【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国の家族面談

公開日時: 2021年7月30日(金) 02:39
文字数:2,774

 私から話を聞く代償として、か。

 王宮の魔術師 ソレルティア様は豆知識のような感じで私に魔術師と精霊石、杖の関係について教えて下さった。


 曰く世界に魔術師と呼ばれる存在はそんなに多くは無く、主として装身具に加工した精霊石を媒介にするのだという。

 理由は杖に仕立てられる程の大きな精霊石が殆ど存在しないから。

 装身具の方が持ち運びも容易いし、目立ちにくい。

 杖にできる石をあえて装身具にする人も少なくないらしい。

 エリセのペンダントのような感じかな?

 

 一方で、術の使い勝手という点においては杖は圧倒的に装身具に勝る。

 力の集注、精霊の呼びかけへの通じ度合いなど。

 借り受けた精霊の力を適切に配分、使うという点において杖は比類なき力を発揮する。

 だから杖を持つというだけでかなりの術者だと解るという。


「今、アルケディウスに登録の魔術師は十二人。全員が王宮、もしくは貴族抱えの貴族、もしくは準貴族です。

 その中で杖を持って術を行使する者は五名。

 うち二人は第一皇子と第二皇子の魔術師ですから、其方の兄が試験に合格すればおそらく第三皇子の魔術師として取りたてられるか、私のサポートとして王宮所属の魔術師の束ねとなるかのどちらかになるでしょう。

 皇王様に抱えられる可能性も、ない、とは言い切らない程度にありますが…」


 思った以上に力のある魔術師って少ないんだな。と改めて思う。

 杖を持つ魔術師の二人のうち、残り一人はエクトール荘領のオルジュさんだろうから国全体でもそんなものなんだ。


 文官から筆記用具を受け取ると、机に自分の杖を立てかけソレルティア様は私に顔を向ける。


「では、改めて確認です。其方の名前はマリカ。ゲシュマック商会の料理人

 其方の兄 名前はフェイで間違いありませんね」

「はい」

「年齢は?」

「今年で十三になったと言っていました。

 私も、兄も孤児でございますれば正確な所は解りませんが…」

「まだ不老不死を得ていない子ども、ですね」

「はい」

「現在の所属はゲシュマック商会、と?」

「はい。あと時々皇国騎士団の手伝いをしているようです」

「魔術は誰に習いましたか? 杖はどこで?」

「えーっと、私達は拾われて後、山奥の隠者の元で育てられ、教育を受けました。

 兄はそこで見込まれ、隠者がかつて使っていた杖を譲られたようです。

 詳しい事情は知りません」

「得意な術は?」

「風の術のようです。店では商品の輸送や温度管理を担当しています」

「どんな術が使えます?」

「詳しくはよく解りません。ただ物を凍らせたり、冷やしたり、水汲みを手伝ったりしてくれました」

「読み書きはできますか?

 計算は?」

「どちらもとても得意です。頭はかなりいいと育て親も、店の主も褒めています」

「身体が弱いとか、体調に不安がある、などはありませんか?」

「ありません。とても健康だと思います。

 もう一人の兄が今度騎士試験を受ける実力者なので一緒に戦いの訓練などをしているようです」

「他にも兄弟が?」

「はい。ゲシュマック商会に努める為、家を出て同居している兄弟は私を含めて三人。

 あと、故郷にも同じように引き取られて育った兄弟がたくさんいまして、みんな兄を慕っています」

「仲が良いのですね?」

「はい。そう思っております」


 本当に家族面談の様に彼女は質問していく。

 私は万が一にも変な事を口走らないように注意しながら外の世界で説明するように用意した設定を告げた。

 他にもいくつか当たり障りのないことを確認された後、彼女は私をじっと、見つめる。

 その視線が、絡みつく様でなんだか息苦しい。


「変な事を問う、と思いますが、お前達は精霊を信じていますか」

「え? はい。それは勿論」


 半分、精霊みたいなものですから、とはとても言えないけれど。

 あ、でももしかしたらこの人も一応高位の術者だし、精霊の気配とカ感じ取れるかも。

 私は膝の上に置いていたカバンを足元に移動させて少し離れる。

 カバンの中に入れて肌身離さず持ち歩いているバングルに触れないように。


「神よりも?」

「不老不死を賜った訳でもないので、はい。今のところは」

「それは兄も同じですか?」

「はい。多分」

「なるほど。解りました…。

 話はこれで終わりです。手間をかけました」


 ペンを置き、彼女は私を促す。

 それは退室せよという意味だと取って私は立ち上がった。


「ああ、それから最後に一つ」

「はい、なんでしょうか?」


 私を呼び止める目は射抜くような真剣さを帯びている。

 さっきまでの当たり障りのない情報を聞くのとは明らかに違う色。

 これが一番聞きたかったのだと解った。


「貴方の兄が、杖を手放すことはあり得ると思いますか?

 より優れた魔術師に、と頭を垂れて」

「ありえません、絶対に」


 即答。

 一秒たりとも考える必要のない決まりきった答えだ。


「フェイ…兄と杖は一心同体だといつも言っています。

 杖が兄を見限らないかぎり、兄から杖を手放すことはないと断言いたします」


 そもそも杖、シュルーストラムがフェイを手放す可能性はないし、そもそも変生までかけて作り上げた真正の魔術師をあっさり見限るなんてありえない。

 だから絶対にないと断言できる。


「そう、ですか?」


 でも、この人の目はそれを納得していない…。


「えっ?」


 ふと、杖と『目が合った』

 勿論比喩ではあるのだけれど、精霊石に一瞬、人影が写った気がしたのだ。

 青銀の髪、水色の瞳。

 シュルーストラムになんとなく似た、男性の姿。

 何かを、訴えようとするように…こちらを見た気がして目を凝らす。

 だが


「…解りました。

 貴方の兄に、試験を終え会える日を楽しみにしていると伝えて下さい」


 微かに微笑んだ後、彼女は視線と杖を扉の方に向けた。

 もう一度よく見てみるけれど、今度は石に何の影も見る事はできない。

 こんどこそ退去の促しと理解して私は部屋を出た。

 足早に裏門へ。


「お待たせして申し訳ありませんが、急いでください」


 馬車に急かして店に戻る。


 早く、フェイに報告しないと。


◇◇◇ 

 

「ソレルティア様…。本当にあの者の兄から?」

「あの娘も申したでしょう? 杖が見限らぬ限り、と。

 おそらく彼の杖は滅多に存在しないという意思を持つ杖。

 ならば杖が子どもを見限り、私を選べば良いのです。

 私が新しい杖を手に入れた後、何でしたら私の杖を譲っても構いません。

 高位の杖に選ばれる子どもなら、あの杖も使えるようになる事でしょう。

 そうすれば新しく二人の魔術師が生まれる。最善、最良の結果です」

「私共は、ソレルティア様の有能も、努力も存じております。

 魔術が使えなくなっても、皇王陛下も文官長としての地位をお約束されておいでですのに…」

「そんなことはできません。

 王宮魔術師が、魔術を使えなくなって何故のうのうと王宮にいられるでしょう?

 最後の希望が叶わぬのなら、私は私はお暇を戴き、死を探すと決めているのです」

「麗しき王宮の花、ソレルティア様。

 どうか、その望み…、願いが叶いますことを」


 

   

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