【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 皇女と従者達

公開日時: 2022年12月15日(木) 09:00
文字数:4,112

 いつの間に、寝たんだろう?

 意識と記憶はすっかり喪失していたけれど、その分、すっきり気分爽快な朝。


「お目覚めでございますか。マリカ様?」

「おはようございます。ミュールズさん。

 あれ? 私、いつの間に寝ちゃったんですか?」


 目が覚めて、いつも通り、身支度の手伝いに来てくれたミュールズさんに私はベッドから身体を起こして問いかけた。


「お食事の前でございます。皇子と皇女と遊んでいる時に、うとうととなさってそのまま、と。

 僭越ながら私どもでお着替えをさせて頂きました」

「そうですか……お父様や、お母様にご心配をおかけしちゃったでしょうか?」

「ご心配はされておいででしたが、お身体を休めるのが最優先だと。

 今日は皇王陛下との謁見が予定されております。

 体調はいかがですか?」

「大丈夫です。ゆっくり休ませて頂いて、気分的にも体調的にもとてもいいです」

「それは何よりでございます。

 皇子妃様達にお知らせして参りますので、今少し、ゆっくりとなさっていて下さいませ」


 会話をしながらもテキパキと身支度の手伝いをしてくれたミュールズさんは、着替えの終了と同時に退室して行った。

 代わりに


「失礼いたします。髪を梳かさせて頂きますね」

「セリーナ」


 入れ替わるように近付いてきたのはセリーナとノアール。

 私を椅子に座らせて髪を梳かしてくれる。


「ごめんね。せっかく帰って来たのに向こうに戻れなくって。ファミーちゃんに会いたいでしょうに」


 気が利かなかったな、と反省する。

 昨日、アーサーやクリス、アレク達は魔王城に帰った筈だ。

 お父様に残る様に言われたリオンとフェイは館に泊ったと思うけれど、アルには向こうでゆっくりしてくれるように伝えたから。

 一緒に帰してあげれば良かったのに、と反省するけれどセリーナは首を静かに横に振った。


「マリカ様が戻られないのに、私が帰れません。

 次に戻る時に是非、ご一緒させて下さいませ」

「う……ありがとー」


 本当に、皆には迷惑をかけているなあと思う。

 頭の中でスケジュールを確認した。


 今週、正確には明後日で地の二月は終わる。

 向こうの世界で言うなら6月から7月前半、くらいだろうか?

