私が、目を醒ますとそこは女王の部屋のベッドの上、だった。
そして……
「マリカ!」
「あれ? お母様?」
心配そうな顔で私を見つめるお母様の顔がある。
今回は、別々のベッドで眠っていた筈なんだけど?
見れば、側にお父様もいる。
なんだか、私を見る眼差しが……!
「ステラ様!」
『なあに?』
私は思わず飛び起きて、側にいるであろう方の名を呼ぶ。
星の大母神に失礼と言えば失礼なのだろうけれど、ステラ様は直ぐに応じて下さった。
ぴょこん、と白い子猫の姿で。
「……もしかして、他の皆にも、私と同じように全部見せたんですか?」
『見せないわよ。他の子達にはダイジェスト版。
元々、私達は別の星に住んでいて、そこが侵略者に侵されたから、星の海を渡って移住してきたってくらいまでね。フルコースで見せたのはアルフィリーガとフェイとアルとクラージュだけだけど』
「でも、お父様とお母様のあの顔は……」
いつもの優しい、見守るような眼差しに、けれどいつもと違う光が確かに宿っている。
『二人には貴女が、流産した子の生まれ変わりであることは伝えたわよ』
「! なんで?」
『なんでもなにも。ずっと、気に病んでいたんですもの。
全てを明かした以上、親子の名乗りくらいさせてあげないと。
ずっと、大事な娘を借り受けていたのだし
私にだって、そのくらいの慈悲はあります』
「で、でも……、その、心の準備が……」
慈悲って、自分で言っちゃう?
やっぱり、ステラ様、ちょっと考えが吹っ飛んでる!
混乱を察してか、お父様もお母様も、何も言わず私を見てる。
私の言葉と、対応を待って下さっているのだと解る。
「あ……、お父様……お母……様」
「マリカ!」
私が、戸惑う声で呼びかけると同時、お母様の細い腕が、私の肩に回り、抱き寄せた。
「ありがとう。マリカ……」
「お母様?」
「生きていてくれて。戻って来てくれて。そして……私達をもう一度、親に選んでくれて……」
「お母様」
お母様が、泣いている。
ボロボロと零れる涙を隠そうともせず。
完璧な貴婦人で、感情を滅多に外に出す事の無いお母様が、本当に顔中くしゃくしゃにして泣いている。
初めてだ。こんなお母様を見るの。
「まったく。タシュケント伯爵家は、恨んでも恨み切れんな。
奴らがお前を連れ去らなければ、お前をもっと早くに俺の娘に迎え入れられていたかと思えば……」
「お父様……」
「お前が、生きていてくれて、嬉しい」
お父様の大きな手が私の頬にそっと触れる。
「前にも言ったが、お前が精霊であろうと、なんであろうと俺達の娘であることに変わりはない。それは真実を知った今でも同じだ。
ただ……それでも、失われたと思った愛の結晶がこうして、戻ってきてくれたということは何にも増して嬉しい。
双子が生まれた時と同じか、それ以上だ」
「ありがとう、ございます」
正直な所、今の私の身体は地球人能力者北村真理香とシュリアの娘で、お父様とお母様の血のつながりはない。遠くプラーミァの血は流れているし、全ての王家の祖は北村真理香の卵子であるというのなら、まったくの無関係でも無いだろうけれど。
私の魂に、お二人の生まれる筈だった子どもの魂が混ざっているというのは、ステラ様のお話だけで、証明するものも何もない。
でも、お二人は確信して下さっているのだ。
私がお二人の娘であると。
そして、私も感じる。お二人が、私の本当の親である。と。
「お父様、お母様!」
だから、お二人の腕の中に身体を預ける。
全てを委ねて。
自然と、涙が零れ出た。理由は解らない。
ただ、全てを知って。
どうしようもなく、歪んだ存在である私を、それでも娘と受け止めて下さることが、多分、嬉しかったのだろうと思う。
私達は、泣いた。
三人で一つになるように、抱き合って泣いていた。
溢れる涙が、離れ離れだった時間や思いを埋めてくれるまで。
「まあ、そうは言っても、何が変わるわけでもないがな」
