【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 不老不死世界のその後 後編

公開日時: 2024年10月2日(水) 08:32
文字数:3,798

『確かに今回の件はイカサマであったけれど。

 マジシャンズセレクトって言う言葉を知っている?』


 魔王城の夜。

 大人たちの前で『星』の『精霊神』。母神ステラ様……の精霊獣はそう言い放った。

 因みに、今日一日、皆で魔王城を楽しんだ後の話。

 魔王城、と呼ぶのも実はもう正確ではないよね。

 精霊国エルトゥリア王城。そして母神ステラ様が居住する聖域は、今まで不老不死者は立ち入り禁止だったけれど世界の人々の不老不死が解除されたおかげで、大人も入ることができるようになった。


「そうでなくても、マリカ様がこの城の管理者代行になっておられますから、不老不死者の侵入を許可すれば入ることは可能ですけれど」


 とはエルフィリーネの談。

 今まで、ずっと入って欲しかったのに入れなかったカマラやガルフ達。お父様、お母様達を招待できるようになったのはとても嬉しい。

 お休みの報告をした時、皇王陛下は自分達も連れていけ、という恨みがましい目で見ておられたけれど、流石にまだ完全に落ち着いたとは言えない国を国王は放り出してくるのは無理だろう。

 ごめんなさい、と心で謝っておく。


 魔王城の豪華な大広間や客間。

 図書室、庭の山羊やクロトリ、もう季節的に終わってしまったけれど、花や菜園のある中庭を見て貰って。それから、大浴場でのお風呂を皆で楽しんだ。

 客間には個人用のお風呂があるのだけれど、魔王城のお城のお風呂は大浴場だからね。

 カマラやガルフ達は勿論、お父様やお母様も驚いた顔で見て、その後皆でお風呂に入ろう、という誘いも素直に乗って下さった。

 本当は貴族、皇族は他人に肌を晒さないもので(当然)家族でさえ、よっぽどの子ども以外は一緒に入浴などしないという。でも、お母様と一緒にお風呂に入るのは久しぶりで、嬉しかった。


「良かった。傷は、残っていないのですね」


 私の心臓の上を撫でながら、お母様がホッとしたように呟いたことは忘れられない。


 お風呂の後に、みんなでご飯。

 魔王城で、久しぶりの料理だから、けっこう腕に寄りをかけた。

 メインはたっぷり時間をかけて煮込んだホワイトシチュー。それに秋鮭のムニエルを合わせた。デザートはバニラと山羊の乳で作ったアイス。

 夕食からは、フェイやリオン達も合流して魔王城の家族が本当に勢ぞろいした。


「これね。ぼくがしぼったミルクだよ!」「わたしがまぜた!」

「そう。とても良くできているわ」「うむ。美味いな」

「こんど、ラウルたちともつくりたいなあ」


 とフォル君とレヴィーナちゃんも嬉しそうだ。

 私が留守の間に、ジョイはもうホントに料理が上手になった。

 高い調理台も踏み台を使って、自在に使いこなしている。

 火で火傷したり、ナイフで手を切ったりすることもない。

 子どもだって、やる気になれば何でもできるのだ。


 と、話が反れたけれど。和気あいあいと過ごした夜の後、子ども達は空気を読んでくれたのか、早めに部屋に戻ってくれた。もっと遊びたいと駄々をこねていた双子ちゃんも


「明日も一緒に遊ぶんでしょ? 寝坊しちゃったらもったいないよ」


 そうヨハンに諭されると、我先にと部屋に向かった。


「おとうさま、おかあさま、おやすみなさい」


 両親への挨拶の後、二人して何故か


「まりかねえ。おやすみ」「まりかねえ。またあしたね」

「あ、うん。お休み。また明日ね」


 ぎゅっと、私の足に抱き着いて来たのは不思議だったけれど。


「子ども達は、子ども達なりに理解し感じ怯えているのですよ。

 もしかしたら、明日は貴女ともう会えないかもしれない。と。

 儀式の日の恐怖を今も覚えているのよ。きっと」

「トラウマにさせちゃいましたかね」



 不老不死が終わったあの日までの数日。私が留守な事を知らせないために、お母様とフォル君達は私の部屋で影武者のミルカやノアールと過ごしてくれた。

 ミルカ曰く。


「拙い、外見だけの私の変身は元より、ノアール様の変化もお二人は直ぐに見抜いておられました。マリカ様の為と聞いて我慢しておられましたが、ずっと不安な思いをされていたようですよ」


