昼食の後は、子ども達と約束通りいっぱい遊んだ。
森の中でのかくれんぼ。
鬼ごっこ。
木登りやかけっこもやって、川で水遊びもしたりした。
久しぶりに全力全開で遊んだあと。
で
「へえ~。これがマリカが選んだショートソードか」
夕食。
みんなでの野外パーティ。
アルケディウスでの仕事から帰って来たリオン達が興味深そうに私がカマラにあげた『精霊石』の武器を見やる。
ちなみに夕食はチーズフォンデュ。
鍋物は夏には少し暑いかなと思ったけれど、夜になって日が落ちてきたら涼しくなって丁度いい。
「うわー、これ美味しいね」
「口の中でチューロスが蕩ける~」
みんな夢中でフォークに好きな素材を付けては鍋の中に突っ込んでいる。
野菜も、肉も、パンも大抵のものが美味しく食べられていいよね。
今度はオイルフォンデュもチャレンジしてみたい。
チョコレートフォンデュはまだまだ難しいだろうけれど。
そして、改めて。
昼間、ファミーちゃんにあげた精霊石のペンダントと共に、宝物庫から私がもってきたカマラ用の剣をリオンに見て貰う。
リオンはカマラの剣の師匠だからね。
一応許可を取っておかないと。
「どうかな? 不老不死者でも力を貸してくれるって言ってたからもってきたんだけど」
「しゃべったんですか?」
「あ、ううん? 感じただけ」
「でしょうね。剣や武器防具の精霊石は、術者の石よりは全体的に弱めの傾向にあります。
主から力を供給されたり、主と共に経験、成長を積めば力が高まったりしゃべることもあるようですが、宝物庫から出されたばかりの武器には難しいでしょう」
「じゃあさ、おれの盾も、おれが大きくなって強くなったらしゃべる?」
「人の話に割り込まない!
でも可能性はありますよ。毎日訓練を続けて、大事にすれば、ですね」
私達の話を聞いて、側でベーコンを頬張っていたアーサーの目が輝いた。
アーサーの盾は宝物庫からもってきた精霊石の盾だからね。
クリスの護身用短剣にも小さな精霊石が付いてる。
二人も自分の武器と喋れたら、とワクワクしているっぽい。
うん、不思議な力を持つアイテムとおしゃべりするってロマンだよね。
「こいつもいい武器だ。
真面目で、主の為に努力や、できることを惜しまない……カマラ。ちょっと来てみろ」
「は、はい」
一人食事よりも剣の方が気になっていた様子のカマラは、空っぽのお皿を手近に置いてリオンの側に駆け寄る。
「ほら」
「え? わああっ!」
投げ渡されたショートソードをあわわと落さないように必死で受けとめると、カマラはじっと見つめる。
軽量化の魔法がかかっているので軽い筈だ。
私でも片手で持てる。
「鞘から抜いて、『エル・フェイアルス』って唱えて見ろ」
「は、はい。『エル・フェイアルス』」
精霊の呪文は発音が大事。
同じ言葉でも発音が適当だと発動しない事もあるんだけれど、カマラはリオンの言葉をしっかり聞いて正しく発音する。
すると、
「わっ!」
刀身に炎が灯った。
前に私がやった剣に精霊を宿して攻撃力の底上げをする術だ。
でも、昔はともかく今はそういう概念も、そういうことができる武器も無いので絶滅した技らしい。
「剣に、炎が? 不思議……ですね。熱くない?」
「攻撃した相手には熱と、炎の力が行く。
練習して使いこなせれば、敵の意表を突き攻撃を通しやすくなるだろう。
軽戦士の軽い攻撃威力を補う手段の一つになる筈だ」
「でも……なんだか不思議です。私が精霊の術を使えるなんて……」
「正しい発音と思いがあれば、精霊石が無くても術を使う事は不可能ではありません。
不老不死者には少し難しくはありますが。
今回の場合は、貴女の思いや発音では少し難しい所を剣が手助けしてくれた感じですね」
「この……剣が?」
時間切れか、刀身からフッと炎が消えて元の抜き身の刀に戻る。
「リオン様。この剣、私が使ってもいいのでしょうか?」
「マリカがお前の為に選んで、剣が納得してお前に力を貸すと決めているんだ。俺に異は無い」
「ですがこんな、見るだけで解る業物……。王宮の戦士でも持っている人は滅多にいません。
しかも魔術がかかった剣で、精霊の武器?
私のような半人前以下が……もっていいものでは……あつっ!」
「どうしたの? カマラ?」
「なんか、剣が一瞬、熱くなって……」
剣がカマラの手の中でぽんと跳ねた。
一瞬、と言ったとおり、もう一度握られた時には熱くなかったようだ。
どういうことだろう、と思っていたらリオンがくすくすと笑いだした。
「お前が卑屈な事を言うから、剣が怒ったんだ。
精霊の武器には、主を選ぶ権利がある。
相応しくない。使われたくないと思ったら、その人物は剣を握る事さえできない。
武器として手に持てている時点で、その剣はお前を主として認めて、力を貸すつもりだってことだ」
そういえば、神の額冠とか被る人間を選ぶとかで、相応しくない人間には持たれないようになってたっけ。
私やリオンの手の中でも大人しくしていてくれたのは、中継ぎだと解っているからか、精霊の力があるからかどうかは解らないけれど。
「私を、主として……認めて、下さる、と?」
「逆に、お前が主として相応しくないと思えば、即座に見限られる。精霊石の武器は見限ることができる。
大切に扱い、育て、親友としてパートナーとして会話もできる剣に育て上げるか。
剣の力に驕り、見限られるかはお前次第だけどな。
それとも自分は相応しくない、って諦めて宝物庫に返すか?
精霊国の宝物庫の剣だ。これ以上の武器がお前の手に入ることはまず無いと思うが……お前がそれを望むなら……」
「か、返しません。だ、大事にします。絶対に!」
手を伸ばしかけたリオンから、パッと守るようにカマラは身を引き、剣を抱きしめる。
別に取り上げるつもりも無かったのだろう。
リオンは小さく笑って手を引いた。
「私のような存在を選んで力を貸してくれるのなら、私も、貴方を選びます。
どうか、マリカ様を助ける為に力を貸して下さい。そして、一緒に成長して行きましょう」
大事に剣に語り掛けるカマラに応えるように柄の精霊石も輝いた。
きっと頷いてくれているのだ。
「『精霊』『精霊石』は基本的に成長しません。
最初から完成されたモノとして生み出されます。
でも、その力を十全に引き出す為には使う人間の努力が必要であり、武器の精霊は特に人の成長と、その努力を重んじる傾向があります。
全てはあなた次第ですよ」
「はい! 頑張ります!」
思った以上に大事になったけど、カマラがいいパートナーと出会えて良かった。
いつか、カマラとあの剣が、リオンとエルーシュウィンのように仲良しになってくれるといいなと私は思ったのだった。
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