【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 星の精霊の思い 中編

公開日時: 2024年8月12日(月) 23:27
文字数:3,124

 私は、子ども達の秘密のおうち。

 その一角にあった気のベンチに並んで座り、話し始めた。

 秋に入り始めたところ。時折聞こえる虫の声。

 お城の中にいるとあまり気付けないけれど、こういう所は向こうの世界と似ているな、となんとなく思った。


「勘違いしないで欲しいのは、俺も最初から、全部を知っていた訳じゃないんだ。

 魔王城にいた頃は、不老不死前の勇者時代の事は覚えていたけれど、自分の正体や『精霊』の役割や使命については無知のままだった」


「自分が『精霊』人とは違う生まれだってことは知ってたの?」

「それは、知っていた。最初から教えられていたから。

 俺は皆とは違う生き物。『精霊』だ。

 人々をありとあらゆる脅威から守る戦士になれ。って」


 自分に普通の人間のような親はいない。

 家族と言えるのは同じ『精霊』だけ。

 周囲にいるのは自分の世話をする為に選ばれた大人だけ。

 子ども同士遊ぶ機会、過ごす機会も殆どなかった。

 だから、街に遊びに行ったりすることはあったけれど、基本的には城の中でオルドクスや宝物蔵の精霊達と過ごしていたのだという。


「城で一緒に暮らし、自由に話ができていたのは王宮魔術師のフェイアルと、騎士団長のクラージュ先生。それにマリカ様だけだ。使用人達も気さくに話しかけたりはしてくれたけれど。自分とは違うモノ。守るべき存在だと思っていた。

 無邪気に自分は、全部を守れるんだと信じてもいた。

 いつもオルドクスが側にいて、カレドナイトの短剣エルーシュウィンは肌身離さず身に着けるように言われていて。

 今にして思うと、多分、監視されていたんだな。『神』の元精霊を作り替えたのはいいけれどちゃんと安定するかって」


 そう言うリオンの表情には寂しげ、いや違う悲し気な思いが宿っている。

 同年代の子どもと接することができず一人ぼっちで育つ子どもの辛さは、解るつもりだ。


「ただ、本当の意味で精霊がどんなものか自覚もしていなかったし、理解もしていなかった。

 普通の人よりは出来のいい身体で、教えられた使命通りに生きていただけ。

 そんな俺に、人間とは何かを教えてくれたのはライオ達だった」


 無邪気な子どもだった彼は旅の中で、色々な事を学んだ。

 挫折、後悔。

 人としての悩みや苦しみ、友情、信頼。希望や夢も。


「城を出て、皆と旅をしていた時、リーテは俺の正体に気付いていたと後で知った。でも、島の外で島の秘密を話してはいけない誓いの魔術をかけられていたから、俺にそういう意味で話しかけることはできなかったし、島に戻ることも叶わなかった」

「転移術とか使えなかったの?」

「リーテの得意は緑系の術だったからな。だからアルケディウスに派遣されたんだが。

 彼女はそのことを旅の時代、おくびにも出さなかった。知ったのは島にたどり着いてからの話だ。でも、彼女がいなければ俺はきっと島にたどり着けなかっただろう」


 影になり日向になり、彼女はリオン達を助け、魔王城の島にさりげなく導いてくれたのだという。『神』と出会い、理解者を装った彼がリオンの体内に『神の欠片』を入れてからはなおの事。『精霊国』と外を繋ぐ魔術師として彼女の許される範囲で力になってくれた。


「一方でミオルは『神』の側の存在だった。『魔王』の真実も最初から知っていた。多分、俺を取り戻せと命じられていたのだろうけれど、あいつは『神』と『星』の共存を願い架け橋になろうとしていた」


 両方の板挟みになって、悩み苦しみながらも最後の局面でリオンを助けてくれたというミオルさん。


「『お前は私の子だ。戻ってこい』

 マリカ様『精霊の貴人エルトリンデ』を連れた最期の面会の時、『神』はそう言って俺を操り、マリカ様をこともあろうか守り刀で刺せと命じ……殺させようとした」

「!」

「マリカ様は抗わず、己の血を使い、俺の体内に入れられ根を張っていた『神の欠片』を外し、自由にしてくれた。それはマリカ様の命と引き換えだったけれど……」


 肉体は奪われた。けれども魂はなんとか逃れ、二人とも『星』の元に帰ることができ、転生が叶った。勿論『神』は魂となった二人にも手を伸ばしたけれど、それは二人の魔術師とミオルさんが命がけで阻んでくれたらしい。


『我が愛し子よ。選択せよ。

 お前は悔いるか? 元に戻したいと願うか?

