【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国の大祭 一日目 精霊神復活のその後

公開日時: 2022年9月14日(水) 07:25
文字数:4,213

 始まりを告げる鐘が鳴って、大祭が始まった。

 きっと今頃、大広場のゲシュマック商会の店は大忙しだろうなあ。

 売れてるかな?

 きっと売れてるよね。


 私はそんな事を思いながら、祭りの華やぎとは無縁の静かな、王宮。

 謁見の間で、


「では、改めて確認するぞ。マリカ」

「はい、皇王陛下」


 私は事情聴取を受けていた。

 舞の時の衣装のまま。

 腕の中に二匹の『精霊獣』を抱えて。


 

 結構広い謁見の間。

 皇王陛下が大貴族や外国からの公式の来訪者との謁見をする為の間で私は今まであまり入ったことが無かった。

 白い大理石の柱と壁。

 低い数段の階段の上。

 黄金の玉座の後ろのタペストリーには王家の紋章が精密な刺繍で施されている。

 床は見事な寄木細工。その上に透明な何かでコーティングしたような艶が見とれるように美しい。

 

 けれども、そんなことを気にしている余裕は当然ない。


「儀式は、無事に成功したと思います。

 封印をかけられていた『精霊神』様は復活され、可能な限り大地に恵みと祝福を与えて下さるとお約束下さいました」


 私は起きた事象の説明を、集まった人たちの前でしているのだから。


「随分と簡単に復活したものだな。

 一度は完全に死んだとされ、数百年の間まったく何の反応も無かったというのに!」

 

 集まった人、というのは皇王陛下の玉座の横に立たれる皇王妃様。

 両脇に立つ、三人の皇子と大貴族達。

 そして神殿長。

 大祭の間、大貴族達は基本、毎日日中は国務会議が城で行われるので登城している。

 会議の前に大事な報告がある、と呼び出された形だ。


 正式で、公式、政務の場には女性は基本立ち入りしないんだって。

 謁見の間も同様。

 だから部屋の中にいる女性は皇王妃様を除けば私と、護衛士のカマラだけだ。


「長い年月の間に力を取り戻しつつあったとのことです。

 加えて、人々が生きる力を取り戻したことで、お力が急速に戻っておられたそうで…

 私の力はきっかけに過ぎません」


 厳しい口調で告げたのは第一皇子ケントニス様。

 でも、今までのような本気の追及や疑念ではないことは解ってる。

 皇子は身内。

 私の『聖なる乙女』の実力も諸外国でのやらかしも、精霊獣が本当に『精霊神』から賜ったもので『精霊神』に繋がっている事も知っているから。


「なるほど…な。

 そして、その礼に精霊獣を下さった、と」


 これは、神殿長や大貴族達に見せる為のパフォーマンスでもある。


「はい。

 どうしてもの時は、精霊獣に祈りを捧げよ、と。

 困難の時、正しき祈りを捧げれば、力をお貸し下さる、とそうおっしゃいました」

「本当か? リオン」

「『聖なる乙女』の言葉に偽りなく」


 一緒に呼び出しを受けたリオンも側に居て事情聴取を受けている。

 でも基本的には口を出さない。

 質問を受けた時、追及を受けた時に援護するということに話は決まっているので本当にサポートに徹していた。


「姫君は、『神』により神殿の長だけに伝えられる精霊神の正しき御名をご存知で在らせられました。

 今まで長く沈黙していた精霊石は輝きを取り戻しております」


 図らずも援護射撃をしてくれたのは神殿長。

 実際にあの場で儀式を見ていた上に、大神殿からなんか言ってきているらしく私の言葉を疑わずに肯定してくれる。


「さらには皆様からは普通の獣にしか見えぬやもしれませぬが、姫君の腕の中の獣は精霊の力の結晶。

 受肉した精霊そのもの。

 姫君の言葉に偽りはないというのが、神殿の見解にございます」


 人々の顔が、歓喜に揺れる。

 精霊神の復活。

 それはこれ以上ない慶事だ。


「『精霊神』は、人が人らしく幸せに生きる事を願い、望んでおられます。

 人々の喜びや、生きる気力がお力になるのだそうです」

「なるほど。図らずも其方が広めた『新しい食』が『精霊神』様のお力になっていたのか」

「そう、おっしゃっていました」


 満足そうに皇王陛下が微笑む。

 