 そして火の二月に入って最初の週に大神殿の大祭があるのだそうだ。

 戦は無いけれど、大聖都で新年と同じくらい重要視される大行事。

 野外での舞の奉納だと聞いた。


 それ以外の事はなにもまだ聞いていないので、今月は多分国内の事をしながらその準備と、大祭の傾向と対策になるだろう。

 今日の謁見が終わったら、まず神殿に行かないといけないかな。


 風の月に入って直ぐにフリュッスカイト訪問。

 戻ってきたら、風の二月に騎士試験。

 騎士試験が終ったら、戦と大祭があって、秋国への訪問が待っている。


 合間を見て、ゲシュマック商会との打ち合わせ、舞の衣装作成、孤児院との話し合い。

 貴族街店舗で預かっている留学生達の対応。

 多分、通信鏡を置いてきたアーヴェントルクの対応もあるし、やらなければならないことが多すぎる。


 本当は上司が仕事に追われるようでは拙いのだ。

 上司が休まないと部下は休むことができないのだから。

 でも、実際問題として、他の人に割り振れない仕事が多い。


 来週にはなんとか休みを頂ける様に、みんなにあげられるように頑張ろう。


「マリカ様の元は、本当に信じられない位、側近が優遇されていますね」

「えー、そんなことは無いと思うよ。

 かなりブラック。人数少ない上に、休みなしで皆に働いて貰ってるもの」


 私はそうは思えないのだけれど、ノアールは静かに首を振る。


「王宮や貴族に仕える者は休みなど無いのが普通であると思います。

 奴隷などは給料さえも無い者が殆ど。

 マリカ様のように側近の休みを考える雇い主など殆どいないのではないでしょうか?」

「そうかな?」

「私も前主以外を知るわけではありませんが」

「あれは悪すぎだと思うけれど……」


 でも、考えてみればミュールズさんは、私の側近になってから殆ど休みを取ったことがないように思う。

 魔王城での一週間の療養休暇の時も、夜の日に魔王城に戻った時も家に帰って休んだりはしてなかったらしいし。


「私も、『館』にいた時とは比べ物にならないくらい良い職場で働かせて頂いていると思っております。

 お引き立て頂いている恩はぜひとも返したいものです」


 私は色々あるから、簡単に側近を増やせないのだけれど、もう少し働いてくれる人の労働環境に配慮したいなと話をし、思ったた矢先の事だ。




「お前達には、皇族に仕える者としての自覚が足りぬ」


 皇王陛下との面会。

 アーヴェントルクからの帰国の報告の直後、皇王陛下が私の側近達をしかりつけたのは。


「皇王陛下!」


 とりあえずの帰国報告。

 詳しい話は夕食時にという話でやってきた謁見の間。


 私の付き添いはお父様とお母様。

 後はミュールズさんに、ミーティラ様、カマラにミリアソリスに、リオンにフェイ。

 いわば上級随員達。

 迎え側は皇王陛下に皇王妃様、文官長に王宮魔術師。

 第一皇子夫妻に、第二皇子夫妻とその側近のみ。


 本当に身内だけとはいえ、いきなり私の頭を超えての注意に、私はちょっとイラっときてしまい。


「いきなり何を言うんですか! 私の側近達に向かって!」

「マリカ!」


 身分を弁えず、お母様に眉を上げられたけれど思わずくってかかってしまった。


「其方は黙っているがいい。

 私は失態をしでかした其方の随員達を怒っているのだ。

 まあ、其方にも言いたい事は山ほどあるが」

「だから! 通信鏡でもお知らせしたとおり、今回の件は皆の失態じゃありません。

 ホントに! 不可抗力なんですから!!!」


 皇王陛下が、言う随員達の『失態』は私の誘拐についてだろう。

 アーヴェントルクの皇妃と皇女の罠に填まり、捕えられてしまったこと。

 同席しながら毒を盛られ、暗示をかけられた三人……ミュールズさんと、ミーティラ様、そしてカマラ……が不可抗力でありながら、とても気に病んでいたのを私は知っている。

 やっと、立ち直ってくれたと思っているのに、蒸し返さないで欲しい。


 けれど皇王陛下の側近達を見る目は冷たい。


「其方はそうやって側近を甘やかすが、皇族の護衛が役目も果たせずに凶刃に主を晒すなど、不老不死前であるなら即座に処刑されても仕方のない所だぞ」

「そんなの横暴です! 人の命をなんだと思ってるんですか?」

「命の重さや価値は同じではない。皇族は国を支える者。国民はそれを命を賭けて守るのが当然だ

 皇族を危険に晒し、その顔に傷をつけるなど命で償って当然というもの」

「当然じゃありません! 人の命の大切さに皇族も貴族も平民も関係ありませんから!」


 うーん。こういうところ。

 前にノアールに影武者をやらせるって言った時にも思ったけど、皇王陛下も頭の固い中世思考の貴族だ。

 部下は上司の為に命を賭けて当然とか、滅私奉公とか言っちゃう人。

 時代思考的には間違ってないのだろうけれど、私はそう言うの嫌だ。

 ブラック保育園に努めていた時だって、心の中で間違っている、って思ったり僅かな隙間の自由時間に安らぐことくらい許されてた。


 一生懸命、自分に仕えてくれる人達はちゃんと守りたい。

 自分がそうしたかった。そして欲しかった分、異世界ではせめて。


「皇族と一般人の命は同じではあるまい?」

「同じです! 私なんて一年前まではただの孤児で商人してたんですよ。

 それがたまたまお父様の娘であって、皇族に招き入れて頂いただけで、私自身は何にも変わってません!」


 第一皇子も呆れた様に言うけれど、それがこの世界の常識だとしても。

 間違っていると思うのなら正していきたい。

 せめて手の届く範囲だけでも。


「私の側近の事は、私が責任をもちます。

 前にも申し上げましたが、私の事を頭を超えて勝手に決めないで下さい」

「其方に任せたら、罰を与えないであろう?」

「当然です。罰を受けるようなことは何にもしてないんですから」


 がるると、威嚇するように睨む私に皇王陛下はワザとらしく大きな息を吐くと顔を上げた。

 何かを諦めた様に。


「お前達は運が良いと理解せよ」


 その視線は私を飛び越えて、後ろで跪く側近達に向いている。


「私は正直、孫を危険な目に合わせたお前達に罰を与えるつもりであった。

 国の宝『聖なる乙女』の顔に傷をつけたのだ。

 降格、監禁、職位の剥奪も考えていた」

「ダメです! そんなの!!!」


 国の最高位。

 皇王の裁可は再審も異議申し立てもできない『決定』となる。

 必死で止めようとする私をみやり、皇王陛下は薄く笑う。


「だが、当の本人がこれだ。これ以上揉めて、反対を押し切って決行すれば確実に私は孫娘に嫌われる。

 それは避けなければならない。故に今回の件に関しては不問とする。

 ただし、二度は無いと知れ。次に同様の事態が起きればマリカが怒ろうが何をしようが、厳罰に処する」

「お祖父様……」

「良いな。マリカ。これ以上の譲歩はせぬぞ」


 どこか、底の知れない揺るぎの無い眼差しで告げる皇王陛下。

 なんとなく解った。これは、皆に言っているように見えて、私に言って聞かせる為のものだ。

 お前が軽はずみな行動をすると、他の皆に迷惑がかかるんだぞって。

 側近達は深く深く頭を下げた。

 

「かしこまりました。

 皇王陛下とマリカ様のご温情に感謝して、以後、今まで以上に誠心誠意努めて参ります」

「うむ、我らの信頼裏切るで無いぞ」



 謁見の後で、私は皆にお祖父様の横暴を謝ったのだけれども。


「いいえ。

 皇王陛下のお言葉は事実であり、十分な御温情のあるものでございました」

「私達は、本当に後悔していたのです。

 ああいって頂けて、むしろ気合が入りました」


 逆に皆に首を横に振られてしまった


「前にも言いましたが、私は少し知識があるだけのただの子どもです。

 本当は、皇女です。なんて偉そうに言える立場じゃ全然ありません。

 皆に力を貸して貰わないと、皇女として生きる事も何もできません。ですからどうかこれからも力を貸して下さい」

 

 私も反省しなくっちゃ。

 今回の件は本当に不可抗力だけど。

 私の身に危険が迫れば、物理的にも精神的にも皆に迷惑がかかる。


 スッと、音も無く全員が私に膝をつく。


「身命の全てを賭けて」「姫君の御為に……」

「よろしくお願いします」



 私の後ろではお父様とお母様が、その様子を優しい眼差しで見守っていた。


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