【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 子ども達への宿題

公開日時: 2023年1月3日(火) 07:23
文字数:3,999

 予告なしで転移門が開き、お母様達がやって来た。


「どうしたんですか? 急に。

 私がこちらに来るとき、そういう話なさってましたっけ?」


 お母様とミーティラ様、そして二人の赤ちゃん。

 フォルトフィーグ皇子とレヴィ―ナ皇女。


「フフフ、ごめんなさいね。

 驚かせようと思って、内緒にしておいてもらったの。

 一応、リオンやフェイには昨日伝えておいたのですよ」

「フェイが、迎えに行ったんですか?」

「ええ。頼まれていましたから」


 魔王城の子どもは、みんな以前から優しくしてくれるティラトリーツェ様が大好きだ。

 そして子どもは大抵(やきもちを焼く事もあるけれど)赤ちゃんが好きだったりする。


「ふたりとも、おっきくなったねえ~」

「もうあるく?」

「まだだよ。リグの時も一年くらいかかっただろう?」

「そうね。歩くのはまだ。でも座ることはできるようになってきたのよ」


 飛び跳ねたり、背伸びしたり。

 だっこされた赤ちゃんたちを見ようとする子ども達の為にティラトリーツェ様は腰をかがめて、双子ちゃんと子ども達の視線を合わせてくれた。

 少し、見慣れない顔にびっくりしたようだけれど、二人とも泣いたり、人見知りはあまりしないようだ。

 むしろ興味津々という感じで手を伸ばしている。


「どうします? お部屋に行かれますか? それとも?」

「せっかく魔王城の島に来たのですもの。城では難しい自然と外に触れ合わせてあげたいの。

 どこがいいかしら?」

「あ、じゃあ、森の川べりに行きましょう。

 あそこは涼しいし、木陰もあるし、草も柔らかくてあかちゃんが掴んだりするにいいと思うし」


 川だから落っこちない様に注意は必要だけれど、そこは大人が気を付ければいい事。


「オルドクス。もし、子ども達が危ない様な時は助けてね!」

「バウ!」 



 森に来ると子ども達は三々五々、好きな所で遊び始めた。


「みんな、暑いからちゃんと水分取るんだよ~」

「はーい」


 川に足を付けたり、木に登って果物をもいでみたり。


「はい、ティラトリーツェ様。サフィーレあげる」

「ありがとう。ジャック」

「赤ちゃんたちにもあげるね」

「ふふふ、コロコロ転がるのが面白いようですね」


 ティラトリーツェ様と赤ちゃんにプレゼントをあげると、ジャックとリュウはまた木登りに戻っていく。

 二人ももう五歳くらいになる。

 木登りが一番得意で、どんどんと高い木の上にも上っていく。

 危ないところもあるけれど、危ないから何でも避ける、遠ざけるは異世界の保育じゃない。

 木登りだったら何が危ないかを伝えて、どうしたら危なくないかを考えさせるように育てて来た。

 だから、子ども達は無茶な遊び方はあんまりしない。


 夢中になって周りが見えなくなってしまうことはままあるけれど、自分の能力とできる事を把握しながら色々な事に挑戦している。

 本当に危なくなりそうなときは、私やリオン、フェイに保育犬(?)オルドクスが助けてくれるっていう信頼が有りだからだけどね。

 

 

 普段、なかなか魔王城に戻ってこれないので、いるときにはできるだけ子ども達と関わってあげたいと思ってしまう。

 木陰に陣取って私達を見ているティラトリーツェ様に手を振りながら、私は子ども達と一緒に森遊びに加わった。


「魚発見!」

「よーし、つかまえろ!」

「ヨハン、カイト使うんじゃない。ズルいだろ!」


 いつもはリオンの従卒としてアルケディウスの大人の中で厳しい生活をしているクリスとアーサーも、無邪気に遊んでる。

 と、魚が一匹採れた。

 銀色のしなやかな身体が綺麗だ。

 イワナ…かな?

 

「マリカねえ! 見て見て。できたよ~♪」

 

 楽し気な笑顔と共にギルから差し出された、木札を見れば、沢蟹、イワナ、他にも川の虫などが描かれている。

 この外遊びにも、木板とペンとインクを持ってくるあたりギルはやっぱり絵が好きなんだなあって思う。


「うわー。本当に丁寧に描けているね」

「うん♪」


 今年6歳くらいになるギルの得意なことはお絵かきだ。

 お絵かきっていうのが憚られるくらい、上手に、丁寧に、そして写実的な絵を描く。

 子どもだから観察眼が凄いのかな、っても思う。

 はっきりと調べたり、検証した訳では無いけれど

『見たものを正確に絵に写し取る』

 がギルの『能力』なのではないかな、と思っている。」


「銀色の身体とか、目の様子がとって綺麗に描けてるね」

「えへへ」


 子どもを褒める時には具体的に。

 上手だね~。凄いね~。も悪くはないけれど、子どもの意欲を伸ばす為には言葉かけの工夫は大事だ。


「川のお魚は、あんまり怖くないね」

「そうだね。また今度、海のお魚貰ってくるから、怖いのがあったら教えてね」


 お絵かきの天才ギルは、褒めるチャンスも多いけれど、ジョイはまだ凄く、何かが得意。

 とかはっきりと『能力』と思しきものが確認できてるわけではない。

 ただ、食材とかの悪い所、食べちゃいけない毒などを見分ける才能はとても凄い。

 以前、ビエイリークでフグが水揚げされた時は、うろ覚えだった私よりはっきりと


「これ、食べちゃダメ!」


 と止めてくれた。

 以降ビエイリークに危険魚のリストを作って最優先で配布したので、今の所毒による事故は無い。

 不老不死でも、毒を摂取すると一時的に体調が悪くなったりすることがあるから魚を食する習慣を作って行く為にも危険は避ける。

 全力で。

 フグとかオコゼとか。

 どちらも、捌き方によっては最高に美味しいのだけれど、調理技術の無い私達には無理な話なので当面は諦めよう。

 

