【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

空国 今までとこれからの話

公開日時: 2025年3月30日(日) 13:50
文字数:4,131

 七国大祭巡り 四カ国目。

 ヒンメルヴェルエクト。


「色々と世話をかけたね。マリカ」

「いえ、私は何も……。全ては『星』と『精霊神』様の御威光の賜物でございます」

「そんな固い挨拶はもういいよ。君達は僕達の同類。仲間なんだから」


 大祭の舞を終えた私に目の前に立つ金髪の青年神は柔らかく微笑む。


「気力も精霊の力もたっぷり補充できた。

 何より、君という華の舞は、見ていて幸せな気持ちになるよ」


 この国の守護神にして、光の『精霊神』キュリッツォ様は、私が奉納舞の後の御挨拶に来ると直ぐに異空間に入れて労って下さった。

 火の精霊獣と、リオンも一緒に。ここ暫く別行動が多かったから久々な気がする。


「そう言って頂けると嬉しいです。頑張った甲斐がありました」

「後は、早くこの国にも『聖なる乙女』が生まれてくれるといいんだけどね」

「やっぱり、自国に『聖なる乙女』が欲しいものですか?」

「質や量では勿論君に及ばないだろうけれど、いつまでも君一人に負担をかけるのもどうかと思うんだ」

「別に気になさらなくてもいいのに」


 最近、精霊神様達、随分と私を気遣って下さるなと思う。

 私達が精霊としてほぼ目覚めたことで引け目を感じているのかもしれない。

 精霊神様達のお手伝いは『精霊の貴人』の大事な仕事だし、現状に私は不満ないんだけどね。


「マルガレーテ様も妊娠が可能になりましたので、そう遠くないうちにはきっと、お世継ぎや『聖なる乙女』が生まれてきますよ」

「うん、それを楽しみにしている」





 ヒンメルヴェルエクトに到着して直ぐのこと。


「この度は、本当にご迷惑をおかけしました。」


 入国後の大公陛下への挨拶で、こちらから頭を下げるより先にヒンメルヴェルエクト大公閣下はそう言って、深々と私に謝罪し膝を折った。

 それに周囲の者達も倣う。勿論、最前列に並ぶアリアン公子、マルガレーテ様、オルクスさんも。


「大公閣下。国の長たる方が簡単に膝を折られては……」

「いえ、ヒンメルヴェルエクトが姫君とその関係者に向けた数々の無礼は簡単な謝罪で済ませていいことではございません」

「ということは、マルガレーテ様とアリアン公子から全ての事情をお聞きになられたのですね?」

「はい。『神』の試練に対してヒンメルヴェルエクトがしでかした過ちに始まり、『星』の夢から繋がる公子妃の罪。『聖なる乙女』への無礼まで」


 潜めた声に返る頷きには確かな悔いが宿っている。

 そんなに広くないとはいえ、謁見室に集まった人々がみんな、膝を付いてるということは大公閣下は重臣たちに、大公妃の罪や『星』の夢について知らせ、共通理解を図ったということだ。うーん。潔い。

 私としてはそんなに罪という程の事をヒンメルヴェルエクトに感じてはいないのだけれども。

 一番の被害者はアルだけど、本人は逆に母親の話を聞けたからいいと言っている。


 うーん。ペナルティ必要?

 でも、あったほうが禊になってすっきりするかな? お互いに。

 ということで、私は提案する。ヒンメルヴェルエクトにお願いする予定だったことを。


「では、被害の賠償としてこれから始まる新開拓地の設立にお力をお貸し下さいませ。

 資金や技術供与、人材の確保も他国よりやや多めに」

「え?」

「それで手打ちと致しましょう。資金供与の中から被害に遭った者への賠償も行うという事で」

「ですが、それではあまりにも……」

「申し訳ないと思うのでしたら、その思いを国や星の発展の為に使って下さい。

 それが『神の子』を未来の大公妃とするヒンメルヴェルエクトの務めかと」

「よろしいのですか?」

「ヒンメルヴェルエクトには今後、大陸の穀物庫としての役割を担って頂かなければなりませんので……」


 広い平原と実り豊かな大地。

 自由の精神を受け継ぐ者達の国は、コーン、小麦、大麦、綿花などの栽培においては他国の追随を許さない。今後、十万人が目覚めることを考えればヒンメルヴェルエクトには頑張って主食栽培に協力して貰わなければならない。

 最近は発電所の建設が進み、電気を利用した様々な設備が実験から実用段階に入っているそうだし変に罰して国力を下げるのは得策ではない。


「解りました。ヒンメルヴェルエクトの総力をあげて」

「よろしくお願いいたします」



 そんな会話が王家であったあと、マルガレーテ様の子宮にかけられていたコーティングを解いた。これで、エルディランドと同じようにマルガレーテ様にも妊娠の可能性が戻ってきた筈だ。実際にどうなるかは本当の意味で神のみぞ知る、だけど。




