【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

火国 精霊神の予言

公開日時: 2024年6月7日(金) 08:17
文字数:2,770

 私は、その日、白い空間の中にいた。

 正確に言うと真っ白じゃなくって薄紅色。

 紅い炎の様なイメージを宿す無重力空間に。


『こうして直接会って会うのは久しぶりだな。息災そうで何よりだ』

「ご無沙汰しております。いつも助けて下さいましてありがとうございます」


 空間にずずん、と巨躯。巨人イメージで立つ存在に私は静かに頭を下げた。

 この方は火の『精霊神』アーレリオス様。言ってみればプラーミァの守護神だ。


『大神殿ではあまり、力になったり相談に乗ってやれずすまないな』


 紅の髪、朱の瞳。目を引く外見の割にどこか落ち着くような印象があってなんとなく頼りになるお父さんの印象だ。私にとっては最初に出会った『精霊神』ということもあってある意味お父様よりも気安い。『精霊神』の纏め役でもあるという。


「いいえ。いつも感謝しております。情報を頂いたり、助けて頂いたり」

「まあな。まったく、あいつは子どものようにいつまでも変なこだわりを見せて。引き籠りおって。

 我々の気も知らず……」


 始めて会った時から数年。だいぶ『精霊神』様達も威厳や冠が剥がれてきている気がする。

 私達には『神』として威厳を持って取り繕うのをやめたというか、薄めたと言おうか?

 それによって彼らの関係性も見えてきた感じがする。


『お前の力にはいつも感謝している。おかげでここ数年でかなり力を取り戻せた実感がある』

「お役に立てているのであれば何よりです。プラーミァの農業なども順調で、世界各地が香辛料の味を楽しめるようになりました」

『ああ、見させて貰っている。子ども達の幸せそうな笑顔は良いな。嬉しくなる。

 なつかしさに私達も食べたくなるほどだ』


 こうして、自分達の正体に繋がる言葉を漏らしたり、とか。


「実際の料理を作って捧げるのはあまり意味がありませんか?」

『我々には味覚など無いからな。貴重な食材を無駄にしなくてもいい。気にするな』


 どこか寂しそうな眼差しを、見せてくれるのは多分私と『精霊神お仲間』様だけなのだろうし。


「それで、今回、私だけの御呼出しなのには何か理由が?」


 いつまでも色々と浸ってはいられない。本題に入る。

 神域での舞は『精霊神』様に直接お力を捧げられるので、できるだけやって欲しいと直々に頼まれている私の大事な仕事だ。

 でも最初の封印を解かれてからは、この奥の聖域に引き込まれることは無くなっていた。

 ここに呼び出されるという事は、大事で人に聞かれたくない話があるという事なのだと思う。護衛のリオンも、付き添いの国王陛下もいない。二人だけで。

 予想通り、頷くとアーレリオス様はその燃えるような瞳に、真剣な光を宿らせる。


『ああ、其方のおかげで力を取り戻し、『星』との経路も朧気ながら繋がった。

 七精霊の経路も戻り、ある程度今は連携、自由に会話もできている。我々の力はかなり増大したと言えるだろう』

「それは、何よりです」

『ただ、同じ早さで『神』も力を取り戻しつつある』

「そうなんですか?」

『今まではあれでも遠慮していたのだろうが『食』によって人々の『気力』が急速に補充できるようになっていたからな。人々から本気で力を吸い取りにかかっている』

「ここ二年で科学とか、かなり進んだように思えますけれど まだ吸い取られていますか?」


 石油の発見と精製プラントの完成。

 科学薬品についても研究が進み、せっけんや化粧品が身近なものとなった。

 鉱石の採掘も進み、鉄工だけでなく、さまざまな金属が活用されている。

 ガラスも、ただ瓶や道具をつくるだけではなく、研磨技術が進み、レンズが造れるようになったという報告もあった。

 科学会議で報告が会った通り、蒸気機関の完成。現代技術の粋を集めた機帆船が間もなく進水式だ。

 自動車も試作品が完成しているし、いま、正にこの世界は産業革命の真っただ中にある。


『本来であるのなら、これだけお膳立てしてやったのだ。もう少し、科学の進化スピードは速まってもおかしくない。人間の好奇心、やる気、興味というものはそれだけの力を持っているのだからな』

「ああ、それは、少し解ります」


 私が生まれる前、固定電話の時代は電話を持ち運ぶなんて考えられなかったという。

 それが携帯電話が生まれ、インターネットに繋がり、声だけでなく文字も送れるようになり。

 さらに超高性能コンピューターであるスマホを誰もが携帯できるようになった。それまで僅か十数年しかなかったのだから、人間のもつ力には本当に驚く。


『まあ、技術力や、人的な力がまだ不足しているというのが大きいが』

「それはあるかもしれませんね。才能のある人もずっとやる気を吸い取られ、くすぶり続けてたみたいなので」

『今は、まだ上流階級が独占している知識や技術を下に流せるようになれば、埋もれている才能を発掘でき、また進歩が進むかもしれんが……。多分暫く、そういう余裕がなくなるだろうからな』

「え?」


 静かに目を伏せるアーレリオス様。何か、良くない未来を予測しているのだろうか?

 私の思いが正しかったのか。眼を見開いた『精霊神』は『神』の威厳で告げる。


『マリカ。『精霊神』の予言として王家の者達に告げよ。

 民にどう知らせるかは子どもらに任せる』

「は、はい」

『『神』が大きな攻勢を仕掛けてくるだろう。そして、その結果、人間から『不老不死が失われる』』

「ええっ!」


 驚愕と共に、不思議な寂寥感が胸を支配する。

 私達にとって、ずっと目的だった世界への逆襲。

『不老不死を解除する』。

 それは、そんなに簡単に為されることなのだろうか?


『不老不死を子どもらが失うこと自体は『星』にとって悪い事では無いが、今まで在った平穏を失い、死が戻ってくることで民や、社会は混乱することだろう』

「は、はい」

『我々も、出来る限りその切り替えの混乱が最小限にできるように努めるが、その為に『神』の攻勢から絶対に守り抜かねばならないものが三つある。

 今後、その死守に全力を尽くせ』

「その三つとは?」

『一つは、大聖都ルペア・カディナ。二つ目はお前だ。マリカ』

「私ですか?」

『ああ。『星』の代行者、『精霊の貴人』

 他の理由もあって、お前を向こうに奪われたらほぼ詰みだと理解せよ』

「は、はい」

『そして、三つめは……』


 リオンかな。私は素直にそう思った。

『神』の直属配下で、『星』の最高戦力。

 でも


「確かにアルフィリーガは奪われてはならんがな。それよりももっと差し迫って拙い存在がいる」


 私の考えを読み取ったような『精霊神』様の答えは斜め上、だった。


「存在、ってことは人、ですか?」

『ああ、お前達がアルと呼ぶ少年だ』

「へ? アル?」


 あまりにも意外な事に私は目を瞬かせる。


『アレの存在を絶対に『神』に知られるな。奪われるな。

 お前と同じか、それ以上に詰むぞ』

「え、ええええっ!!! なんで??」


 私の絶叫には返事が返らぬまま、ぐるぐると私の意識と共に揺蕩い、消えて行った。


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