瑪瑙宮に別れを告げ、馬車で走ること約半日。
私達はエルディランド側が用意してくれた宿にたどり着いた。
あとはアルケディウスに戻るだけなんだけど、コースは二つ。
街道をフリュッスカイト経由で帰るのと、大聖都を経由していくのと。
大聖都を行ったほうが土地勘もあるし、少し近いし安全だろう。
ということになって、エルディランドにお願いして国王会議の時に使う宿をお借りすることになった。
で、たどり着いてみるとまた、凄いことに…。
「これ、全部エルディランドからのお土産ですか?」
いくつも積まれた木箱に俵。
大したものは用意してやれなかった、とかいう謙虚なお言葉はなんだったんですか?
スーダイ王子。
と言いたくなるくらいの贈り物の山だったのだ。
「こんなにいいんですか?」
「大王様やスーダイ王子からの気持ちです。
どうぞお受け取りを。
置いて行かれると宿の者や、多分私も怒られますね」
面と向かって渡すと遠慮されるから、っていうお気遣いなのだろう。
護衛兼案内人として国境まで同行してくれることになったユン君が肩を竦めて笑ってる。
ずるいなあ。
そういうこと言われると、こんなにもらえませんって言えないじゃん。
「俵の方はソーハとリアです。ゲシュマック商会が購入していったことは存じていますが、多くて困るものではないだろうと王子が。
どうぞアルケディウスでの料理披露にお使い下さい。
お気に召せばどうぞ輸入のお声かけを」
「もちろん、絶対に継続輸入いたしますが…。
そうだ。お聞きしたかったんです。こちらのお米…リアにもち米ってあります?」
他の人には意味が分からないだろうけれど、この人なら解る筈。
どう聞いたらいいのか解らなかったので私は単刀直入に聞いてみた。
思った通りユン君は私が望んだ答えを返してくれる。
「…実は、それなりに品種もあるんですよ。
私には味の区別がつきませんが。もち種は存在しますのでアルケディウスに指導員が行くときにお持ちします」
よっしゃ!
これでもち米GET。
お餅とかも作れるようになるかもしれない。
ソーハはアルケディウスでも育ててもらおう。
「あと、こちらは頼まれていた種麹です。
増やし方のメモもつけてありますので、ご活用ください。
味噌が成功したら、私もぜひご相伴にあずかりたいですね」
少し小ぶりの箱の中には割れないように緩衝材代わりの藁で固定された白いツボがある。
中にはちょっとすっぱいような、甘い香りの白い粒が。
これがあればお味噌や塩麹が作れる。
塩麹は料理の万能調味料の一つだ。
私は良く炒め物やなべ物、お漬物、魚の一夜干しにも使ってた。
味噌作りも記憶にはあるけど、やるの初めてだから楽しみだ。
冬がいいというから、魔王城で子ども達と一緒にやってみよう。
あとはソーハとにがりがあれば、お豆腐も作れるかな?
海水は天然のにがりだと聞いた。
海産物の産地、ビエイリークで少し組んできて貰ったらできないだろうか?
海の成分が向こうの世界とは違う可能性も高いけれど。
お豆腐作りは学童保育で子ども達とやったことがある。
にがりの代わりに海水でできたはず。
お豆腐ができれば、厚揚げ、油揚げ思いのまま。
納豆は、とりあえず我慢するけれど。大事に育てて使おう。
夢が膨らむ。
「後はエルディランド特産の精霊上布と細工物ですね。
紙も多めに用意されている筈です」
精霊上布、すなわちシルクはエルディランドが原産で、虫が気候の変化に弱い為エルディランドと似た気候のシュトルムスルフトしか育たないのだそうだ。
なので両国の特産。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
気になることはあるのだけど、今言うことじゃないな。
後で。
魔王城に戻ってから考えよう。
精霊上布は数も少ないので、皇室用のお土産。
木彫りの小箱や、飾り物、水牛の角細工は上物を取り分けて、後はプラーミァの時と同じように随員のみんなに分けてあげた。
「あ、これ前に祭りのお土産でもらったのと同じだ!」
「ホントだ。凄いねえ」
アレクとアーサーも嬉しそうだ。
「あの子達も能力者ですか?」
クラージュさんが二人を見て問いかけてくる。
そっと、うっかりすると聞き逃しそうな小さな声で。
「はい。…エルディランドでは子ども達の能力については?」
あの子達も、ということは少なくともクラージュさんは子どもの能力について知っているのだろう。
精霊と契約した戦士だし。
「三人の王子達には教えました。
彼らから、能力者と呼ばれる者でも不老不死を得ることで力が消えることも確認しています。
今、一族にいる子の中では能力を発現させている子は半々、くらいですかね?」
「そんなものですか? 魔…私の預かっている子達の間では発現率は8割近いんですけど」
彼の答えに少し首をひねってしまった。
孤児院にいる子達はともかく、魔王城で育っている子ども達はほぼ全員能力を発現させている。
あとから来たファミーちゃんも、精霊を見る力がありそうだ、という話。
「皮肉な話ですが、過酷な目にあってきた子の方が発現率は高いようです。
厳しい世界で生き残るための力、ということでしょう。
あとは、今のままで終わりたくない。もっと前に進みたいという向上心のある子でしょうか?」
なるほど。
何不自由なく生きていて、今の生活に満足していれば別に能力がなくても生きられる。
何かをしたい。
誰かの役に立ちたい。
そういう思いに力は答えてくれる。
なるほどなるほど。納得できる話だ。
「エルディランドでも、一族以外に子どもと関わる者は多くありません。
個人レベルで知る者はいても、積極的に集め活用しようとする者はあまりいないのではと見ています。一族の者達にも口外は禁じています」
「その方がいいですね。下手に知れれると子ども達が危険ですから」
「はい。第二王子の名を使って不遇の子ども達は可能な限り保護していきますので、その点はご安心を」
「ええ。クラ―、いえユン様がいるのなら本当に何の心配もございません」
「お任せ下さい」
これで、プラーミァとエルディランド。
二つの国で子どもが保護されることが約束された。
アルケディウスの様に打ち捨てられるばかりではなく、利用されるばかりでは無く。
子ども達が自分の力で、自分の生きる道を見つけられるようになる。
「姫様? どうなさったのですか?」
ぼんやり考え込む私をノアールの黒い瞳が見つめていた。
「なんでもありません。お土産は分けて貰いましたか?」
「はい、ステキな木箱を。大切な物を入れるのに使いたいと思います」
「それは良かった」
ぎゅっと、本当に宝物を貰ったように木箱を抱き締めるノアールが可愛い♪
「今日は頂いた食材でエルディランドのお別れ料理を作りましょう。
手伝って貰えますか?」
この幸せな気持ちで料理したらきっと美味しい料理ができそうな気がする。
「はい、勿論」
「ユン様もいかがです?
ここは王家の宿なので台所があるのを確認したのです。
チキンライスを作って、卵があるようならオムライスを作ろうと思うのですが…」
「ぜひ!!!」
頼りになる仲間達と、幸せそうな子どもの笑顔。
それが、私にとっては一番のお土産だ。
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