【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

風国 作戦の開始

公開日時: 2023年9月15日(金) 09:43
文字数:3,851

 私達は、打ち合わせが済んだ後、着替えをしてからこっそり、フェイの転移術で脱出した。

 そのまま、アルケディウスの離宮に転移しても良かったかな、とも思う。

 でもノアールとは衣装を交換して、私が二人状態だし、部屋に戻ってミュールズさんとミーティラ様に話をすると、絶対にセリーナ救出を止められるのが解っていたからこのまま強行。


「モドナック様。アルケディウスの離宮に戻って、随員達の安全確保をお願いします」

「解りました」

「フェイ。通信鏡で皇王陛下にご報告して。指示を仰いで。

 本当に最悪の場合には、皇王陛下にシュトルムスルフトに来て頂くのも手かな、って思うんだけれど」

『国境を超える転移術は止めた方がいいと思うよ。術者も移動する相手も負担が半端ない』

「ラス様?」

『まったく、君達はちょっと目を離すと直ぐに騒ぎを起こす。まあ、もう諦めたけれど』


 ぴょこっと、いつものようにいつものごとく。

 私の肩に精霊獣が現れる。『精霊神』モードの時のこの方達の前ではどんな制止も隠し事も殆ど意味がないことは解っている。だから、ビックリはしても驚かない。

 あてこすられたのは解っているけれど、スルーして私は転移術について確認する。


「転移術を国境超えて使うとそうなるんですか?」

『うん、特に大聖都が邪魔をするから、行って戻ってくるのにも時間がかかるし、暫く使い物にならないだろう』


 七王国&大聖都はそれぞれの『精霊神』様と『神』の領域だから術を使うとなると見えないセキュリティが働くようだ。

 私達は国境を超えるのにそんなに何かが変わる、と意識したこと無かったけれど。


「じゃあ、どうすればいいと思いますか? 国王陛下に圧力をかけるには」


 通信鏡では今一つ、インパクトが足りない。

 確か神殿には直通の転移陣が在るはずだけれど、大神殿に借りを作りたくはない。

 グルの可能性もあるし。


『ジャハール本人にやらせるのがいいんじゃないかな?』

「本人?」

『いい加減、イライラしてると思うから。幸い端末、寄越してきてるんだろう?』

「あ、はい。やっぱりこれってアーヴァントルクの時と同じ『精霊神』様の端末ですよね」


 フェイが私の意図を察して指を指し示すとラス様はうん、と頷いて下さった。


「そう。それをこの国の王族か、君が使えばジャハールを一時的に降ろすことができる。

 今、領域展開にアーレリオスが頑張ってるから。

 ジャハールは強いよ。『力』もそうだけど、物理的に、多分僕らの中で一番。

 相手が『ハイ』というまでぶん殴り続ける世紀末交渉術が得意でさ』

「『精霊神』様。それ交渉術って言いません」

「あれだけ言ってもまだ解んないのか、って怒ってるみたいだし身体があれば力よりも物理で王族に鉄拳制裁、かますんじゃないかな?」


 姿が見えないアーレリオス様もフォローして下さっているのだな、と思うとありがたくも勿体ないのだけれど、今はそっちを気にしている場合じゃない。

 確認すべきことも。


「私か、この国の王族……。それって、フェイは……」

『できるよ。もう気付いているだろうけれど、フェイはこの国の『聖なる乙女』の子だ。

 血の濃さはさほどでは無いけれど、あいつの頑固さを一番受け継いでいるかもしれない」


 血の濃さはさほどではない、と聞いてフェイが少し安堵の表情を浮かべたのが解った。

 万が一、本当に万が一だけれど、国王陛下や第一王子との近親婚の子だとしたら。と私でさえ思ったから。


「でも、フェイがやると『精霊神』に愛された王位継承者とか何とか言われて騒ぎになったりしませんか?」

『まあ、なるだろうね。風の王の杖シュルーストラムを持っていることも重ねると、風の王の帰還、って国から離してもらえなくなる可能性が高い』

「それは困ります。僕は皇王の魔術師。マリカとリオンの魔術師です」


 即答。

 いつもながら迷いのない返答は頼もしいけど。

 でも、どうしよう。私がやるのもできれば避けたい。

『精霊神』を降臨させた巫女とかなんとか言われて、なお、囲い込み願望が高まる。


「王太子に頼むしかないな」

「リオン」

「彼女であるのなら、かなり鍛えているようだし、今の王族の中で一番マシだ。

 今後の事を考えると、この国の王族にやらせた方がいい」

「ちょっと待って下さい。リオン殿。今、彼女と仰せられたか? 王太子マクハーン様は女性であらせられるのか?」


 目を剥くモドナック様と側近達にリオンは頷く。

 私はなんとなく解ってた。

 精霊神様が教えて下さったこともあるけれど、仕草とかが優美だし、全体的な雰囲気がね。

 私達に向けてだけのことかもしれないけれど。


「男尊女卑のシュトルムスルフトで、女性の王太子……」

「口外は勿論禁止ですよ。

 聞くまでもなくどうしようもない事情があったと思われます。

 国王陛下も、第一王子も気付いて無いようですし

 五百年もの間、秘密を守るにはかなりの犠牲も払ってきたでしょうから」


 私としては向こうが話してくれない限りはこちらからはツッコまない予定。

 向こうの世界では男性として育てられた女性、という話、創作の中たくさんあったけれど、それだけに簡単に言える事だとは思えないもの。


「……解りました」

「では、さっきも言った通り、フェイとモドナック様は、アルケディウスの離宮に行って随員達の安全確保。その後、フェイは本国に事情を相談して指示を仰いでから合流して下さい。