「聞いての通りだ。皆の者。

 奇しくもアルケディウスが選び、進んで来た道は間違いでは無かったと証明された。

『食』を取り戻し、人が意欲をもって働く事が『精霊神』様にお力を与え、アルケディウスを発展させるのだ」


「夏の戦の勝利からも、アルケディウスの力は証明されておりますからな」

「今後、アルケディウスは『聖なる乙女』の元、一層発展していくに違いない!」


 別に『聖なる乙女』は関係ないと思うけど。

 でも、大貴族達も農業や『食』の発展に力を入れよう、という気になったのならそれそれでいいと思う。

 あ、そうだ。


「それから、精霊神様はおっしゃっていました。

 子どもを、大切にするように。と」

「マリカ?」


 リオンが一瞬怪訝そうな顔をして、腕の中の精霊獣達が微かに身じろぎするけれど、ちょっと黙ってて、と強く念じて私は言葉を続ける。


「子どもは精霊に繋がる力を持つ国の、いえ、星の宝だそうです。

 大事にすることで、アルケディウスには新しい未来が輝く事でしょう」


 これは、私のねつ造だ。

『精霊神』様達は言ってない。

 ごめんなさい、と心の中で謝っておく。


 でも、今、この場にいるのは国のトップだし、これから国務会議もあるというし、ここで


「子どもの保護は『精霊神』様の御意志」


 と印象付けておけば、子どもの保護がさらに進むかもしれない。

 色々と利用される可能性もあるけれど、道端で死を待つだけよりはずっとマシだ。


「なるほど…。そうか」


 くすり。

 楽しそうに皇王陛下が口元を押さえた。


「では、これからの国務会議でその辺も話し合うとしよう。

 農業の拡大、『食』の充実、そして子どもの保護や新技術、それに伴う経済の発展について、などをな」


 私の浅はかな考えなど見透かされているような気がするけれど、否定はしないで下さる。

 ありがたい。


「ご苦労であった。マリカ。

 下がってよい。疲れたであろう」

「ありがとうございます」


 私は膝を付いて頭を下げた。


「今日はゆっくり休みなさい。明日は私主催のお茶会があります。

 良ければ参加して、女達にも詳しい話をしてあげて欲しいの」

「解りました」


 皇王妃様のお茶会は、予定としては一週間以上前から入っていた事だ。

 お母様が多分、準備をしてて下さっている筈。

 お菓子とかについては、頼まれて新作レシピをザーフトラク様にお知らせしてあるし。



 そうして私は、無事に解放された。


「お疲れ様。大変だったわね」

「お母様」


 控えの間ではお母様が待っていて下さって、ようやく大役の終了を実感して、安堵したのだった。




 無事に家に帰った私は自室に戻り、衣装を脱ぎ、私服に着替えてから、直属の側近たちを呼び出した。


「今日は大祭の初日だというのに色々、ありがとう。

 みんな、祭りを楽しんできて下さいな」


 ミリアソリスと、ノアール、セリーナ、カマラ。

 ミュールズさんは建前上、第三皇子家の女官頭だから私からは声がかけられないけれど。

 足元ではピュールともう一匹、アルケディウスの精霊獣が気ままに歩き回っている。

 神殿は精霊獣を連れて戻りたかったらしいけれど、精霊獣が私から離れなかったので、現状『聖なる乙女預かり』ということになったのだ。

 プラーミァの精霊獣と違って、うさぎそのもの。

 とりあえずローシャと皇王陛下に名付けて頂いた。

 木立とか、小枝とか、そういう意味があるらしい。


 と、それはさておき。


「大祭に? 私達が?」

「ええ、私は疲れたので館に籠って休みますけど、アルケディウスの祭りは夜が本番だそうですから」


 アレクは儀式が終わった後、祭りに行って貰った。

 去年、約束したのだ。

 次の年には吟遊詩人としてデビューさせると。

 

 大祭の責任者でもある商業ギルド長にお願いして、メインイベントであるアルフィリーガの劇の後に身分を伏せて、弾いて貰う事にした。

 私のお抱え、と公表すると騒ぎになるし。

 でも、子どもの凄腕楽師、と知れると誘拐とかの危険もあるのでゲシュマック商会所属としてフェイとヴァルさんに護衛として着いて貰う。

 ゲシュマック商会の子ども達も一緒に護衛してくれるようにお願いした。

 リオンはまだ城でお父様の会議の護衛兼、事情説明だから祭りに参加できないけれど、リオンの部下の士官の一人、ピオさんが入ってくれるそうだ。


 孤児院の子ども達は去年と同じく、ウルクスとゼファードさんが見てくれる。

 アルケディウスの大祭は、本当に楽しいから、皆にも味わってほしい。


「カマラは王都の大祭を見たことある?」

「毎年、ではありませんが何度か。

 エクトール様は領地から殆どお出になりませんでしたが、蔵人には気を配って下さって毎年交代で、お使い名目で出して下さいましたから」

「セリーナは?」

「大祭の存在は知っていましたが店に詰めていたので、参加したり見た事はありませんでした」

「ミリアソリスはどう?」

「私は毎年、侯爵のお伴をしておりましたので街の方とは縁がございませんでした」


 そっか。貴族はかえって下町の祭りを見るなんて無いか。

 ノアールは言うに及ばず…。


「カマラ。

 セリーナとノアール。

 もし興味があるならミリアソリスも連れていってあげて下さい。

 祭りは騎士団が警備をしていますが、羽目を外す男がいないとは限りませんから」

「宜しいのですか?」

「ええ、もし良ければ、ゲシュマック商会の様子とか、アレクの評判とかを聞いて教えてくれると嬉しいです。

 私は、館から出ませんので…。引き受けて貰えますか?」

「勿論、喜んで」


 祭りの特別ボーナスとして少額銀貨一枚ずつを渡す。

 カマラには護衛代を兼ねてもう一枚。


「私の分も、楽しんできて下さいね」


 手を振って彼女達を送り出すと、ドッと方の力が抜ける。



 疲れた。



『せっかくの祭りなのだろう? 其方は行かないのか?』

「無理ですよ。

 大人なら変装とかすれば在りかも知れないですけど、子どもは目立つんです。

 特に私は皇女として、顔が売れちゃったから大騒ぎになっちゃう…」


 ピュール、アーレリオス様が心配そうに声をかけてくれるけれど、私は首を横に振る。

 その辺は理解しているし、ケジメているつもり。

 

 加えて考えてみれば、アレだ。

 力を吸い取られたし、能力も使った。

 おまけに舞で体力も消耗した。


「すみません。疲れたので寝ます…」


 安心して気が抜けたのだろうか。

 ベッドに横になったら、もう動けなかった。

 お母様は、落ちついたら赤ちゃんたちの所に遊びに来なさいと言って下さったけど、ちょっと無理っぽい。


 まだ夏としてはまだ明るい火の刻だけど、そのまま私は泥のような眠りにつき、そのまま大祭の初日は終わった。

 筈だった。


 私は爆睡する。

 ピュール達二匹の精霊獣が私を見つめ、顔を合わせた事に気付く余裕もなく。 


 

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