【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 転売と対策と教育と

公開日時: 2025年4月22日(火) 08:18
文字数:3,694

 ガルフの話を聞いて、食料やお酒の転売問題について考えた。


「お父様、ケントニス様、トレランス様、皇王陛下。

 食料品の転売問題についてどうしたらいいと思われますか?」


 ガルフ達との会見の翌日、元々、今後の色々な問題の為に面会を申して込んでいたアルケディウス王族の御方々に、私はそう問いかけた。


「多少はしかたないと割り切るしかないだろう」


 あっさりと、そう言ってのけたのはケントニス皇子だ。第一皇子にして次記皇王陛下の転売容認発言に、私は正直ムッときたけれど、


「物を安く買って高く売るのは商売の基本というものだろう。どこからどこまでが普通の仕入れで、どこからどこまでが転売か、それぞれの売り手、買い手にも言い分はあろうからな」


 帰ってきた返答は比較的正論。どうやら転売容認、という訳ではなさそうだ。


「故に、必要なのは不当な買い占め、略取の禁止、盗賊の撲滅だな」

「……その通りですね」

「エクトール領の黄金の酒。ラガー、ピルスナーと言って販売しているものが、人気の割に正当な価格で流通されているのは、ゲシュマック商会が独占という形で管理している為だ。

 正当な価格で、まっとうな商品が手に入れば誰も高値で怪しい品を購入したりはしない。

 我々上層部がすべきことは、正規な販路に正当な品が、必要とされる分確保できるように支援する事であろう?」

「ごもっともでございます」

「それに、原因の一部は其方にもあるのだ」

「え?」


 驚く私にトレランス様は、書類を差し出す。


「食品の転売が目に見えて多くなったのは昨年からだ。今年の分は収穫が終わったところだから、まだはっきりとした結果は出ていないがおそらくもっと増える。何故だと思う?」

「何故、ですか?」

「大貴族共に余裕ができたからだ。神殿の租税が減って」

「え?」

「お前も耳にしたのではないか? 大貴族の一部が大神殿の減税を民に知らせず、例年通りに税を徴収。

 神殿には減税分を納入して、余剰分を懐に入れているという話を」

「はい。聞きました」

「あれはおそらく、お前の密偵がその地に居合わせたから発覚したにすぎぬ。多分、アルケディウスだけではなく、他の国でも同様のことが起きているぞ」

「あ……私が余計な事をしたせいで……」


 トレランス皇子と、ケントニス皇子。

 アルケディウスを担う二人の皇子の言葉に私は素直に頭を下げる。ここ数年で、お二人も変わってきていた。無能、浪費家と言われていた放蕩皇子から皇王陛下の両腕へと。

 自覚を持ち皇族としてしっかりとした政務をとっているお二人に、小娘の意見など三年前はともかく、今は釈迦に説法だろう。

 しかも、私も自分の正義でばかり考えて、大局や人々の欲に目が向いていなかった。まさか、そんな悪用をされるとは。

 反省。


「別に余計な事、ではない。

 国内の食料品流通が基本、清廉であるのは其方が最初にしっかりとした仕入、販売ルートを作り、品質基準や価格を定め、そのかじ取りをゲシュマック商会に任せた為だ。故に、王都や皇家直轄領、侯爵家などでは基本的に食料品の高額転売などの問題は発生しておらぬ」

「トレランス様」

「私腹を肥やさんとする大貴族達の管理は皇家の仕事だ。だから、各国王もお前にその件を話さなかったのだろう」

「ケントニス様……。ありがとうございます」


 少し、シュンとした私にケントニス様は慰めるような優しい言葉をかけて下さる。

 本当に変わったな。この方も。

 良い方向に変わってくれている。


「国への租税分に関しては、農作物の納品であれば現金納入の一割引きとしているので、大半の領地、農民が租税を現物で納めている。そして必要分と予備の分、緊急時の備蓄分として保管している分を除いてはゲシュマック商会に委託、売却、流通させているので転売の入る余地はない。問題は各領地に残された分だろう」


 私も神殿に入って詳しくシステムを知った事だったのだけれど、この国の税金は国と神殿の二重取りだったのでかなり高かった。特に不老不死時代は農業が絶滅していたので、支払いは現金オンリー。年に一度、当人、もしくは代理人が納入する。