「これから、またキノコが出てくると思う。

 ジョイが食べちゃダメ、って言ったものは食べないで。

 ギル、ジョイ。二人でキノコを見つけたら、必ず絵を描いて貰えるかな。

 食べていいのも悪いのも」

「わかったー」「りょうかい!」

「二人のおかげで、外の人が美味しいものをたくさん食べられるね。ありがとう」

「えへへ」「ふふふ」


 私が二人をぎゅう、ってすると照れくさそうな笑顔で頭を摺り寄せてくれるのがとても可愛い。



 

「ぼくは?」「ぼくたちは?」

「毎日、元気に過ごして、ティーナやエルフィリーネのお手伝いしてくれるでしょ。

 イタズラとか、ケンカとかもちょっとしかしてないって。ちゃんと聞いてるよ」


 すこし、しまった! という顔をするジャックとリュウにもぎゅう。

 腕白盛りだからね。多少のイタズラとかは仕方ない。

 でも、魔王城の子ども達は色々苦労もしているし、割と私の躾けは厳しいから歳に合わず大人な方だと思う。


「ぼくたちもできることある?」「ある?」


 イタズラがバレたからじゃないだろうけれど、そんなことを言う二人に私は、うーんと考えた。


「それじゃあね、しゅくだい。

 自分がやりたいこと、とかすきなこと。を考えてみて。ずっとやりたいこと。

 これからしてみたいこと。とかね」

「シュウみたいに?」「ギルみたいに?」

「そう。ヨハンは動物の世話が上手だし、ジョイはお料理勉強しているし、クリスやアーサー、アレクはそのやりたいことを見つけてお仕事してるでしょ?

 ジャックやリュウもやりたいことを見つけて教えて。

 私はそのお手伝いをしたいから」

「「うーん~~???」」


 ああ、二人して考え込んでしまった。

 まだ難しいかな。

 積み木で遊ぶとか、外で遊ぶとかそういう「やりたいこと」と違うとなんとなく感じているのだろう。


「急がなくていいよ。これからのことだから、ゆっくり、ね」

「うん」「かんがえる~」


 良い返事の二人を私はもう一度ぎゅう、と抱しめた。



「あらあら、リグ。お二人のお邪魔をしてはダメですよ」

「気にしないで。ティーナ。リグは邪魔では無く、二人にお花をもってきてくれたようなの。

 ありがとう。リグ」」


 見れば本当に、リグの手には花があった。そっとお花をレヴィ―ナちゃんの前に落す。

 フォル君の前にもちゃんと置いてくあたりがかわいい。

 フォル君は花に興味は無い様で、ぽいっとしてしまったけれど、レヴィ―ナちゃんはじーっとお花を見つめている。

 そして手に掴み……

 ぱくっ。


「うわー、レヴィ―ナちゃん。食べちゃダメ!!」

「こら! レヴィ―ナ!」

「はははは」



 賑やかで楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

 そして、気が付けば夜。


「夕飯、食べていかれませんか?」


 夕飯は外でのクレープにしようかと思っていたのだけれど


「魅力的なお誘いだけれど、この子達は外で食事を楽しむのはまだ早いですからね」

「あ、そうですね」


 お母様は静かに首を横に振った。

 いっぱい遊んで疲れたのか、レヴィ―ナちゃんはもうくうくうと寝息を立てていて、フォル君もミーティラ様の腕の中で舟をこいでいた。

 二人はそろそろ離乳食。バーベキューやクレープはもう少し先かな?


「貴女達の戻りは明日の朝でいいわ。

 ゆっくり休んでいらっしゃい」

「ありがとうございます」


 お母様の優しさに甘えることにして頭を下げると、お母様がスッと膝を落して私と目線を合わせた。


「マリカ」

「はい。なんでしょうか?」

「さっき、子ども達との会話を漏れ聞きました。

 そして思ったのです。

 貴女が、やりたいことはなんですか?」

「私が、やりたいこと? それは、子ども達を守って生きる世界を……」

「それは、異世界の記憶を持つホイクシ、前世の記憶をもつ貴女のやりたいことであり、夢でしょう?

 貴女の。マリカというこの世界に生まれた子どもが好きな事、やりたいことはないのですか?」

「私の……やりたいこと?」

「ええ。『聖なる乙女』の為の舞でなく、社交の為の歌では無く。

 人々に活力を与える料理でなく。

 いえ、それが好きならそれでもいいですが、貴女がやりたくて、好きな事はないのですか?

 と聞いています」


 言われて、私はフリーズした。凍り付いた。まったく思いつかない。

 考えられない。

 私のやりたい事、好きな事?

 保育関係以外で?


「直ぐに答えが出せないなら、それでも構いません。

 子ども達と一緒に、宿題ということにしておきましょう。良く考えておきなさい」


 そう言うとお母様達は、転移陣で帰って行ってしまった。


 私にとんでもやっかいな宿題を残して。

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