 私達の居場所は……」

「アルに協力を頼みます。風の探査術とアルの目があればそう難しくなく合流できるでしょう」

「お願い」

「僕が戻るまで、くれぐれも無理をしないように」


 かき消すようにフェイとモドナック様が姿を消した。

 私とカマラ、そして私の姿になったノアールはこれから、台所に戻り、セリーナを探して少し派手に動き回る。陛下か王子に捕まって、セリーナの身柄を確保確認できさえすれば、後はフェイと王太子が来るのを待ってお仕置きタイムだ。


「リオン。できれば王太子様を探して。そして連れてきて欲しいの」


 私は振り返り、リオンに向かい合った。

 リオンは多分、私と一緒についてきてくれるつもりだったのだろうけれど、王太子様にこの国の後始末を色々と押し付けるなら最終局面で、彼女に場にいて貰わなければならない。

 私達が監禁された場にいた王太子様は、私達を助けようとして下さった。

 最終的に国王陛下に留められて追い払われてしまったようだけれど、きっと救出に動いてくれている。それは確信に近く信じられる事。


「どこにいるか、解らなくて大変だと思うけれど。お願い」

「解った。ただ……悪い!」

「わっ!」


 リオンが私の腰に手を回し、抱き寄せると顔を寄せた。

 頭の上からラス様が落っこちて、何が何だか分からないままに、私の半開きになっていた唇とリオンのそれが重なり、一瞬、舌が触れあった。

 電撃が走るようなピリピリとした感覚が頭の中で弾けて、動けない。

 かくん、と足が崩れた。リオンが抱き留めていてくれたので倒れたりはしなかったけど。


「すまない! マリカの居場所を把握する為に、どうしてもマリカ自身の精霊の力が必要だったんだ」

「だ、だったらそう言ってくれれば……。ビックリした。それも他の人のいるところで……」

「あ……本当にすまない。焦って……その……わつっ!」


 ガツン、ゴン、と音を立てて何かがリオンの頭に落っこちた。

 あ、リオンの短剣と、カマラのショートソードだ。幽閉されるときに取られたやつ。

 取り返して下さったのか。精霊獣様ラス様


『……君らの仲を邪魔するつもりは無いけど、今は、それどころじゃないと解ってる?』

「は、はい。すみません。

 でも、これでマリカの座標は確認できるのでシュトルムスルフト王城の中であるのなら、王太子を見つけたら直ぐに移動できます」

『よろしい。だったらとっとと行動開始だ』

「はい。……じゃあ、マリカ。気をつけろよ。何かあったら、直ぐに呼べ」

「うん、ありがとう。リオンも気を付けて」


 リオンは短剣を腰に差すとそのまま、走り出していった。


「リオン様はマリカ様を本当に大切にしておいでなのですね」


 カマラも自分のショートソードを拾い上げ、腰に帯びる。

 何も言わず微笑むカマラの優しさが、かえって恥しい。


「そうだと、いいけど……。っと、とにかく今はセリーナ救出優先。

 作戦開始。行くよ!」


 私は抜けた体と心に気合を入れてパシンと、頬を叩くと走り出した。

 後に続く、二人と一匹の顔は今は見ないようにして。



 なるべく、目立つように行動する。

 セリーナがどこにいるのか、私達には解らないから、向こうから出てきて貰わないといけないので。

 時間的にまだ、王宮から外には出されていないと思うんだよね。

 隠れるようなそぶりをしながらも、実際には足音を立てていったからシュトルムスルフトの王宮で、外国服の少女三人組は目を引いたと思う。


「(ノアール、お願い)」

「(解りました)皆さん! セリーナを知りませんか?」

「皇女様?」


 厨房にたどり着いた私達はわざと、大きな声と仕草で、厨房に残っていた料理人や女性達に話しかける。


「魔術師様ですか? いえ、ここには」

「忘れ物をした、と戻った筈なのですが?」

「忘れ物などありませんでしたので、ただ、第一王子の配下の方と一緒に歩いていたのを見た気が……」

「第一王子、ですか?」

「姫君、困りますな。勝手に王宮を歩き回っては……」

「! シャッハラール王子……」

「それとも、お心が決まったのですかな?」

「いいえ……私達は、私達の家族を助けに来ただけです」


 振り返ればそこにシュトルムスルフトの第一王子が立っていた。

 見つけた、手に入れた、と勝ち誇った笑みを浮かべて。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート