【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国のブラック経営者

公開日時: 2021年7月14日(水) 00:12
文字数:2,073

 翌日、私はガルフと共に第一皇子の居住エリア、その謁見の間に招かれた。



 程なく第一皇子、ケントニス様がアドラクィーレ様と一緒においでになる。

 私がケントニス様に直でお会いするのは二度目だ。


 大祭の宴会の後で、この国の食の事業の開始について語られた時と、印刷物の許可を得る為に申し込んだ謁見の時。

 皇王妃様主催の麦酒の報告会でもお会いしたことを考えれば三度目だけれど。



「妻の命令が聞けて、私の命令が聞けぬと言うか?」

「いえ、そうではございませんが、相手は子ども、幾ばくかのご配慮を賜れませんでしょうか?

 と申し上げております」


 私達の申し出に思った通りと言おうか、ケントニス皇子はあからさまに嫌な顔をして見せた。

 ちなみに第一皇子妃様は扇で顔を隠したまま。

 助け舟を出してくれる気はないらしい。


 …私に恩を売りたいならこういう所で助けてくれればいいのに。


 

「マリカはまだ10歳になったばかりでございます。

 500年以上の時を生きて来た不老不死である我らからすれば生まれたばかりの赤子も同然。

 知識はあっても体力も能力もまだ、か弱き子どもにございます。


 木の曜日と風の曜日に王宮の料理人様方に料理を教え、水の曜日に皇子妃様のお茶会と給仕。

 火の曜日に皇子様と大貴族様に恥ずかしくない昼餐のメニューを考え、合間の時間は下ごしらえや準備、打ち合わせ、というのはかなり難しい日程だとご理解頂けないでしょうか?」


 ガルフの説明は正確かつ正論なのだけれど、


「それくらい、当然だ。

 誰しも休みなど無く働いている。

 子どもと言えど給金を貰い仕事をするのだ。その程度の事で泣き言を言うなど自覚が足りないのではないか?」


 取り付く島もない。


『給料が低くても、仕事を持ち帰っても子どもの為に頑張るのが保育士でしょう?』

 

 うわ~。おまいう。

 働いて給料を貰うなんてしたことのない箱入り皇子がそういうこと、言うんだ。



「まして皇族への奉仕、国を動かす皇族と大貴族に奉仕する名誉を与えるというのに。

 平伏し、感謝して承るが当然であろう?」


 顎をしゃくってそう言ってのける皇子にかつての上司を思い出す。


 頭を下げながら、私はイライラムカムカ、キリキリムカムカ。

 完璧に頭にきていた。

 今回の食の事業が始まるまで仕事らしい仕事もせず、遊び暮らしていたらしいと聞くのに偉そうに。


 給料や待遇では無く、名誉ややりがいで働く人を動かそうとする。

 典型的なブラック企業の経営者だ。


 ちなみに私、皇子からお給料なんて頂いてませんからね。



「大貴族達へ初めての本格的な食のプレゼンテーションだ。

 失敗は私の顔を潰すことになる。

 しいては食の事業にも、そなたらの店にも悪影響を齎すことになるということが解っているだろう?」


 おまけに子どもや庶民にに対して平気で脅しをかけるか。

 大事なのは自分のメンツとは解りやすい。

 …これで遠慮なく決行できるというもの。


「解りました。

 甘えたことを言いましたことを心からお詫び申し上げます。全身全霊にで務めさせていただきます」

「マリカ」


 心配そうな顔でガルフが私を見るけれど、これは話が通じない。

 言っても無駄。


 それを理解したから、私は頭を下げた。

 私が下手に出たのを見て、皇子はふふんと、満足そうに鼻を鳴らす。


「解れば良いのだ。

 当日は男性九名の昼餐を。メインはハンバーグが良いだろう。

 甘いものが得意ではない者もいるのでデザートは甘さが薄いモノが良い」


 ご自分の事ですね、と私は心の中で息を吐きながら口答えせず、説明を聞き確認する。

 

「人数が多いので、給仕はそれぞれの側仕えの方にお願いして下さいませ。

 毒見は皇子様がなさいますか?」

「良いだろう。だが、私には其方が給仕しろ。大貴族達に料理を説明しながら、だ。」

「かしこまりました」


 やっぱり、給仕込になったか。

 仕方ない。

 私を手に入れたことを自慢したいのであれば、そういう事もあるだろう。とは思っていたし。

 …丁度良くもある。




「今回の件が上手く行けば、大貴族達もより料理に興味を持ち、材料探しにも精を出す事であろう。

 今後の仕事にも重要な繋ぎとなり、この国に大きく貢献する事も出来る。

 引き続き励むが良い。下がれ」

「楽しみにしていますよ」

「はっ」


 一方的に話は打ち切られ私達は追い出されるように部屋から辞した。

 扉が閉まったのを確認して私達、私とガルフはため息をつく。

 周囲に人影が無いのを確かめて


「皇族って本当はこういうのがデフォなのかな?」

「これが普通、とは思いたくはありませんが、最初に第三皇子家の方々と出会えたことは幸運だったのでしょうな」

「ホント。あの方達が王様にならないだけでも不老不死って少しは役にたったのかなって思っちゃう」


 思わず零れる本音。

 まったくここまで予想通りだとむしろ清々しい程だ。



「ガルフ、良いよね」

「お望みのままに。ただ…十分に気を付けて下さい」


 ガルフも多分、怒ってくれているのだろう。

 止めないでくれた。


 振り返って扉を見る。

 閉ざされた扉の向こうできっとほくそ笑んでいるお二人の姿が見えるようだ。



 仕事はやる。ちゃんと。

 でも、少し頭は冷やして頂こう。


 これからの為にも、お互いの為にも。

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