 それとも、全てを終え『星』に還り眠るか?』


 その選択の果て、リオンは転生者となった。


「肉体を奪われたせいで、再生に時間がかかったのか。

 俺が転生したのは三十年の後だった。その間に世界は不老不死者かに固定され『神』の権威は絶対のものとなった。

 俺は自分が『神』に属する者なのかという迷いを胸に、ただ、恨みと後悔に支配されてやみくもに『神』に挑み続けた」


 身分や力を失い、武器もない。市井の一人の子どもとしての転生。

 子どもに身分や保護が与えられていない世界で、それは無謀な挑戦でしかなかった。

 魔王城に戻れば、多分、もう少し有利に戦える目があった。でも、国を滅ぼし『精霊の貴人』を死に追いやり。

 合わせる顔が無い。とリオンは魔王城に背を向けた。『星』も何らかの意図があったのか、それともリオンの想いに添ったのか。無理に魔王城に転生させることは無かったという。

 そして一人孤独な戦いを続けることになる。


「繰り返し、繰り返し。

 今考えれば的外れな努力と失敗を繰り返し、転生を繰り返した俺は摩耗と絶望の果てにフェイと出会った。今まで、自分の戦いに人間を巻き込みたくないと思っていたけれど、助けた筈のフェイに助けられ、支えられ。

 そして、アルを見つけ出し救いたいと願い。ライオと再会し、魔王城に戻ってきてお前と出会った。原初の記憶を持つお前と……」

「原初の記憶?」


 私が異世界からの転生者であることは、三人には最初に話してあった。

 それをリオンは原初の記憶、と感じたという。


「俺には記憶そのものはないけれど、王子として与えられた知識の中にはあったんだ。

 この星の始まり。『星』と『精霊神』は異なる原初の地から子ども達を連れて、この世界にやってきたと。そして彼らを導き、荒涼たるこの星に命を芽生えさせたと」

「え? 原初の地から、子ども達を連れて?」

「ああ。城を立て、屋根を作り。大地に植物を芽吹かせ、人以外の生命を生み出した。

 原初の地は、この世界よりも優れた知識と文明を持っていたらしい。

 その知識と力で『星』と『精霊神』は『聖典』の神話ではないけれど、大陸に人が住む環境を整えた」


 なんとなく。

 私は異世界転生者である『精霊神』様達が、この世界にやってきてチート能力で異世界の文明を齎し、最後に『神』になったような気がしていたのだけれど。

 そっか。逆なんだ。

 例えば古いゲームのように、何もない世界にやってきてこの地に0から地球を模倣した文明を築きあげた。地球の名城に似た各国のお城。どこか共通点が多いこの世界の野菜や魚、生き物たち。地球の各国の文化をなぞるような七国の在り方。

 それは、つまり……。


「かつての『精霊の貴人マリカ様』と同じ能力を持っていた女の子。

 俺と同じ転生者。マリカ様の生まれ変わり、だから愛したんだろうと言われれば、完全に否定はできない。

 でも、前向きで、いつも一生懸命だったお前を見て、俺は決めたんだ。

 いつまでも逃げてはいられない。

 守りたい。精霊の使命よりも大切なものを。

 そう決意して行動した先で、俺が得たものが精霊としての自覚と『覚醒』だったのは皮肉な話だったけどな」

「じゃあ、リオンが完全に『精霊』として目覚めたのは」

「ああ。あの時だ。マリカが皇女になって初めての大聖都。

 命を捨てる覚悟で挑んだ決戦の時。

 大神官フェデリクス・アルディクスを殺した瞬間。俺は本当の意味で『精霊』に成ったんだ」


 リオンは静かに語る。

 リオン・アルフィリーガの物語と精霊の秘密。そして想いを。


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