【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

空国 訪問の終わりと友好の始まり

公開日時: 2023年11月9日(木) 08:12
文字数:3,868

 いよいよ、ヒンメルヴェルエクト最終日前日。

 舞踏会を終えた私は、通信鏡の前に立っていた。

 

『……何故そうなる?』


 いつものように、いつものごとく。

 私の報告に頭を抱える皇王陛下。

 今回に関しては言い訳や自己弁護はできない。私もそう思っているから。


「申し訳ありません。でも、完全な相手の陣地で、断るにも断れず」

『はっきりと言質を取られたのか?』

「そこまでは。大公閣下は新年の会議で、正式にお願いするって言ってました。

 でも、期待はされちゃったでしょうね。

 来年も、私が来るって……」

 



 厨房での仕事を終えた私は身支度を整えて、七国最後となるヒンメルヴェルエクトの送別会兼晩餐会と舞踏会の会場に向かった。


「今日は姫君が整えて下さったヒンメルヴェルエクトでの料理の集大成。

 皆、じっくりと味わい『聖なる乙女』に感謝するように」


 今回の晩餐会。

 今までの国と大きく違っていたのは貴族だけでは無く、市民会議の人達も参加していた事だ。勿論、全員では無く代表の人なのだろうけれど。

 その関係でアルを招待客として入れることが許され、少し嬉しかった。

 リオンや、カマラ、フェイは側にいてくれるけれど、従者扱いなので一緒の食事はできないし。

 長テーブル式では無く、小さな丸テーブルで関係者同士が座る形式だったから、勿論一緒の席に座れた訳では無いけれど。

 子どもが宴会の席にいることに最初は大公閣下や公子様、公子妃様。オルクスさんも少し驚いた様子を見せていた。

 でも


「彼はアルケディウスを代表する商会の代表を任されているのです。

 今回の宴席の為の食材や道具の一部、調味料などは彼が管理してくれています」


 そう説明すれば納得してくれた。

 後で、公子や公子妃様、オルクスさんは直々に挨拶に行ってくれたらしい。

 

「利発で賢い、良い子ですね」

「ギルド長がとても褒めておりました。うちの後継者に欲しいくらいだと」


 と手放しの賛辞を聞いて


「流石、アルケディウス。流石『聖なる乙女』

 天才児を育てる才にも長けておられる」

「私は何もしておりません。

 皆、自分の才能を努力で磨いて今の地位に就いた者達ばかりですから」

「ご謙遜を」


 大公閣下が小さく笑う。


「大人も及ばぬ才能の持ち主が星のように姸を競って輝いているのは『精霊の恵み』豊かであるが故。そしてそれを見出し、育て今の地位に取り立てたのはマリカ様でございましょう」

「子どもを愛情をもって育てることは、私でなくても誰でもできることです。

 勿論、今後のヒンメルヴェルエクトでも可能。

 どうか、子ども達を大事に、守り、育てて下さいますようお願い申し上げます」

「勿論、『聖なる乙女』から託された子ども達です。大事に育てていきます」


いい機会なので私はそうお願いした。



「これは、別に問題になる事じゃありませんよね?」

『子どもに関することとなると周囲が見えなくなるのは、其方の場合、いつものことだ。

 少しやりすぎ、出しゃばりすぎの感はあるが問題なかろう』



 料理の方についてはアメリカ風洋食で纏めて好評を得た。

 小麦、コーン、お肉などをメインにパスタなどを取り交ぜた料理はこの国の人達の口にあってくれたようだ。そういえばこの国でも革細工用に牛が生産されていたのに肉が捨てられていたので捨てないで欲しいと頼み、料理に使わせて頂いたっけ。

 豪快、でも火加減に注意して出したステーキは赤身肉の味がぎゅっと、詰まって本当に美味しかった。ハンバーグとかよりも充実感があるからね、男性に特に人気だったみたいだ。

 デザートはシャーベットとマフィン。

 マフィンと言えばアメリカ、というのは私の偏見かもしれないけれど、小さなカップを使って焼くので失敗してもリカバリが効きやすくていいみたいだと思う。


 

「そういうわけで料理に関してもトラブルは在りませんでした」

『だったら舞踏会か?』

「はい。多分、リオンに求婚者候補が蹴散らされたので、搦手を打ってきたのだと思います」



 食後、送別の舞踏会という建前ではあったけれど、実際、私はこの日、踊ることができなかった。


「最後ですので、マリカ様。皆に、お言葉を賜れないでしょうか?」


 最初の舞踏会の時は公家の方達がガードして下さったのだけれども、今回はそう言われて特別席を用意されてしまったからだ。

 そして皆に挨拶をする羽目になってしまったのだ。


 辛い。

 正直言ってかなり辛い。

 私自身は皇族教育も大して受けていないただの子どもに過ぎないのに『聖なる乙女』補正が強すぎて期待の眼差しがホントに怖かった。


「この国をお救い下さいましてありがとうございます」


 と眩しい目で見られるのならまだしも


「我が国は海が近いのですが、姫君は海の素材にも造詣が深くていらっしゃるとか?

