【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 マリカの舞と夏の幸せ

公開日時: 2024年3月21日(木) 07:49
文字数:4,656

 大神殿での夏儀式の後、魔王城でも『星』の為に舞うのはもう毎年恒例になっていた。

 魔王城に戻り、礼大祭の時の衣装を身に着けてこの世界の舞を舞う。

 エルフィリーネが用意する特設舞台からは魔王城を見上げられる。

 世界で『私』が目覚めた場所で、向こうの世界で学んだ北村真里香のものではない舞を舞う時、私は自分がこの世界の一員であることを感じるのだ。

 私を守り、愛してくれる精霊。『星』の慈愛を。


 静かに膝を折り、舞を終えるとパチパチパチ。

 決して多くは無いけれど、暖かく思いの籠った拍手が贈られる。


「毎年、確かに成長しているな。日々、練習を怠っていないことが伝わってくる」

「もう、私はおろか、アドラクィーレ様をも上回るかもしれませんね」

「礼大祭の感動が蘇ってきます」

「ええ。力を吸い取られない分、マリカ様の舞に集中できるのが良いです」

「マリカの『聖なる乙女』の舞をこうして太陽の下で見ることができるのはアルケディウス皇王の特権ですな」

『こら、あんまり調子に乗るんじゃないよ。

 マリカはもうアルケディウスだけのものではないのだから』

「承知しております。『精霊神』様」


 魔王城の城に戻って三日目の夜の日。

 私は魔王城で『星』に捧げる舞を舞った。


 今日は安息日だし、魔王城での休みも終わり。

 明日からはアルケディウスで面会やその他の仕事がひっきりなしだ。

 休暇と言う名目だが、アルケディウス皇女である以上、国の為にできることはしておきたいという貧乏性は治らない。

 だから、この二日間は双子ちゃんや魔王城の子ども達と思いっきり遊び倒し、最後の日。

 皆をこの舞に招待したのだ。

 大聖都から戻ったばかりのガルフ達を含むゲシュマック商会の面々、お父様、お母様。そして皇王陛下達に『精霊神』様達もご覧になって下さっている。

 勿論、魔王城の子ども達。エルフィリーネ、ティーナ。 

 リオンにアル。そして


「ふう。やはり無理しても来たかいがありました。

 式典とは違うマリカの舞が見られる機会を逃すわけにはいきませんからね」


 実はフェイも。

 大聖都の大神官と神官長が揃って魔王城にいるなんて。敬虔な『神』の信者が見たら気絶するだろう。きっと。


「本当に大丈夫なのか? フェイ」

「ご心配なく。見つかるようなヘマはしませんよ。僕の部屋にはガッチガチの結界を貼ってありますからね。直ぐに戻りますし」


 留守番をしている筈の大聖都の神官長フェイは

『一刻休憩する。誰も邪魔をするな』

と命じて今、自室に籠っている。ことになっているそうだ。

 神殿の自室から大聖都の自分の家に。

 そこから特製の国境超え可能な移動式転移陣で魔王城へのピストン転移だ。

 そう。今は、リオンとフェイの館には転移魔方陣がある。

 移動式の一見絨毯に見えるそれが今、大神殿から魔王城に戻る最短ルートである。

 フェイが、一年がかりで作った傑作。

『星』から貰った『神』の結界破り込み。

 国境越えの術式と魔王城への転移という複合究極アイテムだ。

 まだここにいる人間以外は存在も知らないトップシークレット。


「相変わらず人間離れした力と行動力ですわね」

「やれやれ。国境超えの直通転移陣が新設できるのならアルケディウスにも早く作って欲しい所だがな。そうすれば、毎年の参賀が楽になる」


 事情を知ったソレルティア様は呆れたように声を上げ、皇王陛下はあからさまに顔を顰めた。


『欲しかったら自力で術式を解明し、カレドナイトを用意して同じものを作れ。

 魔王城の財と知識を当てにすることは許さん。

 移動式転移陣の悪用は、私が動いている限り二度と許すつもりはないからな』

「術式はほぼ解明できておるのですが、なにぶんカレドナイトと『風』の精霊力不足が顕著でして。下手に作ると各国の警戒も大きくなりますし警備問題も見直しが必要。

 何度も申しますが今の所は諦めておくのが賢明ですぞ。皇王陛下」

「そっちについても解っている。

 まったく、返す返すもマリカだけでなく、フェイやリオンまで大神殿に盗られたのは痛かった。仕方ないと解っているがな」


 タートザッヘ様に諫められ皇王陛下が悔しそうに息を吐きだす。

 この件に関しては『精霊神』様達も助け船は出してくれない。というかけっこう厳しい。

 魔王城のカレドナイトを私関連の通信鏡以外に使う事を厳重に禁止していた。

 皇王陛下は魔王城の島のカレドナイト鉱山を知っているから本当は頼りにしてたみたいなんだけどね。私がまだ世界にそんなにない小型を含む通信鏡をいくつも所有できているのはカレドナイトの確保に融通が利くからだ。

 

 ちなみに移動式転移陣、カレドナイト1ルーク(ルーク≒キログラム)は使う特製なんだって。フェイに頼まれて私がコツコツ魔王城の島の鉱山から採取した。

 今、カレドナイトは通信鏡や転移陣の修復に必須のレアメタルなので、価格がうなぎ上りに上昇してる。外の世界では農業が盛んだけれども、農業に向かないアーヴェントルクも鉱石特需で湧いているそうだ。

