【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

火国 不老不死の責任者

公開日時: 2024年7月12日(金) 08:51
文字数:3,710

 私が大聖都の大神官をするようになったのは、二年半前の新年。

 魔王の大聖都襲撃の時からだ。

 先代の大神官が襲撃により死亡。

 崩壊寸前だった大聖都を纏める為に『聖なる乙女』という象徴が必要なのだと請われて仕方なく、というかで引き受けることになった。

 勿論それだけが理由ではなく、『精霊神』様に頼まれたというものあるけれど。

 七国のうち、アルケディウスを除く六国からの要請というのもあった。

 私の知識と能力をアルケディウスが独り占めしているのはズルい、と他国がぶっちゃければ嫉妬して、私達がアルケディウスに過度の贔屓をしないように大神殿という中立の立場に括ったのだ。

 その要請の中心を担ったのが目の前にいるプラーミァ国王陛下。


「どうして、ですか?

 私に大聖都の大神官をするように、最初に要請されたのは国王陛下だと思うのですけれど」


 もし、身内に近いプラーミァが、アルケディウス擁護に回っていたらもしかしたら、私は大聖都に入らなくても良かった目がある。ヒンメルヴェルエクトなどはアルケディウスをかなり羨望の眼差しで見ていたから、あくまで可能性。

 ればたらを言っても仕方のない話だけれど。


「まあ、そうだな。お前は、いやお前達は私の予想以上に良くやってくれた。

 農業は軌道に乗り、食の復興も順調。新しく広まった『科学』も間違いのなく、世界を豊かにしている」


 食の復活もだけれど、多くの新素材の発見と、それを使った科学の振興は中世世界だったこの大陸アースガイアをかなり進歩させている。

 特に石油の発見による工業の進化。蒸気機関の発明と電気は中世から、近世に足を踏み入れたんじゃないか? ってレベルに近づいてきていると思う。


「プラーミァで発見されたゴムはこの間の会議で見せた通り、色々な点で役立ち、今後プラーミァの重要な収入源になる見込みだ。

 身近なモノでは服や子どもの遊具。大きなものではドライジーネや車のタイヤなど、応用範囲は計り知れない」

「そうでしょうね」

「大聖都のみならず、各国の神殿の改革にも手を付け清浄化に成功。

 孤児院の建設なども含めて、お前達は本当によくやってくれている。

 やりすぎなくらいに」

「やりすぎ……ですか?」


 大聖都に入った時に、お母様にどうせやるなら思いっきりやれと言われて、けっこうやりたい放題やった自覚はある。

 古参の司祭達には多分、今も私を恨んでいるヒトはいると思うけれど……やりすぎ、か。


「大陸全体の発展や、成長を見るならお前達の仕事は申し分ない。

 世界全体が今、よい容に育っていると言えるだろう」

「それが、悪かったのですか?」

「悪くはない。むしろ世界の為、大陸の為を思うのであれば、お前達が大神殿を率いるのが間違いなく最善手だ。その点に関して、私は自分の選択に誇りを持っている。お前達を大神殿に据えたことで世界は纏まり、人々の生活は改善、成長した。お前達はよくやっている」


 国王陛下の素直な誉め言葉は嬉しい。でも、やりすぎと言う言葉は胸に刺さったままだ。


「ただ、お前達を矢面に立てすぎたのではないか、いろいろと押し付けすぎたのではないか、という危惧が国王達にはある。子どもに負わせるには負担が大きすぎるだろう。それに加えて不老不死解除の責任まで追わせてしまうのはあまりにも酷すぎる」