 とのこと。


「あ~、オレを助けに来てくれた時か。悪かったな」

「アルのせいじゃないよ。私の我儘」

『貴女のせいじゃないわ。『神々わたしたち』の尻拭いを貴女に押し付けたのだから。

 だから、マリカを怒らないでやってね。ライオット。ティラトリーツェ』


 ステラ様の精霊獣の言葉にお父様とお母様は少しバツの悪そうな顔をした。

 実は、身体が落ち着いて直ぐにもうめいっぱい怒られたのだけれど言わない。

 何も言わず心配をかけたのは本当だからね。


「でも、ステラ様。何故、あのような形でマリカが命を捧げなければならなかったのですか? 不老不死を解除するなら『星』や『神』の御命令、で済んだのでは?」

『それでは駄目だったのよ。確かに今回の件は最初からイカサマであったけれど。

 マリカや貴方達には辛い思いをさせたとは思っているけれど、でもどうしても必要な事であったから』

「ですから、何故?」

『マジシャンズセレクト、って言葉知っている?』

「マジシャンズセレクト」

「マリカが言っていましたね。最初から答えは用意されている選択のことだと」


 フェイの言葉に、ステラ様の精霊獣は少し、目を丸くし、驚いたような表情を浮かべ、その後納得した、というように頷いた。


『そうね。マリカは知っているわね』


 手品師、という商売がないこの世界では無い概念だろう。

 選んだカードを引かせるフォースとは違い、相手が何を選ぼうと、マジシャンが選んだ方を使って手品が進むやり方だ。

 例えば、右と左のカードがあり、マジシャンは右を使って手品をしたいと決め、相手に好きな方を取って、と頼む。

 相手が右を選んだら、そのまま手品を続行。左を選んだら


『左は大事に避けておきましょう』


 とかいって除外して右のカードを使って手品をする。

 最初から選択者がどちらを選んでも右のカードで手品は進むのだ。

 一種のメンタルテクニックと言える。


『今回は、それと一緒。『神』は最初っから、貴方達が何をしても、何を選んでも不老不死を解除するつもりだったの。その時は貴方達の中の『神』の力を回収していたでしょうから、今回よりかなり手荒になってはいたと思うけれど』


 つまり、人々が私を生贄に捧げない、と言えば。


『それがお前達の選択肢か? ならば望み通り』


 と言って、不老不死を解除する。もし、言われた通り私を生贄に差し出せば今回、ステラ様がやったとおり


『お前達は幼い少女を犠牲にしても不老不死でいたいのか?』


 そう言って、罪悪感を植え付けて不老不死を解除する、というわけだ。


『大事なのは自分達が選択した、という事実。

『神』の一方的な命令で、不老不死を解かれたとなれば理不尽だと思うし、反発も出る。

 でも、自分達が選んだ結果そうなったのだ、と思うと諦めもつきやすくなる。ということなの。上からの指示だけじゃ、人は動けないものなのよ』

「だから、マリカやアルフィリーガの目を使って、自分の選択の結果を見せつけた、ということなのですか」

『そういうこと。

 実際、子ども達は納得したでしょう?』


 私達は意識していなかったけれど『星』は私達の視界を人々の体内にあるナノマシンに投影。

 全ての人に『神』の意思と私の犠牲を見せつけた。

 結果世界中、全ての人に自分達は選択を誤り『神々』を怒らせた為に不老不死を奪われたと植え付けることに成功したのだ。


「そうですね。……直ぐにとはいきませんでしたが、マリカの死と『星』の降臨、怒りを見せつけられ、自分達の選択の結果であると受け入れざるを得なかったようです」

「その後、魔王の襲撃が激化したこともあって、失われたものに拘っていられないというのもあったのでしょうけれど……それにしたって」


『神』の支配を失った『魔王』達。

 今度は『精霊神』と『星』のバックアップを受けて人々の脅威。『魔王』を続けることになった。

 魔性、というのは言ってみれば、精霊の力と気力で膨らませる使い捨ての風船のようなものなんだって。精霊の力の回収などの役割があるからロボットとかという方が正しいのかもしれないけれど。

『神』が種を作っておいておいた出現ポイントに力を注ぐと役割をプログラミングされた魔性が形を取る。一定以上のダメージを受けると破壊されるけれど、種子は『神』の元に戻り一定の時間経てリスポーンする。

『魔王』は人の恐怖や、不安を外部に向けさせるための作られた悪役。

 エリクスとノアールは一度は『神』に奪われた魔性の操縦、命令権を『星』が再度付与するという契約によって、当面は人々の脅威『魔王』を続けることになった。

 ノアールは自分達は下請けだと言っていたけれど、正にそんな感じだ。雇い主が代わっても仕事は同じ。

 私は直接会ってはいないけれど、ノアールからは


『『星』からは、かなり有利な労働条件を提示して頂いております。

 当面は異議なくお仕えいたしますわ』


 という連絡を貰っている。

 私達が知らない間に『星』も『精霊神』様も不老不死世が解除された後の事を考えて、色々準備をしておられたようだ。


『優先すべきは、星に住む子ども達を守ること。

 犠牲を推奨するわけでは無いけれど。

 その為に必要な事は、何でもするし、してもらうわ。それが『精霊わたしたち』の務めなのですから』


 きっぱりとした反論を許さぬ言動。

 猫の姿をとっていても圧倒される迫力。

 揺るぎない意思。

 やはり、優しく見えてもこの方はこの星の『神』なのだと感じずにはいられなかた。


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