 カレドナイトの生産量は少ない各国でも『精霊神』の導きでいくつも鉱山が見つかり、他の鉱石も採取されて色々な科学製品に活用されている。

 とはいえただでさえ、貴重なカレドナイト。1ルークもあれば通信鏡がいくつも作れるし、アルケディウスには魔王城に繋がる転移陣は在る。

 他国に睨まれる危険を犯してまで他所の国の国境を超える転移魔方陣を作る必要は無いと結論づけてもやっぱり、皇王陛下は悔しいみたいだ。


「では、僕は戻ります。

 マリカ達が戻ったら、今度は技術会議がありますからね。今のうちゆっくり羽を伸ばしてきてください」

「ありがとう。大神殿の方、よろしくね」


 フェイは軽く笑って転移陣から大神殿に戻っていった。

 彼も十六歳。颯爽とした姿が素直にカッコいいと思う。

 時々、ソレルティア様などため息の籠った眼差しで見つめているのが解る。

 神官長になったし、フェイが女性に関心を持つことは無さそうなので報われないなと思うけれど。


 そうして、


「マリカ姉。おどり上手だったよ」

「キレイだった」「かわいい。かわいい! いつもそれ着てほしい」

「ありがとう」


 私の足元にはいつものように子ども達。

 儀式用のキラキラドレスはやはり好きみたいだ。


「きれーだね~」「真っ白、キラキラ」

「レヴィーナも。レヴィーナもおどる~」


 楽しそうにくるくると回転。

 私の真似をするレヴィーナちゃんを見てお母様は嬉しそうに頷いた。


「ああ、そうね。レヴィーナはそろそろ学んでもいい頃かしら」

「レヴィーナちゃんが踊って舞を捧げられるようになると、私もちょっと楽になりますね。

 エリセも上手になって来てますけど、彼女は王族じゃないから儀式に出られないし。

 レヴィーナちゃん。今度、エリセと一緒に練習やってみる?」

「わーい!」

「ぼーくーもーやるー!」

「女舞は流石にフォルは無理だな。諦めろ」

「ずーるーい!」


 毎年の大祭の奉納舞。

 実は各国の分も今は頼まれて私が舞っている。

 アルケディウスだけ二回、後は各国一回ずつ。

 私が舞うと『精霊神』様にダイレクトに気力が届いて、お力が使いやすくなるんだって。


『こればっかりはね。ごめんよ。フォル』

『男から男だと今一つ、伝導率が悪いのだ。逆に女で『七精霊の子』や、子どもであるのならそれほど差は無い。ただマリカの力は別格に濃いからな。

 この味に慣れすぎるのも良くはないと解っているから、早く次代に育って欲しいものだが……』


 各国『精霊神』の復活で土地が肥沃になり、鉱山なども発見されて『食』のおかげでいいことずくめではある。

 ただ私のスケジュールがタイトなだけで。

 だからレヴィーナちゃんやこの二年の間に各国に生まれた聖なる乙女達には実は早く育って欲しい。

 今後、各国に子供が増えるというナハト神の予言から約三年。王家はベビーラッシュでプラーミァの王子を含めて五人の子が生まれた。うち二人は女の子なので今後に期待が……

 っと、いけないいけない。

 フォル君のヤダヤダがエスカレートしそう。

 こういう時は気持ちを切り替えてっと。


「フォル君。今夜は魔王城最後の夜で、明日には私もアルケディウスに戻るからバーベキューするよ」

「!」

「私が着替えて来る間に、リオンやお父様、オルドクスと一緒に狩りに行って来てお肉獲ってきてくれない?」

「かり!」


 フォル君。いつもは城や館から出られないから魔王城の島では森で遊ぶのが大好きだ。

