今年の秋の大祭はプラーミァから始まる。
私は今年、全部の国の大祭に、初めから終わりまで参加せて頂くことになりそうだ。
神殿で行われていた祭りの始まりを告げる王妃、王女の舞。
それを『大神官』『聖なる乙女の舞』として私が行う。
各国王族の晴れ舞台じゃないかな、と思ったのだけれど各国どの国も反対意見は出なかったという。
「色々な点で差がありすぎるからな。お前がやってくれるのなら、それが一番確実だ」
だって。
まずは前日に神殿から各国に向かう。
それから王家でご挨拶。宿泊させて頂いて、明日の準備を整える。
翌日、王宮で着替えて、馬車で広場へ。
特設舞台で舞を舞い、終了と同時に大祭開始。
その日は、着替えて、王宮で歓談。
翌日は図書館で各国の文官さん達と、精霊古語の書物の読み解きと意見、技術交換。
最終日は大祭と社交シーズン終了の舞踏会に参加して、祝福を与えて終わり、という流れ。
「面倒ではあろうが、今回の大祭への参加は、其方らのお披露目のようなものだ。しっかりと『精霊神』様や各国有力者達に挨拶をしてまいれ」
とは、お祖父様のお言葉だ。
今回の大祭参加は、各国の要請によるものだと思っていたけれど、私とリオンが結婚することで大神殿に新しくできる準王家を各国に知らしめるのが一番の目的らしい。
大神殿を取り仕切り『神』に仕える一族を確立させることで、私を取り合う各国の利害が一致した。
不老不死が失われたことで低下した『星』や『神』『精霊神』への信仰を、私や精霊の奇跡によって繋ぎ止めるようにとの御命令だ。
信仰ってなんだかんだ言って大事だものね。
心の支え、生活の規範にもなりうる。
変な新興宗教作られることで、人々の祈り、やる気、願い。
気力が奪われて『精霊神様達』に届かないのも困るし。
身を削って、私達を見守って下さる『神々』に仕えて全力を尽くすことに異論はない。
大神殿に仕えているけれど、私は『神』に仕えるというより『精霊神』や『星』を含む『神々』皆の為の巫女ってことで。
そういうわけでやってきました。プラーミァ。
私は神殿の転移陣で移動して、王宮に直でご挨拶に向かう。
でも、神殿から王宮に移動するほんの短い時間なのに
「うわっ! 凄い人」
「ようこそ! 『聖なる乙女』」「ご結婚おめでとうございます!」
沿道には凄い数の人が集まっている。
今までより明らかに人が増えているなあ。
なんでだろう?
思いながら私は馬車から手を振って見せることで高まる黄色い声を不思議な気持ちで聞いていた。
「今回は、お招き下さいましてありがどうございます」
「うむ、よく来てくれた。待っていたぞ」
いつものように国王陛下は、私を御自ら出迎えに来て下さった。
通信鏡では幾度も話をしていたし、各国を慰問に回った時も軽く挨拶をしたけれど、こうしてゆっくりと相対するのは不老不死後初めての気がする。
「今更だが、騒動の時には力になってやれずすまなかったな」
「いいえ。お父様、お母様、何より陛下を始めとするプラーミァの方々が、私の死を望まずに願って下さったことにより『神々』から私は命を再び賜ることができたのだと思っております」
そういえば陛下は『星の夢』見たのかな。
どこまで知ってるんだろ? 国王陛下達には私達の設定ってどうなってるのかな?
などと思いながら頭一つ以上大きい兄王様を見上げると
「リュゼ・フィーヤ」
私を見下ろして静かな笑みを浮かべる兄王様。
もっと小さい頃は直ぐに抱き上げられていたけれど、流石にここ数年だっこされることはない。
「不老不死の解除については思う所はあるが、其方を失わずに済んで良かった。
それだけは、心からそう思う」
「ありがとうございます」
でも今までと変わらない表情と優しい声音で、私を呼んでくれた。
それが少し嬉しい。
一方で晴れやかな表情の国王陛下と違って、周囲に控える貴族の方々の様子は少し異なる感じがする。
これはアレだね。私を生贄に捧げることに賛成しながらそれが実は間違っていたと知ったバツの悪さ?
