お風呂に入って、ゆっくりとベッドで眠り、翌朝のご飯を作る。
定番だけどパンと魚のムニエル、野菜サラダ。
スープベースストックをたくさん作っておいて色々活用している。
イノシシでとった豚骨や鳥ガラスープの元は野菜を入れたりすればイロイロに使えるのだ。
今日は千切り野菜を入れたコンソメ風。
皆で食べる賑やかで楽しい朝の食卓で。
「あ、そうだ」
私は大事な事を知らせておく。
「みんな、ね。
アルケディウスに行く事になっても、元いた場所に戻らなくて良くなったから」
「え?」
きょとんと、目を丸くする子ども達。
皆、食事の手を止めて、私の方をじーっと見つめている。
「覚えてる子もいるかな? 元は私達、ライオット皇子がアルケディウスの家から連れ出して助けてくれたの」
頷く子、身震いする子、反応はそれぞれ。
もう思い出せない遠くになった子も、そうでない子も、でも多分心のどこかに残っている。
虐待の日々が。
「許しなく連れ出して来たから、返せって言われれば返さなきゃいけない可能性もあったんだけど。
皇子が全員分、謝って、買い取りと保護の処置をしてくれたから、もうみんな自由なの。
好きな所に行って良くなったんだよ」
でも、皇子が自分の罪を認め、正式に子ども達のいた家全てに謝罪と賠償対応をして下さった。
だから、子ども達は全員が皇子に買い取られた形になって何をしても、どこに行ってもよくなったのだ。
来年、アレクは王都で楽師とデビューする予定だし、エリセは第三皇子お抱えの精霊術師となる予定。
「おれ達も…外に出られるようになる?」
伺う様にそう言ったのはクリスだ。
アーサーが外に出た後、魔王城に残った子ども達を纏めてくれているけれど外にでたい希望を一番持っているのは知っている。
彼が望む『郵便屋さん』つまり伝令の仕事は外の方が多く、役だてるし。
「皆が望むなら、必ず外に出すよ。
でも、その為には勉強をしっかりする事。
読み書き、計算。自分の事は何でも自分でやる。何より外に出た時に絶対に能力と魔王城の事を他の人に言わない。
それができるようになったら、絶対に外に行けるようにするから」
「! 解った! おれ、がんばるから!」
「おれも!」「ぼくも!」
残った子達が口々に約束の手と声を上げる。
躊躇うような表情を見せる子もいるけれど、みんな外への興味はもっているようだ。
勿論、無理に外に出て仕事をしなくてもいい。
魔王城に残ってのんびり生活を楽しむのも、一つの選択だし。
「その為には、ティーナとエルフィリーネのいう事をちゃんと聞いて魔王城で、しっかり生活してね。
私や、リオン兄達は、帰ってこれない日があっても必ず、ここに戻ってくるから」
「ちゃんとかえってきて…ね」「まってるから」
ジャックとリュウが見上げるような目で私を見つめる。
私は二人の切ない眼差しと思いを受け止めて。
「うん。必ず帰って来るよ」
約束をした。
そういえば、皇子が安全の為、に寄越してくれたデータによるとジャックとリュウ。
魔王城の元最年少の二人は双子の可能性があるらしい。
二人一緒に同じ大貴族の使用人部屋に押し込められていて、誰にも構われないでいた。
ジャックは薄い金髪で、リュウは淡い銀髪。
容貌も言われてみれば似てはいるけど見分けが付かない程そっくり、という訳でもないので実際にそうだったとしても二卵性なのだと思う。
でもずっと二人一組で生活してきたので仲は良い。
ケンカもするけれど、直ぐに仲直りして遊ぶ事が出来る。
この二人が外に出られるようになることが、魔王城の保育園の最終目標だろうか。
いずれはこの島で生まれたリグも出してあげたいし、外で行き場の無い子をこちらに連れてきたりもしたいけど。
私はそんな事を考えながら、最後に残った魚の欠片をスープで喉に流し込んだ。
朝ごはんが終れば、私達はアルケディウスに出勤だ。
城中のみんなが見送ってくれる。
「じゃあ、私達は行ってくる。
冬で外に出られなくても、危ない事したり、暴れ過ぎたりしないようにね!」
「はーい」
子ども達は笑顔で笑ってそう言ってくれた。
一応、デイリープログラムも用意してあるし、勉強課題も準備しているが無理はしなくてもいいと言ってある。
怪我がないように元気で過ごしてくれればそれでいい。
「マリカ姉! ティラトリーツェさまの赤ちゃんたちによろしくね~~♪」
「うん、ティラトリーツェ様に伝えてお…えっ?」
ジャックがニコニコ笑顔で言ってくれた伝言を、私はうっかり聞き逃すところだった。
「ちょ、ちょっと待った。ジャック! 今、赤ちゃんたち、って言った?」
「ん? だって、ティラトリーツェさまのおなかの赤ちゃん、ぼくたちといっしょでしょ?」
「ふたり、なかよし。ぼくたちとおんなじ♪」
目を瞬かせる私にリュウまで当たり前だ、という様に頷いている。
二人には、もしかしたら最初から自分達が一緒に生まれて来たという事は当然だったのかもしれないな、と思いつつ今、重要なのはそっちじゃない。
「お腹の中に…二人?」
それを感じ取ったのが二人の能力なのか、それとも双子としてのカンなのかは解らない。
大事なのは、ティラトリーツェ様の子どもの数が本当にそうなのか。だ。
「どうしたの? マリカ姉?」
「教えてくれてありがとう。ジャック、リュウ!
みんな! 大急ぎであっちに戻るよ!
エリセ。悪いけど、今日は一緒に来て。お店の皆やティラトリーツェ様の許可は私が取るから」
「解った!」
リオンは仕事で、詰所に泊まってるけど、フェイとアルはガルフの家にまだいる筈。
相談して、アルにも貴族街に来てもらって見て貰おう。
「まあ、どうしたの? 急に。
みんな揃って…」
「エリセ、アル。お願い…」
朝早く、予定では無い面会をティラトリーツェ様は、快く迎えて下さった。
私やフェイはともかく、エリセやアルは皇子の館で、皇子妃モードのティラトリーツェを見るのは初めての筈だ。
緊張に身を固くしているけれど、確かめておく必要はある。
「どう? 二人とも?」
エリセは目を閉じ、アルは逆に目に力を集中させて、ティラトリーツェ様を『視る』
「あ、うん。聞こえる。…二人の声」
「オレの能力は透視じゃないから、詳しくは言えないけど…間違いないと思う。気配は確かに二つある」
「そっか…ありがとう」
この世界にはエコーも、超音波も無いけれど。
聴覚と視覚。
両方の異能力者が言うのなら間違いはない。
「何? どうかしたの?」
柔らかい声と視線で私達を見ていたティラトリーツェ様の瞳が剣呑な光を宿す。
跪き、私はおそれながら、とティラトリーツェ様と、その側で同じ眼差しで私達を見るミーティラ様に向けて顔を上げた。
「ティラトリーツェ様。
お腹の中にお子は、一人ではなく二人宿っています。
双子です」
と。
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