「不老不死解除の責任?」

「そうだ。『神』により不老不死が解除されれば、民の間に暴動が起きるのは必死だ。

 その矢面に立たせられるのは誰だ? 間違いなく『神』の膝元。大神殿だろう?」

「あ! ああ……」

「どのような形で解除がなされるか解らないが、まず間違いなくお前達に縋り、頼り、そして怒りをぶつけると我々は予測している」


 ここまで説明されて、ようやく兄王様の危惧が理解できた。

 不老不死が解除される。それは、おそらく不可避で私達がどうこうできることではない。

 今まで傷も追わず、痛みも知らず、衰えもしなかった身体が急に『元に戻る』

 簡単に受け入れられる筈もないし、蘇った死への恐怖や絶望は、きっと私達の比じゃない。


「国王達は少なくとも事前に国民に告知はしないことにした。

 貴族や大貴族、上層部などには伝え、民にも薄く噂を流し、心構えはさせつつ、事が起きた後の暴動鎮圧、食の確保、医療技術の発展などに力を入れている。

 ……だが、それでも荒れるだろう。お前達は知らぬが当然だが不老不死直後の『混乱の三〇年』は酷いものであった。

 あの時も、狂乱を押さえる側となるべき貴族や王族なども狂乱に陥った為、さらに大陸全土が荒れた。

 今回は間違いなく、その上をいくだろう。混乱による死者の増加は避けられないし、人の死が戻ってきたことでそれに乗じて悪事を為す者達も間違いなく増える。

 それらの対応をする貴族や騎士達も人だからな。どこまでの忠誠を期待できるか正直解らん」

「はい……」

「混乱した民衆の嘆きや怒りは『神殿』『大神殿』に行く。

 不老不死を与えた『神』が表に出てくればともかく、そうでなければ代行者であるお前が『責任』を問われることになるだろう。

 人の身にはどうにもできないそれを、ある意味なんの関係もないお前達に負わせるのはあまりにも酷い話だと、いうのは国王会議の統一意志だ」

「ありがとうございます」


 関係なくはないけれど。

 私達は『星』の精霊だし、勇者の転生リオンによって不老不死は生み出されたのだし。


「可能であるのなら、不老不死解除までの間に『神殿』『大神殿』を解体できればいいのだが……」

「神殿の解体は難しいでしょうね。人々の心の拠り所を奪うことになりますし、たくさんの人が路頭に迷いますから」

「だが、最悪の場合、お前達に怒りをぶつける暴動になり、頂点であるお前を神に捧げてなんてことも起こりうるぞ」

「はは、確かに、ありそうです」

「他人事のように言うな!」


 言われてみれば、国王陛下の危惧はその通りで今まで当たり前にあった機構の崩壊は世界中に大混乱を招く。どうしたって死者の増加、混乱は免れないだろう。

 平穏な日々を失った人々のヘイトは王様達の心配通り、間違いなく『大神殿』に向く。

 でも……。


「それを知っちゃったら、私が降りるなんてできませんよ。後に続く人があまりにも可哀相です」


 私は逆に、大神官を降りられないな。そう思った。

 皇女であり、能力者である私であれば、まだいくらか対応できることがあるし、人々も(楽観的な見方かもしれないけれど)加減してくれるだろう。

 リオンやフェイが側にいてくれれば最悪の事態は防げる自信がある。

 でも、私が降りて逃げてしまったら、多分被害は倍増する。

 例えば大神官不在、神官長も一緒に退位なんてことになったら、せっかく作ってきた神殿の機構は崩壊するし、民の暴動にも対応できなくなるのは目に見えていた。


「私を大神官から降ろして、逃がして下さるっていうのは、国王会議の統一意志ですか?」

「いや、まだ結論はでていないと言っただろう? お前の力に期待するもの、遠ざけようとするもの、半々といった感じだ」

「なら、自分で言うのもなんですけど、私達がいた方が、まだ民や大陸の被害を少なくできるかも、です」


 国王陛下は、私を姪として案じて危機から、人々の矢面から守ってくれようとしたのだろう。心からありがたい。

 でも、私達が上層部にいて指揮を執ったり対応したりした方が被害を確実に減らせる。というか、その為に人型精霊私達が派遣されたのかもしれない。


「だが……」

「お気遣い下さりありがとうございます。お父様やお母様、『精霊神』様達と相談してどうしたらいいか考えてみます。

 その上で、できる限りの事はしてみるつもりです」


 とりあえずは『精霊神』様と相談だね。皆さまからどこまで力をお貸し頂けるかがカギになりそう。あとは……エリクス達も。


「お前は本当にティラトリーツェにそっくりだな」


 呆れたように息を吐く国王陛下。思わぬ名前が出てきてちょっとビックリ。


「お母様に、私が、ですか?」

「ああ、血は繋がっていない筈なのに、あいつの子ども時代を見ているようで頭が痛くなる」

「あの子は王女でありながら、箱の中で自分だけ守られていることを由としない。逆に自分が守るのだと箱から飛び出していく子でしたからね」


 国王陛下の横で王妃オルファリア様がくつくつと笑う。

 お母様のそういう姿は容易に想像できるけれど、そんなに似てるかな?

 似てるなら嬉しいけれど。


「まあいい。お前が断るのならこの話はここまでだ。

 お前がいた方が間違いなく国や大陸全体の被害を減らせるのは事実だからな」


 国王陛下は、話を切る。

 少し残念そうな、でもどこか安堵したような様子が見えるのは多分、気のせいでは無いのだろう。


「微力を尽くします」

「だが、とにかく一人で抱え込むな。周囲に相談し、巻き込めよ」

「巻き込むな、ではなく?」

「ああ、世界の命運などお前のような子ども一人の肩に背負わすものではないのだ。

 周囲を巻き込み、力を借りろ。

 でないと周囲を巻き込んで潰れるぞ」

「私達、プラーミァ王家はどんな時も貴方達の味方ですからね」

「ありがとうございます」


 兄王様達の優しさに感謝しながら、私はこれから、不老不死が無くなった後、どうしたらいいのか。

 真剣に考える時期に近づいたことを感じていた。


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