 特にお父様やリオンの狩りを見るのがお気に入り。

 男の子だね。


「そう。リオンとお父様、どっちが早く大きい獲物を獲るか。見てて欲しいの。

 行く?」

「行く!」

「マリカ……」「お前なあ」


 お父様とリオンが小さく肩を竦めるけれど、そろそろそういう時間だとも解ってくれている筈だ。オルドクスが一緒なら二人がついて行っても安心だし。

 

「リグもいこー」

「もちろんいく。リオン兄がぜったいにかつぞ」

「えー、おとうさまのほうがはやいよね?」

「さーてな。じゃあまあ、行くか。アルフィリーガ」

「そうだな。久しぶりに身体を動かしてくるかな?」


 ぐるりと、腕を回して動き始めるお二人。

 それを機に、舞で張りつめていた空気も弛緩していく。


「ティーナ、カマラ。アル。ジョイ

 バーベキューや食事の準備、お願いしていい?

 私、大急ぎで着替えて来るから。流石にこの服じゃ料理できないし」

「解りました」「お任せ下さい」「道具の準備はばっちり!」「いーよ」

「僕も手伝うよ」「私もやろう。特製ミソだれは焼き肉によく合うと評判でな」


 ラールさんやザーフトラク様も腕をまくり


「マリカ姉。私達もお手伝いする事ある?」

「じゃあ、野菜を獲ってきて下ごしらえ。それから果物も持ってきて欲しいな。

 ピアンとかグレシュール、もう食べられるでしょ?」

「チリエージアも美味しいよ」


 子ども達も次々と手伝いに名乗りを上げてくれた。


「じゃあ、みんなに任せる。準備開始!」

「はーい」

「子ども達の引率は私が行いますので」

「お願い。ティーナ」

「レヴィーナも! レヴィーナもいく!」

「一緒に行こう。レヴィーナちゃん」

「グレシュールは棘があるから気を付けてね」

「! ありがとう。ネアおねちゃん。ファミーおねえちゃん」

「私も、ティーナと共に子ども達の監督をしてまいります」

「うーん。こういう時に王というのは役立たずだな」

「どっしりと構えているのが、仕事ですわよ。陛下」


 楽し気な皆の様子を見ながら、私は着替えに部屋に戻る。

 城の入り口で目を細め、幸せそうに私達を見つめているエルフィリーネの横をそっと通って。


 その日の夜のパーティは勿論、夜遅くまで楽しく続いた。

 特製ミソだれの鹿肉バーベキューはあばらのスペアリブが美味しい。

 猪肉の豚汁は夏には少し熱いけれど、


「逆に暑い時に熱いものを食べると汗が引くな」


 と好評だった。子ども達と一緒に二年前作った味噌は癖があって万人向けでは無いかと思ったのだけれど、意外に好評。アルケディウスとエルディランドの新しい味になっている。

 後は今が旬のピアンにグレシュール。

 今回は生を楽しむ。新鮮過ぎてお菓子に使うのはもったいない。

 採りたて数刻のチリエージアも瑞々しくて、紅玉のような粒を噛みしめると口の中に果汁と上品な甘みが広がり最高だ。

 大神殿は勿論、王宮でもできない豪快で贅沢な食事にみんな笑顔になる。


 お父様とリオンの狩りを間近に見て、興奮気味だったフォル君は早々に肉を手に持ったまま舟をこいでしまったけれど。

 

「ラウルー。リグー。どっちがおおきいのとるか、きょうそうだぞー」


 夢の中でももしかしたらフォル君は魔王城の森で遊んでいるのかもしれない。

 大好きな兄弟達と一緒に。


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