アーヴェントルク王城 歓迎の舞踏会会場は、今までにない盛り上がりを見せていた。
と思う。
周囲の歓声、なかなかだし。
華やかな光と音楽が散りばめられ煌めくダンスホール。
その中央にいるのは、自分で言うのもなんだけれど異国から来た親善訪問の美しい皇女。
婚約者と踊る少女の周囲には、不思議な光が輝いている。
映える展開かな?
「いいのか? マリカ? 派手にやり過ぎじゃないか?」
ダンスのエスコートをしながらリオンが心配してくれるけど
「いいの。もう開き直るって決めた。
アドラクィーレ様も俯かずに強気で行けっておっしゃってたしね」
今はニッコリ笑いながら、ダンスを楽しむ。
大好きなリオンと、精霊達と一緒に。
私がアーヴェントルクでとるべき行動としては、二つのパターンがあった。
一つはアーヴェントルクの機嫌をとり、家族として妹巫女として従いながら、当たり障りなく仕事を熟していくパターン。
最初の挨拶で先手を取られ、こいつは『家族』であり、我々の手の内だ。
と公言されたことを否定せず、アーヴェントルクと仲良し家族をしていく。
これが多分、身の安全を図るには一番いい方法だったろう。
ただ、そうしてしまうと、ここがアーヴェントルクのホームであることも含めて皇帝陛下、アンヌティーレ皇女様のペースに引き込まれてしまう。
家族なんだから、となんだかんだ無理を強いられ、あげくの果てに皇子と結婚して子どもを作れ。
と強制される可能性はかなり高いと思えた。
アーヴェントルクはアンヌティーレ皇女を世界ただ一人の巫女に戻す為に、一刻も早く私を結婚させて力と場所から引き下ろしたいのだ。
聖なる乙女の地位なんて別にいらないけれど、アーヴェントルクのペースに巻き込まれて良いように扱われたり、皇子との結婚を強いられたりするのは御免だ。
故にもう一つのパターンを取ることにした。
アドラクィーレ様のおっしゃる通り強気で、こっちのペースを作っていく形。
「色々と気を付けなきゃならいことも多いけど、相手が荒い手段に出て来たら相手の弱みを握るチャンスだと思う。
だから…、私を守ってね。リオン」
「ああ、任せておけ」
音楽が終わり、万雷の拍手の中を戻ってくると、席には既に最初の来客やってきていた。
「ヴェートリッヒ皇子…」
「やあ、お言葉に甘えて一番のりさせて貰ったよ。
ほら、二人とも。アンヌティーレのシャンプーと口紅が羨ましかったんだろう?
欲しいなら、ちゃんとお願いした方がいいんじゃないかな?」
彼が後ろに向けて声をかけると女性が二人、前に進み出て来た。
どちらも外見十代後半から二十代前半位の若い女性だ。
金髪蒼瞳の女性と、アッシュブロンドに紫の瞳の女性。
髪を固く結い上げた金髪の女性はどこか気が強そうな、理知的な目をしている。
アッシュブロンドの女性は、ボンキュボンでスタイルがいい。
アドラクィーレ様とメリーディエーラ様を並べたような感じの二人は、互いに牽制するようにらみ合った後、アッシュブロンドの女性が一歩後ろに下がった。
「エル・トゥルヴィゼクス。
アルケディウスよりお越し下さいました『聖なる乙女』
私はアーヴェントルク第一皇子 ヴェートリッヒの第一夫人、ポルタルヴァ。
こちらは第二夫人のアザーリアにございます」
「エル・トゥルヴィゼクス。
麗しい奥様方。皇子には旅の間、本当に良くして頂きました。
皇子…このような美しいお妃様達がいらっしゃるのに、私のような子どもを揶揄うなどいけませんわ」
「うーん。君には叶わないなあ~。
まあ、確かにこの二人は僕にとって、長年添ってくれた、他の女性とは一線を画す大切な人だ」
私がお二人の挨拶を受けて諌めると、苦笑しながらもヴェートリッヒ皇子は素直に頷いた。
皇子の素直な賛辞に目を丸くし顔を赤くするお二人を見て、私はふと、いいことを思いつく。
「ポルタルヴァ様、アザーリア様。
大事なお話があるのです」
「話…でございますか?」
「ええ。相談、と言っていいかもしれません」
声を潜めた私にお二人は顔を寄せてくれた。
その耳元にそっと囁く。
「皇子との結婚を強いる皇帝陛下の御命令を退けたいのです。
お力をお借りできませんか?」
「え?」「まあ!」
「やれやれ、困った子だ」
皇子はまるで我が儘な妹を見るように肩を竦めて笑うけれど、止めないでくれている。
うん、やっぱり私の思う通りなのだ。
きっと。
「お聞き及びでしょうけれど、皇帝陛下は皇子に私との結婚を望んでおられます。
でも、私にはその意思はありません。
退けたいのです」
皇子妃様お二人も表情は明るい。
当然だ。
自分の夫を年端もいかない子どもに取られて嬉しい女はいないだろう。
婿に出すという皇帝陛下の言葉が本気ならなおの事。
なら、プラーミァ方式。
男の暴走を止めるには女の力を借りる。
「まずは、こちらでゆっくりお茶でもいかがですか?
美味しいお菓子もありますし、少しですが化粧品も持ってきております。
私のお力になって頂けるなら優先的にお分けできますわ」
顔を見合わせた二人は何かを決めた様に頷きあう。
仲が良くないとは聞いていたけれど、同じ男性を間に挟んで五百年連れ添ってきたのだ。
ただ仲が悪いだけじゃないんじゃないかな?
「お話を聞かせて頂けますか?」
「ありがとうございます。
『新しい食』のお菓子も用意してありますの。良ければお味見下さいな」
私はお二人と皇子を席に招いてもてなした。
私が皇子妃様達と話をして言える間、皇子はリオンとの会話を楽しんでいたっぽい。
プラーミァを思い出すなあ。
「まあ、ステキ。
こんな華やかで味わい深いお菓子食べた事ありませんわ。パウンドケーキ、ですか?」
「こちらの化粧品は輸入を検討していく事は難しいですか?
アンヌティーレ様がご使用になってから、国中の女達の憧れなのです」
「パウンドケーキやお菓子類は今度の滞在で作り方をお教えする予定です。
化粧品も少しずつですが販売網を広げていきたくて…。
アーヴェントルクでは女性の方達はどのような交流をなさっておられますか?」
「この国の女性の第一位は『聖なる乙女』アンヌティーレ様。第二位が皇妃キリアトォーレ様ですわ」
傍から見ればよくのんびり恋敵同士が話をできるとでも思われてたかもしれない。
でも、意外にも本当に楽しい時間だったのだ。
結局、私は舞踏会の間、最初から最後まで皇子達と会話を楽しんだ。
ラストダンス直前、
「もう! お兄様! いい加減にして下さいませ!!」
嵐が飛び込んでくるまでは。
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