暫くして、一番に離れたのはお父様だった。
目元を拭い、なんでもないかのように朗らかに、いつものように。
「そうですね。貴女が私達の娘であることは今更の確認で、これからもその先も、何も変わることはありませんから」
お母様の微笑みには絶対の自信が宿っている。
うん。私は今までも本当の娘と同じように愛して頂いてた。それはきっと今後も変わらない。
『ステラ様。各国王にも夢で真実を見せるとおっしゃっていましたけれど、皇王陛下達にも私の事伝えたりしたんですか?』
「貴女の正体を知らせたのは両親である二人にだけよ。他の者達には伝える必要はないでしょ? 証拠も意味もないし」
「そうですね」
魂の転生を証明するのは難しい。特に、記憶があるわけではない胎児の魂が私に宿っているなんて言って普通、信じられる筈もない。
それでも、お父様とお母様は私を娘と信じてくれている。
なら、私はお二人の娘で在り続けるだけだ。
『そういう訳で、マリカは貴方達の元に戻します。
不老不死世が終わり『神』も今後貴方達に昏い思いで関わることは無いでしょう。
魔王とも共存していくことが可能な筈。
アースガイアの地と子ども達を脅かす脅威はほぼ無いと思います』
「はい、ステラ様」
お父様が首を垂れる。
不老不死や、勇者伝説の真相が解って、心境は複雑だと思うけれど、それを表に出したりすることはない。
『ただ、長く、人の世を守っていた不老不死が無くなったことで、暫くは人の世は混乱するでしょう。加え、徐々にですが新しい民が目覚め、この星の住人になります。各国には彼らを受け入れて貰わねばなりません』
「確か、神の子ども達。
約十万人ということでしたよね。各国で分散して受け入れるとしても約一万五千人。一つの都市が新たにできるようなものですね」
『ええ、精霊神様や私達もできるだけ、力を貸しますが、彼らを受け入れこの星を新しい時代に導いていくのはマリカとアルフィリーガの務め。
貴方達にはそれを助けてもらいたいの』
「無論。覚悟はできております」
「先に申しましたが、星の子ども達を守り、導くのは本来『精霊神』から預かりし王族の務め。マリカが例え、星から使命を受けた者であっても、一人責任を押し付けるようなことは致しません」
「お父様……お母様」
『そう。なら安心ね。貴方達の娘、そして星の娘をよろしくね。
今後も助け、導いてやってちょうだい』
「「必ずや」」
私の肩からお二人を見やるステラ様に、深々と頭を下げたお二人は
「さて、落ち着いたら皆の所に戻るぞ。まだ、これから先やることは沢山あるからな」
「そうね。秋の大祭も近いし、新年や冬の成人式。
それから、結婚式の事も考えないと」
楽しそうに、そして意地の悪い微笑みで、私をみやる。
「え? け、ケッコン?」
思わず、声が上ずってしまったけれど、お二人はくすくすと、楽しそうに笑っている。
ステラ様と視線を合せて。
お二人にはステラ様からから何か事前に話があったのだろうか?
ステラ様まで、悪乗りするように私の頭から、お父様の肩に移って楽しそうにてしてしと、前足で催促する。
『そうね。思いっきり派手にやってあげて。一生忘れられない思い出にできるように』
「はい」「お任せを」
「ステラ様!」
『だって、私も楽しみなんだもの。私の息子と娘の結婚式は。
絶対に参加して写真も撮るのよ』
「写真? だって、この世界にはまだそんなもの」
『だったら、作ればいいの。ズルしなくても、もうそれくらいの科学力はあるでしょ?』
「ステラ様~~~」
私の意見なんか、ガン無視で盛り上がるお父様とお母様&ステラ様。
そんな皆さんを見つめながら、自分のこれからを思い、リオンを思った。
少しだけ、胸が締め付けられるような苦しみと不安と共に。
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