七国を巡り、各国の王家や時には大神殿で『神』とも関わってきて解ったことがある。
その1.『神』は人の気力を吸い取って力にしている。
故に人が減ること。『死』を原則として望んでいない。
その2.各国の王族は『精霊神』の力を受け継いだ、生まれながらにして『魔術師』の才能を持つ存在。彼らを助ける為に『精霊神』はいくつかのアイテムを残していた。
その3.『聖なる乙女』は『精霊神』に一番気力を届けやすい存在。『精霊神』の血を受け継ぐ女性であればよく、処女性はあんまり影響されない。
ただ『不老不死者』や『嫁』ではあまり効果がない。無いよりはまし。程度でむしろ、血を継ぐ男性の方が、効率がいいかもしれないくらい。
その4.『精霊の力』は助けの力。無色の基本の力を『星』が作っていて、各国の『精霊神』や『精霊』がそれぞれの力に変換している。
その5.各国の『精霊神』は兄弟のような感じで仲がいい。『神』も本来は同種の存在。
位階的にはちょっと『神』の方が上で、敬意を持つ存在ではあるけれど、ただ、黙って従わなければならない上司、ではない。
など。
そして各国の『精霊神』を封印したのは『神』でその間、『精霊神』は多少国の中で起きていることは見えても、身動きができない状況に陥っていた。
だから、その間にどうやら色々あった様子で……。
私達の話に割り込み、声をかけたのは灰色の精霊獣。
アルケディウスの『精霊神』ラス様はぷかぷかと宙に浮かびながら、私達に教えてくださった。
『どうやら、ヒンメルヴェルエクトに『精霊神』が残していったアイテムはどちらも失われている……いや、違うな。奪われているんだ』
「奪われるって、誰にです? 誰が国の国宝とも言える『精霊の遺物』を盗めるっていうんですか?」
「それは勿論『神』さ。正確には『神』の意思を受けた手の者、だろうけどね」
「『神』の手の者? それは神殿の者っていうだけではなく?」
『魔王以外にも『神』の意思を預かり、人に紛れて生きる『子ども達』が、いるってこと。神殿の中にもいるのだろうけれど、あの様子だとそうでない者も』
あの様子という言葉。
いた、ではなく、いる。
つまり現在進行形で『神』の手先が、この世界には紛れている。
おそらく、そのうちの一人が……
「オルクスさん、ですか?」
『僕は言わないよ。言えない事だ。
そもそもあんなものを持っていなかったら一目見て見分けがつく事じゃないし。
まったく、こんな形で手駒を増やしているとは気付かなかった。一体何人出てきているんだろう?』
その返事はつまるところ、肯定している。
他にもいるかもしれないけれど、『神』直属の配下。
仮称『神の子ども達』
そのうちの一人がオルクスさんであるのは多分間違いない。
『『神』にとっても彼らを世に出すのは多分、苦肉の策だ。
魔王や魔性のような、貴重ではあっても変えの利く手駒と彼らは違う。
『神』も『精霊神』と同じように子ども達、人間を守る使命を持つ。
だから、危険な『世界』に放つにあたっては、最大の注意をし護衛をつけたり、補助アイテムを持たせたりしていると思う』
「その補助アイテム、護衛が記憶と意識を封じたフォルトシュトラムということですか?」
『多分ね。『神』の子ども達は総じてこの世界の人間よりは、精神も肉体も弱いけど強い』
「弱いけど、強い?」
『この世界に合っているわけでは無いから、そのままでは力を発揮しにくいってこと。
助けや護りがあれば能力で各国の上位に潜り込んで『精霊神の遺物』を手に入れたり、内情を調べたりしている可能性が高いかな』
ぞわり。
背中が泡立った。
『神』に『神殿』以外の手駒がいる。
敵が普通の、もしかしたら優秀な仲間のフリをして側にいるかもしれないというのは、とても恐ろしい事だ。
『そんなに数は多くないと思うけどね。
さっきも言っただろう。苦肉の策。基本『神』は非常時以外そんなことを『自分の子ども達』にさせないと思う』
「どうしてです?」
『『自分の子ども達』が大事だから』
「『精霊神』様達は私達人間のことをよく『子ども達』って言いますよね。『神』にとって私達と『自分の子ども達』って違うんです?」
『……彼にとっては違うんだろう。多分』
獣の顔が寂しげに微笑んだ、ように見えた。
『まあ、その辺の事情はさておき『精霊神』は各国にいくつかの『精霊神の遺物』を残してきた。他にも残してきた者もいるかもしれないけれど、基本的には『王の杖』と『聖なる乙女の冠』だ。どちらも僕らが消えた後、残された子ども達が『精霊の力』を上手く使い、困った時にはなんとかできるようにだ。
多分『神』は奪ったそれを加工して『神の子ども達』の生命維持に使ってる』
『精霊の遺物』を使って、各国の王族は人々を守り、導いてきた。
でも罪を犯して取り上げられたり、魔王降臨や精霊神の封印のドサクサに失ったりしているものも多い。勿論、『魔王』や『神』の子どもに取られたものもあるのだろう。
そもそも現在、二つのアイテムがちゃんと揃っている国はあるのだろうか?