 どうか発展の為のお知恵をお借りできないでしょうか?」


 って聞かれたから


「アルケディウスでは海の魚や、貝、海草などの活用法について書かれた書物が今度発売される予定です。貝は貝殻なども活用できますから大事になさって下さい」


 なんて答えようものなら。


「姫君。うちの領地ではお役に立てることはないでしょうか?」

「我が領地はコーンの栽培に適しているようなのです。料理の他に利用方法はないでしょうか?」


 と質問攻め。みんな真剣だし、いつでも来れるわけでは無いから、なんて思って出来る限り、解る限り答えてしまった。

 我ながら手の抜けない因果な性格から来る悪手だったな、と確かに思ったのだけれど、気が付いた時には会場中からさらに熱の籠った眼差しを向けられるようになってしまった。



「そしてトドメが孤児院の子ども達ですよ」

『子どもを舞踏会に?』

「私への歌の贈り物だって……」



 舞踏会の終盤、どこかに姿を消していたのか姿を見せなかったマルガレーテ様が、戻って来て私に告げる。


「マリカ様。お世話になった子ども達がお礼をしたいそうですわ」

「お礼?」

「ええ、感謝の讃美歌を」

 

 向こうの世界だと、子ども達の合唱、聖歌とかは割とよくある定番のもてなしだった。

 こっちでは子どもの数が圧倒的に少ないから見たことが無かったけれど、孤児院の子ども達は礼拝などに出て、歌を歌ったりすることがあったそうだ。


「どうなさったのですか? マリカ様」

「な、なんでもありません。嬉しくて……感動してしまって……」


 実の所、子ども達の歌を聞いた途端、私は涙が出て止まらなくなってしまった。

 パート分けなどもない、同じ音階で歌う歌は合唱では無く、斉唱に近いものだったけれど。

 澄んだ声が天使のようで。

 一生懸命に歌う様子は向こうでの子ども達との音楽を思い出して。

 ……涙腺が緩んだのだ。

   

「マリカ様 私達に新しい生活をありがとう」「また来てくださいますか?」


 歌の後、子ども達が私の周囲を取り巻いた。


「私達、一生懸命学んで、国やマリカ様のお役に立てるように頑張りますから!」

「ぜひ、また来てください」


 口々に発せられる思いが嬉しくて……私は涙を拭きながら


「私の一存で、決められる事では無いのですが……。ええ、機会が頂けるならぜひ」


 そう答えた。

 私の返事を待っていたかのように。いや、多分、待っていたのだろうけれど。


「聞いたか? 皆の者。

『聖なる乙女』は明日、お帰りになる。けれど、その縁は途切れるわけでは無い。

 むしろ、より強固なものとなり、未来へと繋がっていくのだ!」


 立ち上がった大公閣下が響き渡るような声で宣言した。

 その瞬間、ハッとしたのだけれど。時すでに遅し。

 

「ヒンメルヴェルエクトとアルケディウスに末永き栄光を。

 エル・トゥルヴィゼクス!」

「エル・トゥルヴィゼクス!」


 歓喜に溢れた会場で、笑顔の子ども達に囲まれた私は、もう何も言うことはできなかったのだ。



『まあ、予想していた事ではあるが』

「え? 何を予想していたのですか?」


 大きく嘆息しながらもなんだか諦めた様子の皇王陛下に私は首を捻ってしまう。


『各国の嫉妬だ』

「嫉妬」

『嫉妬。羨望と言ってもいい。

『精霊神』を蘇らせる『聖なる乙女』にして、『精霊の書物』の知識と料理の腕を持つ其方を来年以降も其方を派遣してほしい。という要望は各国から届いている。大聖都を含む全ての国からだ』

「いっ?」

『プラーミァなどは『聖なる乙女』をアルケディウスは独り占めするな。とはっきり言ってきたぞ。

 ヒンメルヴェルエクトは一番最後の訪問だったこともあり、其方とのつながりを切らせたくないとより、強い手段に出てきたのだろう。

 家臣を其方の側近に嫁がせたり、弱点である子どもを利用して言質を取ろうとしたりな』

「なるほど」

『其方の招聘が国に料理以上の多大な利益を齎すと知れた以上、一度行って終わりにはできぬな。各国からどれだけ非難されるか解らぬ』

「じゃあ、また来年も七国巡ることになるんですか?」

「下手したら来年以降も、だ。おそらく、新年の国王会議の議題になるだろう。

 心して準備などをせねばなるまい」

「そんな~」


 旅行は嫌じゃないし、各国に行くのは楽しいし、それぞれの国でもっとこうしてあげたかったとかやり残しも確かにあるけれど。

 でも毎年、一年の半分を旅の空っていうのは、ちょっと、いやかなり辛い話だ。

 私だけじゃなく、付き添ってくれる人たちも同じになっちゃうからね。


『詳しい話はとにかく国に戻ってからとする。

 おそらく、帰路、大聖都でも騒動が起きるだろうが、誑かされること無く戻って参れ』

「はい」


 大聖都で私が騒ぎを起こすの前提の言い方が解せないけれど、多分、私も騒動は起きると思うから仕方ない。

 ようやく七国巡りが終わったと思ったけれど、これで終わりじゃない。

 まだまだ続く国交の始まりなのだと、改めて私は実感したのだった。


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