「『神の子ども』とアースガイア人。別に結婚しても問題ないですよね」


 私の質問にキュリッツォ様はこくん、と首を前に動かした。


「ないと、僕達は見ているよ。遺伝子的に何にも他の要素が混ざっていないしね」

「なら良かったです。王家に嫁いだお二人だけじゃなく、男性陣や今後目覚めて来る子ども達のこともありますから」


 男性陣も『神』に子どもを作るなと命じられてみんな、それを守ってきたらしい。

 オルクスさんとラールさんに至っては妻帯さえしていない。言うのは簡単だけど男性の本能? を考えれば簡単な話では無かったと思う。

 自由な恋愛をこれから、楽しんで欲しいものだ。


「君達の結婚式ももうすぐだね。見に行ってもいい?」

「勿論。でも各国の精霊神様が総出でいらっしゃって、国の守りとか大丈夫です?」

「それは心配ないよ。本体は国にある。送るのはあくまで端末だからね」

「あ、そうでした。……変なこと伺いますけど本体である大水晶、傷ついたり壊れたりしたら皆様方、どうなるんでしょうか?」

「うーん」


 今更ながらの質問だけれど、キュリッツォ様は真剣に考えて応えて下さる。


「試したことがないから解らないなあ。それなりの強度はあるから人の手では簡単には壊せないと思うけれど……多分、消失するんじゃないかな? ねえ、アーレリオス?」

「おそらく、な。地球に残った真理香はおそらくコスモプランダーの襲撃で破壊されて死んだ筈だ。まあ、残っていたとしても宇宙船もない状況では我々を追ってくることはできず、地球と運命を共にしただろうが……」


 噛みしめるようなアーレリオス様の言葉に、ふと頭に過るものがある。

 私が見たステラ様の過去。地球滅亡の夢のラストシーンは、バイオコンピューターになったティエイラこと真理香先生を、地球に残った海斗先生が守って戦う場面だった。

 あれはおそらくはこうであっただろう。こうであって欲しい、という星子ちゃんのシミュレーションだったのだと思う。


「人間から精霊石になった方は壊れたり、意識を失ったりは無かったのですか?」

「変生に耐え切れず、精神を失った者は少なからずいた。人から魔術師になる時も、魔術師が精霊石になる時も。そういう魂はナハトもステラも救う事はできず本当の意味で消失してしまっていたな」

「精神や魂が死んでも肉体が精霊石化した場合は、疑似人格をインストールしたりして対処した。人格を持たない精霊石はそんな感じだよ」

「人格はあるが表に出せない石も少なくないしな」

「精霊石っていうのは皆、人が変化した者なんですか?」

「基本的には。というか、本来精霊石と呼ぶのは人間が変化したバイオコンピューターのことだ。精霊神が作ることができる疑似精霊石は、精霊石の定義から外れる。

 普通の、人が操るコンピューターだと思っておけばいい」

「ただ、星の黎明期、僕達も子ども達も後が無い状況で無理をさせた頃と違うから、今は人を精霊石化させるつもりはないよ。十分とはいえないまでも困らないくらいの石はあるし……。あ、そうだマリカ」

「何ですか? キュリッツォ様」


 精霊石の意外な秘密を聞いたのち、精霊神様がふと真顔で私を見た。


「『神』レルギディオスに聞いて、そして伝えてくれないか?

 僕の腹心、王の精霊石はどこに行ったのか? できるなら返してって」


 七人の精霊神様には地球から連れてきたサポート用のAIがそれぞれいた。

 彼らは地球で、自ら命を捧げた人間が変化した存在で、この星にたどり着いてからは各国の王家に託され王族魔術師として立つ彼らを助けてきた。

 アルケディウスとフリュッスカイトの杖は王家に残っている。

 エルディランド、プラーミァ、シュトルムスルフトの杖は王家から離され、別の主がそれぞれ使っている。

 アーヴェントルクの杖はエルディランドにあることが判明した。

 現在、完全に所在不明なのはヒンメルヴェルエクトの杖だけ。


「ヒンメルヴェルエクトのサークレットはマルガレーテが所有していたのでこっそり返還させている。あれはさっきの話で言うと人格を持たないコンピューターのようなものだから」


 つまり、精霊神様は子孫に、王族魔術師として助けるAI機能つきバイオコンピューターと、それを補助するサブコンピューターを遺したわけだ。

 サークレットはともかく、精霊石の杖の所在は確かに心配だよね。


「はい。解りました」

「あの杖は僕の属性の影響で、光、電気、電波などに強い。

 戻ってくれば発電や電波灯台の設立にかなり役に立つと思う」

「まあ、この星の上にある限りはそこまで電波を必要とはしないがな」


 空気中にもあらゆる自然にも。この星にはナノマシンウイルスが宿っている。

 だから今の時点ではその共感性を利用して通信鏡のような連絡手段を作る方が、楽なのだろう。

 良くできた科学は魔法と同じということを言った人がいたそうだけれど、ことアースガイアにおいては正しく魔法≒科学であったわけだ。


「っと、あんまり長くなっても悪いね。じゃあ、後はよろしく。

 大公じゃないけど、僕も必要な事があればいつでも協力するから」

「よろしくお願いします」


 そんな会話の後、私は疑似クラウドを出されたのだけれど。


「あれ? リオンは? アーレリオス様もいない?」


 精霊石の間に戻ってきょろきょろ。一緒に中に入った筈の二人の姿がどこにも見えなかった。

 ふと、不安で胸が痛くなるけれど


「すまない。遅くなった」

「リオン!」


 背後からかけられた声、抱きすくめられた体温に霧散する。


「アーレリオス様は、キュリッツォ様と話があるそうだ。自分で適当に戻るから先に帰っていろと」

「うん。解った。行こう」


 二人並んで神殿を後にする。

 本当に私は単純だ。

 リオンがいれば、元気百倍なのだから。



「「…………」」


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