【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 北の国より愛を込めて

公開日時: 2022年9月8日(木) 07:58
文字数:2,340

 思い立ったが吉日。

 私はザーフトラク様やラールさん、ゲシュマック商会の料理人さんなどに聞き取りを行って、不老不死発生前。

『新しい味』が広がる前に運用されていた料理について調べてみる事にした。


 イースト類がないので、パン類が主食、という印象はあまりないらしい。

 発酵とかのなされていない皿代わりの固い固焼きパン。

 少しぜいたくになると肉や野菜を混ぜ込んだお好み焼き風の薄いクレープのようなもので肉などを巻いて食べていた。


 肉は主に丸焼き系、もしくは分厚く切ったステーキ風。

 塩と胡椒で一晩付けこんで、串焼きにしたものが宴席などで良く出されていたという。


 サラダは野菜を千切って塩で和えたもの。

 後は細切りにした野菜を塩漬けにしたものなどを肉に添えたらしい。

 酸味の無いザワークラフトやピクルスといった感じかな、と思う。

 キノコも塩漬けにされて料理の付け合わせに使われていた。

 茄子のような野菜のペーストも一般的。

 ペーストの事をイークラと呼ぶらしくてちょっと笑ってしまった。

 付け合わせの定番はなんといっても茹でで、マッシュしたパータト。

 つまりはマッシュポテト。

 この辺は所謂雑な中世料理、というものかな、って思う。


 ペリメクは一種の水餃子。

 骨に残った半端肉をこそげ取り塩味をつけたものを、皮で包んで茹でたもの。

 これをシチーと呼ばれるスープ類に入れて食べる。

 焼いて食べる事はあんまりしなかったようだ。

 タレもないし。 

  

 後はカーシャと呼ばれるスープに穀物をたっぷり入れたおかゆのようなものが庶民にとっては定番の味だったと聞く。

 固焼きパンを柔らかくして食べたり、穀物を粉に挽けない時に食べられていた。

 好き嫌いが分かれて、嫌いな人が多いんだって。


 甘味は砂糖をたっぷり使った果物のコンポート。

 干した木苺、グレシュールなどを砂糖で絡めた糖果。

 砂糖を溶かして飴状にして形を作るパティスヤージュの前身のようなもの。


 熱湯に蜂蜜を溶かして薬草のようなものを混ぜて飲む飲み物や、チーズもどきのようなものもあったらしい。

 発酵という仕組みは理解していなくても少しでも食材を日持ちさせて美味しく食べる工夫はなされていたんだな。と思う。


 そしてメインとなるのがシチーと呼ばれる野菜のスープ類。

 今のそれに比べると野菜をそのまま煮込んで食べるだけのシンプルなものだけれども、寒い冬が長いアルケディウスで身体を温めてくれたと聞く。

 野菜や肉を入れる牛乳煮込みのシュルクメリは、向こうの世界で食べた事のあるジョージアのシュクメルリによく似ていた印象だ。

 赤かぶを入れるのがシチーの定番。

 保存も聞いて、腹持ちもよかったそうな。

 昔はどこにでも生えていたというけれど、最近はめっきり見なくなったという。

 今度頼んで探してみよう。


 本当に急いで、ざっと集めて見ただけだけれど雑で工夫されていないロシア料理、という感じだろうか。

 風土的に似たような気候では似たような料理が発展するのかもしれない。

 と感じた。




 で、ザーフトラク様と相談して、晩餐会のメニューを少し変えてみる。

 今回の主題は『融合』

 各地の素材と、新しい味、そして古いレシピを組み合わせて見た。


 前菜に茹でたペリメク。

 醤油とお酢、それからプラーミァで見つけた赤唐辛子を乾燥させたものを少し入れてピリっとさせたものを出す。

 ちょっとシュウマイっぽくって美味しい。

 後はスモークサーマン。

 昔からアルケディウスではよく食べられていた、とガルフが以前教えてくれた。


 スープは魚介類の出汁がたっぷり出たブイヤベース風。

 サラダは茹でたパータト賽の目に切って、茹で卵やベーコン、キャロなどと混ぜてたっぷりマヨネーズを使ったオリヴィエ風サラダ。

 元はロシア料理だと聞いた。マヨネーズの高カロリー食品は寒いロシアでは特に歓迎されたんだって。


 メインはフライとブタの丸焼き。

 ペリメクを作った時に、皮を多めに作って、薄く小さなお焼き風に焼いて北京ダック風に皮とお肉を包んで巻いて食べて貰う様にしてみる。


 デザートは薄く焼いたクレープの間に生クリームやジャムを挟んでフルーツとクリームで飾り付けたミルクレープ。

 ロシア料理ではプリヌィっていって定番の甘味であると聞く。

 それにチョコレートと氷菓を添えた。



 古い味と新しい味をミックスさせた和洋露折衷。

 自己満足でしかないけれどこの世界の味を『新しい味』で塗りつぶすのではなく、混ぜて生かして進化させていけないかな、と考えてのメニュー展開だ。


「ふうむ。面白いな」


 試作品を味見したザーフトラク様が低く唸る。


「今迄『新しい味』こそ至上と思っていたが、古いレシピの料理もこうしてみるとなかなかどうして…侮れん」

「どこか古ぼけたぼんやりとした味が、くっきりと引き立てられた感がありますね」

「土地に発展した料理は、多分その土地で求められるだけの理由があったのだと思います。

 大事に生かしていければいいなと思うのです」


 ロシア料理の定番と言えばピロシキとボルシチ。


 多分、赤かぶってピート系列のものだと思うから、探し出して復活させたい。

 ピロシキも油で揚げるのはまだ難しくても、焼きピロシキとかあった筈だ。

 お手軽に食べられるから、一般市民に食を広げるにはいいと思う。



 私も勉強になった、というか良い気付きを貰えた。

 何せ私の知識は基本、和食洋食だからね。

 限界もある。

 自分の知識を押し付けるでは無く、上書きするのではなく、既存のモノと組み合わせていけば世界はより広がっていく。

 保育や子育てにも通じる基本だ。

 


 既存の料理と『新しい味』を組み合わせていけば、この世界の人達に合った『異世界の料理』がいつか生まれるのではないだろうか。

 新しい料理を学んだ人達の手から。


 今度他国に回る時には、その国の料理なども調べてみよう。

 私はとても楽しみになっていた。

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