる。

 何かを思う様に。

「私が役に立てるかな。

 ちゃんとマリカ姉たちの役に立てるかな。

 マリカ姉だけじゃなくって、私がいなくなったらアーサーやみんな、大丈夫かな?

 畑の麦とか、他の事とかも…」

 

 その言葉に、私達が思う以上にエリセが真剣に考えてくれているのが解った。

 本当に可愛い。そして愛しい。

 

「解った。よく考えてみて」

 

 少し、ホッとしたようなエリセの手に私はそっと自分の手を重ねた。

「どこにいても、どんな道を選んでも、私は、私達はエリセを頼りにしているし、その選択を応援するよ。だから、私達の為、とか誰かの為、とかじゃなくって、自分がどうしたいか考えて決めてね」

 

 エリセが外での生活を望んでいないのなら、外には出さない。

 フェイもその辺は理解してくれている。

 

「私が決めていいの?」

「うん、エリセが決めていいの」

 

 大祭が終わり、動き始める皇国アルケディウス。

 そして魔王城の島とその子ども達の生活も、また大きく変わろうとしていた。

 

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