話は飛ぶけれどフリュッスカイトから戻って以降『精霊獣』達の姿が暫く見えなくなっていた。
自動操縦モードでさえ、私達の前に出てこなかったのは相当だと思う。
多分、フリュッスカイトで私達。
正確には私が向こうの世界、現代地球の文字と『精霊古語』が同じだと気付いたから。
会えば私に問い詰められると思ってるんだな。きっと。
貴族街で様子を窺うようにして城の付近をうろちょろしていた精霊獣達をアルが見つけてくれたのは騎士試験とその周囲の事が大よそ終わってからのことだ。
因みに蛇足だけれど、国内騎士の上位、現代で言うなら国家公務員上級試験の合格者が騎士貴族。国家公務員が騎士試験予選突破者くらいな感じだろうか?
一軒家が使用人付きで貰え、金貨一枚くらいの支度金も出る。
お給料も最低月金貨1枚 大雑把に言うと百万円?
一週間で少額銀貨1~2枚貰(大体一万円くらい?)えれば相当に高給取りに入る部類であることを考えると破格だ。
今までの平民としての立場から一気に尊重される立場になるのだけれど、今年に関しては新人四人のうち三人は私の関係者で、うち二人。ミーティラ様とカマラは主と共に住むからと、家の下賜や支度金は辞退している。
その代わり、お祝いはいっぱいしてカマラにはエクトール様の贈り物の他に礼装や服を整えた。ミーティラ様にはお母様が同じように騎士貴族としての準備をしたらしい。元々ミーティラ様はこの国の騎士貴族と結婚していて、それなりの地位にもいたしね。
ユン君については外国から来た騎士貴族としてもう、家が用意されている。
もう一人も、大貴族の配下なんだって。
だから去年のリオン、ウルクス、ゼファードのように貴族区画に家を求めることは無かった。
そう、実はリオンも貴族区画に家を持っているの。
あんまり帰っていないし、家令さんに任せきりだって言ってたけれど。
皇王の魔術師と同居、という形で、家の管理はお父様が紹介してくれた話の解る家令さんがしてくれているらしい。
アルケディウスにいる時で、急ぎの仕事や、お父様の呼び出しが無い時はそこで寝泊まりしてるんだって。
今はゲシュマック商会の家に住み込んだいたアルも呼んで、三人(+使用人暮らし)をしているとのこと。いいなあ、楽しそうだなあ。
だから、貴族区画、リオンの家付近で精霊獣様達を見つけたというのも不思議では無い。
第三皇子家の応接室。
お父様とお母様はお出かけ中なので、今、部屋にいるのは私とカマラ。
リオン、フェイ、アルの五人だけだ。
アルの腕の中で身を固くする精霊獣様達。
きっと、私達を心配して見守って下さっていたのだと思うけれど、ここは遠慮なしでいく。
「ラス様、アーレリオス様、お話があります」
私は二匹に、そう声をかけた。二匹、いやお二人は諦めた様にため息をつく。
『話って、何?』
「フリュッスカイトでのことについて、気になることがいっぱいあるんです。
言えない事は、いつもの通り言えない、でいいですから教えて頂けませんか?」
『…それを理解しているのなら、良いだろう。言え』
どこかふてくされたような、投げやりな態度だけど空気は読まずに話を続ける。
「ありがとうございます。じゃあ、まず、フリュッスカイトの精霊神様。
あの方は封印を免れていた、訳では無いんですよね」
『そうだ。あの国の王族も言っていただろう?
