子ども達の成長の証。
ツリーハウスを見上げながら、私は何度目かの感心と、感嘆の息を上げる。
凄いなあ、頑張ったなあ。
って心から想うのだ。
始まりは、私達が旅に出て元気が無かった子ども達に、ティーナが声をかけてくれた事らしい。
「マリカ様達がお戻りになるまでに、何か目標を決めて見ませんか?」
「もくひょう?」
「ええ。
何かを作るでもいいし、何かできなかった事をやれるように頑張る、でもいい。
やりとげられたらきっと、マリカ様は喜んで、褒めて下さいますわよ」
私、ティーナに児童表、渡してたからね。
児童表っていうのは、子ども達一人ひとりの個人データのようなもの。
ざっとだけど、子ども達の好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、苦手な事とか癖とか、そういうの書いておいて、留守中の寂しがった時とかの参考にして貰ってた。
で、子ども達が目標を考えていた時に、ニムルが提案したんだそうだ。
「城の外に隠れ家みたいなのを作ったらどうだ」
って。
ニムルは豪華な魔王城の部屋が、今一落ち着かなかったらしい。
城下町にも空き家とかはいっぱいあるけれど、それじゃあ、秘密にならない。
どうせなら新しく作ろう。
私達を驚かせる凄いのを作ろう、となって。
これもニムルが昔、大人から逃げた時に、森の木の上に隠れたという話から、木の上に家を作ってみようということにしたという。
なんでも樹上にけっこう広いスペースがある木をジャックとリュウが見つけてたんだって。
私達が魔王城に来て間もなくの事だったけど、リオンが無理な木登りをしたアーサーを助けて大怪我をしたことがあった。
それ以来、苦手な子以外には、正しい木登りの仕方をリオンが折りに触れて教えている。
アレクとヨハン以外は、全員普通の木なら軽々登れるようになった。
今、実は木登り、一番上手なの、実はジャックとリュウなんだよね。
身体が小さい分、身が軽くてするするって、高い所も登っちゃう。
オルドクスがいない時には、もしもの時助けられないから木登りはしないでって言ってあるけど。
材料は私が加工用に地下に貯めた釘や木材、あと、エルフィリーネから許可を得た古い物置とかから調達。
安全性を考えてシュウが設計して、皆で作ったというから驚きだ。
流石天才技師、と褒めたらシュウは。
「ニムル兄ちゃんが手伝ってくれなかったら、できなかったけどね」
と謙虚に笑っていた。
ニムルと仕事が終わった後のエリセが、木の上に魔術で材木を上げて固定。
これが魔術で無いとできなかったんだって。
材料が上に上げた後はシュウを中心とする年中組が組み立てた。
ジョイが危ない所を確認し、木の上でも特に頑丈な所に作ったという。
だから、私が見た時点でも子ども数人が入って遊ぶ隠れ家としては十分な強度を持っているように思えた。
私達に見せてくれた後は私とフェイが見えない所を補強したので、貨物コンテナ並には頑丈になっている。
100人乗っても、ってわけにはいかないけれど、二十人くらいなら平気でいける。
子ども達が作った
『ひみつのおうち』
中にはギルが綺麗に絵を描いてたり、シュウが作った時計がおいてあったり、干し果物が隠してあったりして、本当に子ども達の秘密基地って感じだ。
ここまで作るには危ないこともあったんじゃないか、と思うけれども、子どもたちが、自分達の力で、一生懸命頑張ったのだから、そこを指摘するのは止めにする。
大事にしていくつもりだ。
その日の夜。
仕事が終わって帰ってきたアルにも報告した。
アルも喜んで、次の休みには一緒に遊ぼうという話になったのだけれども
「あ、そうだ。次の休みで思い出した。
王宮から手紙を預かってたんだ。
返事を早急に頼むってっさ」
そう言ってアルは一通の手紙を私に指し出した。
「私に?」
「そう。次の夜の日に時間を取れないかって」
「誰から? お父様やお母様なら別にいつもの事だしいいと思うけど…って、え?」
私は指し出された手紙を見て、硬直した。
封蝋で閉じられた正式文書。この紋章を使える人間はたった一人。
つまり差出人は…
「皇王陛下?」
慌てて封緘を割って中を見る。
中の内容はさっきアルが言った通り夜の日に、皇王陛下が私のお見舞いに来たいというもの。
護衛はお父様。
皇王陛下と文官長タートザッヘ様の三人のみということだ。
ソレルティア様かフェイを迎えに寄越して欲しいとも書いてある。
けどちょっと、待て。
一週間の休み中、皇王陛下が私をお見舞い下さるってことは、魔王城に来るってことだ。
「本当に、本気だったんですね」
フェイが文書を覗き込みながら目を瞬かせる。
「何が?」
「皇王陛下と文官長様が魔王城に来たい。
中に入れないなら、外から見るだけでもいい。とおっしゃっていたんですよ」
「え? 何で?」
「お二人に…皇王妃様も加えると三人ですが…にとって『精霊国』『精霊の貴人』は憧れの存在だったのだそうです。
加えて文官長様は魔王城の蔵書にも興味がお有りのようで…」
「ソレルティア様も夢中だもんね。ただ、それはまあいいとして…」
くるくると文書を巻き直してリボンで結ぶと、私はリオンに向かいあった。
「リオン」
「なんだ?」
「確か、私とリオンの正体、皇王陛下にお話したって言ってたよね。
どこまで話したの?」
皇王陛下はどこまで知っておられるんだろう?
