【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 異世界転生者の内緒話

公開日時: 2023年5月25日(木) 08:39
文字数:4,615

 騎士試験御試合、一日目が終わった夜。

 私は家の使用人寮、その一角にあるカマラの部屋を訪れていた。


「カマラ、具合の方はどうですか?」

「マリカ様! このような所に来て頂くなんて!」

「あ、身体を起こさないで、そのまま寝ていて」


 ベッドに横になっていたカマラは慌てて身体を起こして立ち上がろうとしたけれど、私はそれを手で止めた。それでもカマラは身体を起こしてくれる。


「まだ、ちょっと呼吸すると苦しいですが、外傷は無いですし、ダメージも今は残っていません。不老不死の身体に結局、守って貰ったようです。

 あれだけ大きな口を叩いておいてお恥ずかしい話ですが……」

「そんなことはありませんよ。初出場で女性初の準決勝まで進んだのです。

 試合内容も見事であると皇王陛下、皇王妃様もお褒め下さいました。

 もっと胸を張って下さい」

「はい。リオン様も、お見舞いにいらして下さったエクトール様も同じように言ってくれました。私にしては出来過ぎの結果でしたし、目的であったマリカ様の護衛として正式に側に着けるので十分な成果であったと思います」


 御前試合準決勝は、私の護衛士カマラと、エルディランドから来た騎士貴族ユン君こと精霊国騎士団長クラージュさんの戦いになった。

 軽戦士同士の激しい戦いの後『本気を出した』クラージュさんが必殺技?を炸裂させ、カマラを戦闘不能に追いやったのだ。

 カマラは不老不死だし、


「リオン様は終了宣言の後、直ぐに私に的確な処置を施して下さいましたし

『先生は多分、最後の瞬間に手加減してくれてた。

 水の盾が無く、先生が加減してなかったら。

 そして不老不死じゃなかったら、間違いなく死んでたぞ』とおっしゃっていました。

 私も、そう思います」


 その辺クラージュさんは考えての行動だったのだろうとは思う。でも女の子の、しかも弟子に本気で技を仕掛けるなんて。

 最終的な勝者はクラージュさんと決まり、それに異論反論を挟むつもりは全くないのだけれど大人げないというか……いや、逆に一週回ってカマラを認めたから、最高の高みを見せたとか?


「カマラ。一体何があったのか解りますか? 私達には殆ど何があったか見えない程の早業で……」

「私も、自分の身で受けても良くは解りません。

 けれど心臓の上に鋭い突き跡が一つ、後は剣を持っていた右手首と左肩に激しい痛みがありました。事前に水の盾を貼っていたのですがそれを貫通したのか、砕いたのか。

 クラージュ様の多段攻撃を受け、その重さに意識を失ったのだと思っています」

「あの一瞬に三連攻撃、ですか?」


 カマラは頷き服を少しはだけさせて見せる。

 白く細い肩、小柄な割に豊な谷間、その中央に今も紅い太刀筋がはっきりと残っていた。


「逆に、お心当たりがお有りなら教えて頂きたいのですが、あれは、どういう技だったのでしょうか?」

「私も良くは解りません。おそらく剣を鞘に入れて引き抜く勢いを利用する抜刀術、居合抜きという技があるのですが、それと身体能力を利用した彼にしかできない攻撃だと思います」


 私の剣道の知識なんてたかが知れているけれど、あの時のユン君はちょっと人間離れしてた。

 参考にすべきはむしろフィクションの世界かなって思う。向こうの世界のゲームやマンガのキャラクターも真っ青な立ち回りと気迫。

 私は精霊国の騎士団長っていうからてっきり西洋の騎士的な戦い方をするのだと思っていたけれど、今回見せたユン君の戦いは騎士と言うより侍に似ている。

 東洋系の国エルディランドで生まれたからか、転生前に日本で剣道を修めていたことに由来するのかは解らないけれど、西洋と東洋の技が入り混じって融合したような、とんでもない技術に私には思えた。

 勿論、試合後の宴席での話題は御前試合のことで持ち切り。


「いやはや、カマラといい、ユン殿といい、リオンといい、其方の護衛は傑物揃いだな」

「一人で独占していないで少しは回してくれる気は無いのか?」

「本人達がそうしたいと言えば考慮しますが無理に命令する気はありませんよ。

 私にも彼らが必要なんです」

「ユン殿は、お前の護衛として来たのでは無くエルディランドの製紙技術指導員だろう?