あいつは、今の我々のように端末を独自に作っていた。
そこに本体を封印されたせいで、端末だけが残る形になった訳だ。王族と契約し気力を補給していた為、なんとか我々の到着まで端末の維持ができた。
今は本体の封印も解けたし、王族との契約も確立できた。安心せよ』
「それは良かった」
ちょっとホッとする。
リカちゃんをくれたり、色々と気遣って下さった方だ。
封印解呪後は、夢以外で話せなかったからやっぱり心配だった。
「端末製作ってそんなに簡単にできるんです?」
『簡単では勿論、無いが封印前はやろうと思えばできない事は無かった。
我々は子ども達の生活と決断には基本的に不干渉と、決められているので、積極的にやっている者はそう多くは無かろうが』
「お二人は作ってなかったんすね」
『作っていたら、もう少し子ども達を助けてあげられたんだけどね』
『子ども達を助ける』
実に『精霊神』らしいお答えだ。
思わず頬が緩む。
「じゃあ、ここからが本題です。
お二人に精霊古語を教えて下さい、って頼んだら受けて下さいます?」
『構わないが、それでいいのか?』
「はい。精霊古語が、私がもといた、異世界。
地球で使われていた言葉と同じなのはどうして? と聞いても教えて頂けない事は解ってますから」
『君も『精霊』のパターンを理解してくれて何より』
うん、やっぱり禁止事項だね。
精霊古語の秘密、は。
なら、方法は一つしかない。
「私達は秘密を知らないといけない。
でないと成長できない。
『精霊神』様も『精霊』も教えたくないわけではない。でも教えられない。
なら、自分で探します」
『成長する、ってことは『精霊の貴人』に近付くってことだ。……それで、いいの?』
「はい。この星を『神』の手から取り戻し、子ども達が愛されて、笑顔で生きられる世界を作る。
世界の環境整備の為に、私は『精霊の貴人』に『魔王』になるって決めてます。
それはもう、この世界で目覚めたきっと、最初から」
『そう……』
「皆を助け、守れるお父様やお母様のような素敵な大人になり、世界の保育士になる。
その為の力を貸して下さい」
今まで『精霊神』様にははっきりと言った事が無かった思いを、言葉に出して伝える。
顔を見合わせていたお二人は深いため息を一つつくと
『やっぱり、こうなっちゃうのか』
『仕方あるまい。彼女はこういう人物だ。最初から解っていた事だしな』
「え?」
『気にするな。こちらの話だ』
『いいよ。教えてあげる。『精霊神』自身が『精霊古語』をね』
顔を上げて私を円らな瞳に映してそう言った。
「いいんですか?」
『自分で頼んでおいて何言うのさ。文法から綴りまでみっちり教えてあげるよ。
アルフィリーガは読めるけれど、そういう細かいの教えるのは不向きだろうからね』
「ありがとうございます!」
『先にラスの言葉を学べ。私の言葉はかなり文字も文章形態も違う。一度に学ぶと混乱するだろう』
「解りました」
「『精霊神』様、僕にも教えて頂けませんか?」
「フェイも?」
「ただ読むだけでは無く、ちゃんと内容を理解したいと思います」
「おれも! 興味ある」
アルも大きく手を上げた。後は……
「クラージュさんにも教えて頂きたいんですけど」
『一人も何人も同じだ。構わないよ。ビシバシ行くからね』
『アルフィリーガも、参加してちゃんと理解しておくといい』
「解りました」
『後悔するな、ではないな。
後悔してもいい。ただ一人で抱え込むな。お前は、お前達は一人ではないのだから』
「? はい。私は沢山の人に支えて貰ってますから」
最後のアーレリオス様の言葉の本当の意味は、ずっと後まで解らなかったけれど。
こうして、私達の『精霊古語』の勉強会が始まった。
基本は週三日。休みが在れば魔王城で。そうでなければ私の家かリオンの家で仕事終わりの夜。
私の家での時はお父様やお母様も参加して来ることもある。
カマラも参加しようとしたらしいけれど、実はこの世界の読み書き計算も危うい所があると判明したので、彼女は一緒に基本の読み書きなどを勉強し直すことになった。
騎士貴族として国法とかも学ばないといけないし。
開かれた知識の扉はその先にある真実への細い道に繋がっている。
まだ真っ暗。
先の見えない道を、私達はゆっくりと歩き出したのだ。
その先で待つ未来と真実。
そして絶望を知る由も無く。
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