「ちょっと纏めてみましょう?」
フェイが筆記用具を出して書き出してくれた。
アルケディウスには王の杖はあるけれど、冠は無い。
フリュッスカイトには王の杖はある。冠が有るかは不明。
エルディランドは王の杖が取り上げられている。冠は有るのか無いのか聞くチャンスはなかった。
プラーミァには王の杖が無い。冠は残っていて、今、私が預かっている。
シュトルムスルフトの王の杖はフェイがもっている。冠は女王陛下所有。
アーヴェントルクは……どうなんだろう? 多分、杖は無い。あれば『精霊神』様が代わりの指輪を皇子に渡したりしない。冠も……無いのかな? 『神の巫女』として皇女が『神』と密接関係にあった以上すり替えたり奪う機会はいくらでもあった筈だし。
そして、ヒンメルヴェルエクトは少なくとも王の杖は使える状態にない。あれば魔術師の才能があるという公子が使っているだろう。冠は偽物。
「うわっ、ガタガタですね。二つのアイテムが揃っている国がどこもない」
「フリュッスカイトはもしかしたら揃っているかもしれませんね。『精霊神』様の端末がおられたんでしょう?」
でもけっこうとんでもない状況だ。無くなっているアイテムが『神』の手元にあってそれをもった『神の子ども』が現れたりしたら、凄く怖い。
『神』自身がアイテムを作って『子ども』に与えている可能性もあるし。
「オルクスさんに、事情を聴いたら教えてくれは……しないでしょうか?」
『無理、だと思うよ。多分、聞いても教えてくれるとは思えないし、そもそもその記憶があるかどうかも解らない』
「?」
『記憶を操作して、自分が『神の子ども』であることを忘れさせている可能性もあるってことさ。自分が特別な存在だと意識するよりも、その方が自然に溶け込めるだろう?』
「なるほど」
『自分で自覚していない『神の子ども』は僕達にも見分けがつかないな。
『神』に特別な力を与えられていなければ少し『精霊の力』が強いとか程度だから』
「じゃあ、オルクスさんは?」
『火の王の杖を持ってただろう? あれが体内に入ってたら解らなかったかも』
そうか。
だとしたら、下手に声をかけたりすることはきっと藪蛇になる。
「とにかく、私は明日ヒンメルヴェルエクトの『精霊神』様の封印を解きます。
そうすれば、七精霊の間でネット……いろいろ意志交換とかできるようになるんですよね?」
『まあ、そういうこと。『神の子ども達』も積極的に君達を傷つけたり、敵対したりすることはないと思う。でも、関わる時は慎重に』
「解りました」
『マリカ』
『精霊神』様に頷くと、今まで黙って話を聞いていた通信鏡の向こう。
皇王陛下が私を見やる。
『くれぐれも慎重に動くのだぞ。王族や魔術師に気を許しすぎることなく。引き締めていけ』
「かしこまりました」
既にちょこっと気を許しすぎてしまっていたところもあるので、内緒にしつつ私は頭を下げた。
後は明日の儀式に向けて衣装の準備をしたり、身支度を整えたり色々。
舞踏会で夜遅くなっていたこともあったので、それでもなるべく早めには床に就いた。
「ああ、なるほど。だからか」
「?」
「いや、こっちの話だ。色々と、気を遣わせたんだろうな」
噛みしめるように納得したように頷いたリオンの顔を思い浮かべながら。
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