【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

大聖都 フェイ視点 アルケディウス随員団の事情

公開日時: 2023年1月31日(火) 07:45
文字数:2,654

 『神』の本拠地。

 大神殿に到着して二日目の朝。

 それぞれの身支度や食事、一通りの片づけなどが終わった一の火の刻。


「基本的には、マリカが戻って来るまで俺達にやる『仕事』はない。

 だが『やる事がない』わけではないぞ」


 マリカと共にやって来たアルケディウスの随員達。

 彼らを全員集めての朝の打ち合わせ。

 彼等を纏める騎士貴族 使節団第三位としてリオンはそう檄を飛ばした。


「そうだな。マリカ皇女がいないからこそ、できる事、やるべき事もある」


 満足そうに頷くのは使節団、第一位の地位を持つ皇王の料理人ザーフトラク様。

 けれど彼は


「私はあくまで、後見と目付役だ。

 子ども達の行動の邪魔はするなと皇王陛下からも言われている」

 

 と至って謙虚にリオンを立てて下さっている。

 マリカが慕うだけあって、貴族の中では信頼できる方の一人だと思う。

 基本的な確認事項や、今日の予定、今後の事などを皆に告知するリオン。

 情報の共有は大事な事だと、常々マリカは言っている。


「護衛士達は訓練が主だが大神殿から、魔性増加の連絡が来ている。

 居住区画の護衛の他、ザーフトラク様や、非戦闘の随員達の外出時の護衛を行うように。

 人員割り振りは後で知らせる」

「ザーフトラク様の……護衛? ザーフトラク様には外出の予定がお有りですか?」

「うむ。悪いが皇王の魔術師。

 私はただ、其方達の料理を作りに来た訳ではないのだ」


 疑問を浮かべた僕の視線に気付いたのだろう。

 ザーフトラク様は腕を組み、鷹揚に頷いた。


「悪いが私は、今回色々と出歩く予定だ。

 護衛のみならず、ミリアソリス。後、何人かには常に付き合って貰う事になるな」

「どのような、ご用件で?」


 返事の代わりに、カラカラと音を立てて投げ出されたのは木板の束。

 いくつかを眇めてみれば、どれも『聖なる乙女』マリカ目当ての面会希望の申し込み、だと解る。

 まだ、昨日到着したばかりだというのにこんなに?


「『聖なる乙女』と好を繋がんとする者は多い。

 どんな機会でも逃さず、少しでも……と、皆思うのであろうな?」


 普通に考えれば、儀式前に『聖なる乙女』と会えるわけはない。

 それを見越してか面会の希望日の多くは祭後になっている。

 マリカではなく副官、随員長、としている板もある。

 この辺はマリカを得る為にはまず、周囲からという志向なのかもしれない。


「皇女の儀式が終わり次第、帰国だから、当然その殆どには断りを入れる事になる。

 だが、断れぬ筋、断るには惜しい筋に関しては私が対応する予定だ。

 例えば……これや、これとかな」


 木板の中から一枚を選んで渡すザーフトラク様。

 見てみれば、ルペア・カディナ市民区画の長の名があった。

 後は、商業ギルド長。

 葡萄酒生産農家の代表の名もある。


「ルペア・カディナは大神殿の力が非常に大きい。

 都市部、市民区画については、大神殿がほぼ需要の全てを担っているので完全に下に見られていると聞く」


 元々、大聖都 ルペア・カディナは大神殿ありきの街。

 大神殿で使用する日用品や、衣服、昔は食料などを供給する為の職人や商人が集まってできたと言われている。


「神殿で使う品を作るだけに技術力は高いようだがな。

 彼らと好を繋ぎ、皇女の味方を増やす。同時に食の裾野も広げる。

 まあ『食』の外交。ルペア・カディナ版だな」


 なるほど、と素直に感心した。

 七国の王家については国に他国の王族を簡単に入れられない事情や、下の者から指導を受ける等許されない事情から、マリカが行くしかないが、大聖都なら。

 市民区画の代表はいわば大貴族扱いで、アルケディウスの文官最高位のザーフトラク様なら、知識と技術を所有していることもあって対等、もしくは上の扱いになるだろう。

 現在、アルケディウスには各国王家からの料理研修生が来て、料理方法を学んでいるが、高額かつ順番待ちで本国の大貴族でさえ『新しい味』の完全入手には至っていない。

 一番近いのはコネを使って、料理長を送り込んだ大神殿で、マリカが釘を刺さなければ高値で料理方法を売りさばく気満々であったようだ。


 そんな状況下で『新しい味』を振舞う。料理法を教える。などすれば味方を増やせるかもしれない、ということだ。

 大神殿は今、儀式の準備で大忙し。

 目にも止まりにくい……。


「マリカを囮にして、その間にルペア・カディナに手を伸ばそうと?」

「囮、というのは人聞きが良くないが、まあその通りだ。

 マリカ皇女という方は、皇王陛下曰く

『何かしようとすれば必ず、何かをやらかす。けれど、周囲に味方も増やし、最短の最良の道のり行く。

 恐るべき行動力』

 の持ち主だ。

 潔斎で閉じ込められようとそれはおそらく変わらぬ。

 さぞかし、大神殿も対応に苦慮するだろうな」


 ザーフトラク様の言葉に側近達、皆の目が楽し気な光を宿す。

 理解した、と笑っている。

 ここにいる者達ほぼ全員が、マリカの参加国の訪問に同行した者達だ。

 彼女の『行動力』

 についての評価は十分に正しいものだ、と知っている。


「潔斎に入られたマリカ様については、我々が外からできることは限られている。

 だが、あの方は約束を違える方ではない。必ずお戻りになられる。

 故にできる事、為すべき事をして待つ。いいな?」

「ははっ!」


 無意識に膝をついていた。

 

 皇王陛下、タートザッヘ様、ソレルティア、ゲシュマック商会の者達。

 そしてこの方も。

 ただ、歳を重ねただけではない、自らのやるべきことをやってきた『大人』というのは違う、と実感する。

 彼等には、素直に尊敬すると共に負けたくないと思うのだ。



「リオン様。

 マリカ様よりの手紙を持った使者が参っております」


 外の見張りをしていたピオがそう声をかけて来た。

 場にふわりと安堵の声と思いが広がる。

 昨夜、あれよあれよという間に連れ去られてしまったマリカからの連絡は、何よりも嬉しい話だ。


「解った。応接室に通せ。

 立ち合いはザーフトラク様とフェイ。

 セリーナ、ノアールは使者に飲み物でも作ってやってくれ」

「はい」「かしこまりました」

「朝の礼はこれで終了する。

 それぞれ持ち場に戻り、任務開始!」


 リオンの言葉に随員達はそれぞれ動き始める。

 


 やがて、応接室に『使者』がやってきた。

 五歳位の少女。


「『聖なる乙女』からのおてがみをあずかってまいりました。

 ごかくにんいただければ、さいわいです」


 黒髪、蒼瞳。マリカに少し外見は似ているだろうか?

 けれど、彼女に声をかけるより早く。


「何故、貴公がここにおられるのか?」


 リオンは背後に立つ人物に、睨むような視線を向けている。


「エリクス殿!」

 

 少し、怯えたような眼差しの少女の背後に少年が立っていた。

 偽勇者 エリクスが。


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