顔を合わせられないというか、どんな顔をしていいか解らないという奴だと思う。
まあ、私がどうこう言える立場にはないので、様子見。
本当に悪いと思った上で、私と関わりたいと思うなら、後で話に来るでしょ。
「今日はいつもの部屋でゆっくり休め。
夕食はフィリアトゥリスが力を入れ差配していたので楽しみにしてよいぞ。
英気を十分に養い明日の舞に臨め。
『精霊神』のみならず国中が期待しているのでそのつもりでな」
「国中、って大げさな……」
「いや、大げさではないぞ。周辺の村や町から凄い数の人間が、祭りと其方の舞を見ようと集まってきている。近くの村のいくつかは祭りだというのに誰もいなくなっているくらいだ」
「えっと、冗談ですよね?」
「冗談だと思うのか?」
楽し気ながらも真面目な王様の瞳に私の頭からスーッと熱が飛んだ。
冗談じゃないんだ。
こわっ。いつの間にそんなことになっていたんだろう。
「それに、不老不死が終わったことで人々の考え方や行動も変わってきている。
特に下層の者達がな、やっかいな行動力を発揮することが多いのだ」
「やっかいな、行動力?」
「失う者が無い連中が自棄になると面倒、という話だ。まあ、お前はあまり気にしなくて良い。いつもの通りお前はやるべきことをやって暴れて行けばいいのだ」
「暴れるってなんですか?」
「お前が騒動を起こさずに国に来て、帰ったことがあるか?」
「ありますよ。何度も」
「どうだかな?」
失礼な。少し頬を膨らませて見せたけれど、兄王様は気に留めた様子もない。
いくぞ、と顎で私を促すのでそのまま付いていくことにした。
もうアイトリア宮の内部構造も覚えた。
私達の部屋はいつもの王族居住区のお母様の元のお部屋。
家に戻ってきたような安心感がある。
「ふう~」
私は、寝室のベッドに腰かけると息を吐きだした。
落ち着くとやっぱり、少しはある緊張がほどけて疲れを感じる。
男性随員の部屋は来客用居室。今回は短期の旅行なので、フェイもアルもいない。
女性随員達は、揃っているけれど一抹の寂しさはある。
それに、ここに来るとノアールの事も思い出してしまうのだ。
「マリカ様、申し訳ありませんが、夜の晩餐会のご用意がありますので」
「解っています。お願いしますね」
私は、ミュールズさんに促されて夜の身支度に入った。
お風呂に入って、着替えて王宮の夕食会へ。
久しぶりにゆっくりお会いするプラーミァの皆様との歓談は料理と合わせて最高の一時で、少し疲れが飛んだ。
今回はリオンにも私の婚約者としての席が用意されて、夫婦のように遇されたのが嬉しくも気恥ずかしかった。
王太子妃 フィリアトゥリス様も臨月が近い。今年中には出産になるだろう。
「今度は女の子がいいのですが、ガルディヤーンは弟が欲しい、と言っていますね」
「どちらが生まれても楽しみな事に変わりはないのですが」
お二人ともとても幸せそうに微笑んでいた。
不老不死は終わったけれど、国王陛下はまだお若いし、王太子も頼もしく、世継ぎもバッチリ。
ご家族も仲がいいし、プラーミァの王家はこれからも安泰だね。
デザートのバニラアイスを突きながら、私はそう確信した。
その日の夜。
私は、少し期待して寝台に入った。
プラーミァの『精霊神様』から夢のお呼び出しがあることを。
私の本当のお父さん、アーレリオス様の気配は、プラーミァに来てからはっきりと感じる。国の守護神としての強くて優しい思いが、国を包んで守っているのだろう。
ただ、ピュールも出てこないし、国に残った筈の精霊獣も同様。
なんだかシカトされているみたいでちょっと胸がモヤモヤする。
(結婚式前にちゃんと一度、お話がしたいなあ)
って思いながら私は目を閉じた。この気持ちは精霊神様に伝わっている筈だから。
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