【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

水国 水国からのお土産 表

公開日時: 2023年5月4日(木) 08:20
文字数:3,743

 ゴンドラで王都ヴェーネを出た後は町の外に置いてきた馬車に戻って、私達は一路アルケディウスへの帰国の途に就いた。


 見送りに来てくださったのは公子メルクーリオ様と公子妃フェリーチェ様。

 護衛代わりのルイヴィル殿と、部下さん達。

 後は、フリュッスカイトの精霊獣様。

 国境まで二日間、私達の旅に同行し、送って下さるという。


 そして勿論ただ、見送りに来て下さっただけではなく


「再訪があったとしても当分は先の話になるだろう。色々と見ていくといい」


 私達にフリュッスカイトの見どころを色々と案内して下さったのだ。

 ずっとヴェーネの街だけ。しかも王城から殆ど出られなかったので観光できるのは凄く嬉しい。


 まず最初に案内してもらったのはヴェーネの漁港とその側に建設されている船工房だった。


「昔は大きな船も作っていたという。

 今はゴンドラと貝の漁の為の船が殆どだがな」


 木の薫りが気持ちいい工房ではたくさんの船大工さんが頑張って仕事をしていた、

 ゴンドラはできた後、色々な絵を書いたり彫刻を施したりするんだって。

 基本的には識別の為らしいけれど、花や魚などが意匠化されていて見ていて楽しい。


「そういえば、フリュッスカイトには絵師さんがおられるのですか?」

 

 聞くのを忘れてた。フリュッスカイトのお城にはけっこう絵が飾られてあったんだよね。

 きっぱり『精霊神』や人物の絵は無かったけれど。自然物や動物の絵とかが。


「『精霊神』が作られた王城を修復する大工、後は貴族などに心得がある者がいるがな」


 なるほど、大工さんが……。ってあれ?


「『精霊神』が作った王城? 王城って『精霊神』様が作ってたんです?」

「知らなかったのか? 各国の王城は『精霊神』が首都を定めた時に生まれたと言われている。

 修復は人の手で行われているが、王城と同じ建物を再現するのは今の建築技術では不可能。

 できたとしても数百年かかると言われている」


 だよね?

 じゃあ、各国個性的なお城は『精霊神』様の趣味だったり?




 船工房の後は、海辺の町で魚と貝を分けていただいた。

 今日の夜にこれを使ってお礼のディナーを作ろうと思う。

 それを期待してお二人もついて来たんだろうし。


 あとは、キトロン(レモンもどき)の果樹園と、カージュさんのオリーヴァ畑。

 カージュさんにはオリーヴァの塩漬けが成功した時点で作り方を完成込みで届けておいた。


「驚きました。父が作っていたものとほぼ同じだと思います。

 なつかしさに涙が出ました。再現して下さって本当にありがとうございます」


 カージュさんはそう言って、またオリーヴァの実をたくさん分けて下さった。


「アルケディウスに戻ったら簡易ソーダの生成して試してみますね」

「くれぐれも扱いには気をつけられよ」

「解っています」


 心配そうなメルクーリオ様に慎重な取り扱いを約束する。

 アルケディウスでソーダの生成ができれば、ガラス瓶の値段がもう少し安くできるようになるかもしれない。

 とりあえずは悪くならないうちにオリーヴァの塩漬け、だけどね。




 そんなこんなで貸し切りにして貰った宿に辿り着いたのは夕刻だったけれど、


「うわ、なんですか? これ?」

「フリュッスカイトから都を守り、精霊神の復活に尽力して下さった姫君への感謝の品だ」


 私はまたフリュッスカイトからのお土産に目を丸くすることになる。

 いくつもの木箱が積み重ねられていて全部積んだら馬車一台分くらいになりそうだ。


「壊れ物が多いので、緩衝材が半分ですよ。量はそんなに多くありませんから気にしないでお持ち下さい」


 フェリーチェ様が笑うけど気にしないで、というのはちょっと無理だ。


「そんなのいいですよ。私はお金を貰って仕事で来ているのですから」

「まあ、それはそれ、これはこれだ。

 我が国に多大な貢献をして下さった姫君を手ぶらで返すのも、国の面目に関わる。

 姫君が良い仕事をして下さった礼だと思って、持って行って下さるとありがたい」


 まあ、私の仕事ぶりが気に入って頂けた証拠、というのなら、ありがたくも嬉しい。

 技術国 フリュッスカイトのお土産は興味もある。


「それでは……遠慮なく頂きます」

「うむ。気に入って頂けるとありがたいのだが」


 壊れ物、と言う通り、中に入っていたのはオリーヴァの油、クリーム、石鹸など中世科学を誇るフリュッスカイト渾身の品ばかりだった。特に石鹸は


「なんだか、とてもいい香りがしますね」

「新作なのです。石鹸にキトロンの香料を混ぜ込んでみました。まだ熟成が完全には終わっていませんので、一月ほど置いてから使って下さいね」


 とのこと。

 蒸留器で香料を作ったら早速、活用しちゃうバイタリティは見習いたい。

 クリームなども高級品で伝手が無いと手に入りにくいので、お母様達へのお土産にピッタリだ。

 最高級品のオリーヴァの油が瓶でいくつもあるから口紅とかを作るのにも役立ちそう。


「後は、これを。試作品ではありますが」


 大物用の木箱には入れず、フェリーチェ様が小さな瓶を差し出してくれる。


「何でしょうか?」

「姫君に提案頂いた鉛を使わない白粉です。

 貴族の婦人などに聞き取りを行った所、白粉を使った者が使わない者よりも、身体にだるさを感じる、気分が悪くなる、などの感覚を感じる事が多いということが解ったので、鉛入り白粉の生産は減らして行く事にしました」