 税金の納付先は神殿。神殿が委託されて徴税も行うことが多かった。

 今は、神殿が徴収分は各国の農業育成の為に一部放棄しているので、領主が集めて納入している所が多い。そこを悪用されたのか。


「酒蔵については酒造免許交付の際に、年間どのくらいの量ができるかの概算を提出させている。品質確認の為もあり、こちらも税は基本現物で提出するように命じた。

 大麦が不作だった。失敗したなどの理由で概算量を大きく下回る時には申告が必要だが、過少申告する例も見受けられる。

 全ての酒蔵がエクトール領のように管理を任せて大丈夫、とはまだ信じきれんな」


 ちなみにエクトール様は皇子であるトレランス様を除けば国内の酒蔵管理を行う酒造局のトップの位置にある。大臣クラス。

 でも今なお、酒蔵の最前線に立ち新しい試みなどを行っている国の食の要。そのお一人だ。


「蔵や、農業、酒造を行う者達が誠実であっても、領主が私腹を肥やそうとしたら、民は従うしかないだろう。民の多くはまだ文盲で計算などもできない者が多い。

 各領地をしっかり監視する必要があるが、距離もあるし難しい所だな……」

「各領地の会計監査とかは行わないのですが?」

「よほど、大きな不自然箇所が無ければそのままだな。調査員を派遣するのにも時間とお金がかかりすぎる」


 天候も精霊神様に管理されて、滅多な事で天災、災害が発生することは無いアースガイア。

 でも様々な理由をつけて一部の領主は税収をちょろまかそうとする。余裕ができた分、領地に還元されるのならまだいいのだけれど、大抵は私腹を肥やすのに使われる。

 せっかく地域活性化の為に税金を減らしてあげたのに。


「マリカ」

「なんでしょう?」


 経済、財務関係については二人の兄に任せていた第三皇子が、腕組みをしながら私を見やる。


「神殿分の租税を復活させるわけにはいかないか?」

「私も早まったかな、と思いました。大神殿に戻って上層部と話をして検討します。各国にも連絡を取って、根回しをしてみます」

「そうしてくれ。多分、余剰分を残さない方が収穫物を正当な流れに乗せられる。地域を活性化させるのに使わせたいのなら、補助金や現物支給の形にしたほうがいいだろう」

「そうですね。私も色々と、領地経営などについて甘く見てたかもしれません」


 税金を減らせば人々の手元にお金が増えて人々が豊かになる、と簡単に思っていたけれど経済はそれほど簡単な問題では無かった。

 税金は貴族や上の存在が私腹を肥やす為のものではない。

 民を幸せにする為の大事な財源でもあるのだ。


「大貴族達にも教育と監視が必要だ。

 前にお前がやったような『カイケイカンサ』を頻繁に行う必要があるだろう」

「カイケイカンサ。とは?」

「会計を行う部署の書類を第三者が確認し、正当に帳簿管理がされているかどうか調べるものです。今までは無かったのですか?」

「以前は税金管理は教会の仕事だったからな。さっきも言ったが大貴族の領地経営にも基本的に納税が滞っていない限りは口を出さないのが普通だった」


 ざる。

 首を傾げたケントニス様に、私は説明しながら、そう思った。

 日本では大抵の施設で監査があって、その前には帳簿や書類の確認、修正に大騒ぎになる。

 受ける側としては面倒しかないけれど、それがないと、帳簿作りがなあなあになってしまいがちなので、業務の正常&清浄化には必要なことだったのだろう。


「であれば、各神殿の転移陣を必要に応じて使用できるように致します。

 表裏両面から定期的に監査を行うとなれば、大貴族も今までのような放漫経営はできなくなるのではないでしょうか?」

「裏表両面?」

「表向きの監査員を送ると同時に、裏からも調べる者がいるといいと思うのです。

 監査があるからと、書類を形だけ整えるところもきっとあるでしょうから」

「お前の手袋のようにか?」

「はい。彼らは正に各領地の『本当の姿』を確認する為の存在です。

 旅芸人や商人にカモフラージュすると目立ちにくいかもしれませんね。勿論、監査役には相当の誠実さと能力が求められますけど」


 グローブ座は各領地の素の姿を探る密偵として予想以上の活躍をしてくれている。

 今まで、何が起きても人死にだけは無かった不老不死社会ならともかく、今後は自覚のない領主や大貴族の悪政が民の幸福、不幸。さらには生死に直結する可能性が高い。

 グローブ座は有能だけれど彼らだけでアルケディウス全領地は把握できないし人数を増やす必要はあるだろう。

『精霊神』様は全てを見ておられる、としても頼ってばかりはいられない。


「解った、検討して早急に実施できるようにしよう」

「民にも教育を与えて、不正搾取されないようにしたいな」

「一部の神殿では子どもや希望した大人に、読み書きを教える試みも行っています。

 アルケディウスにも学校を作りませんか?」

「なら、いっそ復活させた神殿用の租税で学校を新設するのはどうだ?」

「あ、それアリですね」 


 交わされる皇子同士+孫の政治、経済討論を皇王陛下は静かに見守っておられた。

 満足げに微笑んで。


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