【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 神殿との付き合い方

公開日時: 2023年3月8日(水) 07:11
文字数:2,795

 大聖都での礼大祭が終わり、日常が戻って来た。

 リオンがいて、フェイやアルがいて、皆がいる当たり前のアルケディウスでの生活が。


 大仕事が終わった後、私は少し、息を抜く事が出来た。

 と、言えれば良かったのだけれど、実は終わってからも全く、全然、本当に! 暇になっていないのだ。


 礼大祭から戻って直ぐの夜の日。

 神殿での礼拝に参加して解った。



「ぬわっ! 何この人の数!」


『聖なる乙女』フィーバーがさらに加速している。

 礼大祭に行った商人達が挨拶に来たのはまあ、理解できたのだけど。


「素晴らしい舞を見せて頂きました。

 アルケディウスの評判と共に、姫君の推奨される『新しい味』も人気が高まっているようです」

「来年は、プリーツィエも連れて行こうと思います。

 あの美しく、一体感さえ感じる儀式の感動を分け合いたいので」

「アルケディウスの商業ギルド長として鼻が高こうございました。

 今後、アルケディウスの商業ギルドの組合員は、改めてアルケディウス皇王家とマリカ様への忠誠を誓います」


 それ以外の者もたくさん来ている。

 特に多いのは貴族。大貴族領地の町長や代官、秘書官など。

 流石に大貴族本人は来ていなかったようだけれど。


「『聖なる乙女』どうか我が領地にも祝福を」

「恵みと知恵をお与え下さい」


 皇女に予約なしで謁見を賜れる貴重な機会ということで、人々が大勢詰めかけているのだ。

 普通の挨拶ならともかく、領地に来て特産を教えてくれとかいう要望には応えられない。


「ご縁がありましたら」「私の予定は皇王家が決めておりますので」

 

 と返すのが精いっぱいだ。

 小さな領地や町が多いので、自領にも特産品をと藁にも縋る思いで来ているのだろうけれど断るしかないのが現状。

 申し訳ないと思うし、助けてあげたいとは思うけど。



「疲れました。

 礼拝そのものはともかく、参拝客からの挨拶が大変です」

「お疲れ様でございました。

 やはり礼大祭明け。うわさを聞き付けた者が多うございましたね。

 献金の量も比較にならない程でした」


 礼拝後、フラーブが神殿長の私室でぐったりとする私に笑いかける。


「それは良かった。ですが、今月は申し訳ありませんが礼拝に出るのは今日だけです。

 礼大祭に出ていた分、仕事が溜まっていますし来月からはフリュッスカイトに行くので忙しいのです」

「承知しております。お疲れの所、ご無理を聞いて頂き心から感謝申し上げます」


 まあ、集金人形の役割を果たせたのならそれはそれでいい。

 と、せっかく来たのだからグータラはしていられない。

 

「神殿の会計正常化は進んでいますか?」

「はい。

 神殿長のご命令通り職場の改革を進め、休暇や給金を取り入れた事で神官達の意欲も高まっているようです。

 より、良い給金を貰えるように上位神官を目指し、技術を習得したり勉強を始める者も増えています」


 フラーブは真面目で、私が留守中もしっかりと指示を守って神殿を守ってくれているのがありがたい。

 汚職に関わっていた神殿上層部が、前神殿長の失職と一緒に纏めて除去されたので残っているのは比較的まともな人が多いのだと思う。

 私のような子どもの事でも、利があると理解すれば聞いてくれる。


「『神』への奉仕、滅私奉公だけでは人のやる気も意欲も持続しません。

 仕事に関する適切な見返りや報酬はあってもいいと思うのです」

「改めて実感致しました」

「新しい事に挑戦しようとしたり、意欲を持つ人は応援してあげて下さい。

 能力ややる気がある人は階級や身分関係なしに引き上げてあげると、後に続く人達の励みになると思います」

「神殿長のお言葉はその通りだとは思うのですが、努力した者全てを引き上げるのは難しいですね」

「地位の数的に。上から下がる者は滅多にいないので上げすぎると下の者がいなくなってしまいます」

「ああ~。そういう……」


 これは不老不死社会の弊害だね。

 定年とか退職とかが無いからどうしても、頭打ちになってしまう。


「地方に神殿とかは無いのですか?」

「大貴族領地に各一つずつ、でしょうか? 徴税の拠点となっています。

 機能は主に徴税と、住民管理。夜の日の礼拝と祭事。

 必要に応じての術の行使ですね」

「その他の街には無いのですか?」

「ありません。各領地に行かせられるのはいわば都落ち。

 神殿長に不興をかった者達が多いですから。一度行ったら戻って来れることはほぼ無いのです。

 転移陣もこちらから派遣された者以外使う事ができませんし」

「え? 転移陣があるのですか?」

「主に徴税金回収用の往復陣が。

 あくまで神殿と領地の往復のみで、他には行けません。

 扉を開けるカギはこちらに在るのでこちらから行った者以外は原則使えないのですが」

「私がお願いしたら、各領地から転移陣を使って特産品を送って貰うことは可能ですか?」

「前例を変更する事になりますが、可能です」


 ふむ。

 でも逆に考えればあの前神官長の不興を受けた者、ということは有能な人や真面目な人も多いのではないだろうか?

 なら……。


「……その各領地の神殿を充実させるのはどうでしょうか?

 地域振興の拠点として」

「地域振興? ですか?」

「ええ、それぞれの領地の神殿が『新しい食』を広める拠点になってくれないかな、と思うのです。

 必要なレシピや、食材知識などを纏めた文書を神殿に配布します。

 各地の神殿が指導にあたり、その土地に向いている食材などを調べ相談に乗る。

 レシピや知識も販売する。

 そうすることで、地域が発展し税収や神殿の地位向上も望めるのではないかと思いますが」


 各地を私が巡って、その土地に合った作物とかを見てあげられればいいのだけれど、私は一人しかいない。

 なら、私の代わりに地域を助けていける場を作ってみたいと思う。


「レシピや知識を、神殿に御提供くださるのですか?」

「他国の神殿には、勿論大神殿にも流さないと約束して下さるのであれば教えてもいいと思います。

 勿論、販売における価格調整その他は国の指針に従って貰いますけれど」

「それは、勿論……。

 実現すれば……とても素晴らしい。

 各地の神殿に封じられて燻っている才能ある者達も光を見られるかも」


 手を握り締めるフラーブ。彼にも色々と思う所があるようだ。


「詳しくはお父様やお母様、皇王陛下と相談してみます」

「お願い致します」




 で、その日は夜の日。安息日。

 お城には行けないので館でお父様達に相談してみた。


「また、貴方は思い付きでそういうことを考える……」


 お母様にはため息交じりで頭を抱えられたけど、お父様は


「別に構わん。

 少なくともアルケディウスの神殿の神官達は、お前がしっかり手懐けて手綱を握れ」


 と、後押しして下さった。



 

 魔術師が転移術を使わなくても各地から特産品を集められるようになるのなら。

 そして、各地に食料品などを届けられるようになるのなら凄く便利になる。


 今まで相いれなかった神殿を、お父様じゃなないけれど上手く利用して、こちらもメリットを与えて、お互いに発展できればいいいと思っている。

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