「それは良い事ですね」


 交渉の場での雑談をそのままにしないで、ちゃんと調べた上で改善対策を講じて下さったんだ。

 ホントフリュッスカイトの研究心半端ない。


「その代用というわけではありませんが、姫君のおっしゃった通り粉末にして焼いたガラス工芸用の鉄を粉雲母と混ぜ、ベースとなるぺルメリアの粉と合わせてみたら、かなり良い出来になったそうです。私も使ってみましたが花の化粧水と合わせると肌へののりも良く、かなりいい感じになじみます。

 今後、さらに研究開発を進めてみます。姫君もお持ちになって使用感などを教えて頂ければ幸いです」

「解りました。ありがとうございます」 


 11歳のお肌はまだツルピカなのであまりファンデーションは必要ない気がするけれど、女性にとっては必要な品だと解っているからお母様とかにお見せしてみよう。

 葛粉があればアルケディウスでも再現できるかもしれないし。


「そっちの箱はガラス細工。ピラール工房の自信作だそうだ」

「うわ、精巧な動物の飾り細工がたくさん! あ、これ精霊獣様がモデルでしょうか?」

「まだ一般に披露目はしていないから、母上のお気に入りの猫、として作ったのかもな」

 

 馬や羊、犬など基本の動物のオブジェの中に混じって、猫の細工がいくつもあった。

 可愛い!

 ローシャとピュールのもお願いして作って貰えば良かった。

 

 他にはガラスの器にガラス瓶がたくさん。

 別箱にはガラスの装飾品も入っている。


「あ、大祭の精霊の髪ピン! しかも虹の七色で…」

「アルケディウスで幸運を運ぶと言われているそうだな。

 オリジナルの蒼の他に色を変えた花の飾りを作り、流行を長く愛されるものにする工夫もしてみる、と言っていた。

 その試作を『聖なる乙女に』だそうだ。姫君に使って頂いて注目を集めたいという計算が見える」

「いい案だと思いますよ。あ、この紫ステキ」

「マリカ様の瞳の色と同じですわね」

 

 蒼のガラスで作った髪飾りがステキなことは解っているけれど、カラーバリエーションをつけたものもとても美しい。中でも私は紫が気に入った。

 さっそく付け替えてみる。


「どうかな?」

「とても良くお似合いです」「瞳の色と合わせる、というのは良いと思います」

「今はまだ色展開されている者は他国に出ていないので、きっと注目されますわ」


 随員達も、フェリーチェ様も褒めて下さるのは嬉しい。

 でも、どうせならもう一声、


「どうかな。リオン、フェイ、アル」

「とっても……似合っている、いや、似合っていると思います」


 照れたように褒めながらも視線を逸らすリオンを、にやにやと意地の悪い笑みで見ながらフェイもアルも


「夜の闇に煌めく宵闇の星。

 まるでマリカそのものようですね」

「いいんじゃないか? 色んな色があると楽しいと思う」


 誉めてくれた。よし。


「うん、フェリーチェ様。これと同じセットをもう二つ、いえ、三つ。

 個人的に注文してもいいでしょうか?」

「伝えておきます。姫君に気に入って頂けたのなら職人達も誇らしい事。

 喜んで用意すると思いますよ」

「お願いします」


「三つも何にするんだ?

 もっと欲しいなら俺もレフィッツィオ商会に聞いてみてやるけど」

「ありがとう。自分用と、エリセやミルカ達へのお土産とお母様への贈り物。

 最初の一セットは、随員の皆へのプレゼントにするつもりだから」

「私達に?」

「ええ、いつもお世話になっているので」


 赤、橙、黄色、緑、青、藍、紫。


 私の女性随員(下働き以外の高級女官待遇)は七人なので丁度いいと思った。


「ありがとうございます」「大事に致しますわ」

「……わたしも、いいんですか?」

「うん、プリエラも今回頑張ったからね」

「ありがとうございます」


 緑の花飾りをつけたプリエラは、とても嬉しそうに微笑んでくれた。



「まったく、欲が無いな。姫君は」

「本当に。でも、そう言う所が姫君らしい所だと思いますわ」

「そうだな。妹にできなかったのが悔やまれる」


 そんな冗談を口にしながら、私達は最後の楽しい時間を過ごしたのだった。 

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