 文官があんなとんでもない技量をもっているというのか? とんでもないな。エルディランドは?」

「彼はエルディランドの騎士貴族の地位を持ち、成人後は国政を支える王子になることを期待されていた人物ですから、特別でしょうけれど……」

「だったらせめて、剣術指導に!」


 そんなユン君、獲得に向けた火花を散らす戦いもあったのだ。

 因みにお父様は、ノーコメントを貫いた。

 ただ、表情は今までになく、いつになく嬉しそうで、楽しそうでずーっとにやにや。

 後で手合わせして貰おうと思ってるとかかな。

 伝手もしっかりと確保できているし。


「カマラにも後日、精霊剣術を他の騎士や戦士の前で見せて欲しいという要請がありましたよ?」

「え? でも……」

「カマラとシャスレーリオ。両方が揃わないと難しい技だということは理解しています。

 簡単にマネできる者ではないことも。

 ただ、原理を知りたいということなので時間が在る時、応じてあげて下さい。

 カマラは騎士試験準決勝進出者。

 小さな町の町長や大領地の騎士団を補助的に任されても不思議はない位ですから」

「……解りました。微力ながら」


 カマラは恥ずかしそうな顔で、頷いた。


「あ、決勝は明日ですよね。もう一人の決勝進出者はどなたですか?」

「勿論、ミーティラ様です。歴史上初の女性の決勝進出者ということでこちらも大騒ぎですよ」


 雑な報告で申し訳ないけれど、鎧騎士と二連続で戦う事になったミーティラ様はその危なげのない実力でしっかり勝利をもぎ取った。

 相手は得意の大斧を一度もミーティラ様に当てる事ができなかったのだ。


「どちらも今まで、アルケディウスで見たことの無い戦いをする戦士です。

 明日の本選は間違いなく見応えのある戦いになるでしょうね」


 決勝戦進出者二人がどちらも外国籍である事を恥ずかしいという者もいるにはいたのだが、


「元外国籍だ。アルケディウスの宝に偏見は許さない」


 どちら、私の関係者だし。

 私と一緒にお父様に睨まれれば文句の付けようがない。


「マリカ様。明日の決勝戦、私もお側で拝見させて頂いてもいいでしょうか?」

「勿論構いませんが体調は大丈夫ですか?」

「はい。明日までに復調させます。絶対にお二人の決勝戦を見たいのです」

「解りました。明日のユン君のセコンド……付き添いにはリオンが付くそうです。

 私の護衛がてらしっかりと見て勉強して下さい」

「はい!」



 そんな会話を終え、部屋に出ると……


「姫君」

「ユン殿」


 待ちかねていたように、というか待っていたのだろうけれど、ユン君、クラージュさんが膝をついていた。

 周囲に人がいないのを確かめて、私は彼を近場の部屋に招き入れた。

 異国の騎士貴族と二人きりだなんて怒られるだろうから手短に。


「本日は、大事な姫君の護衛に傷を負わせてしまい、申しわけありませんでした」

「試合会場という真剣勝負の場での出来事です。謝る必要はありません」


 深々と頭を下げる彼に私はそう告げた。

 大人げないとは思ったけれど、私が文句を言う筋ではないし、カマラも謝られたら困るだろう。


「はい。カマラに謝る訳にはいかないので、代わりに姫君に。

 私はどうやら、見どころのある戦士や、伸びそうな剣士を見ると嬉しくなってしまう質で。

 それに……」

「それに?」

「どうやら精霊国に戻ったことで、私の身体能力も以前より増している感じです。

 あの技をこの身体で使ったのは三度目ですが、国で使った時よりも威力とスピードが増しています。

 カマラの成長が嬉しくて、ついリミッターが外れてしまいましたが、加減はしたつもりですが、まさかあそこまでダメージが出るとは」


 どうやらユン君本人も自分が使った技の威力に驚いているらしい。