私=精霊の貴人まで? それももっと先まで、なのかな?
「マリカが精霊の貴人の生まれ変わり、俺が勇者の生まれ変わり、までだ。
俺はライオと旅してた時代、一度だけだがお会いしたことがあったからな。
騎士試験の頃には、なんとなく察しておられたらしい」
「私の事は?」
「詳しくは話してない。もちろん、その前の話も。
『精霊の貴人』は神に殺された後、『星』の力で転生した。それがお前だってとこまでだな。
後、ライオが助けた子どもを魔王城の守護精霊とガルフに預けた。
アルやフェイ、マリカ達の教育は魔王城の守護精霊がした、ってことになってる。
後は、前世の記憶はない、と言ったかな」
「それは、まあ、いいけど…。リオンは、知ってるよね。
『精霊の貴人』マリカは役職で、代替わりしてるの」
「一応、な。俺はマリカ様一人しか知らないけど」
さて、どうしよう。
受け入れるのは別に構わない。
今後、クリスだけではなく、今残っている子ども達もいつか島の外に出る事を考えれば後ろ盾になって貰えればありがたいと思う。
でも多分、皇王陛下は『精霊の貴人』がそっくりさんの代替わりであることは知らない。
女神みたいに思っているから、ご自身がお会いした『精霊の貴人』と『勇者と共に死んだ魔王(精霊の貴人)』は同一人物だと思っている可能性が高い。
私の前に四人いたという精霊の貴人の多分、三番目と四番目。
ぶっちゃけちゃっていいものなのか。
「まあ、記憶がないのは本当だし、精霊の貴人の話や精霊国についてはスルー。
城の中に入って頂いたりはできないから、とりあえず外から魔王城を見て、城下町の廃墟を見て。
後は森を少し見て頂くだけ。それでいいなら、受け入れてもいいかな。
エルフィリーネ」
「はい。マリカ様」
私はいつの間にか側に来て話を聞いていたエルフィリーネに声をかける。
「城の外には出られなくても、門の外側に姿を見せるくらいはできる?」
「はい。可能です」
「じゃあ、お願いできないかな?
私が自分で『精霊の貴人』の転生ですっていうよりも説得力がありそうに思うの」
多分、城に来る以上信じていない訳じゃないだろうけれど。
私達に見せられる証拠、なんてそれくらいだしね。
「かしこまりました。
私も『精霊の貴人』からアルケディウス皇王家の話は聞いておりますので、悪印象はありません。
マリカさまやアルフィリーガの後見人にちゃんとご挨拶させて頂けるなら、良い機会だと思います」
後は細かい点を詰めて、私は受け入れるむねのお返事を書いた。
皇王陛下に泊まって頂ける宿泊施設は無いから日帰りだけどね。
本は城から出せるものをフェイとエルフィリーネに選んで貰ってお貸しする。
訪問が皇王陛下とかち合うガルフ達には悪いけど、報告が一気に終わると思ってプラスに考えて貰おう。
「だんだん、魔王城の島も来訪者が増えて来たなあ」
ふと、そんなことを思う。
二年前はガルフやティーナが来ただけでも大騒ぎだったのに。
「宿泊設備、増やした方がいいかな?」
皇王陛下やお父様達が島で寝泊まりするとかはあんまりないと思うけど。
城下町は基本廃墟だから、人が住めるまでに整備するの大変。
「樹の家は?」
「あそこは子ども達の秘密基地だから、私達があんまり余計な事をするのもどうかな、と思うんだよね。でも、布団や椅子、テーブルは置いてもいいかもね。何をするにしても」
「冬は流石に厳しいんじゃないか?」
「それはそうだね。冬の宿泊施設封鎖の時に一緒に閉める感じかな?」
その後、私達はツリーハウスに何を置くかを子ども達と話し合った。
色々と子ども達は道具や宝物を置きたいらしい。
楽しい話題がまたできた。
ちなみに、後の話になるけれどツリーハウスは私達や、子ども達の予想を超える大活躍をすることになる。
子ども達の秘密基地として、隠れ場、逃げ場として。
そして守護精霊の目の届かない、秘密の話をする場所として。
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