【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 『告白』 表

公開日時: 2023年3月6日(月) 07:40
文字数:2,201

 深夜の魔王城のバルコニー。

 ここは、最初に私がリオン達の戦う場面を見た思い出の場所だ。

 他にも皆で雪遊びしたりとか、アレクが能力を覚醒させたりとか、……リオンと…他にも色々!

 とにかく!

 私的には大事な所だった。


 で、ここに呼び出されたということは、大事な話があるという事。

 皆を寝かしつけた私はがそっと窓を開けた時。そこには三人と二人がいた。


 三人はリオンとフェイとアル。

 二人のうちの一人はシュルーストラム。そしてもう一人は……。


『やあ、久しぶりだね。マリカ。

 心配をかけてしまったようなら、すまない』


 誰?


 一瞬、どころか今も正直そう思っている。

 目の前に立つのはリオンとほぼ同じくらいの少年だった。


 イメージは黒、いや蒼。

 少し飛び跳ねるように乱れた漆黒の髪に、蒼い瞳。

 額上にメッシュのように揺れる髪は青色だ。

 ぴったりとした黒い全身タイツのようなスーツ、というか黒い革のような素材のピッタリとした袖なしインナーに、袖なし肩だけのジャケット。

 皮の指無しグローブも、金属質感ブーツも黒。

 ベルトや膝当てなどの装飾品は黒を基調とした銀と蒼で、明らかな臨戦装束なのに、どこか爽やかさを感じさせる。

 声に、覚えはあった。表情もなんとなく。

 でも、正直、ここまで変わるとは信じられない。


「まさか……本当に、エルーシュウィン?」

『そ。ビックリしたかい?』

「う、うん。ビックリした。本当に、別人みたい」


 別人、というか精霊だから、別精霊?

 でも、人好きのする優しい笑顔は確かに前の彼の面影が在る。

 以前会った時は、飾り気の無いチュニックとサンダル。

 リオンの弟のような、ちょっと年下風味に見えたのだけれど、今はリオンとほぼ同じか、下手したら年上。

 武器こそ帯びていないけれど、間違いのない『戦士』だ。


「なんだか、凄く大人になったみたい。

 精霊って姿が変わったり、大人になったりしないんじゃなかったの?」

『うーん、僕は前にも言ったけどちょっと特殊な精霊でね。

 アルフィリーガの手に在る限りは完全に同調している。

 解りやすく言うとアルフィリーガが成長、変化すると僕も成長するんだ』

『奴は正確に言うなら『星』が生み出した人を助ける為の『精霊』ではない。

精霊の獣アルフィリーガ』を護る為に『星』と『精霊の貴人エルトリンデ』が作り上げた補助装置護り刀だからな』


 補足してくれたのはシュルーストラムだ。

 言いにくそうに頬を指で掻く仕草とかはリオンによく似ている。

 前の時は色が違うせいもあってそんなに思わなかったけど、こうして並ぶとリオンと良く似ている。

 今はまるで双子みたい。


「? ちょっと待って? リオンが成長したから守り刀エルーシュウィンが、ここまで変化して『戦士』になった。

 ってことは、リオンも外見だけじゃなく、内面も変化してるってこと?」


 私の間の抜けた質問にフェイはリオンと顔を見合わせながら肩を竦めて見せる。


「今更、って感じですがまあ、そうです。

 去年の大神殿での騒動で、精霊としての封印が壊れて。

 その後も色々と騒動がありましたからね。彼の成長と自覚がエルーシュウィンを成長させたのだと思いますよ」

「魔王城で甘えてた時と違って、俺自身が強くなりたい、って思ったから、かもな」

『そうそう。僕はそういうアルフィリーガの成長に反応して、強くなるんだ。

 もうちょっと、力が上がれば短い時間だけなら刀身の形を変えたりとかできるようになるかもね。

 後は精霊の力を剣圧と一緒に放ったりとか』

「それは、不老不死前の時代でもできたんだ。訓練次第だな」


 凄いなあ。

 転生前に見たゲームや小説の戦士みたいだ。

 あ、そうだ。


「色々の騒動で思い出した。

 礼大祭の時の絶体絶命、っていうのは大丈夫だったの?

 聞く事も忘れてたけど」

「大丈夫だ。簡単に言えば『神の欠片』を身体に入れられた。

 それが暴走してぶっ倒れた。

『星の護り』が『神の欠片』を外してくれたから元に戻った。それだけのことだからな」


 リオンは何でも無い、と言うように笑う。


「マリカが『星の護り』を貸してくれたから助かった。

 ありがとう」

「ならいいけど……」


 うーん、何か聞かなきゃいけないことがあったような気がするんだけど思い出せない。

 ここにも記憶障害の影響がありそうだ。

 何を忘れているかを忘れている。

 礼大祭のことも言われなければ思い出せなかったあたり、根が深い。

 

『まあ、とにかく姿形が多少変わっても僕は僕だから。

 変わらない。

 アルフィリーガの護り刀で、君達の味方。それを信じてくれれば嬉しい』


 ぼんやりとそんなことを考えていた私はエルーシュウィンの言葉にハッとして向かいう。

 胸に手を当てて大事に、誓う様に告げる彼の言葉が胸の奥に灯りを灯してくれた。


「うん。信じてる。

 だから、これからもリオンを宜しくね」

『約束するよ。『精霊の貴人エルトリンデ』ううん。マリカ』



 その後、私はエルーシュウィンに指輪のお礼を言って部屋に戻った。


「明日は朝一で戻るからな。夜更かししすぎると女官長に怒られるぞ」

「皆は?」

「もう少し夜風に当たっていく。

 来月早々にはフリュッスカイト行きがあって、三人でまた話せるのは暫く後になるだろうからな」

「わかった~。

 皆も早く休んでね」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

「おやすみ」

「早く寝ろよ~」

「おやすみなさ~い」


 

 気が付けばもう日が変わっている。

 明日から、またアルケディウスでの忙しい日々が始まる。

 気持ちを切り替えて頑張らないと。


 私は、エルーシュウィンの約束を胸に、暖かい気持ちでねむりについたのだった。

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