「あれは、どういう技なんですか?」

「力を貯めた後、走り出し速度と剣を抜き放つ勢いを乗せて敵を討つ技です。

 初動に時間がかかりますが、一度抜き打てば、敵が複数でも単独でもある程度対応できる自信があります」

「それは、クラージュさんの頃からの?」

「はい。今にして思えば不思議な話なのですがあの精霊国時代、私に剣を教えてくれた師はどこか剣道じみた技を使う人でした。

 それを自学で磨き、精霊国に招き入れられてから同じく、かの国にあった書物や経験で研ぎ澄ませて、自分のものにしました」

「アルケディウスにも剣道の本が?」

「剣道に近い剣術書、でしょうか? 英語、所謂精霊古語で書かれているので、私は読めなくて、フェイアルに読んで貰った記憶があります」

「英語で、剣術書が?」

「はい。書物や知識があってもそれを扱える者がおらず、当時、生まれたばかりのアルフィリーガに合っていると判断されたようで、彼に基礎を教えるように頼まれたのです」


 リオンの剣技はスピードと力で押し切るタイプだけれど、その根底に正しい剣術の理があるのは彼の指導の賜物なのか。


「精霊国で授けられた剣でも十分な威力を発揮しましたが、転生し、向こうの世界で剣道を学び直し身に着け、こちらに戻ってきた。

 エルディランドで真剣の日本刀を手に入れて、自分でも信じられないくらいに力や、技の精度が上がった実感があります。それに……」

「それに?」

「マリカ先生、向こうでソシャゲをやったことはありますか?」

「ソシャゲ……ええ、まあそれなりには」


 いきなり話の内容が飛んだ。

 こちらの世界でその言葉を聞く事があるとは思わなかったな。

 ソーシャルゲーム。所謂スマートフォンでやるゲームだ。


「僕も、外に遊びに行く余裕も無かったのでそれなりにやり、キャラクターが剣士とかだったりすると特に親近感がわいて良く見てたんです。

 動きが洗練されているなあと剣道の参考にしたり」

「そういう見方でゲームをする人もいるんですか?」

「合理的で無駄が無い。真似てみると意外なほどに技のつながりが良くなって……」

「真似ようと思って真似られる人もそういないと思いますよ。ふつー」

「『星』が下さった身体は、向こうでもこちらでも、それなりに高性能みたいです。

 向こうでは大して役に立ちませんでしたが」


 そうだね。と頷いてみる。

 私の身体はそんなに運動神経が良かったという実感はないけれど、体力だけは自信があった。


「……とにかく。異世界転生とエルディランドに飛ばされたことを、一時は恨みにも思いましたが今は、それも『星』の御意志だったのかな、と今では思えるようになりました」


 以前、私の事を褒めてくれたけれど、海斗先生も異世界に転生した事を無駄にはしていないのだと思う。

 むしろ『星』は私達の力を最大限発揮させる為に、最適のところに落しているのかも。


「カマラには気の毒な事をしてしまいましたが、おかげで力の配分も掴めましたし以後、よほどのことが無い限りは使いません。あの技は、今回の試験、決勝戦では封印するつもりです」

「それで大丈夫なんですか?」

「自分の今の地位と力に恥じることの無い戦いをすることはお約束します」

「……解りました。貴方にお任せします。」


 私は頷くと手をさしのべた。

 座っていた椅子から恭しく彼は手を取って立たせて


「我らが『精霊の貴人』に捧げる最高の舞を、ご覧下さい」

「楽しみにしています。海斗先生、いいえクラージュ」


 指先に敬意の籠ったキスをくれたのだった。


 騎士試験本選、これは決勝前、異世界転生者同士の細やかで密やかな内緒話。

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